水力発電の位置づけ(現状と目標)とメリット・デメリット、日本の事例

太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーの普及を進めることは、カーボンニュートラルの達成の観点において必要不可欠なものです。

本稿では再生可能エネルギーのひとつである水力をテーマに、水力発電の位置付け(現状と目標)とメリット・デメリットを分かりやすく解説しつつ、日本国内における事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

水力発電とは

水力発電とは、水の力を利用した発電です。

水が高いところから低いところに落ちる際に生まれる位置エネルギー(水の勢い)を利用することで水車を廻し、そこから得られた動力で発電機を回して発電します。

水力発電の位置づけ(現状と目標)​

経済産業省資源エネルギー庁が公開する令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)によると、2022年度の一次エネルギー国内供給の割合は、化石エネルギー83.4%、非化石エネルギー16.6%です。

水力によるエネルギー供給は3.6%と全体で見ると少なく見えますが、非化石エネルギーのカテゴリーで見ると相対的に大きいことが分かります。

<非化石エネルギーの国内供給の割合(2022年度)>

    • 再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、地熱等):10.4%
    • 水力:3.6%
    • 原子力:2.6%
一次エネルギー国内供給の推移(出典:資源エネルギー庁)

また、水力を利用する水力発電のエネルギー変換効率は約80%。他の発電方式と比べても効率の良さが際立っています。

 エネルギー変換効率
水力発電80%
火力発電(LNG)55%
火力蒸気T43%
ガスタービン35%
原子力発電33%
風力発電25%
太陽光発電15~20%
地熱発電8%
海洋温度差3%
バイオマス発電1%

実際に、発電電力量で見ると、水力発電の割合は7.6%(2022年度)に達しています。

発電電力量の推移(出典:資源エネルギー庁)

その上で、水力発電の設備容量と発電電力量は2000年台から伸びが鈍化しており、発電電力量も850億kWh付近で推移している状況です。

2030年のエネルギーの見通しを示した「エネルギーミックス」では、目標とする電力量の中で980億kWhを水力とすることが示されている中、既存のダムへの発電設備の設置や古くなった発電設備のリプレイス、中小水力発電の導入など、多角的な取り組みが求められています。

水力発電設備容量及び発電電力量の推移(出典:資源エネルギー庁)

水力発電のメリット・デメリット

水力発電のメリット

天候の影響を受けづらい

自然由来の再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されます。

水力発電においては降水量の影響を大きく受けることになります(ダムの貯水量の減少は水力発電に使用できる水量の減少に直結します)。その上で、水力発電は風力発電や太陽光発電に比べると天候の影響が小さい点がメリットに挙げられます。

電力需要への対応力

調整池式や貯水池式の水力発電では、水を貯めておくことで電力需要の多い時期・時間帯に合わせて発電をすることができます。

また、揚水式の水力発電では、太陽光発電や風力発電などの出力が変動する再生可能エネルギーによって生じる余剰電力をダムに水を汲み上げる(揚水する)ポンプに使用することで、電力需要への対応と変動型再生可能エネルギーの出力抑制に貢献できます。

国産のエネルギーを利用できる

日本のエネルギー自給率は12.6%(2022年度)と低水準の状況にあります。

エネルギーを海外に依存している場合、国際情勢の影響によってエネルギーの安定確保が困難になる問題が生じるリスクがあります。この観点で、国内でエネルギーを自給できる水力発電は大きなメリットと言えます。

水力発電のデメリット

発電所の建設が難しい

様々なメリットがある水力発電ですが、水力発電に適した立地環境は限られており、すでに有望な土地の多くが開発済みになっている状況です。つまり、新しく発電所をつくろうと思っても場所を見つけることが困難な状況にあります。

また、経済環境の変化(円安・インフレ)や人材不足による設備費・工事費の高騰が発電所の建設を難しくしています。

このような背景から、近年では、ダム(大規模構造物)を必要としない中水力発電や小水力発電の導入が進んでいます。

中小水力発電は流量と落差さえあれば基本的にはどこでも発電できます。河川や農業用水、上下水道などの水源が利用されており、大手の電力会社のみならず、地方自治体や地域企業が中小水力発電に取り組んでいます(2012年に開始したFIT制度の効果により、2023年3月時点で計111万kWの中小水力発電が新たに運転を開始しています)。

また、近年においては、水道設備を活用した(小水力発電よりもさらに小規模な)マイクロ水力発電の技術開発の進展も注目されています。

日本国内の水力発電の事例

中小水力発電の事例

北海道電力×ほくでんエコエナジー

北海道電力とほくでんエコエナジー(再生可能エネルギー事業の中核を担うほくでんグループ会社)では、これまで発電に利用されていなかった水資源を活用した中小水力発電所の開発に取り組んでいます。

