バイオマス発電の位置づけ(現状と目標)とメリット・デメリット、日本の事例

太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーの普及を進めることは、カーボンニュートラルの達成の観点において必要不可欠なものです。

本稿では再生可能エネルギーのひとつであるバイオマスをテーマに、バイオマス発電の位置付け(現状と目標)とメリット・デメリットを分かりやすく解説しつつ、日本国内における事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

バイオマス発電とは

バイオマス発電とは、バイオマス燃料(植物や動物由来の有機物の中で化石資源を除いたもの)を利用した発電です。

この中で、植物由来のバイオマスは生育過程において大気中のCO2を吸収しているため、燃焼の際に追加的なCO2が排出されないことから、カーボンニュートラルなエネルギーとして注目されています。

バイオマス発電の種類

発電方式バイオマス燃料仕組み
直接燃焼方式間伐材や建築廃材、農業残渣物などの乾いた生物資源生物資源を直接燃焼させる
熱分解ガス化方式水産加工残渣物や食品加工廃棄物などの水分を多く含む生物資源生物資源を加熱して発生させたガスを燃焼させる
生物化学ガス化方式生ごみ、家畜の排せつ物、汚泥など発酵などの化学反応により生物資源からガスを発生させ燃焼させる

バイオマス発電の位置づけ(現状と目標)​

日本におけるバイオマス発電は、再生可能エネルギーの中でも成長が期待されている状況です。

例えば、農林水産省が公表する令和4年木質バイオマスエネルギー利用動向調査結果によると、木質バイオマスエネルギーとして利用した木材チップのうち、間伐材・林地残材等に由来するものの利用量の増加が顕著です(平成27年から令和4年にかけて約4倍に増加しています)。

また、2030年のエネルギーの見通しを示した「エネルギーミックス」では目標とする電力量全体の5%をバイオマスとすることが示されている中、2019年(令和元年)時点のバイオマスの割合は2.6%だったものが、2022年度には3.7%に伸長。

目標達成に向けて順調に推移している状況です。

バイオマス発電のメリット・デメリット

バイオマス発電のメリット

エネルギーの地域分散化

太陽光発電や水力発電、風力発電や地熱発電など、ほとんどの再生可能エネルギーは、それを活用するためには地理的条件が必要になります。一方で、バイオマス発電に必要な生物資源は至る所に存在するため、地域分散型のエネルギー供給、地域単位でのエネルギー自給やエネルギーの地産地消が可能です。

廃棄物の有効活用

バイオマス発電では、一般的にはただ捨てられるだけの廃棄物(食品廃棄物や水産加工残渣物など)を利用することができます。廃棄物をバイオマス発電に活用することで、廃棄物の処理に係るコストやエネルギーを抑え、かつ、売電による収益機会を得ることが可能です。

天候の影響を受けない(安定した発電量)

太陽光や風力、水力などの自然由来の再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されますが、バイオマス発電はバイオマス燃料となる生物資源さえ確保できれば、天候に左右されない安定的な発電が可能になります。

発電用途以外にも活用可能

バイオマスは発電以外にも利用可能です。間伐材や廃材などを加工した木質ペレットはストーブやボイラーの燃料として活用できます。また、サトウキビやトウモロコシなどの植物資源を発酵・蒸留することで得られるバイオエタノールは自動車の燃料に利用できます。

バイオマス発電のデメリット

発電コストが高い

バイオマス燃料は他の再生可能エネルギーに求められる地理的条件を必要としない反面、燃料となる生物資源の調達・管理のコストが発生します。それに加えて、バイオマス発電の発電効率は低くなるため、発電コストが総じて高くなる傾向にあります。

日本国内のバイオマス発電の事例

生野銀山バイオマス

シン・エナジーが地元企業(山田林業、グローバル建設、ハヤキ)とともに経営する生野銀山バイオマスでは、生野銀山バイオマス発電所の竣工式を2024年6月18日に執り行いました。

当発電所は燃料となる未利用材の全量を地元から調達する地産地消型のバイオマス発電所で、朝来市初の小規模木質バイオマス発電所となります。

“兵庫県は約67%、朝来市は約84%という豊富な森林率を有していますが、木材価格が不安定であることも重なり、林業労働者の減少と高齢化への対策、生産性の向上等が課題となり、森林資源を十分に活用できていない状況にあります。当発電所は燃料として年間で約10,000tの地元兵庫県産の未利用材をチップに加工して使用し、持続可能な林業の実現を目指します”

参考:生野銀山バイオマス発電所|発電所|SymEnergy|未来を創る 共に生きるために 今やるべきこと

北海道鹿追町

北海道鹿追町では、エネルギーの地産地消に向けて先進的な取り組みを行っています。

参考記事の中では、家畜排せつ物の臭いの問題を解決する手段として選んだバイオガスプラントの建設における地域への理解を目指した取り組みと、バイオガスプラントの稼働による効果の詳細が丁寧に綴られています。

