電力業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

エネルギー転換部門(発電所・製油所)のCO2排出量は日本全体の約40%(※)を占めており、電力業界の脱炭素化の影響力は極めて大きなものです。

そこで本稿では、電力業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

※2022年度のCO2排出量は日本全体の40.5%(420百万トン)

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

電力業界のカーボンニュートラルの課題:電源の脱炭素化

各企業・各家庭に電力を供給する側に立つ電力業界には、再エネ比率の向上(再生可能エネルギーの主力電源化)や火力発電の脱炭素化など、電源の脱炭素化の取り組みが求められています。

電源の脱炭素化の取り組み事例

東京電力リニューアブルパワー

東京電力ホールディングスの再生可能エネルギー発電事業会社である、東京電力リニューアブルパワーでは、水力・風力・太陽光合計で約1,000万kWの国内最大の設備量を維持してきた経験・ノウハウを活かし、2030年度までに国内外で600~700万kW程度の電源を新規開発し、再生可能エネルギーの「主力電源化」を推し進めています。

<関連KPI>

 開発目標
(2030年度まで)
進捗
(2022年度)
海外水力200~300万kW33万kW(運転中)
21万kW(建設・開発中)
国内洋上風力200~300万kW
海外洋上風力200~300万kW249万kW(開発中)
合計

600~700万kW

1,000億円規模(純利益)

303万kW(開発中含む)

370億円

参考:TEPCO 統合報告書 2023(P24)

東北電力グループ

東北電力グループでは、2021年3月、2050年カーボンニュートラル達成に向けた道筋を示す、東北電力グループ “カーボンニュートラルチャレンジ2050” の下、再生可能エネルギーと原子力の最大限活用、火力電源の脱炭素化、電化とスマート社会実現を軸に、カーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています。

そして、その中でもカーボンニュートラルの達成やサステナビリティの推進にあたり、再生可能エネルギーの主力電源化が必要であるという認識のもとに、洋上風力・陸上風力・地熱・水力・バイオマスなど、2030年以降の早期に200万kWの目標達成に向けた新規開発を加速させています。

“当社グループはこれまで、31件の開発に取り組んでおり、2023年7月末時点における持分出力は約65万kWとなっております。引き続き、自社開発の強化や開発エリア拡大などを進め、再生可能エネルギーの拡大に努めていきます”

九電(九州電力)グループ

2022年度に約261万kWの再エネ開発実績がある九電グループ。、グループの強みである地熱や水力の開発に加え、導入ポテンシャルが大きい洋上風力やバイオマス等について拡大を図り、再エネの主力電源化を推進しています。

例えば、九電みらいエナジーでは、長崎県五島市沖で国内初の1,000kW級大型潮流発電の実証事業に取り組んでいます。

“本事業は、2021年度まで同社が同地点で実施していた500kW級潮流発電実証事業の成果を活用し、潮流発電機の高効率化による技術面の実用化や商用化に向けてのビジネスモデル構築を目指すもので、本事業を通じて日本における潮流発電の早期実用化を目指します。また、九電みらいエナジー及びキューデン・インターナショナルは、シンガポール沖での小型潮流発電(7kW×4基)の実証事業に参画しています。ラッフルズ灯台に供給する電力をディーゼル発電から潮流発電に置き換えることで、海事・港湾分野の脱炭素化に貢献するだけでなく、本実証で得られる知見を海外における今後の分散型電源事業の展開に活用します

参考:九州電力 統合報告書2023(P43)

中部電力ミライズ×長野県×県内企業7社

中部電力ミライズでは、2023年11月20日、長野県内の再生可能エネルギーの拡大に向けた長野県および県内企業7社によるプロジェクトを開始しました。

“本日より開始するプロジェクトは「信州Green電源拡大プロジェクト」の第2弾として、新たに5社の県内企業を加え、長野県内での水力発電所の開発をさらに拡充させていくものです。

