小売業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例
- 最終更新日:2024-07-01
小売業界は、私たち消費者の日常生活に密接に関わっている業界です。自分たちのこと(店舗の脱炭素対策)に留まらず、カーボンニュートラル時代の消費意識の変革を消費者と一体になって進める重要な役割を担っています。
そこで本稿では、小売業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。
<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。
小売業界のカーボンニュートラルの課題:店舗の脱炭素対策
小売業界の企業各社では、全国の消費者に対して必要十分な商品を届けるために多くの店舗を構えています。カーボンニュートラルの実現に貢献する観点では、多くの他業界と同様に、まずは自分たち(店舗)の脱炭素対策を講じていくことが課題として挙げられます。
店舗の脱炭素対策の取り組み事例
ローソン
ローソンでは、2010年度からフロンを排出せずに省エネルギー効果も高い「ノンフロン(CO2冷媒)冷凍・冷蔵システム」の導入をスタート。同社では、この最先端の技術を、脱炭素を進める上での柱と位置づけて積極的な導入に取り組んでいます。
“フロン類は、その使いやすさから冷媒として盛んに活用されてきましたが、オゾン層の破壊や地球温暖化への影響が明らかとなり、法律による規制が強化されています。
ローソンでは、フロンを用いず、CO2などの自然由来の冷媒を活用するノンフロン冷媒をいち早く導入してきました。2010年12月から試験的な導入を始め、効果が確認できたため2014年8月から本格的な導入を開始し、2023年2月末時点で累計約5,300店に導入しています。
ノンフロン冷媒の冷凍・冷蔵機器は、これまでの要冷機器と比較して温室効果が低いため、CO2排出量を半減させることができます。また、このシステムは省エネ性能に優れていることから、フロン類の排出抑制策としても省エネ施策としても非常に有効な手段といえます。ローソンからノンフロン冷媒の冷凍・冷蔵システムの採用を拡大することで、より多くの企業が採用し、地球温暖化防止の一助となることを目指しています”
ウエルシアグループ
ウエルシアグループでは、全国に2,751の店舗(2023年2月末時点)を展開する企業の責任として、店舗や物流における温室効果ガス削減、販売したペットボトルの回収などに取り組んでいます。
“使用済みペットボトルについては、100%再資源化し、何度も再生する「ボトルtoボトル」が進められています。当社グループにおいても、多くのペットボトル飲料を販売する事業者として、「ボトルtoボトル」を社会インフラとすることを目指しています。2023年2月末までに累計でペットボトル1,098,182本を回収し、17,558㎏のCO2排出量を抑制しました。これは1,246本分の杉の木が1年間で吸収するCO2の量に相当します。今後、関西と東海を中心に回収店舗を増やし、2024年2月末までに665店舗まで拡大する計画です”
三越伊勢丹ホールディングス
三越伊勢丹ホールディングスでは、温室効果ガス削減に向けて、創エネや脱炭素な店づくり、屋上緑化など、様々な取り組みを推進しています。
<創エネ>
“伊勢丹新宿本店、三越銀座店では、太陽光発電による「創エネ」への取り組みを実施しています。2023年2月に三越伊勢丹物流センター(埼玉県所沢市)の屋上を利用し、新たに太陽光パネルを設置しました。物流センターで使用する年間電力の1/4を発電予定で、約230t-CO2の温室効果ガス排出量の削減を見込んでいます。これらの施策を通じて、2022年度は148,270kWhを発電し、店舗・事業所内で使用しました”
<地域に根差した、脱炭素な店づくり>
“静岡伊勢丹が運営するコリドーフジは、建て替え、リニューアルオープンに伴い、お客さまに快適な空間を提供しながら温室効果ガス排出量削減を実現しています。複層ガラスの採用により断熱性の向上、LED照明の設置のほか、自然通風や採光による空調運転負荷軽減に取り組んでいます”
<屋上緑化>
“伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店の屋上では、緑化工事を進め、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。日射を遮断し、コンクリートの蓄熱を防ぐことにより建物最上階の空調負荷が低減され、建物の省エネを実現でき、地球温暖化対策の一環として注力しています。特に、①表面の温度上昇の抑制効果 ②省エネ効果 ③空気の清浄・ヒーリング効果のほか、周辺緑地をエコロジカルネットワークでつなぐ効果があり、生物多様性の保全にも貢献しつつ、都心の商業施設にある憩いの場として、お客さまに活用されています”
まいばすけっと
都市型小型食品スーパーのまいばすけっとは、2024年5月8日、「脱炭素モデル地区」みぞのくちの店舗を中心にオフサイトPPAを活用した実質再生可能エネルギー電力の導入を開始することを発表しました。
“まいばすけっとは、全国的に店舗の脱炭素化を検討する中、「脱炭素モデル地区」である高津区エリアを最初の脱炭素エリアとし、川崎市内24店舗で、まいばすけっと・出光興産が連携してオフサイトPPAスキームを活用した実質再エネ電力の導入を行うことを皮切りに、今後店舗の脱炭素化を更に加速させていきます。
出光興産は、まいばすけっと専用の新設小型太陽光発電所を用意し、それら発電所から生み出される電気および環境価値をまいばすけっとへ供給します。
本モデルは、電気の需要者と供給者が脱炭素化に向けて共創していくことにより、世の中に新たな再生可能エネルギーを創出していく新しい電力供給モデルです”
丸井グループ
丸井グループでは、2030年度までに再生可能エネルギー調達100%を目指した取り組みを着実に推進しています(2023年3月期の再エネ比率は60.9%)。
“丸井グループが自社で排出するCO2の大部分は、電力使用によるものです。2030年度までに再生可能エネルギーによる電力調達を100%にするために、店舗における再エネの導入を進めています。2022年3月期は、再エネ比率60.9%を達成しました。2019年9月に小売電気事業者登録を完了し、発電事業者から電力を直接仕入れることが可能となりました”
サイバーエージェント
サイバーエージェントでは、2023年1月より企業のGX(グリーントランスフォーメーション)推進支援を行う「小売GXセンター」を設立。サービスの第1弾として「ミライネージ for Green」を提供しています。
“我々はコスト削減を主力としてやきた会社ではありませんが、サイバーエージェントのアセットを改めて見返すと、小売業の方々の電気代削減、ひいてはCO2をはじめとした温室効果ガスの削減達成に対してできることがあるのではないかと考えました。たとえば、ロボット学の世界的権威である石黒浩先生が率いる大阪大学石黒研究室と一緒にロボットの研究をしていたり、自社内ではセンサーを使った物体認知や温度検知といったテクノロジーを活用していたりしています。そこで、GXの取り組みを開始した次第です”
参考:目指すのは社会的価値創造と経済的価値向上の橋渡し、サイバーエージェントが取り組むGX事業|MarkeZine(マーケジン)
小売業界のカーボンニュートラルの課題:消費の意識改革
カーボンニュートラルの実現には、商品やサービスを届ける事業者側の行動と受け取った商品やサービスを使う消費者側の行動の両輪が問われる。
この観点において、消費者と密接に関わる立ち位置にある小売業界には、消費の意識改革という名のチャレンジングな課題に立ち向かうことが期待されます。
消費の意識改革の取り組み事例
チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)
カーボンニュートラルの自分ゴト化を目指す、生活者と企業による協創型コンソーシアム、チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)。
日本総研、スギ薬局、万代、アサヒグループジャパン、アスエネ、サラヤ、三幸製菓、日本ハム、ユーグレナ、Daigasエナジー、シカケラボ、京都芸術大学、京都精華大学などの会員企業やパートナーが集い、「脱炭素の取り組みに触れて認知を広げ、学びを通して楽しみ、興味をもって自分ごと化する機会を用意し、生活者とともに脱炭素社会の実現に挑戦する」ことに取り組んでいます。
“現在、多くの企業は脱炭素社会の実現に向けてさまざまな取り組みを進めています。しかし、脱炭素を自分ゴトとして捉える生活者は、まだまだ多くありません。実際、「環境」や「脱炭素」に配慮しているからという理由で商品を購入したり、そうした商品を扱う企業を応援したり、具体的な行動に移している人は少ないのが現状です。
