【実施レポート】慶應義塾大学 安宅研究室でカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を実施

“カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の体験は、「様々な要素とプレーヤーが絡み合う世界のダイナミクスと生々しさ、参加者が協同してサバイブしつつ、未来を創る」そんなことをハンズオンで学べる得難い機会”

2024年5月30日、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスにある環境情報学部 安宅研究室で、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」体験会を開催しました。

環境情報学部の安宅和人教授(以下、安宅教授)は、『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』や『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』の著者でもあります。

今回、安宅研究室にゲストスピーカーとしてプロジェクトデザイン代表取締役の福井信英をお招きいただいたことで実現したこの機会。冒頭のコメントのように、安宅教授にカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を高く評価いただきました。

本稿では、安宅研究室の12名の学生(以下、ゼミ生)が参加した体験会の様子をお伝えします。

 

組織名:慶應義塾大学 環境情報学部 安宅研究室
所属人数:約20名

安宅和人さん

<プロフィール>
慶應義塾大学 環境情報学部教授
マッキンゼーにて11年間、幅広い商品・事業開発、ブランド再生に携わった後、 2008年からヤフー、2012年より10年間CSOを務め、2022年よりZホールディングス (現LINEヤフー株式会社)シニアストラテジスト(現兼務)。2016年より慶應義塾SFCで教え、2018年秋より現職。データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。一般社団法人 残すに値する未来 代表。科学技術及びデータ×AIに関する公的検討に多く携わる。イェール大学脳神経科学PhD。

安宅研究室の取り組み

安宅研究室は、安宅教授が企画するプロジェクトに学生が取り組む場所です。

プロジェクトの1つ「風の谷を創る」では、都市集中型社会に対するオルタナティブ(新たな選択肢)をテクノロジーの力を使って実現する研究を行っています。また、個別テーマに取り組む学生も多く、研究は広範囲にわたります。

参考:安宅研究室|研究室紹介

開催の経緯

安宅研究室では年に数回、外部からゲストスピーカーを招いています。

今回は、以前より親交のあったプロジェクトデザイン代表取締役の福井がゼミ生の投票で選ばれ、ゲストスピーカーとして招聘されました。

福井は2019年にも同研究室のゼミ合宿でカードゲーム「SDGs de 地方創生」を実施しており、今回は新作のカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を紹介しました。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」とは

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、カーボンニュートラルについての理解を進め、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づくことができます。

このゲームでは、会場全体が1つの「日本」に見立てられます。商社や政府、電力会社など12のチームに分かれたプレイヤーたちが、各々のチームの事業目標達成や2050年のカーボンニュートラルの実現を目指して行動します。

行動できるのは4ターン。各チームは、①企業・組織と、②個人・市民としての2つのアクションを各ターンごとに実行します。アクションが引き起こす社会情勢の変化は現実世界を模したものです。

ゲームロジックには実際のビジネスや社会活動など現実世界の仕組みを反映させており、ゲームを楽しみながら現実で起こり得ることを疑似体験できます。

さらにカードゲームは「環境意識の高低にかかわらず、みんなが対等に存在を認め合い対等に対話できるツール」でもあります。成功も失敗もリスクなく楽しみながら体験でき、どちらの体験からでも学びや気づきを得られる有用性があります。

体験会の内容

はじめに

当日はプロジェクトデザインから福井とともに、 カードゲーム「2050カーボンニュートラル」のブランドマネージャーである竹田法信がファシリテーターとして同行しました。

竹田より、カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量と吸収量が同じ状態であることや、ゲームを制作した背景を紹介しました。

カーボンニュートラルやゲーム制作の背景を紹介

ゲーム体験

続いて、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」のルールを説明してゲームが開始。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」では、温室効果ガスの排出量が11という設定でスタートします。ここから、4ターン(ゲームでは20年)でカーボンニュートラルの状態になることを目指します。

今回の体験会では、第1ターン終了時に排出量を7に減らし、第2ターン終了時に排出量を4に削減、市場のGDP(経済成長)は増加する良い流れになりました。

しかし第3ターンで、「このままでは資金獲得のゴールを達成できない」と排出量を増加させて資金を獲得するチームが続出。その結果、第3ターン終了時に排出量は7に増えてしまいました。

