カーボンリサイクルとは?企業の取り組み事例をご紹介します(3分でわかる!カーボンニュートラルクイズ)
- 最終更新日:2023-10-30
突然ですが問題です。「カーボンリサイクルとは【〇〇〇】を資源として捉え、分離・回収して多様な製品や燃料として再利用(リサイクル)することで、CO2の排出を抑制する取り組みである」。
この【〇〇〇】に当てはまる言葉として正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?
<選択肢>
- CH4(メタンガス)
- CO2(二酸化炭素)
- N2O(一酸化二窒素)
<正解>
正解は2番です。
カーボンリサイクルとは、CO2(二酸化炭素)を資源として捉え、分離・回収して多様な製品や燃料として再利用(リサイクル)することで、CO2の排出を抑制する取り組みです。
回収されたCO2は、燃料や化学製品・鉱物などにリサイクルされます。
カーボンリサイクルとは
カーボンリサイクルを理解する上では、資源エネルギー庁の「カーボンリサイクルのコンセプト」が参考になります。
排出されるCO2を回収し、リサイクルする循環を作る。
このカーボンリサイクルの取り組みが進むことで、CO2の排出量が削減され、カーボンニュートラルの実現に近づくことが期待されています。
2019年1月23日に開催された世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)における総理スピーチの中でも「人工光合成」や「メタネーション」などのカーボンリサイクルの技術について言及されていることからも、その期待値の高さをうかがい知ることができます。
“私は、気候変動に立ち向かう上において、イノベーションがなせること、またイノベーションがどれほど大事かということに、大いに光を当てたいと考えています。それと申しますのも、今から大切なことを言いたいのですが、今必要とされているのは、非連続だからです。この際想起いたしますと、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、最近の1.5度報告で、こう言っています。2050年をめどとして、人間活動が生む二酸化炭素の量は、差引きゼロになるべきだ、つまり、今後もなお残る二酸化炭素の排出は、空気中にあるCO2を取り除くことによって、差引き帳尻が合うようにしないといけないというのです。
今や、手遅れになる前に、より多く、更に多くの、非連続的イノベーションを導き入れなくてはなりません。二酸化炭素というのは、皆様、事と次第によっては、一番優れた、しかも最も手に入れやすい、多くの用途に適した資源になるかもしれません。例えば、人工光合成です。これにとって鍵を握るのが、光触媒の発見でしたが、手掛けたのは日本の科学者で、藤嶋昭(ふじしまあきら)という人です。メタネーションというと年季の入った技術ですが、 CO2除去との関連で、新たな脚光を浴びています。今こそCCUを、つまり炭素吸着に加え、その活用を、考えるときなのです”
また、2020年10月発表の政府のカーボンニュートラル宣言を受けて作られた産業政策「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」においても、産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される14の重要分野の一つに「カーボンリサイクル産業」が位置付けられています。
<カーボンリサイクル産業の分野>
- コンクリート・セメント
- カーボンリサイクル燃料
代替航空燃料(SAF)/合成燃料/合成メタン/グリーンLPG
- カーボンリサイクル化学品
人工光合成によるプラスチック原料/廃プラスチック・廃ゴムやCO2直接合成等のプラスチック原料/バイオものづくり技術の活用
- 分離回収設備
排気中CO2の分離回収
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には、各分野における技術的課題をどのように乗り越えていくかについての取り組みと2050年までの工程表が記されています。その内容に興味がある方は下記のリンクをご確認ください。
カーボンリサイクル技術
カーボンリサイクルには様々な技術が必要とされています(下記は一例です)。
- CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
発電所や製油所、化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する、二酸化炭素回収・貯蔵技術
- CCU(Carbon dioxide Capture and Utilisation)
発電所や製油所、化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、製品の製造に有効利用(Utilization)する技術
- CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
発電所や製油所、化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留することに加えて、製品の製造に有効利用する技術(カーボンリサイクルもCCUSに含まれる)
- 人工光合成
太陽エネルギーを化学エネルギーに直接変換し、蓄積する技術
- メタネーション
水素と二酸化炭素から、天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術
