IT業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

人々の日常生活や企業のビジネスシーンに広く普及しているIT機器・サービスを取り扱うIT業界は経済社会のインフラであり、カーボンニュートラルの実現においても重要な役割を担っています。

そこで本稿では、IT業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

IT業界のカーボンニュートラルの課題:省エネ・創エネ対策

スマートフォンやインターネット。パソコンやアプリケーション、クラウドサービス。

世界中にIT機器やITサービスが溢れる今、まずは、これらのIT機器の省エネ化や製造過程におけるCO2排出量の低減、そして、ITサービスを支えるデータセンターの創エネ対策を講じることが、IT業界の喫緊の課題として挙げられます。

省エネ・創エネ対策の取り組み事例

Apple

Appleは、2023年9月12日、Apple Watchのラインナップに含まれる、Appleが作った初めてのカーボンニュートラルな製品を発表しました。

“デザインとクリーンエネルギーにおけるイノベーションにより、カーボンニュートラルなApple Watchで各製品の排出量を75パーセント以上、大幅に削減しました。このマイルストーンは、グローバルサプライチェーンとAppleが製造する全デバイスのライフサイクル全体を含め、2030年までにすべての製品をカーボンニュートラルにするという野心的なApple 2030の目標に向けたAppleの取り組みにおいて、大きな一歩となります”

参考:Apple、初のカーボンニュートラルな製品を発表|Apple(日本)

Intel

Intelは、2022年4月13日、世界全体の事業活動において2040年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするコミットメントを公表しました。

“インテルは、顧客のサステナビリティ目標をサポートし、製品使用時の温室効果ガス排出量(スコープ3)削減を支援する、製品のエネルギー効率を高め、市場が求める性能向上を引き続き推進します。インテルは、次世代HPC-AI向けXPUであるFalcon Shoresのワットあたりのパフォーマンスを5倍に向上させるという新しい目標を設定しています。また、クライアントおよびサーバー用マイクロプロセッサの製品エネルギー効率を10倍に高めるというという2030年の目標 にも引き続き取り組んでいきます”

参考:インテル 世界全体の事業活動において2040年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするコミットメントを公表

Intelのマイクロプロセッサ(CPUの心臓部にあたる半導体チップ)は、私たちのパソコンやIT企業の管理するサーバーに広く使われているからこそ、Inter製品のエネルギー効率改善の影響力は計り知れません(それほどに重要な役割をIntelが担っていると言えます)。

Google

Googleは、2023年11月28日、米国初の新型の地熱発電所を稼働させたことを発表しました。同社では2030年までにデータセンターやオフィスで使う電力をすべて再生可能エネルギーとする方針で、新型の地熱発電の世界展開も検討しています。

“グーグルは今回、ファーボ社と組んで小型設備を開発した。ネバダ州の第1号案件は出力3500キロワットで、米国で家庭2600軒分の電力に相当する。グーグルはネバダ州の2カ所をはじめ、世界各地にデータセンターを持っている。30年までに世界中のデータセンターやオフィスを温暖化ガスを排出しないで発電された電力で賄う方針で、地熱だけでなく太陽光・風力発電、蓄電池などを導入する”

参考:Googleが地熱発電 データセンター「脱炭素」目指す|日本経済新聞

一方で、同社が2024年7月2日に公開した2024年の環境報告書では、AIの急速な発展と需要増によって2030年のカーボンニュートラル達成が困難に直面していることが示されています。

“この報告書によると、2023年の温室効果ガス排出量は2019年と比較して48%増加した。この増加は主に、データセンターのエネルギー消費量とサプライチェーン排出量の増加が原因であり、特にAIの進歩と需要の高まりがその背景にあると説明している”

参考:Google、AIによる排出量増加で2030年カーボンフリー目標達成に暗雲| ITmedia NEWS

これはGoogleに限った話ではなく、生成AIサービスを展開する企業(MicrosoftやAmazonなどでも)共通の問題です。また、カーボンニュートラルの実現に向けた協働の観点では、電力消費の多いAIをどう扱うかについて、様々なレベルでの議論が必要であるとも捉えられます。

