突然ですが問題です。ビジネスシーンで語られる「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の意味として、最も適切なものは次の選択肢のどれでしょうか?
<選択肢>
- 画一性と排除
- 多様性と受容
- 多様性と差別
- 潜水士と宝石
<正解>
選択肢2の「多様性と受容」が正解です。
ダイバーシティ(Diversity)には「多様性・相違・変化」などの意味があり、インクルージョン(Inclusion)には「受容・包括・一体感」などの意味があります。
選択肢1の「画一性」は「多様性」の対義語です。同様に「排除」は「受容」の対義語になります。また、選択肢3の「差別」も「受容」の対極にある言葉です(マイノリティ=少数派の人達を排除・差別することなく、受け入れていくのがインクルージョンです)。
選択肢4の「潜水士と宝石」について。「潜水士」は英語で表すとダイバー(Diver)です。ダイバーシティ(Diversity)と英語のスペルは似ていますが意味は全く異なります(※)。
※ちなみに、同じような話(スペルは似ているが違う意味の例)として、東京のお台場の「ダイバーシティ東京 プラザ」という商業施設があります。この「ダイバーシティ東京 プラザ」のスペルはダイバーシティ(Divercity)です。多様性(Diversity)と街(city)を組み合わせた造語になります。
ダイバーシティ、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の違い
日本におけるダイバーシティは1979年に国連で採択された「女性差別撤廃条約」を元に、1985年制定(1997年改正)の「男女雇用機会均等法」から始まりました。
その後、「女性活躍推進法」「高齢者雇用安定法」「障害者雇用促進法」の改正などのダイバーシティに関連する法律が整備され、経済産業省が企業の「ダイバーシティ経営」を推進するなど、国を挙げての取り組みが進められています。
ダイバーシティは、その概念が普及する過程で「多様性の受容」を意味するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)として進化を遂げました。そして、近年では「エクイティ(公平性)」の概念を取り入れたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)が注目されています。
ダイバーシティとは
ダイバーシティ(Diversity)という言葉には「多様性」という意味があります。具体的には、性別、年齢、人種・民族、宗教、国籍、出身地、身体的特徴、疾病、障がい、教育、経歴、職務経験、未婚・既婚、子どもの有無、所属、価値観などの違いを尊重することを意味します。
ビジネスシーンにおけるダイバーシティとは「組織に多様な属性の人がいる状態」「雇用の機会均等」「多様な働き方」などを指します。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは
企業がダイバーシティを目指して多様な人々を雇用し、多様な働き方を提供しても、一緒に働く既存社員に理解する意識・受け入れる意識がなければ、本来の意味でのダイバーシティは望めません(組織に新しく入ってきたマイノリティにとって居心地が悪い状態が続き、離職に繋がることもあります)。誰もが働きやすい職場をつくるには、違いを個性として受け入れ、互いに認め合うことが大切です。
そこで生まれてきたのが「受容・包括・一体感」の意味を持つインクルージョン(Inclusion)という概念です。ダイバーシティにインクルージョンの概念を統合することで「多様性を包含し、誰もが平等な機会を与えられている状態」を指す。それがダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)とは
近年、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I) に「公平性」を意味するエクイティ(Equity)の概念を含んだダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)が注目を集めています。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考えに基づき、誰もに平等な機会を与えたいと思っても、その土台となる部分に既に格差(社会的・構造的不平等)が存在している場合は一律の(平等な)施策・支援では格差は埋まらないケースが存在します。
社会生活の中で不公平に扱われ、肩身の狭い思いをしている方々に、(一律ではなく)個々の状況に応じた適切な支援をしてこそ「公平」である。そのような考え方を重視するダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)では「すべての人が活躍できる状態」「誰もが働きがいを持って能力やスキルを発揮できる環境」「均等な機会と公平な待遇」を目指します。
<余談>
このDE&I は、SDGs10「人や国の不平等をなくそう」にも通じるところがあります。
“10.2|2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する”
参考:SDGs10「人や国の不平等をなくそう」の企業の取り組み事例・私たちにできること | 株式会社プロジェクトデザイン
まとめ(ダイバーシティ、D&I、DE&I の考え方)
ここまでは、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」と「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」を説明してきましたが、それぞれの言葉は下記のような関係だと考えると覚えやすいです。
- 多様性を意味する「ダイバーシティ」
- 多様な人々を受け入れ、互いに認め合う「インクルージョン」
- 社会的・構造的不平等をなくし、公平にする「エクイティ」
ダイバーシティ、D&I、DE&I に取り組む企業の事例
シグマクシス
シグマクシスでは、画一性マネジメント(規模の経済性・効率性の追求・ひとつの理想像・阿吽の呼吸)よりも、多様性マネジメント(協働の経済性・創造性の追求・異質の尊重・明確なビジョン)を重視した制度設計や組織運営を大切にしています。
“ダイバーシティがコラボレーションの価値を最大化させる
自らのライフワークバランスを維持しながらプロフェッショナルとして成長を目指す人財が揃えば揃うほど、その多様性は増していきます。「違い」をお互いに認め合い、尊重して、組み合わせの価値を作り出していくことに、ダイナミックな楽しさがあります。それを社員が受け入れる風土があってこそ、女性や外国人のみならず、多様な個性をもった人財が集まり、活躍する組織になれる、とシグマクシスは信じています”
参考:環境/制度|株式会社シグマクシス(SIGMAXYZ Inc.)