しかしながら、カーボンリサイクルの取り組みを推進していく上では、多くの技術がまだまだ発展途上であり、それぞれに課題を抱えています。
そこで、カーボンリサイクルの研究開発が効果的かつスピーディーに進むようにするため、経済産業省は、各分野で研究開発が必要な技術的な課題を整理した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を2019年6月に公表しました。
“ロードマップでは、2030年頃までを「フェーズ1」とし、カーボンリサイクルに役立つあらゆる技術について開発を進めるとしています。特に2030年頃から普及することが期待されている技術については重点的に取り組むことが掲げられています。
2030年以降、2050年頃までは「フェーズ2」として、CO2利用の拡大を狙います。ポリカーボネートや液体のバイオ燃料は普及しはじめ、コンクリート製品も道路ブロックのような小さな製品は普及しはじめると予想しています。しかし、これらだけではCO2の利用量が限定的であるため、特に需要の高い汎用品をつくるような技術について、その後も重点的に開発に取り組んでいきます。一方、CO2を分離・回収する技術も、2030年頃までには低コスト化をはかります。
2050年以降のフェーズ3では、さらなる低コスト化に取り組みます。CO2を分離・回収する技術は、現状の4分の1以下のコストを目指します。ポリカーボネートなどの既存の製品は消費が拡大し、一方でオレフィンやガス燃料、汎用品のコンクリート製品はこの頃から普及しはじめることを狙います”
カーボンリサイクルに関する企業の取り組み事例
カーボンリサイクル技術の開発は発展途上である中、独自に(あるいは、他社との連携をしながら)力強くカーボンリサイクルの取り組みを進めている企業の取り組み事例をご紹介します。
旭化成
CO2を原料に使用するポリカーボネート樹脂製造プロセスを世界で初めて確立した旭化成。
同社は、スマートフォンや電気自動車で使用されるリチウムイオン電池(LIB)の電解液の主要原料であり、世界中で需要が高まっている高純度エチレンカーボネート(EC) および高純度ジメチルカーボネート(DMC) の製造技術のパッケージが完成し、第1号のライセンス契約を締結したことを発表しました。
“昨今、電気自動車(EV)への世界的なシフトが見込まれ、それに伴いLIBのさらなる需要拡大が予想されています。一方、地球温暖化対策の観点から、LIBの主要構成要素にも環境に配慮した設計が求められています。当社は、二酸化炭素(CO2)を原料としたポリカーボネート(PC)樹脂製造時の中間体であるECおよびDMCをLIB用電解液の原料に使用できるよう高純度化する製造技術の対応可否を検証してまいりましたが、このたびECおよびDMCの製造技術のパッケージが完成し、第1号のライセンス契約の締結に至りました”
KDDI
KDDIは2022年10月28日、脱炭素に資する事業への資金供給を行う株式会社脱炭素化支援機構に出資しました。今後もKDDIグループのアセットを活用し、本機構と連携して日本の脱炭素ビジネスの拡大を支援していくとともに、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
“脱炭素社会の実現に向けて、化石燃料中心の経済・社会、産業構造から、クリーンエネルギー中心への大規模な変革を行うGX (グリーントランスフォーメーション) が求められています。GXの推進には再生可能エネルギー、省エネ技術、水素・アンモニアなどへの燃料転換、電動化、カーボンリサイクルなどさまざまな領域への投資拡大やイノベーションを起こすことが必要です。
本機構は、温室効果ガスの排出量の削減や吸収量の増大を伴う事業活動に対し、財政投融資 (国からの資金の貸付・投資) や民間資金を原資として資金供給を行う官民ファンドです。
日本政府が掲げる2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて巨額な投資が必要となるなか、本機構は意欲的な脱炭素関連事業に対して投融資を行い、さらなる民間投資を呼び込み、日本全体の脱炭素ビジネスを拡大することを目指しています”
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
NEDOはCO2を資源として有効利用するカーボンリサイクル技術の確立に向け、広島県大崎上島町に、カーボンリサイクル実証研究拠点を整備し、今般、完成しました。
“本研究拠点は、実証研究エリア、基礎研究エリア、藻類研究エリアの三つ(総敷地面積14300m2)からなり、隣接する中国電力株式会社大崎発電所で実証研究中の次世代火力発電設備から分離・回収したCO2を、研究用に直接供給できる日本初の施設となります。NEDOは、本実証研究拠点の整備を通じて、さまざまなカーボンリサイクル技術の開発を効率的かつ集中的に進め、技術の早期実用化を目指します”
日本製紙・住友商事・Green Earth Institute
日本製紙、住友商事およびGreen Earth Instituteは、「木質バイオマスを原料とする国内初のセルロース系バイオエタノール商用生産およびバイオケミカル製品への展開」に向けた3社による共同検討を開始することに合意しました。
“現在、バイオエタノールは、再生可能エネルギーやSAFのようなバイオ燃料の原料、環境負荷の低い化学品原料として、カーボンニュートラル社会の実現に向け世界各国で注目されています。木質バイオマスを原料とするセルロース系エタノールは第二世代エタノールに分類され、森林資源が豊富な我が国において、国内森林資源の利活用、エネルギー安全保障やエネルギー自給率の向上といったさまざまな問題を解決できる可能性があります。
