【事例インタビュー】再生可能エネルギーを通じたカーボンニュートラル経営の実践者
事業活動にカーボンニュートラルを取り入れる際、大切なのはどのようなことか?
その疑問のヒントを得るために、富山県でバイオマス事業を行う北陸ポートサービス株式会社/株式会社グリーンエネルギー北陸 代表取締役の加治幸大さんにインタビューしました。
本稿では、加治さんのビジョンや環境価値を高めるビジネスに積極的に取り組む背景について、紹介します。
※環境価値…再生可能エネルギー自体の価値に加え、二酸化炭素を放出しない付加価値があること
お話を伺った方
加治 幸大(かじ ゆきひろ)さん
<プロフィール>
祖父が創業した、北陸ポートサービス株式会社の代表取締役。株式会社グリーンエネルギー北陸の代表取締役社長、株式会社グリーンマテリアル北陸の代表取締役社長も兼任する。
北陸ポートサービスは港内での船の清掃・整備事業から、次第に事業範囲を地域で求められる仕事に拡大してきた。3代目の加治さんの代には、富山県内の企業や家庭から出るバイオマスを活用した事業を開始。
事業拡大のために設立したグリーンエネルギー北陸とグリーンマテリアル北陸を含めた3社が連携し、これまで処分されてきた木の皮や木くずなどのバイオマスから土や堆肥を作り、発電事業を行っている。人と地域がより豊かになるために貢献しようと地域資源を循環する仕組みを作り、県内経済の活性化に努めている。
次のフェーズとして、持続可能な明るい未来のための地方創生事業にも挑戦。これまでの事業を礎に、自然との共存を軸としたクリエイティブな体験を提供するエンターテインメント拠点の開発に取り組んでいる。
まだ誰もやっていない、“環境価値の見える化” をやっていきたい
ー加治さんが地域で事業を展開されるにあたり、大切にされている価値観やビジョンを教えてもらえますか。
今や、世界的な規模感で地球環境について語られる時代になり、国としても民間企業としても、環境は切っても切り離せないものになっています。
日本の企業としても世界とビジネスをしないと成り立たなくなってきているため、価値を作れるものは何かと考えた時、誰も開発していないところに可能性を感じました。
地方の企業として、自然環境などの首都圏に無いもの、世界から見て日本が優位に立てること、まだ誰もやっていない土の中などに着目し、事業にしていきたいと思っています。
また、これまでやってきた業務を見える形にしたいと思っています。そうすると、関わる人たちがよりハッピーになるんです。
現在、北陸ポートサービスで行っている “土づくり” も環境価値が目に見えにくいので、きちんと伝えられるものにしていきたいです。そうすれば、農家さんもこの土を使って環境価値のついた農作物を作ることに自信を持て、それを欲しがる人も増えると思います。
私の家系はずっと商売をしてきたのですが、表に立つような事業ではなく、船内清掃作業など “関わる業界の下支え” をしてきました。廃棄物処理もそうで、元々誰もやらないことをやるという、自分の家系のルーツから来ています。
私自身は目立ちたい性格ではないものの、「どれだけ良いことをやっていても、言わないと伝わらないよ」と周りの人に言われたことが心に響き、以降は表に出て、やっていることの発信に努めるようになりました。
北陸ポートサービス株式会社
創業当初からの通船・係留作業、船内清掃作業及び船舶装備作業をはじめ、くん蒸業、自動車運送業、一般廃棄物及び産業廃棄物の処理、土壌改良材及び肥料の製造加工並びに販売、農産物の栽培加工並びに販売、古物売買並びにその委託販売、ガソリンスタンドの経営、土木建築工事請負業など幅広く手がけています。大きく分けて港湾運送関連事業と、「地元の産業活動から発生する副産物を土や堆肥として地元に還す」地域資源循環事業を行っています。
ー“土づくり” で環境価値の見える化をされることにはどんな想いが込められていますか?
