ビジネスにおける “士気” について、話をしたいと思います。
高い士気を持った少数精鋭部隊が、寄せ集めの大軍を破ったという例は戦史に多く存在します。
“士気” とはビジネスの世界では “モチベーション” という言葉で表されるかもしれません。さらに近年で言うと “エンゲージメント” という言葉が適切だと思います。
現在では “民主主義” の対になる言葉として “権威主義” が使われます。特定の権威者に服従する国家形態ということで、独裁・専制・全体主義をひっくるめた定義です。
また、“侵略戦争” にはどう言い繕っても大義はありませんが、“防衛戦” には大義があります。生まれ育った土地、家族、民族、文化を守るという大義です。
会社においても、組織の一部として自分の意見がしっかりと反映され、やっていることに大義がある(社会に良き影響を与える)という確信を持てる場合、人は持てる力の100%以上を発揮できるのでしょう。
過去の戦争では “将校” と “兵卒” を分ける考え方が一般的でした。
かつて “兵卒” は十分な教育とトレーニングを受けておらず、自分で銃を打つタイミングも分からないために、指示する “将校” が必要でした。しかし、ウクライナ侵攻におけるロシア軍は “兵卒” が動かないため “将校” が前線に出て狙い撃ちされ、指揮系統が麻痺していると聞きます。
現代のビジネスでも、“将校” と “兵卒” に分ける組織論の考え方はまだ残っているものの、少々時代遅れになりつつあるのではないでしょうか。士気の高い少数のメンバーが意見を述べ知恵を絞り、状況を打開していく。そういう組織が徐々に求められてきているように感じます。
士気に加えて、適切な教育・トレーニングがされていれば、“将校” が居なくとも自ら考え動くことができるし、いざ “将校” が不在になったときも代替となる人物が出てくる。これが強い組織ではないかと思うのです(ロシア軍は権威主義によって、士気も練度も低い “張り子の虎” のような組織になってしまっていたのかもしれません)。
強い組織が満たしている「4つの要素」
ここまでの話をまとめると、強い組織には4つの要素があると言えます。
- 自分の意見が組織の一員として反映されていると感じる
- 特定の権威者に支配されておらず、自分の意見を自由に述べることができる
- 自分たちの取り組みに社会的価値がある(大義がある)と感じられる
- 十分なトレーニングを受け、自ら考え動くことができる
1~3は組織の “士気” に関わる要素であり、4は “能力” に関する要素です。
表現は多少異なりますが、上記はグーグルがプロジェクト・アリストテレスという取り組みの中で明らかにした、 “成果の出るチーム” と酷似していると言えるのではないでしょうか(参考はこちら)。
残念ながら、私はかつて在籍したことのある会社が(卒業してずいぶん経ってからではありますが)、なくなってしまう経験を2回したことがあります。
1社目は優れたノウハウと人材を持つ会社でしたが、上場後に勢いが失速し、やがてなくなってしまいました。
私は若手社員の立場で組織を眺めているだけでしたが、トップが絶対的な存在で、 “将校” たちも顧客や市場ではなくトップという権威者の方を向いて考えたり意見を述べたりするようになっていたと思います。1~2の要素が失われ、上場とともに本来あったビジョンも失われ、マネーゲームに奔走して潰れてしまったと言えるでしょう。
2社目は、1~3の要素は確実に満たしていると言えるベンチャー企業でした。私自身にとっても思い入れの深い企業です。しかし、4の十分なトレーニングを受けていたかどうかに関しては、個々人が持っている素の力に頼りすぎ、組織として適切な教育・トレーニングは不十分だったように思います。民主的ではあったし士気も高かったけれども、経営者も、そして経営者を支えるべきリーダーとしての自分も未熟でした。
勢いよく成長するベンチャー企業は、1~3の要素を満たしているケースが多いと思います。しかし、組織化し、特定の “タレント(≒将校)” に頼らずとも回る組織にできるかどうかが、ベンチャーという段階を超えて継続的に成長できるかどうかの分水嶺となると感じています。
当社もまた、ベンチャーであり、間違いなく1~3はあるにせよ、4に関しては不足している状況です。
今年から新入社員を中心に、力を入れたトレーニングを始めました。私自身が小さな組織の中で誤った “権威” となってしまわないように注意しつつ、特定のタレントに頼らずとも回る組織に、この5年で作り変えていかねばならないと感じています。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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