このような状況を踏まえ、3社は日本製紙の工場内で、年産数万キロリットルの国産材由来のバイオエタノールを2027年度に製造開始することを目指し、検討していきます。製造されるバイオエタノールは、国産材の利活用や脱炭素社会への寄与を考慮して、主に国産SAFなどの原料としての利用を前提とし、バイオエタノール製造で副次的に生成されるカーボンニュートラル由来CO2を用いたCCUや発酵プロセスの残渣の有効活用など、脱炭素社会に寄与するカーボンリサイクルの取組みも同時に検討していきます”
参考:木質バイオマスを原料とする国内初のセルロース系バイオエタノール商用生産およびバイオケミカル製品への展開に向けた協業に関する基本合意書の締結|住友商事
大成建設・日建工学
大成建設と日建工学は、国土交通省関東地方整備局が公募した「第3回コンストラクション オープンイノベーションマッチング」において、同局の現場ニーズに対して両社の技術シーズをマッチングさせた『カーボンリサイクル・コンクリートを用いた根固めブロック』を製造。
2022年8月から同局の荒川下流河川事務所管内の現場にて、CO2吸収効果などの性能について現場実証を開始しました。
IHI
IHIは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO₂排出削減・有効利用実用化技術開発/CO₂を原料とした直接合成反応による低級オレフィン製造技術の研究開発」の委託先に採択されました。
本研究は、石油を用いずに低級オレフィンを製造するプロセスの基礎確立および既設の低級オレフィン製造プラントとの統合検討を目的として,2026年2月まで実施します。
“従来,低級オレフィンは原油由来のナフサ(*2)を熱分解することで製造されていますが,IHIは,排ガスや大気から回収したCO₂と水素を,反応器と触媒によって合成する技術の確立を目指しています。これは現在排出されているCO₂を有効利用するカーボンリサイクル技術であり,プラスチック製造時などに排出されるCO₂を低減することが可能になります”
参考:CO₂の再資源化によるオレフィン製造技術の開発に向けたNEDO委託事業に採択 ~プラスチック・樹脂の原料としてCO₂のカーボンリサイクルを目指す~|株式会社IHI
三菱重工
三菱重工は、CO2および再生可能エネルギーから生成可能なカーボンリサイクル燃料「エレクトロフューエル(Electrofuels™)」の日本市場展開について、インフィニウム社と共同で検討していくこととし、このほど覚書(MOU)を締結しました。
同社が持つエレクトロフューエル製造技術と当社グループのCO2回収技術やバリューチェーンソリューションを組み合わせることで、日本国内の脱炭素ソリューションを加速します。
“日本政府は、温室効果ガスを2030年度までに2013年度比で46%削減し、2050年にはカーボンニュートラルを達成することを目指しています。これに伴い、カーボンリサイクル燃料およびCO2分離・回収はグリーン成長戦略の一つのカテゴリーとして注目されています。日本市場においても、気候変動への取り組みやESG(環境・社会・ガバナンス)への投資などといった新たなビジネスの潮流により低炭素な輸送手段が望まれており、特にEV化が難しいとされる長距離輸送、航空輸送、海上輸送分野においては、カーボンリサイクル燃料の活用が脱炭素戦略として期待されています。
三菱重工グループは、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みを行っており、CO2エコシステムの構築はその中の柱の一つです。今回のMOU締結を通じて、当社グループが構築を目指すCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)バリューチェーンならびにCO2流通を可視化するデジタルプラットフォーム「CO2NNEX™」 と、インフィニウム社のCO2利用技術を組み合わせ、日本国内におけるカーボンニュートラル社会の実現を検討していきます”
参考:三菱重工|カーボンリサイクル燃料「エレクトロフューエル」の日本市場への展開を検討 米インフィニウム社と協働し、日本国内の脱炭素ソリューションを加速
3分でわかる!カーボンニュートラルクイズとは
カーボンニュートラルに興味のある方々が「このカーボンニュートラルに関連する用語の意味って何だっけ?」と思った際に、短時間で分かりやすく用語の意味を知ることのできるコンテンツ。
それが「3分でわかる!カーボンニュートラルクイズ」です。
用語の意味を理解するに留まらず、その用語を “活きた知識” へと昇華するためのクイズコンテンツをご提供します。
※カーボンニュートラルについて詳しい情報を知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、地元・富山県にUターン。富山市役所の職員として、環境モデル都市、環境未来都市、SDGs未来都市を担当。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへ。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住、地元・富山県滑川市総合計画審議会委員。
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