カーボンマップのマグネットを移動

最終ターンである第4ターン終了時には、政府チームが全チームから炭素税を徴収。そのために多くのチームがゴール達成に必要な資金が足りなくなり、ゴールを達成できたのは自動車メーカーと電力会社の2チームとなりました。

ゲームの最終結果は、排出量と吸収量のマグネットが同じ4となり、カーボンニュートラルを達成。また、経済的な指標であるGDPは、ゲーム開始時の60,000Mから84,000Mに成長。よって、経済成長とカーボンニュートラルを両立することができました。

ゲーム終了時には、排出量と吸収量が同数になり、カーボンニュートラルを達成
市場のGDPは増えたものの、資金がゲーム開始時より減ったチームもあった

参加者のふり返り

体験会終了後は、グループでふり返りをし、発表していただきました。

<参加者のふり返り内容(抜粋)>

チーム:住宅メーカー
目標金額を達成できなかったのは、他の企業との連携があまりできていなかったからではないかと考える。経済は他の企業との連携でも回っていくので、もっと連携が必要だと思った。
(かれんさん)

チーム:商社
商社チームのゴールを達成するためには、4,000Mから15,000Mにまで増やさなければならなかったので、多少環境負荷をかけてでも、どこかで儲けなくてはならないと感じた。実際、かなり儲かったものの、環境負荷が複利的に与える影響は大きかった。そのため、致し方なく事業界の利益を優先する厳しい決断をせざるを得なかった。環境に悪影響を及ぼすことをすると(社会に貢献する計画があっても)糾弾され、その後に社会の役に立つことをしても、なかなか感謝されないものだと感じた。
(たなけんさん)

チーム:政府
みんながうまくいくように動いた結果、経済性と環境保全を交互に意識したが、経済的な損失の担保を環境負荷とトレードオフすると、環境負荷を回収できない経済損失が生まれた。現実でもトレードオフの比率が同じであれば、交互ではなくて同時に回す必要がある。環境を優先して一部の企業に経済損失を強いるなら、再分配して収益の高いところから取るべきだった。
(ぐんぐんさん)

チーム:アパレルメーカー
環境に優しい行動だとしても資金のリターンは強くあるだろうと思って、「環境に優しい洋服作り」に6,000Mを投下したが、結果的に赤字となった。今の時代においては、環境に投資すればそれなりのリターンがあるだろうというバイアス(先入観)があった。
(ゆうとさん)

チーム:金融
環境や国全体のためには、お金以外の目標をモチベーションにした金融になるか、恩恵を受けた企業から後で多めにリターンをもらうなど、他プレイヤーの良心に頼る金融になるしかなかった。現実では後者は難しいので、適切なリターンが入るようなルールの必要性を感じた。ゲーム全体については、最初にどこに重点を置くのかを全員で確認すればよかった。
(ななさん)

これを受けて、安宅教授からは「いかにさまざまな要素が絡み合っているかを体験できるゲームで、貴重な機会でした」と講評をいただきました。

続いて、安宅教授より、土壌からの炭素排出の増加や地下水の枯渇の恐れ、アパレル業界がリセールを主とするようになる可能性など、カーボンニュートラルに関する講義がありました。

体験会の様子

他の人がどんなカードを持っているのか見に回っている様子
どのアクションカードを実行するのが良いか相談
ファシリテーターに実行するカードを渡す様子

体験会参加者の声

“NPOの役割を通して感じたことは、即座に実感できるリターンがあまりないということです。全てを俯瞰した行動をし、相手の立場を理解した上で、自治体や企業に地道に声かけをしていくことでリターンややりがいを実感ができると気付かされました。役割になりきれて現実と照らし合わせながらゲームを体験できたことが面白かったです”

“ゲームを通して、カーボンニュートラル実現における、いろいろな利害関係を考えることができました。持続可能なエコノミクス体制を整えることが、長期的に活動を続けるために大切だと実感しました。自分ごととして考えられた貴重な機会でした”

“ステークホルダーとしての役割が与えられたことで、各アクションが他業界においてどのような影響を持つのかを多面的に考えられました。今回は実社会を切り分けるものとしては大きな分類だったかと思いますが、自分で視座を調節しながら意味合いを多角的に捉えられるよう精進します”

