カーボンオフセットとは何か?その意味と背景、企業の取り組み事例
- 最終更新日:2024-04-30
カーボンオフセットの知識を深めることが、CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを減らすきっかけになることを願い、カーボンオフセットの意味や背景、企業の取り組み事例をご紹介します。
カーボンオフセットとは
カーボンオフセットとは、オフセット(埋め合わせ)という言葉の通り、自分たちが排出する温室効果ガスを埋め合わせる考え方を意味します。
- 知る:自分たちが排出する温室効果ガスの排出量を算出する
- 減らす:自分たちで温室効果ガスの排出量の削減努力を行う
- オフセット:自分たちが削減しきれない温室効果ガスの排出量を埋め合わせる
この順番で取り組むこと(知る→減らす→オフセットのステップ)が、カーボンオフセットを実践する上での基本的な考え方になります。
カーボンオフセットを支える、カーボンクレジットの仕組み
自分たちが削減しきれない温室効果ガスの排出量を埋め合わせる上では、カーボンクレジット(炭素クレジット)の仕組みが使われます。
カーボンクレジットとは、森林保全や省エネルギー機器導入・再生可能エネルギーの活用などで生まれた温室効果ガスの削減効果(削減量と吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、企業間でクレジットの取引をできるようにする仕組みです。
自助努力だけでは自分たちの影響範囲におけるカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)の実現が難しい企業がクレジットを購入することで、自分たちが削減しきれない温室効果ガスの排出量を埋め合わせます。
日本におけるカーボンクレジットとしては、国が認証・運営する「J-クレジット制度」が広く知られています。
“J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。本制度は、国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度が発展的に統合した制度で、国により運営されています。本制度により創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できます”
この「J-クレジット制度」は下記のデータに表れているように広がりを見せている状況です(ご興味のある方は、参考リンクより詳細データをご覧ください)。
<J-クレジット制度の登録・認証状況(※)>
プロジェクト登録件数 | クレジット認証回数 | クレジット認証量(万t-CO2) | |
2013年度 | 244 | 8 | 3 |
2014年度 | 324 | 51 | 62 |
2015年度 | 421 | 184 | 103 |
2016年度 | 599 | 349 | 242 |
2017年度 | 696 | 468 | 343 |
2018年度 | 779 | 637 | 471 |
2019年度 | 820 | 742 | 585 |
2020年度 | 847 | 859 | 697 |
2021年度 | 903 | 960 | 806 |
2022年度 | 983 | 1,041 | 889 |
2023年度 | 1081 | 1,125 | 936 |
※国内クレジット制度及びJ-VER制度からの移行PJを含む
カーボンオフセットの注意点
カーボンオフセットには、使い方次第でグリーンウォッシュ(上辺だけの環境配慮)になってしまうことには注意が必要です。
温室効果ガスの排出量を削減する上では、自分たちで努力すること(例えば省エネの設備投資を行う)よりもクレジットを購入した方が手軽に対応できてしまう側面がありますが、だからといって易きに流れるのは、カーボンオフセットの考え方に反しています。
オフセット(自分たちが削減しきれない温室効果ガスの排出量をクレジットで埋め合わせる)の前に、減らす(自分たちで温室効果ガスの排出量の削減努力を行う)こと。
それがカーボンオフセットの考え方であり、かつ、地球全体のカーボンニュートラルの実現を目指す上で大切な考え方になります。
カーボンオフセットの背景
カーボンオフセットとカーボンニュートラル
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