SCSK

SCSKでは、自社運営のデータセンターにて環境負荷低減への貢献 (グリーンITの推進)に多角的に取り組んでいます。

“データセンターにおける主なCO2排出要因は、IT機器やサーバ冷却用空調機器による電力消費です。これらに対応するため、省エネ機器や高効率フリークーリングチラーの導入、冬期・中間期における外気冷却の採用、きめ細やかな空調制御などのさまざまな対策で、電力消費量の削減を推進しています。

各データセンターでは、データセンター省電力化を推進する米国業界団体「グリーン・グリッド(The Green Grid)」が発表した「PUE(Power Usage Effectiveness)」という指標を用いて、電力使用効率を定量的に管理しています。また、サーバーの仮想化、クラウドサービス、実績豊富なエンジニアによる高品質な運用サービスの提供などを通じて、お客様のIT利用段階における環境負荷低減にも貢献しています。

こうした取り組みのほか、IT機器の利用・廃棄・リサイクルなども重要な観点であり、お客様のサーバ調達における機器選定や、機器の破棄の際にも、環境に配慮した対応を実施しています”

参考:サステナビリティ|カーボンニュートラル実現に向けた取り組み|SCSK株式会社

さくらインターネット

さくらインターネットでは、自社で運営する石狩データセンターにて水力発電を中心とした再生可能エネルギー電源へと2023年6月1日より変更しました(これにより、石狩データセンターにおける二酸化炭素の年間排出量はゼロになります)。

<石狩データセンターの省エネルギー化に向けた取り組み>

年月取り組み内容
2013年3月直流給電システムの本格稼働
2015年8月石狩太陽光発電所を開所
2015年9月超電導直流送電システムの通電試験に成功
2021年6月LNG・ガス火力発電を主とした電力へ変更し、 年間CO2排出量の約24%にあたる約4,800トンを削減
2022年6月非化石証書を活用した電力へ変更し、実質CO2排出量ゼロを実現
2023年6月再生可能エネルギー電源100%に切り替えCO2排出量ゼロを実現

参考:さくらインターネット、石狩データセンターのCO2排出量ゼロを実現|さくらインターネット

IT業界のカーボンニュートラルの課題:脱炭素サービスの提供

日進月歩で技術革新を続けるIT業界は、カーボンニュートラルの実現に貢献する技術開発の期待を背負い、様々な形の脱炭素サービスの提供を行っていく役割を担っています。

脱炭素サービスの取り組み事例

ゼロボード

セロボードでは、GHG排出量算定・可視化ソリューション「Zeroboard」の開発・提供を通じて、様々な企業や自治体の脱炭素の取り組みに貢献しています。

“「Zeroboard」は、活動量の入力またはデータ連携の設定をするだけで、企業のサプライチェーンGHG排出量の算定・可視化・削減管理ができるソフトウェアです。高価なコンサルティングやパッケージ製品に頼ることなく、中小事業者から大手企業のグループ会社管理まで、幅広くお使いいただいております

参考:Zeroboard(GHG算定・可視化)|株式会社ゼロボード

富士通

富士通は、お客様のビジネス成長と社会課題の解決に挑むソリューション「Fujitsu Uvance」を提供しています。

“「Fujitsu Uvance」は、お客様のビジネス成長と社会課題の解決に挑むソリューションです。富士通が長年培ってきたテクノロジーと、さまざまな業種の知見を融合させ、業種間で分断されたプロセスやデータをつなぎます。企業や組織のクロスインダストリーの協力を活性化させて、これまでにない解決策やインサイトを導き出します。このつなげる仕組み、業種横断のソリューションやサービスを通じて、お客様とともにサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に取り組みます”

