地域と共に未来を創るゼロカーボン印刷工場(アドヴォネクスト)

企業名:株式会社アドヴォネクスト
業界業種:印刷業
事業内容:販売促進におけるコンサルティング業務、印刷物業務及び付帯サービス、ホームページ及びコンテンツの制作、データ入力・加工・出力及び付帯サービス

私たちプロジェクトデザインが制作したカードゲーム「2050カーボンニュートラル」のカードキットについて、2024年11月開催の公認ファシリテーター養成講座から、温室効果ガスの直接的・間接的な排出が実質ゼロで稼働する「ゼロカーボン印刷工場」である株式会社アドヴォネクストで印刷したものを使用します。

このカードゲームを通して、カーボンニュートラルに関する正しい知識を得て、カーボンニュートラルに少しでも貢献したい。そのような想いから、ゲームキットの印刷・製作においてもCO2削減と森林資源の活用に貢献するため、ゼロカーボン印刷工場に依頼しました。

本稿では、株式会社アドヴォネクストがゼロカーボン印刷を導入された想いや導入に至るまでの経緯を、井上社長にインタビューした内容をご紹介します。

<お話を伺った方>

株式会社アドヴォネクスト 代表取締役 井上 雅博さん

<企業プロフィール>

明治41年(1908年)井上印刷所として創業し、2024年に117年となる歴史ある企業。2009年に現在の社名に変更した。「私たちは知識を生産し、お客様企業の繁栄のための要望に応え、全従業員の物心両面の幸福を実現し、社会の活性化に貢献していきます」を企業理念とする。印刷の歴史とともに時代を先取りする経営を続けてきた。現在は紙にこだわらないIT技術でお客様の要望に応え、長い経験と歴史で培った信用とそれを支える人の和を大切にしながら、新しい文化の創造に貢献している。2011年には、農業法人たとみ農園株式会社を創業。環境にやさしい農業に取り組みながら、水稲をメインに県内の米穀会社と連携して生産している。

カーボンニュートラルへの取り組みを体現するためゼロカーボン印刷会社にカード印刷を依頼

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。

私たちプロジェクトデザインは、カーボンニュートラルへの取り組みを体現するため、ゲームで使うカードの印刷をゼロカーボン印刷工場に依頼することにしました。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の公認ファシリテーターは、組織としてカーボンニュートラルの推進に関わっている方や、カーボンニュートラルに対する個人的な想いを持って活動されている方が多くいらっしゃいます。そのため、カーボンニュートラルのコンセプトに合ったカードを使っていただくことは、公認ファシリテーターの皆さんの価値観や行動に沿ったものになり、意義のあることと考えています。

持続可能な企業運営を目指してゼロカーボンとSDGsに取り組む

ー印刷工場をゼロカーボン印刷に切り替えた背景を教えてもらえますか。

井上様:弊社のゼロカーボン印刷への移行は、地域社会や環境に対する責任感から始めたものです。この責任感は、江戸時代の思想家・石田梅岩の「先義後利」という考え方に基づいており、まずは義を果たすことで、利益は後からついてくるという信念です。

2000年代初めに「カーボンオフセット(温室効果ガスの排出量を削減する取り組み)」という概念が広がり始めた頃、紙を多く使用する私たちは、木の伐採による環境への影響を懸念するようになったのです。そのため、弊社で使用する印刷物の原料となる紙を、自分たちで育てた一年草や多年草から作ることを試みました。

この取り組みが、カーボンニュートラルへの第一歩となったのでした。

また、弊社は2022 年に⼭梨県が定める「やまなしSDGs登録制度」第1期推進企業として登録されました。環境印刷と農業で持続可能な社会を⽬指し、SDGsの取り組みを進めています。

SDGsの取り組みとして、2011年には、地域のイラストを描いて地域を元気にする一般社団法人「マーチング委員会」を創設。2021年から、SDGs17の目標(パートナーシップで目標を達成しよう)に基づいた活動として、「やまなしSDGsカフェ」を作り、地域を元気にするための活動を開始しました。

ゼロカーボンの実現には、経済活動と社会活動のバランスが必要です。以前はゼロカーボンの実現には、コストアップが避けられないと感じていましたが、SDGsの考え方に沿った取り組みを進めることで、持続可能な企業運営を目指しています。今後も、社会に浸透させるために先導していきたいと考えています。

山梨県のクレジットでオフセット・再エネ電力への切り替えでゼロカーボンを達成

ーゼロカーボン印刷に切り替えるにあたり、実施されたことは何ですか。

井上様:ゼロカーボン印刷は、環境省が推進するカーボンニュートラルの指標、Scope1(企業が自社の活動で排出する温室効果ガスの量)・Scope2(企業がエネルギーを使うことで間接的に排出する温室効果ガスの量)・Scope3(自社以外のサプライチェーンにおける温室効果ガスの排出量)に対して具体的な対応を行うことを指します。

弊社は、Scope1とScope2は達成済みです。社内で使用する電力は自然由来の再生可能エネルギーに切り替え、節電のためスマートメーターを導入しました。照明器具は全てLED化しています。また、山梨県が豊かな森を活用し、CO2の吸収量をオフセット・クレジット(J-VER)制度によりクレジット化したものを購入して、営業車のガソリン消費をオフセットしています。

参考:山梨県 県有林活用温暖化対策プロジェクトの推進 ~カーボン・オフセットの取り組み~

ゼロカーボン印刷への取り組み(株式会社アドヴォネクスト×たとみ農園株式会社のHPより)