カーボンニュートラルが国を挙げてのプロジェクトして位置付けられ、カーボンニュートラルを実現するための機運が高まる中、その具体的アプローチ方法のひとつとして、カーボンオフセットが注目されています。
<ご案内>
カーボンニュートラルに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの基礎知識と企業の取り組み事例・私たちにできることをご紹介します)。
カーボンオフセットに関する企業の取り組み事例
ブルーカーボン・オフセットの事例
釜石市
釜石市では、2050年までにCO2の排出量実質ゼロを目指し、養殖ワカメやコンブが吸収・貯留する温室効果ガスのCO2の吸収量を販売し、企業や団体が買い取る排出権取引制度を創設しました。
企業活動で出るCO2を海藻などによる吸収で相殺する「ブルーカーボン・オフセット」の取り組みになります。この市独自の制度となる “釜石版”の収益は生産者らに還元し、漁業振興に役立てていきます。
“ワカメなどが吸収、貯留するCO2量の算定方法については東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターと岩手大の協力で確立。成長過程で脱落した破片が海底に沈着し、長期間分解されずにとどまって海中に貯留された量を「ブルーカーボン」とする”
“収益は漁協に還元され運営支援につながる一方、買い取った企業などは環境保全の取り組みを積極的に進めていることなどをPRできる。オカムラサステナビリティ推進部の関口政宏部長、能美防災東北支社の富永卓己支社長は「釜石とともに取り組んでいければ」と協力を継続する考えを示した”
参考:釜石版ブルーカーボン・オフセット制度 養殖ワカメなどCO2吸収量販売 漁業振興、環境保全につなぐ|かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす
会議・イベントのオフセットの事例
山梨県 × W TOKYO
山梨県では、東京ガールズコレクション実⾏委員会(企画/制作:株式会社W TOKYO)がプロデュースする「TGC地方創生プロジェクト」を活用したイベントとして、TGC フェス ⼭梨 2023を開催。TGCとしては初めてのカーボンオフセットを採用したイベントになります。
“今回開催が決定したTGC フェス ⼭梨 2023では、排出される温室効果ガスの排出量を「やまなし県有林オフセット・クレジット(J-VER)」により削減する、カーボン・オフセットイベントとして開催いたします。TGCとしてカーボン・オフセットを採⽤するのはこれが初めてとなります。本取組みによるJ-VERの購⼊⾦は、⼭梨県の誇る豊かな⾃然環境の保全や、⽣物多様性の確保に配慮した持続可能な森林経営に活⽤されます”
参考:2年連続開催決定!TGC 初のカーボン・オフセットを採⽤TGC FES YAMANASHI 2023開催のお知らせ|山梨県のプレスリリース
オカムラ × 阪神電気鉄道 × 阪神タイガース
オカムラ・阪神電気鉄道・阪神タイガースの3社は、J-クレジット制度を活用して、阪神甲子園球場で開催される阪神タイガース主催の合計6試合で排出されるCO2(約200t-CO2)をオフセットしました。
“「カーボン・オフセット試合」期間中は、阪神電車の全線(本線、阪神なんば線、武庫川線及び神戸高速線)の各駅の自動構内放送や、試合中の球場ビジョン(スコアボード)に、「KOSHIEN“eco”Challenge PR大使」の近本選手が登場し、カーボン・オフセットのPRとCO2排出量の削減に向けた呼掛けを行うことにより、多くのお客様に地球温暖化防止などの環境問題への関心を高めていただきたいと考えています”
自己活動オフセットの事例
商船三井
商船三井では、現在の技術レベルでは削減が困難なCO2排出量に対するカーボンクレジットの活用について、海運における具体的な利活用を検討するためのパイロットケースとして、日本から欧州向けの完成車海上輸送においてカーボンオフセット航海を実施しました。
“商船三井が運航する「BELUGA ACE(ベルーガ・エース)」は、マツダ株式会社の完成車を船積みし、4月18日に広島港を出港、5月28日に英国・Bristol港にて航海を完了しました。同船が日本~欧州間の航海で排出したCO2量は燃料油の製造から本船で消費するまでの全過程を含めて約4,000トンで、同数値の算出方法は第三者検証機関であるBureau Veritasに拠って適切に検証されています。また、検証の工程を含むCO2排出量の算出からカーボンクレジットによる全量オフセットに至るまでの全体プロセスも、第三者認証機関のClimate Neutral Commodity社による認証を受けています
