メディア・マスコミ業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例
- 最終更新日:2024-07-31
メディア・マスコミ業界は、企業と消費者とのコミュニケーションを一手に担う立場にあるからこそ、その大きな影響力を良い方向に使っていく責任があります。当然、カーボンニュートラルの実現というテーマにおいても果たすべき役割というものがあります。
そこで本稿では、メディア・マスコミ業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。
<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。
メディア・マスコミ業界のカーボンニュートラルの課題:サステナビリティ意識の醸成
メディア・マスコミ業界の強みである、調査力や企画力、そしてメディアのパワーは、消費者のサステナビリティ意識を醸成する上で大きな影響力を持ちます。
カーボンニュートラルを含めたサステナビリティのテーマ・取り組みは、短期的にはお金になりづらい側面がありますが、長期視点のもとに消費者のサステナビリティの意識変容を働きかける取り組みを続けることが業界の課題として挙げられます。
サステナビリティ意識の醸成の取り組み事例
Earth hacks
博報堂と三井物産が共同で立ち上げた、生活者一人ひとりのアクションで脱炭素社会を推進する共創型プラットフォーム「Earth hacks」では、CO2e(CO2 相当量に換算した値)を従来の製品と比較し、削減率(%)を表示する「デカボスコア」の提供を行っています。
“Earth hacksでは、「やらなければならない」といった我慢や制限ではなく、生活者が「前向きに、楽しみながら取り組めるアクション」を、”地球(Earth)にとって前向きで型にはまらない解決策(hack)を講じて脱炭素社会を目指していきたい” という想いから名付けています。
活動の一環として行っている「デカボスコア」の提供については、現在70社を超える企業に導入いただいています。
例えばトヨタ自動車株式会社による、自動車の製造工程で発生する端材を捨てずにIDカードホルダーやペンケースなどに生まれ変わらせるアップサイクルの取り組みや、日本航空株式会社によるエアバスの省燃費機材「A350型機」を活用した特別フライトの取り組みについてデカボスコアを算出し、UCCグループであるユーシーシーフードサービスシステムズが展開する上島珈琲店では、タンブラー利用によるCO2e排出量の削減率に合わせてドリンクがお得に購入できるサービスを共に計画・実施するなど、様々な活動を行っています。このような活動がビジネスやPR上で効果を発揮したことも明らかになっており、今後も各社との取り組みを継続的に行っていく予定です”
参考:“生活者が主体”となり脱炭素社会を実現するための取り組みを強化|Earth hacks株式会社設立のお知らせ |ニュースリリース|博報堂 HAKUHODO Inc.
ハースト婦人画報社
ハースト婦人画報社では、読者に対して自社の環境への取り組みを透明性をもって示すと同時に、持続可能な未来への意識を喚起することを目的に、発売する全誌にてCFP(カーボンフットプリント)を開示し、CFPの認知拡大とGHG削減への意識向上を図っています。
“今回の算定は、2023年1月から12月までに発行した14媒体を対象とし、当社の雑誌を印刷する大日本印刷株式会社、TOPPAN株式会社、日経印刷株式会社の協力を得て、可能な限り1次データを用いながら、原材料の調達から生産、流通、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体をカバーしました。各印刷会社から提出される算定データの基準に大きな差が出ないよう、基本的な算定範囲とルールを当社で設定し、算定結果は第三者に検証いただきました。
その結果、1冊あたりのCFPは1.4から3.8kg-CO2eq(年間平均)となり、原材料調達が83.6%を占めることが明らかになりました。なお、雑誌に掲載されるコンテンツ制作に由来する排出量は今回の算定から除外しており、別途算定トライアルを進めています。
当社は、グリーン電力証書を活用することで、2023年3月以降に発売された全定期刊行誌の印刷・製本における電力使用分のGHGを削減しています。今後も、ステークホルダーとの協力を強化し、環境負荷の低減に努めてまいります”
日本テレビ
日本テレビでは、2023年の開局70年を機に、海の環境保全に関わる活動を推進する「日本列島 ブルーカーボンプロジェクト」を始動。
ブルーカーボン(海で貯留される炭素)に関するイベントやワークショップの開催、先進的な取り組みの紹介、PRキャラクターを絡めたメディア展開など、日本テレビのネットワークを活用した様々な取り組みを推進しています。
読売新聞社
読売新聞社では、特集サイト「Carbon Neutral Project」を運営を通じて、カーボンニュートラルの啓発に尽力しています。
“政府が掲げている、「2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ」の政策目標。この目標の実現に向けては、私たちの生活スタイルの転換はもちろん、産学官のオールジャパン体制で取り組むことが必要です。「Carbon Neutral Project」では、行政や民間企業が持つビジョン、最先端の取り組み、トップインタビューなどを随時、発信していきます。実際に見て聞いて、理解を深めるオンラインシンポジウムも開催予定です”
電通、博報堂
電通では、日本におけるカーボンニュートラルに関する認知・理解や興味・関心などについての現状を把握した上で、今後の浸透策を検討していく目的のもとに「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施しています。