“同町は、ある問題を抱えていました。それは、市街地と牧場が近く、家畜排せつ物の臭いが市街地を覆っていたこと。せっかくの景色なのに窓を開けて楽しめない、洗濯物を外で干せないなど、20年ほど前から住民や観光客からの声も数多く寄せられるように。そこで、こうした問題の解決に向けて、地域の酪農家のほか、米や野菜の生産を行う耕種農家を交えて検討委員会を発足。環境先進国であるドイツでの処理方法の視察なども行い、検討を重ねてきました。そして、2004年に、乳牛の排せつ物を発酵させてバイオガスを発生させ、発電や燃料の生産などを行う「環境保全センター」の建設が決定しました”

参考:バイオマス発電で実現!エネルギーの地産地消でまちを元気に!|農林水産省

阪和興業

阪和興業では、再生可能エネルギーであるバイオマス燃料事業に取り組んでおり、バイオマスの安定供給に向けた様々な取り組みを進めています。

“当社は再生可能エネルギーとして期待されているバイオマスエネルギー事業に取り組んでいます。主にPKS(Palm Kernel Shell)や木質ペレットなどの木質系バイオマスエネルギーを取扱っており、特にPKSの輸入取扱量は日本でナンバーワンです。

PKSとは、ヤシの実の種子の中心(仁)を覆う殻の部分のことで、主にアブラヤシの実からパーム油を製造する過程で排出さ れ ま す。もともとは廃棄物として捨てられていましたが、油分が多く発熱量が高いことから、近年バイオマスエネルギーとして注目されています。主にインドネシアやマレーシアなど東南アジアの国々で生産されており、当社では2013年から輸入を開始し、日本や韓国の発電事業者向けに供給しています。2019年には専用のバイオマスエネルギー輸送船を傭船するなど、持続的かつ安定的に供給するための取り組みを進めています。

また、当社は2020年よりRSB認証(バイオマスエネルギーの製造、流通全体における持続可能性を担保する認証制度)とGGL認証(バイオマスエネルギーの持続可能性とトレーサビリテ ィ を 担 保 す る 認 証 制 度 )を取得しています。さらに、当社のノウハウを活かし、認証取得をサポートする事業も展開しており、申請や内部監査に必要な書面などの作成代行や、それぞれの認証で求められる基準の教育、及び温室効果ガス排出量の計算方法の指導などを行っています”

参考:アニュアルレポート(2023年3月期)|阪和興業株式会社

双日モリノミライ×宮崎県・山口県・岡山県

双日と本郷植林研究所との合弁会社である双日モリノミライでは、早生樹事業の一環として早生樹ハコヤナギの植林を宮崎県児湯郡川南町の耕作放棄地(0.2ha)、山口県宇部市の農地(0.1ha)、岡山県久米郡美咲町のゴルフ場跡地(0.3ha)にて開始しました。

ハコヤナギは植林後5年間で1ヘクタール当たり約200立方メートル以上の成長量が期待される高成長量・短伐期が特長であり、バイオマス発電用燃料の安定供給に適していると考えられています。

“双日は、早生樹ハコヤナギの植林を将来的に1万ha規模に拡大したいと考えています。この実現のために早生樹ハコヤナギの栽培適地である温暖な地域の自治体や地域の皆さまにお声掛けをし、植林候補地をご紹介・ご提供頂いて今回の3県での植林に至りました。これら3県を今後の植林・苗木生産活動の中心に据えつつ、他地域への拡大も検討しています。今月末には北海道の十勝にて試験植林を実施する予定です。双日は、地方創生を目的とした農業ビジネス・カーボンニュートラルなバイオマスエネルギー事業を自治体や地域の皆さまと共に拡大し、持続可能な社会の実現への寄与を目指します”

参考:双日、宮崎県、山口県、岡山県の3県にて地方創生のための早生樹事業を開始|ニュースルーム|双日株式会社

次世代グリーンCO2燃料技術研究組合

次世代グリーンCO2燃料技術研究組合は、2022年7月、燃料を「つくる」プロセスでの効率化を研究することを目的に、日本の自動車メーカーおよび燃料製造に関わる企業によって設立されました。

同組合では、バイオマスの利用、生産時の水素・酸素・CO2を最適に循環させて効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造する技術研究を進めています。

“カーボンニュートラルの実現には、多種多様な地域・お客様のニーズに対応するため、再生可能エネルギー由来の電力を基にした水素や合成燃料、植物の光合成によりCO2を削減できるバイオエタノール燃料などの選択肢を提供することが重要となります。

また、燃料の原料調達だけでなく、製造工程におけるCO2排出量の低減や社会実装に向けた課題を明らかにし、その解決方法を探索することが不可欠となっています。

本研究組合では、カーボンニュートラル社会実現のため、バイオマスの利用、生産時の水素・酸素・CO2を最適に循環させ、効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造する技術研究を進めます”

参考:研究内容|raBit 次世代グリーンCO2燃料技術研究組合

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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