今回の取り組みでは、ガーナおよび中国における植林・再植林プロジェクトから創出されたカーボンクレジットを活用しました。いずれのプロジェクトも国際的なカーボンクレジット基準管理団体Verraの認証を受け、過去5年以内に創出されたクレジットです。加えて、これらのプロジェクトは大気中からCO2を吸収・除去するだけでなく、生物多様性の保全や地域住民の雇用創出といった複数の相乗便益に貢献しています”
寄付型オフセットの事例
Gone West
イギリスのソーシャル・ビジネス「Gone West」は、個人及び法人向けにカーボン・オフセット・サービスを提供し、若者の雇用や林業従事者の労働環境改善を目指しています。
“「Greenlight by Gone West」アプリは、フライト、ロードトリップや宿泊を記録すると、炭素排出量を計算してくれます。さらに、このアプリを通じて個人が排出した排出量と同量の植林を行うことによって、個人レベルでのカーボン・オフセットすることができます。一本の木が一生のうちに削減するCO2は、1,000kg。これは、5時間のフライト、約4,000kmのロードトリップ、またはホステルでの38泊分に相当する量です。1か月に1本植林することによって1か月分のCO2排出量をオフセットします”
“Gone Westの特徴的な点は、仕事を必要としている無職の若者や元投獄者を雇用して植林をしていることです。Gone Westは、これらの人々に植林方法についての専門知識を提供し、しっかりとした賃金を払って植林をしています。Gone Westは、同社のサービスを使っている一般消費者や法人が増えれば増えるほど、雇用が増えると共に、木も増えるといった仕組みを作り上げました”
北海道ガス × 南富良野町
北海道ガスと南富良野町では、観光客らに車移動で排出したCO2を相殺するカーボンオフセットができるカプセルトイ(町有林によるCO2削減の証明書が購入できるもの)を道の駅南ふらのに設置しました。売り上げは全て町の環境保全に活用していきます。
“1回500円。キーホルダーなどのグッズに、20kg分のカーボンオフセット証明書が付いてくる。北ガスによると、カプセルトイでカーボンオフセット証明書を購入できる仕組みは全国初だという。町が、町有林で吸収、削減したCO2量をクレジット化して販売している「南富良野町有林オフセット・クレジット(J―VER)」の制度を活用。カプセルトイの利用者は、間接的に同制度のクレジットを購入する形だ。クレジットの在庫は現在1350tある。北ガスと町は2021年6月に連携協定を結んでおり、事業の一環として北ガスが企画を提案。カプセルトイを町に寄贈して実現した”
道の駅「にちなん日野川の郷」 × 鳥取県日野郡日南町
道の駅「にちなん日野川の郷」は、運営から生じるCO2を日南町有林J-クレジットを利用してカーボン・オフセットする全国初のCO2排出量ゼロの道の駅です。
“道の駅にちなん日野川の郷の運営から生じる電力使用等に伴うCO2全量を、日南町有林J-クレジットを利用してカーボン・オフセットしています”
“道の駅にちなん日野川の郷が取り組むカーボン・オフセットとして、道の駅で販売するすべての商品に1品1円のクレジットを付与した寄付型オフセット商品を販売しています。お客様からお預かりした1品1円の累計金は、年度末にまとめて日南町有林J-クレジットの購入を通じて、町の森林資源を守る活動に充てられています”
オフセット商品・サービスの事例
イトーキ
イトーキは「J-クレジットプロバイダー」としてお客様(温室効果ガスを削減したい企業)と温室効果ガス削減事業者、そして、J-クレジット制度事務局とをつなぐサービスを提供しています。
“自社製品の算定で培った独自のノウハウなど、イトーキは自社による取り組みを活かし、お客様のカーボン・オフセットに関する課題解決に向けて排出権の調達やプロジェクトの企画、運用体制の構築までワンストップでサポートします”
監修者プロフィール
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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