水力発電を始めとする再生可能エネルギーは、政府の目指す2050年カーボンニュートラルの達成に向け、導入量の拡大が不可欠であるとともに、環境に配慮した経営を重視する企業を中心に、需要が高まっております。

今回のプロジェクトでは、キッセイ薬品、キッツ、KOA、エプソン、八十二銀行、ユウワの6社が利用した「信州Greenでんき」の購入費用の一部を、長野県企業局の「湯の瀬いとおしき発電所(長野市)」の建設、および中部電力株式会社が保有する「二股水力発電所(北安曇郡白馬村)」の改修に活用いたします。

これにより、長野県内の再生可能エネルギーを、合計で約2,600kW(想定年間電力量約1,600万kWh)増加させることが可能となります。今回のプロジェクトを通じて、電気のバリューチェーンを構成する発電事業者、小売事業者、利用者の3者が連携し、水力発電所の拡大に必要となる資金を安定的に確保することで、対象となる発電所の開発・改修などを直接支援してまいります

参考:長野県内の再生可能エネルギーの拡大に向けた長野県および県内企業7社によるプロジェクトの開始~「信州Green電源拡大プロジェクト第2弾」を通じて特定の発電所の開発を支援~|プレスリリース|中部電力ミライズ

北陸電力グループ

北陸電力グループでは、志賀原子力発電所の早期再稼働に向けた取り組みを進めています(原子力発電は太陽光・風力等の再生可能エネルギーと同様、発電時にCO2を排出しない電源であり、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて非常に重要な役割を担います)。

“志賀原子力発電所は安定供給、脱炭素および収支改善等、様々な観点において重要な電源であり、早期再稼働に向け、原子力規制委員会による新規制基準への適合性確認審査への対応を進めています。

2023年3月の審査会合では、志賀原子力発電所の敷地内断層が活断層ではないとする当社の評価について、原子力規制委員会からご理解いただくことができました。敷地内断層の活動性評価にあたっては、従来の上載地層法に加え、評価対象となる全ての断層で鉱物脈法でのデータを取得する等、徹底的な調査を踏まえた評価を行ってきており、この審査結果は、地元の皆さまの安心に繋がる、再稼働に向けた大きな一歩と受け止めています。

また、2023年7月には敷地近傍(敷地から半径5km以内)に分布する断層の評価が確定しました。引き続き、敷地周辺(敷地から半径5km以遠)に分布する断層の審査のほか、地震動、津波等の多岐にわたる審査に並行して対応していきます

参考:北陸電力グループ統合報告書2023(P29-31)

関西電力グループ

関西電力グループでは、ゼロカーボンビジョン2050 の実現に向け、火力発電における水素等のゼロカーボン燃料の活用やCCUS技術の導入などの各種取組みを進めていきます。

“舞鶴発電所において、NEDO事業である「CO2分離回収技術(固体吸収法)の石炭燃焼排ガスへの適用性研究」への協力を行っています。2022年度は試験設備を用いた試運転工程に進んでおり、2023年度下期からは本格実証試験を開始する予定です。実証に用いる固体吸収法は、従来の技術と比べて、CO2分離・回収に要するエネルギーを大幅に低減できる可能性があり、次世代の分離・回収技術として期待されています”

“同じく舞鶴発電所において、NEDO事業である船舶によるCO2大量輸送技術確立のための研究開発および実証事業への協力も行っています。これは、CO2を本事業用設備で液化して船舶で輸送する事業であり、①液化CO2の船舶輸送技術を確立するための研究開発、②液化CO2船舶輸送実証試験(約9万トン)の実施、③CCUSを目的とした船舶輸送の事業化調査を研究開発項目とするもので、2024年度から船舶輸送実証の開始が予定されています”

参考:関西電力グループ 統合報告書 2023(P79)

おきでん(沖縄電力)グループ

沖縄においては、地理的・地形的かつ需要規模の制約により大型水力や原子力発電の開発が困難であることや、太陽光や風力などの再生可能エネルギーについては出力が不安定なことから、火力燃料(石炭・石油・LNG)を使用した火力発電に頼らざるを得ない状況にあります。