“土づくり” は、元々やってきた仕事です。「同業他社に比べて良いものを作りたい」「お客さんのニーズよりもさらに良いものを作りたい」、それが僕らの宿命だと思い、大切にしています。
業界的にリサイクルや廃棄物は土木の延長ですが、土は一般家庭の方や女性に使われることが多く、きれいなイメージを持たれています。そのため、会社も商品を使用される方が持つイメージに近づけていきたいです。
植物は生き物であり、食べものと同じ。そう考えると、発酵させる堆肥づくりは日本酒づくりと似ていると感じています。使う方が土に対してより良いイメージを持てるよう、一緒に作り上げる機会を設けていきたいと思っています。
堆肥の原材料は、木皮や剪定枝・刈草など行政が発注する工事、もしくは民間企業から排出される廃棄物です。廃棄物を起点にして関わる人たちを繋げ、環境価値に対する意識を高めていくことも構想の1つとしています。
北陸ポートサービスの堆肥づくりには1年近くの歳月をかけています。最も時間をかけるのは、破砕した木質チップを発酵させる工程です。空気・水・栄養を与えて微生物による分解を活発化することで、温度は70℃以上になり、雑草の種や病害虫は死滅します。そうしてできた堆肥は土壌改良材として、公園や空港、学校などの公共施設から、個人の庭園や菜園などに使われています。
再生可能エネルギーへ興味を持ってもらえるツールを探していた
ー「カーボンニュートラル ネットワーキング勉強会」を開催しようと思われた理由は何ですか?
グリーンエネルギー北陸の事業で再生可能エネルギーを手掛け、北陸ポートサービスで地域の土づくりに活用している立場として、より多くの人に再生可能エネルギーへの興味を持ってもらいたいと考え、今回の勉強会を企画しました。
そして、カーボンニュートラルに関わる事業者間のネットワークを広げ、新たなビジネスチャンスの創出に繋げる機会にもしたいと思ったのです。再生可能エネルギーについての情報は自分で取りに行く意識が必要なので、そういった意識を参加者の方に持っていただく意図もありました。
例えば、グリーンエネルギー北陸で発電した電力は自社で利用しているほか、電力会社に買い取ってもらって地域に供給されています。しかし、まだまだ環境価値を活かせていないのが現状です。
過去8年間、会社を訪れた多くの方々にバイオマス発電事業について説明してきましたが、この電力の環境価値に賛同して買っていただける方がなかなか見つからなかったという経緯があります。
そのため、勉強会では互いの事業を知り、関心を持ってもらうために「各社からの事業紹介」を行う時間も設けました。実際に勉強会後には参加者同士で交流し、名刺交換などをされた方が多く、ネットワークの構築に繋がったと感じています。
株式会社グリーンエネルギー北陸
主に間伐材を利用した木質バイオマスでの発電事業を行っています。間伐材は燃焼すると石化燃料と同じように二酸化炭素を発生するものの、成長過程で光合成により二酸化炭素を吸収するため、ライフサイクル全体で大気中への二酸化炭素排出量は収支ゼロ(カーボンニュートラル)となります。
株式会社グリーンマテリアル北陸
丸太の購入・チップ製造、立木の購入・山林買付・伐採事業などを通して、森林資源の有効活用と山林内の環境美化に貢献しています。
ー「カーボンニュートラル ネットワーキング勉強会」でカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を導入いただいたのは、なぜですか?
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を行うことで、参加者の間にカーボンニュートラルに関する共通認識と共通言語ができると思ったからです。
グリーンエネルギー北陸で木質バイオマス発電事業を行っていることから、ご縁があって先にプロジェクトデザイン制作のカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を体験していたことも大きかったです。
カードゲームは得られる学びが多く、ゲームを進めるためには他のグループのところに行って話をする必要があります。ゲームを通して初めてお会いする方々とコミュニケーションを取ることが自然にでき、新しい発見があったため、カードゲームの可能性を感じていました。
このことから、カーボンニュートラルの勉強会を行うにあたり、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の実施をプロジェクトデザインに依頼したのです。
横の繋がりができた
ーカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験されていかがでしたか?