参考:電通、第13回「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施|News(ニュース)|電通ウェブサイト
また、博報堂では脱炭素(カーボンニュートラル)の行動の現状を明らかにする目的のもとに「生活者の脱炭素意識&アクション調査」を実施しています。
これらの調査結果は、企業や自治体がカーボンニュートラルの取り組みを検討する上で大いに参考になるものです。
メディア・マスコミ業界のカーボンニュートラルの課題:サステナブルな活動への転換
広告宣伝やマーケティングなどのビジネスに欠かせない認知形成活動をサステナブルな活動へと転換させることには、多くの業界や企業のカーボンニュートラルの実現に貢献するものです。
当然ながら、その取り組み(サステナブルな活動への転換)には困難が伴います。だからこそ、業界内外のステークホルダーで手を取り合うことが求められています。
サステナブルな活動への転換の取り組み事例
電通グループ × AdGreen
電通グループでは、日本におけるマーケティングコミュニケーションに伴い排出される温室効果ガス(GHG)の削減を図ることを目的に、関連サプライチェーン内のGHG排出量可視化の推進とGHG削減に向けて、マーケティング領域の脱炭素化イニシアティブ「Decarbonization Initiative for Marketing」を立ち上げました。
“本イニシアティブでは、AdGreenと連携することで、日本国内のマーケティングコミュニケーションの様々なサービスライン(広告・コンテンツ制作、メディア・デリバリー、デジタル、イベント等)において、中長期的には、より精緻かつグローバルで評価される日本の業界標準GHG排出量可視化ツールの開発を推進します。さらに、日本における広告を始めとするマーケティングコミュニケーションに携わるステークホルダーとともに、定期的に検討会を実施し、カーボンニュートラル社会の実現に向けた業界全体のあるべき姿を議論することを目指しています”
TBSテレビ× booost technologies ×電通
TBSテレビ、booost technologies、電通の3社は、テレビCMの放送に伴う温室効果ガス排出量を算出し、カーボンニュートラルを実現する「グリーンCM」を開発し、2023年からCM放送を開始しています。
“テレビCMは、制作と放送という2つのフェーズがあります。前者で発生するのが、小道具を製作したり破棄したりするときや、ロケの移動などで排出される温室効果ガス。後者で発生するのが、放送に伴う電力消費などです。
これらScope3の排出量は、コストや期間の観点からもすぐに全てを削減するのが難しいといわれています。特に、燃料の燃焼といった工業プロセスによる直接排出が少ない一方で広告宣伝活動の機会が多いテック系企業にとっては、いかにScope3の排出量を減らせるかが重要課題となっています。
今回のグリーンCMは、テレビCMの放送のフェーズで排出される温室効果ガスにフォーカスしたソリューションです。CM制作に関しては、美術セットのCG制作や別撮りした実写背景を使ってスタジオ内で合成撮影して温室効果ガス削減を図る「メタバース プロダクション」というソリューションを、電通グループとして複数社共同で開発しています”
フジテレビ × MS&ADインシュアランス グループ
フジテレビでは、2023年1月28日(土)に放送した『EXITの未来を本気(マジ)で考えるⅢ~フューチャーランナーズSP~』(14:30~15:30関東ローカル)の制作過程におけるCO2排出量を「実質ゼロ」にし、初めてゼロカーボン番組を実現しました。
“まず、制作開始当初から、スタッフ・関係者全員に「環境に配慮した番組制作のためのこころがけ」を記した「グリーンメモ」を共有。事前打ち合わせや、ロケ・収録時の移動に公共交通機関を使ったり、ペットボトルをやめて紙パックにしたり、ロケ弁当は魚にする(肉は環境負荷が高い)など、あらゆる場面で環境負荷の少ない方法をとりました。
その上で実際に同番組制作過程で排出したCO2をイギリスの公共放送・BBCが開発したオンラインツール「アルバート」を使って算定したところ、その量は約1トンになりました。使用するエネルギーの種類や移動手段を変えることでCO2排出量が変わってくることが実際の数値でわかり、CO2の量が“見える化”されることで、スタッフ・出演者の環境意識の向上を図ることにもつながりました。
そして、排出量分の再生可能エネルギー由来のJ-クレジットを、番組スポンサーであるMS&ADインシュアランスグループと共同で購入することで実質的にオフセットを実現しました。
フジテレビとして初めてとなるゼロカーボン番組をスポンサー企業とともに実現した背景には、社会全体でSDGsの取り組みが進展してほしいという共通の思いがあります。 今回の試みを参考に、制作のどの過程において環境負荷が高くなるかなどを検証し、今後の持続可能な番組作りに生かしていきたいと思います”
参考:「フューチャーランナーズSP」で初のゼロカーボン番組を実現!|地球環境のために|私たちの活動|フジテレビのサステナビリティ・CSR – フジテレビ
カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内
私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。
私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。
カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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