カードゲーム「2050カーボンニュートラル」開発ストーリー
私たちプロジェクトデザインは、人と組織の課題(採用や人材育成など)や社会の課題(SDGsやカーボンニュートラルなど)をビジネスゲームで解決する会社です。
2010年の創業以来、100種類を超えるビジネスゲームを開発してきました。ビジネスゲームとは、仕事や現実の世界で求められるエッセンス(考え方や行動)を抽出し、繰り返しトレーニングできるように、シミュレーションゲームとして表現したものです。
このビジネスゲームは、基本的にオーダーメイドで制作します。オーダーメイドと言えば、注文住宅を想像すると分かりやすいかもしれません。依頼主が作りたい家のイメージを具現化するように、ビジネスゲームでも依頼主の実現したいゴールイメージに沿って開発を進めていきます。
本稿では、ビジネスゲームの開発担当者インタビューを通じて、ビジネスゲームがどのように開発されているのかをご紹介します。
今回お届けするのは「2050 カーボンニュートラル」です。
開発担当者プロフィール
竹島 雄弥(たけしま ゆうや)
富山県立富山中部高等学校を卒業し、東京大学に入学。農学部の環境資源科学過程の1つである生物・環境工学専修を卒業(幼少期に読んだ手塚治虫の漫画に触発されて環境問題を専攻)。大学では経済学や国際政治学の講義も受講し、多方面からの視点を持つことで、環境問題の解決には小さな努力を広く多く積み重ねることが必要だと考えるようになった。プロジェクトデザインではビジネスゲーム制作におけるロジック開発・システム化、社内システムの管理を中心に担当。
ビジネスゲームの制作工程とは?
-始めに、ビジネスゲームの制作工程について教えていただけますか?
ビジネスゲームはオーダーメイド(受注生産)です。まずはクライアント(依頼主)の依頼を受け、解決したい課題をお伺いすることから始まります。
次に、弊社の内部でクライアントの事業や外部環境(社会全体)の状態を考えながら、なぜその課題が発生しているのか、どうすれば課題を解決することができるのかを検討し、解決策の仮説を立てます。そして、課題が発生する仕組みとその解決策をシミュレーションした、ビジネスゲームの根本的な作りとビジネスゲーム体験後に想定される学習効果をクライアントに提案書としてお出しします。この提案書の合意が出来たタイミングで、本格的にビジネスゲームの制作がスタートします。
ビジネスゲームの制作では、ゲームの世界の中に、いかに現実の社会や事業(ビジネス)をリアルに再現するかが重要です。
リアルを追求し過ぎると複雑で分かりづらいゲームになってしまいます。ビジネスゲームの良さは難しい課題にも取り組みやすくするゲーム性にあるので、できるだけシンプルなゲームにする必要があります。しかし、だからといって、シンプルにし過ぎてリアルさを蔑ろにしてしまうと、今度は学習効果が損なわれてしまいます。
ゲームとしては楽しかったけど肝心の学びが得られないのは不味いですよね。
ゆえに、ゲーム性と学習効果のバランスを取ることを意識しながら、ゲームロジック(ゲームのルールや計算式、ゲームで使用するカードの内容など)を作りこんでいきます。そして、プロトタイプのテストプレイとロジックのブラッシュアップを数回繰り返してビジネスゲームは完成します。
制作期間は平均3~4ヶ月かかります。
「2050 カーボンニュートラル」の開発ストーリー
-ここからは「2050カーボンニュートラル」についてお聞きします。このゲームは誰の依頼で制作されたのでしょうか?
「2050 カーボンニュートラル」は社内企画です。つまり、依頼主は自分たち自身です。私たちプロジェクトデザインでは、2016年3月にSDGsの本質を学ぶゲームである「2030SDGs」を一般社団法人イマココラボとの協働開発して以来、様々なSDGsのゲーム制作に携わってきました。
電通が毎年1~2月に実施している「SDGsに関する生活者調査」でも第5回調査(2022年1月)においてSDGsの認知率が86%に達しているように、日本におけるSDGsに関する認知度は世界の国の中でも飛び抜けて高く認知されている状況があり、事実、日本全国でSDGsに関する取り組みがなされるようになっていますが、SDGsゲームを通じた私たちの貢献も少なからずあったと感じています。
ゲームを通じた社会課題の理解と解決に向けた取り組みを促進できることを確認した私たちは、「次なる世界が、そして日本が向き合うべき社会課題は何か?」という問いを立て、カーボンニュートラルというテーマが相応しいという考えに至りました。
-なるほどですね。ちなみに、カーボンニュートラルについて学ぶゲームはすでに存在すると思うのですが、今回制作したゲームの特徴はどんな点にありますか?
確かに、私たちプロジェクトデザイン以外の会社でも、カーボンニュートラルに関するゲームやアクティビティを販売している会社が複数存在します。
その中で「2050カーボンニュートラル」の大きな差別化ポイントは、カーボンニュートラルを肌で知ることができる点にあります。単にカーボンニュートラルという用語の意味を知るだけではなくて、カーボンニュートラルがなぜ必要なのかということを実社会や自分自身の生活と関連付けて分かるようになる。
それが「2050カーボンニュートラル」の特徴です。
-「2050カーボンニュートラル」の開発で苦労されたことはありますか?
