アパレル業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

商品の大量生産・大量消費・大量廃棄が常態化しているアパレル(ファッション)産業では、製造にかかる資源やエネルギー使用量の増加、ライフサイクルの短命化など、環境負荷の大きさが問題視されています。

そこで本稿では、アパレル業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

アパレル業界のカーボンニュートラルの課題:サプライチェーンの変革

分業体制にあるアパレル業界においては、サプライチェーン(農家→紡績工場→染色工場→生産工場→貿易会社→ブランド・小売店)における環境負荷の把握・対応が大きな課題です。

事実、アパレルブランドの温室効果ガス排出量は Scope 3 カテゴリ1(購⼊した製品・サービス)の割合が圧倒的に大きい状況にあります(※)。これは商品の購入先=サプライチェーンの上流で発生する温室効果ガス排出量が大きいことを意味します。

アパレル業界がカーボンニュートラルを実現する上では、アパレルブランドや小売店単独の取り組みを超えたサプライチェーン全体での変革が求められていると言っても過言ではありません。

※例えば、ユナイテッドアローズが公開しているESGデータブックでは、FY2023における温室効果ガス排出量(t-CO2)は Scope1:584、Scope2:7,743、Scope3:260,250 であり、その内、Scope 3 カテゴリ1の温室効果ガス排出量は233,127(t-CO2)です。

サプライチェーンの変革の取り組み事例

豊島

綿屋を祖業として、180年以上綿花に携わってきた豊島では、オーガニックコットンを通して、みんなで “ちょっと(bits)” ずつ地球環境と社会に貢献しようという想いから、2005年に「オーガビッツ(ORGABITS)」プロジェクトを開始しました。

“コットンの原材料である綿花は、インド・中国・アメリカなど広大な土地を持つ国を中心に、世界各地で生産されています。綿花を効率よく栽培するために、綿畑には大量の除草剤や殺虫剤、化学肥料が使用され、収穫の際には落葉剤を散布して機械で素早く刈り取る、という方法が一般的です。しかし、そうした栽培方法は、土壌の汚染や農場で働く人びとの健康被害、薬品を購入するための農家の負担など、深刻な問題を引き起こしているのです。 綿花栽培に使用される農地は、全体の3%程度ですが、世界中で使用されている農薬の5.7%が綿花栽培に使用されていると言われています”

“オーガニックコットンとは、各国の有機農法の基準により、環境や生物に影響をおよぼす農薬や化学物質をおおよそ3年以上使用しない農地で、有機栽培されたコットンのことです。有機栽培は、自然との格闘です。ハーブを植えて虫がつくのを防いだり、手作業で雑草や害虫を処理したりと、辛抱づよく、手間ひまをかけ、自然の循環に沿った栽培をしていくのです。そうして育てられたオーガニックコットンの綿花と、農薬を使用して栽培された綿花には、実は違いはありません。綿花自体には、農薬はほとんど残らないからです。しかし、コットンの生産に携わる人びとの暮らしや、綿花を育てる大地などの環境を守ることになるのです”

参考:orgabits – ORGABITSは、オーガニックコットンを通してみんなで “ちょっと”ずつ地球環境と社会に貢献しようという想いから始まった社会貢献プロジェクトです。

タキヒヨー

タキヒヨーでは、BRING Material™を使用したOEM製品を製造するBRING Material™ Authorized OEM partnerとしてOEM受託を行っています。

“BRING Material™は、繊維産業の紡績/紡糸工場などで発生する糸くずや消費者から回収した使われなくなった服などを原料にした再生ポリエステル樹脂や糸、生地などのサスティナブル素材の総称です。BRING™ | 株式会社JEPLANが様々なブランドと協力して、BRING Material™の原料となる使われなくなった服や工場由来の繊維を回収しています”

参考:サステナビリティ経営|タキヒヨー株式会社

パタゴニア

パタゴニアでは、パタゴニア製品と素材の製造に由来する環境的な影響を測定し削減することを目的に、世界中のサプライヤー施設に対してサプライチェーン環境責任プログラムを実行しています。

このプログラムは、環境管理システム、化学薬品、水利用、排水、エネルギー利用、温室効果ガス(GHGs)やその他の排気ガスの排出量を含む広範囲な影響領域をカバーしています。