とても面白かったので、またやってみたいと思っています。参加された方からも、「会社の会議は堅苦しい話ばかりでコミュニケーションが少ないので、うちの会社でもやってみたい」という感想をもらいました。
また、個人的な繋がりができたのもとても良かったです。今回は県など行政の方にもご参加いただけたので、今後、話をしに行きやすいと感じています。ここからどのように繋げていくかが大切です。
研修内容
- 研修の目的
カーボンニュートラルの理解を深め、環境価値を高めることに積極的な組織の横の繋がりを作ること - 研修受講者
地方自治体、地方銀行、電力会社、メーカー、環境系NPO法人、環境系コンサル、教員など幅広い業種の方、総勢40名 - 研修実施日
2023年5月16日
研修プログラム
導入(30分)
・チェックイン
・自己紹介
・研修の目的共有
・講義(カーボンニュートラルとは)ゲーム体験(95分)
・ルール説明
・ゲーム実施ワーク(35分)
・対話(ゲーム体験を振り返る)
・講義(カーボンニュートラルの実現に向けての考え方)各社からの事業発表(40分)
・発表を希望された組織8社ネットワーキング(名刺交換会)(10分)
懇親会(希望者のみ別会場にてご参加)
ゲーム体験の様子
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」では、1チーム3~4人の12チームに分かれ、チームごとにどのプロジェクトカードを実行するか相談します。様々な業種の方が参加され初対面の人も多かったものの、ゲームを通じてコミュニケーションが活発に行われました。
参加者の感想
“カーボンニュートラルを楽しく知ることができました。自分の視点が狭かったなと感じ、もっと大局的に考えられたら良かったと勉強になりました”
“カーボンニュートラルをゲーム感覚で学ぶことができた。カーボンニュートラルと経済、社会とのつながりがよくできたゲームでした”
“様々な職種の方々の環境問題に対する取り組み・意見を聞けた。他業界の方とも意見交換ができ、非常に有意義であった”
“ゲームを通して、経済と環境の両方を意識する必要性を理解できた”
“カーボンニュートラルのサイクルを回していくには、企業の取り組みだけでは達成できないと思った。スパイラルを生み出していくことが大事”
“自分のことだけを考えるのでなく、社会全体のことを考えて取り組まなければ大きな目標は達成できないと、改めて実感しました”
“ゲームで深く考えることができた。何をするにも目的意識と連携をとることが大切だと感じた”
研修講師より一言
今回は、“カーボンニュートラル経営の実践者” である加治さんが率いる北陸ポートサービス株式会社さんとの企画の場でした。同社は、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」における「排出削減」、「カーボンの吸収」、「カーボンの活用」を、まさに事業として実施されています。
カーボンニュートラルが実現されるために重要なこととして、「環境価値の高いプロダクトがその魅力を適切にPRされ、顧客の購買行動や政府の政策の歩調が揃う」ことが挙げられます。このことから、私は以前から、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を「環境価値の高い事業や商品を手掛ける企業が、その魅力をPRし、顧客を獲得するために使ってほしい」と考えてきました。
経済合理的にカーボンニュートラルを実現させるためには、ステークホルダー全員が環境価値を理解するための共通言語と共有ビジョンを持ち、企業・顧客・行政の政策の歩調を合わせることが大切です。
今回はまさに、カードゲーム体験という大義名分でステークホルダーを繋げる場の創出のチャレンジでした。こうした場が全国で水平的に模倣され、カーボンニュートラルに向けた取り組みの「ドミノ」が起こっていくことを願っております。
株式会社プロジェクトデザイン
竹田 法信
ご案内
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。
ゲームでは、参加者が1つの組織のメンバーとして1~4人のチームを組み、 他のチームと様々な交渉を行いながら、組織の活動とプライベートの活動を行います。ある組織では獲得資金を増やすことを目指し経済活動を行っていきます。また、ある組織では排出削減量の目標に向かって環境活動を行っていきます。
こうした活動を通じて組織の目標達成を目指すプロセスにおいて、私たちの世の中のカーボンの状態がどのようになっていくのかをシミュレーション(模擬実験)します。
このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。
詳細はこちら。
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