この背景を踏まえ、おきでんグループでは、火力電源のCO₂排出削減に向けて県産バイオマスの混焼拡大やCO₂排出量の少ないLNGの利用拡大、水素・アンモニア等のクリーン燃料の利用に向けた検討等に取り組んでいます。

“再生可能エネルギーの利用を拡大し、CO₂の排出抑制を図ることを目的として、当社では具志川火力発電所および金武火力発電所において、カーボンニュートラル資源である木質バイオマスを石炭に混合して燃焼させる運用をしています。

当社が利用する木質バイオマス燃料は、株式会社バイオマス再資源化センター(BRC)において、沖縄県内で有効利用されず焼却処分されていた建築廃材等から製造されており、県内における建築廃材のリサイクル推進に貢献するとともに、石炭の消費量を抑制することで、県内のCO₂排出量の削減にも寄与しています。また、沖縄県のクリーンエネルギー・イニシアティブで掲げられた基本目標「エネルギーの地産地消」にも貢献します。

なお、資源の限られる沖縄にとってエネルギーの地産地消は重要な鍵となると考えており、更なるバイオマスの利用拡大に向けて、燃料資源となり得る可能性のあるネピアグラスなどの草本系バイオマスを原料に用いて、ペレット燃料の試作等に取り組んでいるところです

参考:おきでんグループ 統合報告書2023(P43)

電力業界のカーボンニュートラルの課題:電化の推進支援

電源の脱炭素化は電力の供給側の課題ですが、電力の需要側の課題として電化(CO2を排出する石油や石炭・ガスなどの化石燃料から電力に置き換えること)があり、電力業界としての電化の推進支援が期待されています。

電化の推進支援の取り組み事例

UPDATER

UPDATERでは、みんなで “楽しく” 電気をつくり、みんなが “自由” に電気を選ぶ世界の実現を目指し、ブロックチェーンを活用した電力トラッキングシステムによって、発電所を特定した再エネ電力を供給しています。

全国1,000の再生可能エネルギーの発電所とつながり、電気を作る人の顔や想いのストーリーを公開し、感じることができる「顔の見える電力(サービス名称:みんな電力)」を利用する法人企業や個人は「どの電源からどれだけ電気を買うか」を能動的に選択することができます。

参考:サービス一覧|株式会社UPDATER

TEPCO(東京電力)グループ

TEPCO(東京電力)グループでは、カーボンニュートラル社会における新たなエネルギー基盤として位置づけらる蓄電池に注目し、トヨタ自動車株式会社と開発した定置用蓄電池システムの実証に取り組んでいます。

“これからのお客さまの蓄電ニーズの高まりに価格・量の面からお応えするには生産規模の大きい電動車用蓄電池の活用が有用です。

当社グループの「定置用蓄電池の運用技術・安全基準」とトヨタ自動車株式会社(トヨタ)の「電動車用蓄電池のシステム技術」を融合し開発した定置用蓄電池システムの実証試験を2023年秋頃から豊田通商株式会社と株式会社ユーラスエナジーホールディングスと連携しユーラス田代平ウインドファーム(秋田県)にて開始します。

このシステムは、汎用のパワーコンディショナーにトヨタの電動車用蓄電池、当社グループのEMS(エネルギーマネジメントシステム)を組み合わせたシステムであり、当社グループの充電・放電制御技術を活用することでお客さまニーズに合わせた蓄電池運用が可能となります。また、電動車用と定置用の蓄電池を共有することにより、電池資源の有効活用を実現し、低コスト化および短納期化へ取り組んでいきます”

参考:TEPCO 統合報告書 2023(P30)

関西電力グループ

関西電力グループでは、お客さまや社会の皆さまとともに脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2削減コンサルティング・計画策定から具体策の実行に至るまでの様々なサービスを、お客さまの実態に合わせてカスタマイズしたソリューション(ゼロカーボンパッケージ)を提供しています。