カルビー
カルビーグループでは、「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」という信念のもと、ダイバーシティの最優先課題として従業員の約半数を占める女性の活躍推進に注力してきました。
そして、女性のみならず、国籍・障がい者・LGBTQ・世代間価値観の違いなどの課題に取り組み、誰もが無意識の思い込みがあることへの意識をもち、誰もが活躍の機会を公平にもつことを共通テーマとした組織づくり、風土づくりを推進しています。
その先に見据えるのは、多様な従業員全員が自分らしく能力を発揮し、組織や会社の成果を生みだすダイバーシティ経営です。
“ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の専任部門を2010年に組織し、本格的に活動を開始しました。現在は、本社部門のD&I・スマートワーク推進室と、事業体ごとに選任した推進担当者(グループ会社を含む)が連携しながら活動しています。全社的な活動施策を実施すると同時に、各拠点の課題解決や浸透度の向上のための活動も行っています”
参考:ダイバーシティ&インクルージョンの推進|サステナビリティ|カルビー
アイシン
アイシンでは、経営理念に掲げる「成長と幸せを働く仲間へ」「安心と感動をお客様へ」をもとに、個人の能力を公平・公正に評価して管理職などの中核人材を登用しています。女性や中途採用社員、海外法人の幹部におけるローカル社員など、多様なバックグラウンドの人材が活躍しています。
“ダイバーシティ&インクルージョンは、変化の時代を生き抜くための重要戦略
アイシングループでは、国籍・性別・LGBTQ等の多様な人種や性、年齢、障がいの有無などに関わらず、世界中のすべての社員が元気に、主体的・自律的に働きがいを持って働くことができる職場風土の実現をめざしております。「元気で持続的に成長できる会社」として歩み続けるためには、従来の延長ではなく、イノベーションを絶えず起こし、お客様に喜んでいただける新しい価値の提供ができる競争力をつける必要があり、ダイバーシティ&インクルージョンは、そのために不可欠な経営戦略であると捉えています”
ジョンソン・エンド・ジョンソン
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、130年前から DE&I の考え方を取り入れ、経営上の重要な戦略と位置付けて企業活動に活かしています。社員は法的な婚姻関係にないパートナーにも配偶者と同等の福利厚生を受けられるほか、仕事と育児の両立や復職に役立つ100種類以上のオンライン講座など育児休暇からの職場復帰支援プログラムを提供しています。
“現在、私たちの推し進める「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」は、1943年に3代目社長ロバート・ウッド・ジョンソンJr.によって制定された「我が信条(Our Credo)」に基づく考え方であり、経営上の重要な戦略でもあります。一人ひとりが異なるバックグラウンドや信念、経験を持ち寄り、その価値を認め合い、それぞれが貢献、成長し、リーダーシップを発揮することのできる、「誰もが受け入れられていると感じられる環境(“You Belong”)」を築いていくことを目指しています”
参考:国際女性デーとジョンソン・エンド・ジョンソンの取り組み|ジョンソン・エンド・ジョンソン
メルカリ
メルカリでは “あらゆる人が自分らしく生き、ポテンシャルを発揮して活躍できる社会” を目指す「Diversity & Inclusion」という考え方が「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを達成するためには必要不可欠であると捉え、日本発の企業としての文化を生かしながら、メルカリらしい「Diversity & Inclusion」を推進しています。
“私たちが「Diversity & Inclusion」を推進するうえで大切にしていることは、数値的なゴールを設定しないことです。それは、全ての個人に向き合い、多様性を尊重するためには、数値にとらわれた意思決定をするのは適切でないと考えているからです。より本質的な多様性への働きかけは、会社や組織が陥りがちな数値的なゴールによるものではなく、そこに関わる全ての個人の思想や行動によって示されるはずです。
そのうえで、メルカリは以下のことを約束します。
- あらゆるバックグラウンドを持つメンバーにフェアなチャンスを提供する
- 多様なメンバーがポテンシャルを発揮し成長するための、学びの文化を創造する
- 誰もが心地よく帰属意識を持ちながら働けるように、信頼し合える組織を整える
メルカリに集うメンバーの思想や行動に「Diversity & Inclusion」が根付くこと。それが、まず一つ目のゴールだと私たちは考えます”
参考:Diversity & Inclusion Statement|採用情報 株式会社メルカリ
味の素
味の素グループは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を、多様なキャリアを持つ人財が集まることによってイノベーションを生むための重要な経営戦略と捉え、味の素グループの全力を挙げてダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいます。
“ダイバーシティ研修
テーマを設定し組織風土づくりに関する研修を実施しています。2018年度からはアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)をテーマに公平な機会提供を目的とした研修を経営メンバーからスタートし味の素(株)全社員に展開しています”