“ゲームではIT事業者を担当し、環境活動とビジネスの両立の難しさを感じることができました。また、ゲームのゴール条件を達成できなかったので、どうすればより良くできたかを考える機会がありました。この過程で、社会の構造がさまざまなところで繋がりあっていることや、リスクヘッジの大切さなどを学びました。楽しみながら実社会を理解できるこの体験は、とても有意義でした。機会があれば、またこのゲームをやりたいです”

“非常に楽しく学びのある時間になりました。具体的にはゲームにおいて再現されている、経済的に成長しつつ環境負荷を抑え、カーボンニュートラルを実現するというジレンマとどう向き合うかが難しかった部分でした。現実に起こっている問題を楽しく考えながらゲームで学んでいく手法はどの教育の段階においても非常に有効なものだと感じました”

“ゲームが進めば進むほど、教育的価値と楽しさのバランスが絶妙に取れていることに驚かされました。現実世界でも多くの人が自分のポジショントークをしてしまう中で、このような「他の人の立場になりきって脱炭素に向き合える」機会は本当に貴重でした”

“SDGsやカーボンニュートラルに対して当事者意識を促すプロダクトやイベントは世の中に溢れるほどありますが、「地球環境や経済に対する人間の取り組みの全体感を捉えながら、かつ個人(与えられた役割)起点で、何ができるかを本気で考える」という営みをこれほど短時間に・濃く体験できたのは初めてでした。複雑な事象に対峙したときに、全体の構造を捉えながら問題解決の本質は何であるかと考えぬく胆力を鍛えていきたいと思います”

ファシリテーターのコメント

参加されたゼミ生の皆さんが、自らの意思に基づき主体的に行動されていた姿がとても印象的な場でした。

ゲーム展開としては、中盤を終えたところで経済成長と脱炭素が促進している理想的な展開。これは、安宅研究室の中で学び、活動している中で、経済と環境に関してバランス良く捉え、解決策を探し求めている姿勢が良い形で出たものと感じています。

一方、後半戦は各々のゴールに引っ張られる展開となりました。前半は一旦は自分のゴールを脇に置き、全体最適を考えていましたが、後半は各自が「個別のゴールも達成するとしたら、どのような動きができるだろうか」というトライを “あえて” された結果だと思います。

全体を俯瞰し最適解を見つける姿勢と、誰もが最適解を選べるわけでもない中で、効果的に周囲に働きかけるにはどのような動きやメッセージを発していくべきか。今回のゲーム体験を通じ、それらの気付きや学びを得て、行っている研究や取り組みを深めるきっかけにしていただけると、心から嬉しく思います。

株式会社プロジェクトデザイン
代表取締役 福井 信英

慶應義塾大学の安宅研究室でカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を実施させていただいたことは、本当に誇りです。

ゲーム体験後のふり返りで多く出た意見の中に、「企業努力で環境優先シナリオを辿った結果、売上がついてこなかった。どうすれば良かったのだろうか?」という声がありました。

ゲームにおいては、企業の動きに顧客が歩調を合わせて呼応することで、その顧客から企業に売上がもたらされます。そうならば、企業はその顧客をどうやって発掘してニーズを拾っていくかが重要ですし、顧客からも企業に環境対応を働きかけていくこともできます。

安宅研究室の皆さんにとって、今回のゲーム体験の記憶が後味として長く残り、今後の研究活動に活かされていくこととなれば嬉しいです!

ビジネスパーソンの方々にとっては、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、カーボンニュートラルに関する共通体験から環境意識を高め、気候変動への対応をビジネスチャンスと捉えた具体的な行動をしていくためのツールとして活用できます。是非一度、ご体験ください!

株式会社プロジェクトデザインカードゲーム
「2050カーボンニュートラル」ブランドマネージャー
竹田 法信

ご案内

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

ゲームでは、参加者が1つの組織のメンバーとして1〜4人のチームを組み、 他のチームと様々な交渉を行いながら、組織の活動とプライベートの活動を行います。ある組織では獲得資金を増やすことを目指し経済活動を行っていきます。また、ある組織では排出削減量の目標に向かって環境活動を行っていきます。

こうした活動を通じて組織の目標達成を目指すプロセスにおいて、私たちの世の中のカーボンの状態がどのようになっていくのかをシミュレーション(模擬実験)します。

このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。

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