風力発電の位置づけ(現状と目標)とメリット・デメリット、日本の事例
- 最終更新日:2024-09-24
太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーの普及を進めることは、カーボンニュートラルの達成の観点において必要不可欠なものです。
本稿では再生可能エネルギーのひとつである風力をテーマに、風力発電の位置付け(現状と目標)とメリット・デメリットを分かりやすく解説しつつ、日本国内における事例をご紹介します。
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カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。
風力発電とは
風力発電とは、風の力を利用した発電です。
風の力で風車を回転させることで、発電機を回して発電します。山岳部や海岸沿いなどの陸地に設置する「陸上風力発電」と、海上に設置する「洋上風力発電」に大別されます。
風力発電の位置づけ(現状と目標)
日本においては風力発電の設置が進みづらい要因(諸外国と比べて平地が少なく複雑な地形)がありつつも、着実に風力発電導入量を増やしています。
その一方で、2030年のエネルギーの見通しを示した「エネルギーミックス」では目標とする電力量全体の5%を風力とすることが示されている中、2019年時点での風力の割合は0.7%。目指す先(目標)を基準に考えると、その道のりは険しい状況にあります。
そもそもの目標が野心的であるという見方もあれば、風力発電の技術革新や市場拡大が進行しており国としても力を注いでいる今の状況(下記、引用文を参照)を踏まえると妥当な目標であるという見方もできます。
“風車の大型化、洋上風力発電の拡大等により、国際的に価格低下が進んでいることから、経済性も確保できる可能性のあるエネルギー源であり、我が国においても今後の導入拡大が期待される。今後、適地の確保や地域との調整、コスト低減に加え、北海道、東北、九州などの適地から大消費地まで効率的に送電するための系統の確保、出力変動に対応するための調整力の確保、系統側蓄電池等の活用などを着実に進める。陸上風力は、適地の確保とコスト低減を引き続き進めていく。また、特に、洋上風力は、大量導入やコスト低減が可能であるとともに、経済波及効果が大きいことから、再生可能エネルギー主力電源化の切り札として推進していくことが必要である”
参考:第6次エネルギー基本計画
風力発電のメリット・デメリット
風力発電のメリット
経済波及効果
洋上風力発電は、事業規模が数千億円規模・部品数は数万点にも及ぶ、すそ野の広い産業であり、関連産業への経済波及効果が期待されています。
また、洋上風力発電の全世界の導入量は2018年の23GWから2040年には562GW(24倍)となる見込みがあり、日本においても国を挙げた戦略的な取り組みを推進しています(※)。
※経済産業省と国土交通省によって設立された「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が官民一体となった取り組みをリードしています。
国産のエネルギーを利用できる
日本のエネルギー自給率は12.6%(2022年度)と低水準の状況にあります。
エネルギーを海外に依存している場合、国際情勢の影響によってエネルギーの安定確保が困難になる問題が生じるリスクがあります。この観点で、国内でエネルギーを自給できる風力発電は大きなメリットと言えます。
エネルギー変換効率が高い
風力発電のエネルギー変換効率は約25%。水力発電との比較では大きく劣りますが、他の再エネとの比較では十分に優れた効率性を有しています。
エネルギー変換効率 | |
水力発電 | 80% |
火力発電(LNG) | 55% |
火力蒸気T | 43% |
ガスタービン | 35% |
原子力発電 | 33% |
風力発電 | 25% |
太陽光発電 | 15~20% |
地熱発電 | 8% |
海洋温度差 | 3% |
バイオマス発電 | 1% |
風力発電のデメリット
発電所の建設が難しい
風力発電に用いる風車は1,500kW級で直径100m、600kW級でも直径60m(10~15階建ビル)の高さがあり、設置の際は景観への配慮が必要になります。加えて、風車のブレード(風車の羽部分)が回転する際に発生する低周波音は騒音になるため、周辺環境への配慮も同様に求められます。
また、洋上風力発電においては、建設に際して漁業関係者や地域住民が抱く健康被害や生態系の影響の懸念を払しょくする取り組み(調査及びと関係者との丁寧な対話)が求められます。
天候の影響を受ける(発電量が安定しにくい)
自然由来の再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されます。
風力発電においては風の影響を大きく受けることになります(発電には一定の風の強さが必要になる中、風の状況によって発電量が少なかったり、発電自体できない場合があります)。
日本国内の風力発電の事例
洋上風力発電の事例
グリーンパワー石狩(JERA×グリーンパワーインベストメント)
JERAおよびグリーンパワーインベストメントは、特別目的会社である合同会社グリーンパワー石狩を通じて保有する日本初の8,000kW大型風車を採用した国内最大規模の商用洋上風力発電所「石狩湾新港洋上風力発電所」において、2024年1月1日より商業運転を開始しました。
“本発電所は、北海道の石狩湾新港に位置し、単機出力8,000kWのSiemens Gamesa Renewable Energy製風力発電機を14基設置、総出力は112,000kWとなります。陸上工事は鹿島建設株式会社、洋上工事は清水建設株式会社と日鉄エンジニアリング株式会社による共同事業体が行いました。発電した電力は、本発電所の特徴でもある180,000kWhの蓄電池容量を持つプロジェクト変電所を経由し、北海道電力ネットワーク株式会社西札幌変電所を経て同社へ全量供給します。開発、工事期間中は、北海道、石狩市、小樽市をはじめとする地域の皆さま、漁業関係者の皆さま、関係行政の皆さまから多大なるご理解とご協力をいただくことで完工に至ることができました”