“ゼロカーボンパッケージでは、①エネルギーの「見える化」、②エネルギーを「創る」、③エネルギーを「減らす」、④エネルギーを「置き換える」の4つのCO2排出量削減ステップごとにソリューションをご提供しています。

①エネルギーの「見える化」について、株式会社ゼロボードと協業し、国際基準GHGプロトコルに基づいたCO2排出量の算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」を提供しております。「zeroboard」でお客さまの事業活動に伴うCO2排出量を可視化・分析し、最適な削減ソリューションをご提案しています。さらに、お客さまのサプライチェーン全体のCO2排出量、および製品別・サービス別CO2排出量の算定・可視化支援など提案活動を強化していきます。

②エネルギーを「創る」について、太陽光発電オンサイトサービスをご提供しています。お客さまは当社グループ会社(株)関電エネルギーソリューション(以下、Kenes)で太陽光発電設備を設置し、発電した電気をお使いいただきます。サービス料金は、お使いいただいた使用量に応じてのお支払いとなりますので、その手軽さから数多くのお客さまにご採用いただいています。

③エネルギーを「減らす」について、2023年4月にリリースしたAIで分散型エネルギーリソースを最適に制御する「SenaSon」により、太陽光発電、蓄電池、EV、空調設備、生産設備等のエネルギーを最適制御し、削減いたします。

④エネルギーを「置き換える」について、化石燃料設備からの電気転換をKenesが提供するユーティリティサービスで実現します。設備の電気転換の際の設計・資金調達・建設を一貫して担い、完成後のチューニング・運転・保守管理に至るまでのサービスをトータルでご提供いたします。なお、電気転換をした設備で使用する電気については、CO2フリーの電気(再エネECOプラン)によりCO2をオフセットするメニューをご用意しています。また、海外のお客さま拠点には、アジア圏等の国を中心に50か国以上に準拠している再エネ証書「I-REC」を調達し、再生可能エネルギーにより発電された電気の再エネ価値もご提供しています”

参考:関西電力グループ 統合報告書 2023(P51)

ほくでん(北海道電力)グループ

ほくでんグループでは、エネルギーサービスプロバイダ(ESP)事業として、省エネ・高効率機器の設置から、エネルギー調達・設備の運用まで、一括したサービスを提供しています。

例えば、2023年3月に開業した「エスコンフィールドHOKKAIDO 」に対しては、試合の有無などで大きく変化するエネルギー需要に対し、常に効率的な運用とするため様々な省エネ設備を組み合わせてサービスを提供しています。

中部電力×関西電力送配電×八千代エンジニヤリング

中部電力は、2024年3月8日、独立行政法人国際協力機構(JICA)から「バングラデシュ国低炭素社会実現のためのダッカ配電マスタープラン策定プロジェクト」を関西電力送配電株式会社および八千代エンジニヤリング株式会社と共同で受託したことを発表しました。

“バングラデシュ人民共和国(以下、バングラデシュ)では、堅調な経済成長に伴い、電力需要が増加しています。特に、経済活動の中心地で、国内電力需要の約35%を占めるダッカ首都圏は、今後も電力需要の増加が見込まれることに加え、再生可能エネルギーの拡大も想定されています。

こうした中、ダッカ首都圏では、経済成長の基盤となる電力の安定供給と信頼性向上のために、配電分野の計画策定、運用能力の強化の必要性が高くなっています。

本プロジェクトでは、2024年3月から2027年3月までの約3年間において、低炭素社会実現に向けた再生可能エネルギーの大量導入と電力安定供給の両立を見据えたダッカ首都圏の配電マスタープランの策定を支援します。また、ダッカ電力供給会社に配電自動化システムの導入支援、ダッカ配電会社にデマンドサイドマネジメントの技術支援を行います

参考:JICAから「バングラデシュ国低炭素社会実現のためのダッカ配電マスタープラン策定プロジェクト」を受託 – ニュース|中部電力

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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