参考:Fujitsu Uvance|富士通

この「Fujitsu Uvance」の事例は多岐に渡りますが、カーボンニュートラルに貢献する事例の一つに、ドイツの地方都市・バルスビュッテルの公共施設における「エネルギー効率最適化のためのデータモニタリング」があります。

カーボンニュートラルの観点(エネルギー効率の改善)に加えて、施設内の人々の働きやすさや学習環境の最適化に貢献する優れた事例です(詳細は下記参照)。

<課題>
バルスビュッテルは、公共施設のエネルギー消費に関する調査を検討し、データ収集やその評価の革新的な手法を模索していました。

<解決>
富士通は、温度・湿度・明るさ・CO2の濃度をリアルタイムで記録するセンサーを導入しました。データは一元化され、センサーと合わせて導入されたIoT Operations Cockpitのプラットフォーム上で可視化されました。

<効果>
空気の品質を可視化/エネルギーを節約する新たな手段の発見/学習環境や労働環境の改善、エネルギーフットプリント(排出される温室効果ガスの総量)の低減

参考:エネルギー効率最適化のためのデータモニタリング|Fujitsu Japan

日立ソリューションズ

日立ソリューションズでは、温室効果ガスの排出量・エコマーク製品使用比率・総物質投入量など、さまざまな環境情報を海外を含む多拠点から収集し、環境情報データベースで一元管理するクラウドサービス「EcoAssist-Enterprise-Light」を開発・提供しています。

“多拠点の環境データを環境情報データベースで一元管理します。柔軟性、汎用性、グローバル対応した機能にて、環境情報を見える化することにより、施策の効果を客観的に判断可能に。ESG投資家が重要指標として参照するTCFD・CDPなどに関連する各種報告をタイムリーに開示可能とすることで、企業価値向上に貢献します

参考:環境情報管理ソリューション|日立ソリューションズ

NTTコミュニケーションズ

NTTコミュニケーションズ​では、同社が提供するSDPFクラウド/サーバーによるカーボンニュートラルを加速させる2つの無料機能を提供しています。

<2つの無料機能>
01|CO2の排出量を予測するシミュレーション機能
オンプレミスからクラウド移行の集約効果に加え、再生可能エネルギーで稼働するクラウド導入により、サプライチェーン全体の排出量削減が可能です。SDPFナレッジセンターで提供する「カーボンフットプリントシミュレーター」は、CO2排出量の予測値、クラウド移行による排出量削減効果を確認できます。

02|CO2排出量を可視化するダッシュボード機能
国際的な評価基準に準拠したサプライチェーン排出量をCSR報告書で開示することで、投資家などのステークホルダーへの社会的な信頼性向上につながります。SDPFナレッジセンターで提供する「カーボンフットプリントダッシュボード」では、CO2排出量の確認に加え、開示値の参考情報としても活用できます。

参考:SDPFカーボンニュートラルへの取り組み|ドコモビジネス|NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま

三菱重工業株式会社×日本IBM

三菱重工業と日本IBMは、CO2を有価物として活用する新社会への転換を目指すデジタルプラットフォーム、CO2NNEX™(コネックス)の構築を進めています。

“CO2NNEX™は、高度なセキュリティーを確保するブロックチェーンと、スピーディーな構築や柔軟性を特長とするクラウド、カーボンニュートラルに向けた需給の最適化を行うAIなどを活用したデジタルプラットフォームです。

CO2NNEX™により、回収後のCO2の総量、移送量、購買量、貯留量などといった各フェーズを流通全体をつないで可視化するとともに、その証跡を残すことで、投資やコストの観点で検証することも可能となります。また、販売したいエミッターと購入したい需要家をマッチングさせ、工業や農業、燃料などの新用途に対する供給も実現できることからCO2活用の裾野が広がります。

このCO2エコシステムの活性化はカーボンニュートラルを促進することから、いち早くCO2NNEX™を導入しCO2流通を整流化することで、クリーンな地球環境の保全を加速します”

参考:ネットゼロへの道のりを、IBMと共により早くより力強く

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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