顧客と社員の共感を得るためにSDGsに沿って取り組みを進めた

ーゼロカーボン印刷工場にするにあたって、リスクと捉えていらっしゃることはありましたか。

井上様:ゼロカーボン印刷の導入に伴うコスト増加は避けられません。そのため、価格の上昇だけでなく、環境に配慮した選択を求める顧客がどの程度いるかが分からないことがリスクでした。また、社員がゼロカーボン印刷の意義を理解し、社員の協力が得られるかどうかが分かりませんでした。

しかしながら、企業の成長を売り上げや利益だけで測るのではなく、持続可能な成長を目指す時代に変わりつつあると感じており、その変革を共有できる仲間を増やすことが成功の鍵だと考えています。

ー実際にゼロカーボン印刷を推進される中で、どのようなことをされたのですか。

井上様:まず、SDGsを社内に導入する際、私がカードゲーム「2030SDGs」公認ファシリテーターの資格を取得し、具体的な目標設定やSDGsに関する取り組みを進めました。しかし、実際の社内の状況と私の進め方にギャップが生じ、社員の中には戸惑いや違和感を覚える人がいたようです。

SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を実現するためには、全員参加の企業文化を作り上げることが重要です。そのため毎月の経営計画会議で、SDGsの重要性や新しい需要に応える必要性を説明し続けました。また、社員との対話の時間をつくることや評価制度の見直しなど、全員で取り組む姿勢を強調しました。

これらの取り組みを通じて社員の協力を得られたことで、ゼロカーボン印刷の導入を進めることができたと思っています。

ーゼロカーボン印刷の取り組みを進めたことで、会社としてどのようなメリットや変化がありましたか。

井上様:新たな取り組みを行えるようになりました。

山梨県が主催する「やまなし脱炭素経営セミナー」に社員が参加し、その中でCO2の排出量の算出方法を学びました。講座を通じて得た知識を活用し、自社の排出量の測定や地域の金融機関と連携してサステナビリティ報告書作成の提案などを行っています。

ただし、特定の印刷物に対してゼロカーボンを保証する場合は、個別に排出量を計算する必要があります。大手企業ではカーボンフットプリントの詳細な計算を求められるケースが増えているため、弊社でもそうした計算方法をしっかりと習得する必要があると感じています。

こうした取り組みは、今すぐ仕事に直結するわけではないものの、共感くださる顧客も増えています。営業方針の一環として重要であり、今後も継続して進めていきたいと考えています。

社内報 Smile Vol.65

持続可能な社会に向けて会社と個人を変革し続ける

ーゼロカーボン印刷工場になった現在、新たに取り組まれていることはありますか。

井上様:ゼロカーボン印刷工場という意味では達成されていますが、事業活動全体で見た時には、まだ完全なゼロカーボンには至っていません。完全なゼロカーボンにするためには、原材料の調達から印刷物の配送までのサプライチェーン(Scope3)がゼロカーボンである必要があります。そのため、完全なゼロカーボンを求められるお客様には、地産地消のクレジットを活用して、ゼロカーボンを達成した工場で生産されていることを説明しています。

さらに、私たちは印刷業と並行して、たとみ農園での農業も行っています。日本では、農業活動のクレジット化が進められており、私たちも稲作の過程でCO2やメタンなどの温室効果ガスの抑制を行っています。例えば、土用干し(夏の土用に田んぼの水を抜き、稲が植えてある地面を乾かすこと)の期間を延長することで土地に温室効果ガス(メタン)を貯留し、それをクレジット化しています。クレジットの売買を通じて、会社全体をカーボンニュートラルに近づける努力を続けています。

たとみ農園で働くメンバーとそのご家族

ー今後の展望として、どのようなことをお考えですか。

井上様:私は、34歳で社長に就任し、デジタル化の時代に会社を引き継ぎ、印刷業界の変革を推進してきました。私の人生理念は、「和の実学」を提唱する大和信春先生の影響を受け、「和道の伝道師」として、持続可能で幸せな社会を築くことにあります。

「和道」は、誰かに勝つことが生存の条件とされる競争社会ではなく、全員が幸せに生きるための共存社会を目指しています。SDGsやウェルビーイングの概念も、この理想に合致しています。

ポジティブシンキングや幸せ学からも学び、「成功するから幸せになるのではなく、幸せであるからこそ成功する」という考え方を大切にしています。持続可能な社会を実現するためには、個々人が幸せであることが必要であり、誰かに勝つことを目的とする社会ではなく、他者の考えを受け入れ、自分の意見を表明できる社会が重要だと考えています。

世界の平和と個人の幸福は切り離せないので、私自身もリスキリングを続けながら、意味のある商品やサービスを提供し、持続可能な社会を築くことを目指しています。

ーありがとうございました。アドヴォネクスト様のように社会全体のことを考えて、地域に根ざした事業を行う企業が日本中に広がるといいですね。インタビューをさせていただき、あらためて御社にカード印刷をご依頼して良かったと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。

ご案内

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

ゲームでは、参加者が1つの組織のメンバーとして1~4人のチームを組み、 他のチームと様々な交渉を行いながら、組織の活動とプライベートの活動を行います。ある組織では獲得資金を増やすことを目指し経済活動を行っていきます。また、ある組織では排出削減量の目標に向かって環境活動を行っていきます。

こうした活動を通じて組織の目標達成を目指すプロセスにおいて、私たちの世の中のカーボンの状態がどのようになっていくのかをシミュレーション(模擬実験)します。

このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。

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