具体的には、老朽化した発電所の建て替え時に水路や取水設備などを改修し、これまで雪解けや降雨時にダムから放流していた余水を利用することで、最大出力を向上させる取り組みを進めています。

発電所実施年月実施前の出力
(kW)
実施後の出力
(kW)
増加出力
(kW)
朱鞠内2013年3月1,120
滝上芝ざくら2013年12月112260148
ユコマンベツ2014年6月710
新岩松2016年1月12,60016,0003,400
京極名水の郷2016年10月410
洞爺2018年6月5,5006,400900
サンル2019年4月1,100
新得2022年6月20,00023,1003,100

参考:水力発電所の開発・出力向上|北海道電力

新潟県

新潟県では、2013年8月に「農業水利施設を活用した小水力等利用促進検討会」を設置し、県の特徴を踏まえ、農業水利施設を活用した小水力等の利用促進に向けた検討・取り組みを進めています。

県内で稼働している農業水利施設を活用した小水力発電施設は2018年3月1日現在で6地点存在します。

発電所名農業水利施設名所在地最大出力
(Kw)
年間可能発電電力量
(Mwh)
発電事業者
内の倉発電所内の倉ダム新発田市2,900Kw11,084Mwh加治川沿岸土地改良区連合
鹿ノ俣発電所宮久用水路
(鹿ノ俣第2砂防ダム)
胎内市960Kw4,901Mwh胎内市
五城発電所三国幹線用水路南魚沼市1,100Kw7,829Mwh五城土地改良区
雑水山第二発電所雑水山導水路津南町39Kw281Mwh津南町
池平発電所池平用水支線魚沼市73Kw530Mwh魚沼市土地改良区
小倉小水力発電所小倉ダム佐渡市184Kw794Mwh佐渡市

参考:にいがた・農業水利施設を活用した小水力等利用促進 – 新潟県ホームページ

都留市(山梨県)

都留市では、家中川小水力発電所「元気くん1号」を2006年に稼働開始。以降「元気くん2号」を2010年に、「元気くん3号」を2012年に、それぞれ稼働開始しています。

“家中川小水力発電所「元気くん」は、発電した電気を都留市役所庁舎の電力として使用(平成29年度の総発電量の約85%を庁舎で使用)する自家消費をメインとした発電施設です。夜間や休日等の市役所が軽負荷のときの余剰電力を固定価格買取制度により売電しています”

参考:家中川小水力市民発電所/都留市

有田川町(和歌山県)

有田町では、有田川上流にある二川ダムで下流域の環境維持のため毎秒約0.7トンの放流が常に行われている状況に着目し、未利用であったエネルギーを利用するために二川小水力発電所を建設(2016年2月完成)。約2億8600万円の総事業費に対して年間約4,000~5,000万の売電額で推移しており、その収益は地域に還元されています。

“町営二川小水力発電所では国が定めた「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」によって発電した全ての電気を関西電力に売電しています(1キロワット時当たり37.40円)。売電で得た収益は基金に積み立てられ、ごみ減量製品や太陽光・太陽熱利用機器の購入補助など再生可能エネルギーの普及や環境教育などに充て地域住民に還元されます”

参考:家中川小水力市民発電所/都留市

マイクロ水力発電の事例

DK-Power​

ダイキン工業の研究開発施設「テクノロジー・イノベーションセンター」から生まれた初めてのスタートアップ、DK-Powerでは、これまでにダイキンが培ってきた技術を活かしたマイクロ水力発電システムを提供しています。

“DK-Powerはダイキン工業から生まれた発電会社です。みなさんが毎日使っている水を送る水道管の水流から「小さな電気」を生み出す新しい仕組みを提供します。クリーンに、自分の街でエネルギーをつくりだすことのできる「マイクロ水力発電システム」によって、日本のみならず、世界中の都市、自治体やコミュニティに、より「サステイナブル」で「自立した」電気をお届けするのがわたしたちの夢です。環境負荷の少ない分散型の「スモール・エネルギー」に電力インフラの未来はある。そうDK-Powerは考えています”

参考:株式会社 DK-Power|マイクロ水力発電について

合同産業×リコー​

ビルメンテナンスのプロである合同産業とリコーでは、水道設備を活用したマイクロ水力発電事業の展開を目指し、協働を進めています。

“マイクロ水力発電は、発電出力が100キロワット以下の小規模な水力発電です。合同産業はビルや施設に必ずある水道に着目。リコーとの協業で水道を再生可能エネルギーとして活用するマイクロ水力発電の実用化に乗り出しています”

参考:つくった電気を蓄める、使う、融通する-マイクロ水力発電2.0

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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