そこでわたしたち有志企業一同は、「脱炭素の取り組みに触れて認知を広げ、学びを通して楽しみ、興味をもって自分ごと化する機会を用意し、生活者とともに脱炭素社会の実現に挑戦する」という趣旨のもと、チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(以下、CCNC)を設立しました”
参考:チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアムの概要|CCNC
CCNCの活動の一環として行われた実証実験、みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクトでは、日本総研と万代のほか、アサヒグループジャパン、三幸製菓、日本ハムなどの担当者が互いの知恵を出し合うことで意義ある取り組みとなりました。まさに、協創することの価値が伝わる好事例と言えます。
“脱炭素に取り組むメーカーは、商品がいかに脱炭素に寄与しているかを伝えたいと考える一方で、「プラスチック削減のためにラベルを小さくすると、取り組みに関する説明を記載するスペースがなくなるなどのジレンマを抱えていた」(佐々木氏)。そこで、今回のような”楽しく学びたくなる”仕掛けづくりで企業がどのような取り組みをしているかまで来店客に知ってもらえる仕組みを考えた。
また、佐々木氏は「売場づくりに関しては、万代やメーカーの皆さまの知見をお借りした」と話す。たとえば、特設棚は主通路上のエンドに設置。その向かい合わせに位置する平台や、特設棚のエンドから主通路を進んだ先にある棚の目線位置に脱炭素商品を置き、自然と商品がお客の目に入るといった工夫を凝らしている”
参考:万代と日本総研が脱炭素の取り組み開始! 業界を横断して考案した売場の工夫とは|流通・小売業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】
不二家
不二家では、気候変動への対応として、温室効果ガス排出量の削減やプラスチック使用量の削減の取り組みと並行して、エシカル消費の広まりを踏まえたお客様の嗜好変化への対応も進めています。
“お客様の環境に対する意識の高まりにより、環境配慮型商品への需要が増加するなど、お客様の嗜好も変化しています。エシカル消費の広まりに対し 、上記プラスチック使用量の削減のほか 、FSC認証紙の使用や、サステナブルな原料を使用した商品及び気温上昇によるお客様の嗜好変化に合わせた商品の開発などに取り組んでいます”
セブン-イレブン・ジャパン
セブン-イレブン・ジャパンでは、2020年5月よりエシカルプロジェクトの全国展開を開始。販売期限が迫ったおにぎりやお弁当などに緑色のシールを貼り、該当商品の購入者にポイントを付与することで食品ロスの削減を進めています。
“今後も私たちが社会に貢献しながら成長を続けるためには、「持続可能性」という視点が非常に重要であると考えております。セブン‐イレブンはセブン&アイ・ホールディングスが掲げる「5つの重点課題」「Green Challenge 2050」の方針に基づき、さまざまな取組みを行っております。例えば、オリジナルデイリー商品の長鮮度化、太陽光パネルや照明のLED化などの省エネ設備の導入促進、小型ペットボトル回収機の設置、リサイクルPET容器の商品開発、持続可能な調達などの取組みを進めております。
そして、本年の5月11日よりエシカルプロジェクトの全国展開、7月1日よりレジ袋無料配布を終了させていただきます。食品ロスやプラスチック製レジ袋の削減は、私たちの商売の根本に関わる「解決すべき重要な社会課題」であると認識しています。このチャレンジを成功させることが、今後セブン‐イレブンが社会と共存共栄していく上で、非常に重要な取組みになると考えております。
「食品ロス削減」「CO2排出量削減」「プラスチック削減」を通じて、環境負荷低減におけるリーディングカンパニーを目指し取組んでまいります”
カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内
私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。
私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。
カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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