“長年にわたり、私たちはパタゴニアのサプライヤーの施設についてより詳しく学び、必要であればトレーニングや改善のために共に取り組むことによって、サプライチェーンの環境関連の影響を削減してきました。たとえばパタゴニアのより厳しい世界的要件を満たすため、一部のサプライヤー施設において法的に要求されるもの以上の汚水処理および大気排出システムが設置されました。その他の施設では有毒な化学薬品が廃絶され、安全な化学薬品管理工程が実施されました。パタゴニアの要求を満たせない施設もあり、それらはパタゴニアのサプライヤーとして認められません”

“サプライヤーがパタゴニアの最低遵守要件を上回るにしたがい、私たちはパフォーマンス、ベストプラクティス、ベンチマークと継続的改善にさらなる焦点を合わせています。例えば私たちは現在、鍵となる原料サプライヤーの操業において脱炭素化を支援するための新たなカーボン削減パフォーマンス・プログラムに取り組んでいます。パタゴニア全体として気候への影響を削減するために、私たちはエネルギー効率と再生可能エネルギーを優先する広範囲にわたる資源とインセンティブを通して、製造業のカーボン・フットプリントの削減に取り組んでいます”

参考:サプライチェーン環境責任プログラム|パタゴニア|Patagonia

アダストリア

「GLOBAL WORK」や「niko and …」などのアパレルブランドを展開するアダストリアでは、グループ調達方針およびガイドラインに「環境負荷の低減および汚染の防止」を明記し、サプライチェーン全体を俯瞰した、中長期的に持続可能なビジネスの成長と環境負荷低減との両立を進めています。

“私たちが扱う主要素材を対象に、独自のサステナビリティ定義と基準を定めています。使用頻度の高い素材に対し、当社サステナビリティ基準を満たす商品の下げ札にオリジナルのマークを付与しています。2022年度、当マークが付与された商品は全体の15.1%に達しました。 私たちは2030年までに全商品のうち半分以上の商品で環境・社会に配慮した原料・加工に切り替えることを目指しており、今後も積極的に環境負荷の少ない素材や加工を導入していきます”

参考:アダストリア 統合報告書2023(P44)

三陽商会

三陽商会では、気候変動への影響を最少化し、環境への負荷を考慮して商品を作り過ぎないこと、売れ残り在庫を減らすことを目標とした様々な取り組みを行っています。

<取り組みの例>

  1. 仕入の適正化
    市場の需要を予測し、デリバリー精度向上やQR精度向上に向けたMD改革を実施
     
  2. 生産計画の精度向上
    先行受注、クラウドファンディングによる受注生産等、柔軟な生産計画に対応
     
  3. 消化率の改善
    クイック・レスポンス対応、フレキシブルな追加生産の実施等により商品消化率を改善
     
  4. サンプルの削減
    3Dキャドを活用し、サンプル作成数を削減

参考:在庫削減/仕入管理による廃棄削減|環境|SANYO 株式会社三陽商会

アスエネ×シタテル

CO2排出量見える化・削減クラウド「アスゼロ」を提供するアスエネ社では、クラウドサービス「sitateru CLOUD」を中心とした衣服・ライフスタイル製品生産のプラットフォームを提供するシタテル社との連携によって、サプライチェーンのCO2排出量算定を可能にしています。

“アパレル業界でのCO2見える化において、大手企業は自社で活動量データを保持しているものの、サプライヤーとなる生地資材メーカーや縫製工場のデータ収集が非常に難しいことが大きな課題としてあげられます。

シタテルは、アパレル製品の生産におけるサプライチェーン上の生産管理やコミュニケーションのデジタル化を行っており、生産現場の一次情報を取得できます。この度の、アスゼロとの連携により、洋服の生産において、サプライチェーン上のCO2排出量を見える化させ、アパレル業界の脱炭素化を推進することが可能です”

参考:CO2排出量見える化・削減クラウド「アスゼロ」とシタテルがアパレル業界の脱炭素化に向けパートナー連携|アスエネ株式会社のプレスリリース

アパレル業界のカーボンニュートラルの課題:衣服の再利用・長期利用

衣服(商品)が消費者の手に届けるまでには、多くのCO2が排出される(水という資源も大量に消費される)ことを考慮すると、カーボンニュートラルの実現に向けては、一着一着の衣服を大切に使う意識が欠かせません。

