「インセプション」という映画があります。レオナルド・ディカプリオが主演で、夢の中に入り込み、アイディアを夢という形で潜在意識に植え付け、人を操作するというお話です。
僕がこの映画で好きなところは、主人公が依頼された「ライバル会社の二代目経営者にインセプションする」場面です。
二代目の潜在意識の中にはずっと「親から厳しく冷たく扱われていた」というネガティブな思い込みがありました。
主人公は「潜在意識に刷り込むときはポジティブなものでないとダメだ」と述べ、「親は息子に愛情を注ぎ、期待していた。厳しく接したのは、親の手を離れて息子にチャレンジしてほしいからだ」とポジティブな思い込みに変えるのでした。
さて、親の見え方が変わった二代目の息子はどうなるのでしょうか?
新たなチャレンジを行い、それは成功するのでしょうか。
映画ではその顛末は描かれていません。ライバル会社の失墜を依頼として受けた主人公としては、新たなチャレンジが失敗に終わってほしいかもしれません。
しかし、私には二代目が成功する未来しか見えないのです。主人公の依頼主とも友好な関係を築き、世界に新たな価値を生み出すのではないでしょうか。仮に、チャレンジが失敗に終わったとしても、二代目は不幸ではないように思います。
研修や学習も本質的には同じだな、と思うのです。
潜在意識の中に希望の種・変化の種を見つけるお手伝いをする。
希望の芽・変化の芽を育てたくなるように伝えてあげる。
そんな気持ちで、研修や学習を設計することが大切なのではないでしょうか。
組織改革や風土改革を目的とする研修は上級管理職から
組織改革や風土改革といった、対象が全社員にわたる研修の依頼を受けるときに決まっていただくのが「どういった階層から実施すべきでしょうか」という相談です。
私のほうから「どういった階層から実施したいとお考えですか」と問うと、
「40-50代の部長・役員陣になると、もう変えるのが難しい。まずは、考え方が柔軟でこれからの伸びしろもある30歳前後のリーダークラスから始めたい」
というお話をいただくことが多いように思います。
このお気持ちは私も共感できます。要望に沿って30歳前後の方から研修を始めることもあります。しかし、可能であれば、やはり部長・役員などの上の階層から始めるべきと考えます。
理由は次の通りです。
- 上の階層が変わると、会社の戦略や風土がガラッと変わる(影響力の面)
- 下の階層に伝えたことが、「そんなの意味ない」と上の階層で否定されることを防ぐ(実行力の面)
つまり、“上が変わらなければ下も変わらない” という当たり前の話なのですが、これまで会社を担ってきて多くの経験も自負もお持ちである上級管理職の改革からタッチするというのは、人事担当者にはもちろんのこと、経営者にとってもなかなか勇気のいることだろうな、と感じます。
しかも、仮に勇気をもって上級管理職から実施することを決めたとしても、講師に実力がなければ参加者から信頼を得られませんし、ともすれば大きな反発を受け、プロジェクト自体が実行困難になることもあります。
そのため、組織改革を担う講師・ファシリテーターには次の3点が求められます。
- 参加者である上級管理職の方々の気持ちやこれまでの経験を尊重する
- 講師として知識を一方的に伝えるのではなく、参加者間の体験や意見交換、指摘を通じて気づきと “変化の芽” が生まれるようにする
- “変化の芽” が持続し、大きくなるように、上級管理職の方が作成する事業計画に “変化の芽” を盛り込んでもらうところまで設計する
上記を満たせる場合、自信をもって「できる限り上の階層から研修をはじめましょう」と言うべきです。
研修を通じて潜在意識の中に、希望の種・変化の種を見つけるお手伝いをする。
希望の芽・変化の芽を育てたくなるように伝えてあげる。
上級管理職を対象とした研修では特に、それを意識して研修や学習を設計することが大切なのではないでしょうか。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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