観光業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

2003年1月、観光立国宣言により、観光ビジネスは国を挙げた取り組みとなりました。

訪日外国人旅行者数は、2003年当時の521万人から、2019年には3,188万人へと増加(コロナ禍の影響を受ける形で一気に減少するも、2023年には2,507万人にまで増加しています)。

観光(旅行)業の市場規模はインバウンド旅行の需要拡大に伴い、拡大していくことが見込まれる中、業界としてカーボンニュートラル実現の道筋をいかにつくるかが注目されています。

そこで本稿では、観光業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

参考:訪日外国人旅行者数・出国日本人数|観光統計・白書|観光庁
Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

観光業界のカーボンニュートラルの課題:CO2排出量の可視化

宿泊施設を提供するホテルや旅館。移動手段を担う鉄道や航空会社。観光客を招きたい観光地やテーマパーク。そして、これらの旅行素材から旅行商品を企画・販売する旅行会社。

観光ビジネスは様々な業界の企業や自治体との協働によって成り立っており、観光業界の複雑なサプライチェーン全体のCO2排出量を算定することは容易ではありません。

GHG排出の見える化の取り組み事例

東京観光財団×JARTA

公益財団法人東京観光財団と一般社団法人JARTAは、2023年3月27日、共同研究「東京都内と東京を起点とした脱炭素旅の検証」を実施しました。その内容は、観光業界の抱える脱炭素の課題と今後の取り組みの方向性を示しています。

“今回、複数のツールを利用して旅行の移動に係るCO2排出量を算定しましたが、今後は、移動だけではなく、旅行の各項目を一貫して算定できるツールやポータルサイトがあると、より取組が進むと考えられます。

アプリ等を通じて、個人が移動に関するCO2排出量を手軽に確認できる環境が整いつつありますが、今後はインバウンド客の利用も見込み、より使い易くグローバルユーザーにも対応したサービス展開も望まれます。

そして、業界全体で脱炭素を促進するには、ホテルや観光施設等のCO2排出量の算定・公表や、各種国際基準の取得に向けた自治体や観光推進団体による一層の支援も必要であると認識する結果となりました

参考:東京観光財団とJARTAが旅行における「脱炭素」をテーマに共同研究を実施

東武トップツアーズ

東武トップツアーズでは、2023年11月1日、脱炭素社会の実現に向けて、 サプライチェーンのCO2排出量を手間とコストをかけずに算定できるクラウドサービス「ファストカーボン」の総販売元となる契約を開発・提供元のバックキャストテクノロジー総合研究所と締結しました。

“CO2排出量算定クラウドサービス「ファストカーボン」は、どの企業にも存在する会計帳簿のデータをもとに、国際規格に則ったCO2排出量を簡単な操作で可視化することを可能にしたもので、「一刻も早く脱炭素の入り口に立ち、可視化の先にある排出量削減に限られた経営資源を投入したい」という、最新の企業ニーズに応えられるサービスです。取組みが進むにつれ高額の費用が発生するケースがあるサービスでなく、追加費用が原則かからず、自己完結できるツールとしても注目されます。

当社は、今後、総販売元として、大手企業に限らずあらゆる事業者がCO2排出量の削減に取り組めるよう同サービスの普及に努め、カーボンニュートラルの実現に向け、広く社会貢献してまいります”

参考:CO2排出量算定クラウドサービス「ファストカーボン」の総販売元契約を締結

観光業界のカーボンニュートラルの課題:サステナビリティ意識の醸成

旅行という機会は、消費者のサステナビリティ意識の醸成を促すための良い機会になり得ます。サステナブルに旅行したいと考える旅行者が増加傾向にある中(※)、その需要に上手く応えることを通じてサステナブルな旅行のスタイルを拡げていくことが期待されています。

※ブッキング・ドットコムが公表する2023年版の「サステナブル・トラベル」に関する調査では、世界の旅行者の76%(日本の旅行者の56%)が「今後1年間において、よりサステナブルに旅行したい」と回答しています。