参考:「石狩湾新港洋上風力発電所」の商業運転開始について|JERA
本発電所では、一般家庭約8万3,000世帯分の年間消費量に相当する電力を発電できます。発電された電力はすべて北海道電力ネットワークに売電され、道内の一般家庭や事業所で使われる見込みとなっており、国内の脱炭素化への寄与が期待されています。
三菱商事洋上風力
三菱商事洋上風力は、秋田県・千葉県において、一般海域における国内初の着床式洋上風力発電事業に取り組んでいます(現在3つのプロジェクト(事業)を推進しています)。
- 秋田由利本荘沖洋上風力発電(2030年の運転開始を目指す)
本事業は、発電出力13MW(メガワット)の風車65基を設置し、合計出力845MWの洋上風力発電所を建設するもので、一般家庭約60万世帯の消費電力をまかなうことができます。
- 秋田能代・三種・男鹿沖洋上風力発電(2028年の運転開始を目指す)
本事業は、発電出力13MW(メガワット)の風車38基を設置し、合計出力494MWの洋上風力発電所を建設するもので、一般家庭約33万世帯の消費電力をまかなうことができます。
- 千葉県銚子市沖洋上風力発電(2028年の運転開始を目指す)
本事業は、発電出力13MW(メガワット)の風車31基を設置し、合計出力403MWの洋上風力発電所を建設するもので、一般家庭約28万世帯の消費電力をまかなうことができます。
- 秋田由利本荘沖洋上風力発電(2030年の運転開始を目指す)
参考:三菱商事洋上風力株式会社
住友商事×日揮
住友商事と日揮は、浮体式洋上風力発電事業領域での浮体構造部材の詳細設計・製造・納入における協業可能性の検討に関して、2024年7月26日付で合意書を締結しました。
浮体部材のサプライチェーン構築に向け、両社はパートナーが持つ強みを生かした生産・供給体制の「低コスト化」「効率化」「量産化」を目指し、主に以下の領域での協業可能性を検討します。
“世界における浮体式洋上風力発電の発電容量は、2022年の約0.2GWから2050年には269 GWへ拡大する見通しで、2050年には年間約800基の新規建設が予測されています。風車の大型化に対応した浮体部材の開発が求められる中、浮体部材の技術開発は発展途上であり、サプライチェーンも構築されていません。増え続ける洋上風車の需要に対して浮体部材の供給が追い付かないことが、浮体式洋上風力発電の市場拡大に向けたボトルネックになるとみられます”
商船三井×北拓
商船三井と商船三井グループの北拓は、2024年05月21日、洋上風力発電の実用的な運用・保守管理に特化したトレーニング設備の竣工式を行いました。
本設備は国内で初めて洋上風車の基礎と風車タワーの接続部分にあたるトランジションピースを使ったトレーニング設備であり、北拓が有するメンテナンスに関するノウハウと洋上風力発電事業で先行する欧州の事例を参考にし、洋上風力発電特有のリスクを想定したメンテナンストレーニングを実施できます。
“受講対象者は北拓自社のメンテナンス技術員に限らず、洋上風力発電メンテナンスに関わる全ての方を対象としており、洋上風力発電を安全・安定的に長期にわたり運営できる人材を育成することで、洋上風力産業の発展に貢献します。また、商船三井と北拓両社の強みを掛け合わせ、洋上風力発電のバリューチェーン全体で業界のパートナーから選ばれる存在となることを目指します”
陸上風力発電の事例
秋田潟上ウインドファーム(ウェンティ・ジャパン×三菱商事×シーテック)
ウェンティ・ジャパン、三菱商事パワー(現在の社名は三菱商事エナジーソリューションズ)及びシーテックの3社は、共同で「秋田潟上ウインドファーム合同会社」を設立し、同社を通じて風力発電事業を運営しています。
2020年に運転を開始した「秋田潟上ウインドファーム」の設備容量は約6万6000kW、一般家庭2万7000世帯相当の電力をまかなえる規模です。
道北風力
ユーラスエナジーホールディングスのグループ会社である合同会社道北風力では、2024年1月4日、北海道豊富町にて建設を進めている日本最大の陸上風力発電所「芦川ウインドファーム」の北側区画の営業運転を開始しました。
“同発電所は、北側区画、南側区画の2つのエリアから構成されます。1基当たりの出力が国内最大級である4,300kWのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー社製の風力発電機を北側区画に16基、南側区画に15基設置するもので、合計31基からなる規模は128,800 kWとなり、1つの発電所としては日本最大の陸上風力発電所になります。発電する電力は北海道電力ネットワーク株式会社へ全量売電し、2025年春に南側区画も運転開始すると、一般家庭約94,000世帯の消費電力に相当する電力を供給するとともに、年間146,000トンのCO2削減効果が見込まれます”
参考:日本最大の陸上風力発電所「芦川ウインドファーム」一部営業運転開始 ~北側区画が完成、2025年春に南側区画も完成予定~
カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内
私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。
私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。
カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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