政府が掲げる「2050年に日本としてカーボンニュートラルを実現する」という壮大な目標をシミュレーションに落とし込み、誰にでも分かりやすく伝えることを目的とした新作ゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しています。
2022年の年始から開発を始め、4か月の開発期間を経て完成間近となっています。5月末に環境省の方々にも協力いただき、大阪でテストプレイを行ってきました。
「2050カーボンニュートラル」 は、現実を比較的忠実にゲームに落とし込むことを心がけて開発しました。
地球に固定されている炭素(主に石油資源)が利用されることによって、大気中の二酸化炭素濃度が上昇する。そのうちの一部が森林に吸収される。森林は木材として活用されることで地球に炭素を固定する。
そういったカーボンの循環をマップで表現し、
- 出る量を減らす
- 吸収される量を増やす
- 活用を増やす(ことで新たな森林を増やす)
この流れを視覚的かつ体感的にイメージしてもらうように心がけました。
全部で4ターンのこのゲーム。1ターン目を終えた段階で、50人弱の参加者の方々がまず驚いたのは「私たちはこんなに圧倒的なスピードで大気中の二酸化炭素を増やしているの?」という事実です。
ゲーム内では、0.5ギガトンの二酸化炭素を1つのマグネットで表します。1ターン(5年)が終わると大気中の二酸化炭素が5.5ギガトン増えるのに対して、吸収される二酸化炭素は0.5ギガトン(1/10以下)に過ぎません。
現実の日本もそのような形で二酸化炭素を排出しまくっているわけですが、目に見えないものだけに、絶望的な状況と認識している人はごく僅かだと思います。それが、視覚的にありありと表現されるのです。
このゲームは、プレイヤーが市民の立場での取り組みと仕事(企業やNPO、政府)としての取り組みの両方を行います。「このままじゃマズイ!」と動揺が広がった状態で2ターン目が開始されるわけですが、どの立場での取り組みも効果を出すには遅々として進みません。1ターン目よりは若干カーボンの排出量が減ったものの、吸収量を増やすまでは至らない結果に終わります。
参加者からは「2050年までにカーボンニュートラルを実現するなんて、無理なんじゃ……」といった絶望の声が漏れ聞こえてきます。
そんな中、政府のプレイヤーは「炭素税」の導入を決定し、会場からは悲鳴にも似た声が響きます。現実同様に、政府は良かれと思って取り組んだのですが、これによって企業が「やりたい」と思っていたことができなくなり、怨嗟の声が溢れます。
さて、ゲームはこの後、各チームの必死の働きかけや行動の変化により、何とかカーボンニュートラルを実現するに至りました。
終了後には参加者から
- 今すぐ、全員で取り組まないと、どんどん難しくなる
- 温暖化が進んでいる状況を視覚的に表すことの効果を感じた
- 政府も企業も個人も足並みを揃えて脱炭素に取り組まなければ、効果は半減する
- 仮にカーボンニュートラルが実現できるとしたらこのシナリオしかない、ということがよく分かった
といった声が聞こえました。
それと同時に、運営面の改善要望もちらほらと出ました。
- 太陽光発電は、現在では十分採算をとることができるビジネスになっている
- 組織の壁を超えて協力するという要素を、もう少し強く感じさせたい
- 市民の自発的な動きの広まりをもっと簡単に表現したい
などなど。
これから3か月の間、全国各地で10回以上のテストプレイに取り組んでいきます。環境活動に詳しい専門家から小学生まで、様々な方にプレイしていただき完成度を高めていきたいと思っています。
また、企業としてカーボンニュートラルに寄与することで生まれるビジネスチャンスも、きちんと説明できるように資料作りをしていくつもりです。
日本のどこかで「2050カーボンニュートラル体験会」というイベントを見かけたら、是非、ご参加ください。皆様とお会いし、皆様の声をゲームに反映することで、より良いゲームづくりをしていきたいと考えています。
【追記:2022年9月9日】
現在「2050カーボンニュートラル」 はテストプレイを経て、正式リリースしています。詳細は下記の公式サイトの情報をご覧ください。
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。
このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、わたしたちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。
ご興味のある方は、是非、こちらから体験会にお申込みください。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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