サステナビリティ意識の醸成の取り組み事例

日本旅行

日本旅行は「松江市脱炭素先行地域推進協議会 カーボンニュートラル観光タスクフォース」に参画し、大気中のCO₂を吸収する海の生態系として注目される「ブルーカーボン」を活用した新しいカーボン・オフセット付き旅行商品を2023年12月15日より発売しています。

“この度、中国電力株式会社が保有するJブルークレジット🄬を「Carbon‐Zero」商品に活用します。Jブルークレジット🄬は、島根県松江市の島根原子力発電所3号機人工リーフ(浅瀬)の藻場で吸収されたCO₂がJブルークレジットの審査で認証されたものです。個人旅行を通じて、海の豊かさを取り戻しながら、海の生態系が吸収・固定するCO₂を増やし、温暖化対策に貢献することができます”

参考:日本初のJブルークレジットⓇ付個人型旅行商品を発売

JTB

JTBでは、サステナビリティに価値を感じるお客様の選択肢の拡大(旅行商品の企画開発)に取り組んでいます。

      • 北海道旅行
        地域の文化や自然を尊重し、環境への負荷を軽減しながら、アクティビティや異文化体験ができるアドベンチャートラベルやエコカップ持参で特典が受けられる「エコカップでトリップ」といったサービスを提供。
         
      • CO2ゼロ旅行®
        グリーン電力をつくるための費用や再生可能エネルギーの電力自給率向上につながる費用を旅行費用に+αすることで、CO2削減に貢献できるオプションを提供。

参考:JTBサステナビリティレポート2023(P26)

HIS

HISでは、サステナビリティを考える団体旅行(サステナブルな取り組みを推進している航空会社、ホテル、訪問先を組み込んだ旅行プラン)のひとつとして「シン・社員旅行」を提案しています。

“世界各国や日本各地を 訪問していただくことで、地域に内包する課題に触れ、 考えるきっかけを作る。私共は旅の中に積極的にSDGsを取り入れた「シン・社員旅行」を提案します”

参考:HISが提案するサステナブルな「シン・社員旅行|」HIS 法人・企業・官公庁・教育機関向けサービスサイト

KNT-CTホールディングス

KNT-CTホールディングスグループでは「誰もが旅を楽しめる社会の実現」を目指し、多様な旅を創る活動をグループ横断的に推進するブランド「Blue Planet」をスタートしました。

“Blue PlanetはSDGsに貢献できる様々な取組みを推奨するため、ホテルや旅館の方々と一緒に作成したプランの数々をご紹介します。Blue Planetでしか予約できないプランも多数揃えました。すべてのお客様の「旅したい」という思いに応えつつ、持続可能な社会の発展に貢献してまいります。これからのスタンダードになり得る「エシカルな旅」をしてみませんか”

参考:【全国】地域の特色を活かしたサステナブル・エシカルな特別プラン 高級旅館・高級ホテル「Blue Planet」|近畿日本ツーリスト

星野リゾート

星のリゾートでは、連泊が環境によい事実をデータを交えながら丁寧に伝えています。連泊には、環境によい(Co2の排出量を減らすことができる)側面だけでなく、旅そのものが豊かになる側面もあるということが、しっかりと伝わってきます。

“多彩なアクティビティに参加したり、ローカルの食堂に足を伸ばしてみる。数日にわたって滞在することで、その土地での楽しみや理解はグッと深くなります。星野リゾートでは、旅先で過ごす時間を充実させ、その土地をより深く体感できるよう、「連泊」での滞在をおすすめしてきました。どうしても移動の割合が大きくなってしまう1泊2日とくらべ、連泊は旅を豊かにする有効な手段だと考えているからです”

“連泊の顧客満足度を調査したところ、1泊2日よりも2泊以上の連泊をするお客様の方が、満足度が高いことがわかりました。旅先での滞在時間が長くなり、ホテルを拠点にした周辺観光やアクティビティ、ホテル以外の飲食店を利用する機会が増えるなど、旅の充実度が上がったのだと考えています。つまり連泊はお客様の満足度を高めながら、CO2排出量の削減にも貢献できる脱炭素に向けた有効な手段だったのです”

参考:脱炭素 – 連泊が環境によい、という事実|勝手にSDGs|星野リゾート【公式】

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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