衣服をごみとして廃棄するのではなく、再利用する(リサイクル)、他に必要とする方の手に届ける(リユース)、修理して長く使う(リペア)など、消費者と一体となった取り組みが求められます。

衣服の再利用・長期利用の取り組み事例

ユニクロ

ユニクロでは、店舗で回収した服をリユースし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界中のNGO・NPOとともに、難民キャンプや被災地への緊急災害支援など、世界中の服を必要としている人たちに届けています。また、回収された服に新たな価値を加えてお客様へ届ける活動や、ダウンなどの着なくなった服の素材から新しい服を作るリサイクルにも挑戦中です。

“「RE.UNIQLO」 それは、服が次に活躍できる場を創り出すことで、循環型社会に貢献するための取り組みです。服の廃棄をできるかぎり減らす「REDUCE」。着なくなった服に新たな役割を与える「REUSE」。服の原料や資材として再利用する「RECYCLE」。服のチカラで、未来を変える。そのためにはまず、あなたの協力が必要です。着なくなったユニクロは、RE.UNIQLO回収ボックスまでお持ちください”

参考:RE.UNIQLO:あなたのユニクロ、次に生かそう。|服のチカラを、社会のチカラに。 UNIQLO Sustainability

無印良品

無印良品では、お客様に長年愛用していただいた服を回収し、リサイクルする取り組みを2010年からスタート。また、2015年からはリユースにも取り組んでいます。

“無印良品は、お客様に長年愛用していただいた服を回収し、藍色・黒などに染めなおすことで、新たな価値を持つ商品に再生させた『染めなおした服』の販売を、2015年より実施しています。また、今まで仕分け段階で染めに回すことができなかった素材の服を、洗いなおし、古着として再販売する『洗いなおした服』や、服と服をつなぎ合わせて、リメイクし、次の人につなげていく『つながる服』などの販売も行っております。回収したものに少し手を加えることで新たに息吹を加え、廃棄物の削減、資源の循環化とともに、服を大事に着ることをお客様と一緒に考えていきます”

参考:ReMUJI|MUJI 無印良品

オンワード樫山

オンワード樫山は、衣料品の循環を促すことを通じて限りある資源を有効に活用し、かけがえのない地球環境を未来に引き継いでいく活動として「オンワード・グリーン・キャンペーン」を2009年よりスタートしています。

ご愛用いただいたグループの衣料品をお客さまから引き取り、可能な限りリサイクル・リユースすることを通じて衣料品循環システムの構築を目指しています。

“お引き取りした衣料品は、リサイクルして固形燃料や毛布、軍手などを生産。毛布は日本赤十字社の協力のもと、国内外の被災地や開発途上国への支援に活用しています。軍手は災害支援、森林保全、啓蒙活動など様々な場面で配布しています。また状態の良い衣料品を選別してクリーニングを施したものを、環境コンセプトショップ「オンワード・リユースパーク」にてチャリティー価格でご提供し、その収益をサステナブル活動に役立てています。2022年度までに延べ約132万人のお客さまから約687万点の衣料品をお引き取りし、うち82%をリサイクル、18%をリユースとして活用しました”

参考:アニュアルレポート 2023(P16)|オンワードホールディングス

ワコール

ワコールでは、回収プラスチックハンガーを原料とした循環型リサイクルハンガーを日本コパック社と共同開発し、2023年7月以降、主にチェーンストアで販売される商品に順次使用しています(今後年間1,300万本の使用を見込んでいます)。

“従来はチェーンストアで陳列ハンガーとして使用した後、店舗レジにて回収し、回収後は固形燃料やアパレル用のプラスチック製品などにリサイクルしていました。今回開発した循環型リサイクルハンガーは、回収後に加工したリサイクル原料とバージンのプラスチック原料を配合したのち、循環型リサイクルハンガーとして再生され、再び商品の陳列ハンガーとして使用されます。この循環型リサイクルハンガーはリサイクル原料を50%使用することによって、バージンのプラスチック原料の使用量を年間約75t削減することが可能となります

参考:統合レポート2023(P56)|ワコールホールディングス

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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