カーボンニュートラルについて学ぶゲームを作る。この目的についての社内合意はあったのですが、ゲーム性と学習効果のバランスをどう取るのかについての議論・合意形成にかなり苦労しました。
開発当初はゲーム性(シンプルで分かりやすいゲーム)を重視して、二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスを取ることを学ぶをゲームを作ろうという話になりました。
確かに、カーボンニュートラルという用語の説明だけを目的とするならば、それだけで十分ですし、シンプルで分かりやすいゲームになります。
ですが、カーボンニュートラルに限った話ではありませんが、環境問題や社会課題は、その解決そのものに価値があるのではありません。環境問題を解決して新しいビジネススタイルやライフスタイルに移行していくことで、今までよりもより良い暮らしが実現できる。だからこそ、課題解決に取り組む意味があるんです。
私はこの考えを実現するために、二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスを取ることを学ぶだけではなくて、カーボンニュートラルと社会全体が密接に関わっていることを学ぶゲームを作ることにこだわりました。
このこだわりが最も強く現れており、「2050カーボンニュートラル」の独自性になっているのが、カーボンが社会全体を巡回していることを図で表現した「カーボン・マップ」です。
「カーボンと社会全体」を説明するために、
- 人間社会に貯蔵されているエネルギー資源(ストック)
- 消費による二酸化炭素の排出(フロー)
- 温室効果ガスの蓄積(ストック)
- 自然環境による二酸化炭素の吸収(フロー)
- 森林への固定と蓄積(ストック)
- 人間社会への活用(フロー)
- 再び人間社会への貯蔵(ストック、最初に戻る)
という循環(サークル)構造として表現しています。
ただ、このようにすることでゲームが複雑になる側面がある点は否めず、ゲームのシンプルさを求める上司との意見との対立が生まれ、この対立の解消にかなり苦労しました。
-対立は具体的にどのように解消していったのでしょうか?
一言で表現すると、当事者としての覚悟です。私は大学で環境問題を専攻していて、卒業後もずっと興味を持って学び続けてきました。そんな中、環境問題の1ジャンルであるカーボンニュートラルに仕事で関わることができるのは非常に嬉しかったですし、そのジャンルに詳しいからこそ、妥協せずに傑出した出来栄えのビジネスゲームを開発する責任を感じていました。
その上で、私が考え抜いて出したアイデアが「カーボン・マップ」です。
反対意見を持つ上司と交渉の上、1度だけ私のアイデアでテストプレイを実施して参加者の方々の反応を見てみることになり、その結果、「カーボン・マップ」のアイデアを実装したゲームにおいて、カーボンニュートラルの仕組みと必要性が良くわかったという感想が多数出たため、私のアイデアが正式採用となりました(密かに、自身の進退をかけてテストプレイに臨んでいたので、アイデアが成功に収まって、本当に安堵しました)。
ちなみに、この「カーボン・マップ」のアイデアを実装するということは、簡単なことではありませんでした。だからこそ、上司から反対されたわけですが……。
シンプルなゲーム性を損なわないようにするための議論やゲームロジックの調整に、通常の制作期間の倍、8ヶ月ほどかかってしまいました。ただ、それだけの苦労に見合うだけの仕上がりにはなっていると自負しています。
-最後の質問です。ご自身の進退を賭けて生まれた「2050カーボンニュートラル」はどんな人や組織にプレイしてもらいたいですか?
やはり、カーボンニュートラルについて肌感覚で知りたいという方に体験していただきたいですね。なぜカーボンニュートラルが必要なのか、カーボンニュートラルを達成するためにはどうすればいいのか。そうしたことを理論的に学ぶよりも、実体験として身につけてもらいたいと思っています。
また、「2050カーボンニュートラル」は全てのプレイヤーが積極的に参加しないとクリアが難しいゲームになっています。これは現実世界でも同じですし、他の社会課題に共通することでもあります。
普通は「1人でできることはたかが知れている(だから自分が行動する意味がない)」と思いがちですが、ゲーム体験を通じて「自分が行動することで世界が少しは変わる。より大勢で行動すれば、もっと世界は変わる」と捉えられるようになっていただきたいです。
自分の意思・信念・価値観に基づき、力強く行動を起こすことが非常に重要で、そのタフな動きを続けていると必ず協力や応援を送ってくれる人が出てきます。これは「2050カーボンニュートラル」のゲーム中で発生する出来事であり、そして、現実社会でも同じなのだと伝わってほしいです。
-ありがとうございました!
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」とは
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。
ゲームでは、参加者が1つの組織のメンバーとして1~4人のチームを組み、 他のチームと様々な交渉を行いながら、組織の活動とプライベートの活動を行います。ある組織では獲得資金を増やすことを目指し経済活動を行っていきます。また、ある組織では排出削減量の目標に向かって環境活動を行っていきます。
こうした活動を通じて組織の目標達成を目指すプロセスにおいて、わたしたちの世の中のカーボンの状態がどのようになっていくのかをシミュレーション(模擬実験)します。
このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、わたしたちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。
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