“事業所内保育所「アジパンダ®KIDS」
仕事と家庭を両立でき安心してキャリアを継続できる環境づくりを目的として、川崎事業所に事業所内保育所「アジパンダ®KIDS」を2018年3月に開設しました。小さな子どもを育てながら働く社員が、仕事と家庭を両立でき安心してキャリアを継続できる環境づくりを進めています”
“LGBTへの対応
2018年3月に「マーケティングコミュニケーションに関するグループポリシー」および「人財に関するグループポリシー」を改定し、LGBTに関する差別の禁止を明確にしました。年1回、国内主要グループ会社全社員約9,500名を対象にLGBTに関するeLearningを行っています。また、2018年度の新卒採用より、エントリーシートの性別欄を変更しました。2019年にはPRIDE指標にてシルバーの認定を受けました”
ソフトバンク
ソフトバンクは世界の人々から最も必要とされる企業グループを目指し、「総合デジタルプラットフォーマー」に向けて挑戦と進化を続けています。同社では、その原動力の1つに、“多様な人材が活躍できる経営基盤を整えること” を挙げており、重要な経営課題としてダイバーシティを位置づけ、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの取り組みを推進しています。
“全ての従業員に対して、年齢や性別などの属人的な要素ではなく、担うミッションや働き方に応じて等級(グレード)を決定し、仕事の成果に報いる報酬制度を導入しており、性別に関わらない公平な賃金の支払いに努めるとともに、性別による賃金格差(ジェンダー・ペイ・ギャップ)の解消を目指しています”
“2016年10月から、社内規程上の配偶者は日本の法律で認められる配偶者に加え、同性パートナーも含まれるようになりました。これにより、当社の社員は該当する書類を提出し受理されれば、休暇や慶弔見舞金など配偶者を持つ社員を対象とした社内制度の適用を受けることができます”
日本ヒューレット・パッカード
“Our Values/Diversity/Affirmative action という3つの考え方に基づき、次のような基本方針を持っています。『障がいをもつ社員の就業環境において、障がいによるハンディが見られ、健常者の就業環境と比べて相当大きな差がある場合は、その差を埋め、結果として機会を均等にし、就業環境を公正なものに近づける。』
障がいの有無や性別で、期待される成果が変わることはありません。社員全員に、良い成果、高い貢献を求めています。そのためには、まず本人の努力が不可欠であると考えています。一方で、仕事での貢献を妨げている要因が、自分の努力で埋め切れない障がいにあるのであれば、会社としてできる限りそれをサポートしようと考えます。
障がいを持つ人のニーズは、障がいの種類、リハビリの進み具合、職務内容、職場環境など個別の要素によって様々ですので、障がいを持つ社員本人の意見を元に、本人とマネージャとでサポート内容を決めていきます”
参考:インクルージョン&ダイバーシティ 障がい者雇用|HPE 日本
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みを浸透させる方法
ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを全社に浸透させるには(これまでにご紹介してきた企業事例がそうであるように)会社のミッション・ビジョン・バリューや経営戦略とダイバーシティ&インクルージョンとを統合させるアプローチが有効です。
ただ、このアプローチだけでは十分ではないこともあります。ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは組織制度や風土に反映される以上、その制度を利用する・風土の中で働く社員の理解が必要不可欠です。
そして、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みについて社員の理解を促す上では、やはり研修という場が推奨されます。新入社員研修やチームビルディング研修、コミュニケーション研修の場を活用してダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの浸透を図ることをお勧めします。
新入社員研修 × ダイバーシティ&インクルージョン
新入社員(新卒・第二新卒・中途)向けの研修では、「社会人マインドの醸成」や「ビジネススキルの習得」などの研修カリキュラムの他に「会社理解」を促すことが重要です。自社の経営理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の取り組みを伝えることで会社への帰属意識を高め、それが新入社員の定着や活躍を後押しします。
参考:新入社員研修の内容・カリキュラム設計マニュアル|株式会社プロジェクトデザイン
チームビルディング研修 × ダイバーシティ&インクルージョン
チームビルディングを通じて実現すべき最も重要な組織の在り方は、互いに尊重し合える組織を作ることです。
どんな組織においても、立場や仕事内容の違いが意見や見解の違いを生み出します。そして、違いは対立に発展し、分断を作り出します。組織のタコツボ化(セクショナリズム)を招く分断は防ぐべきものですが、違いが生まれることを防ぐことはできませんし、それは防ぐべきものでもありません。大切なことは、その違いを受け入れることです。これは相手に迎合するという意味ではありません。相手の意見や価値観を理解し、尊重することを意味します。
また、ダイバーシティ経営・ダイバーシティ&インクルージョンの観点でも、尊重し合える組織を作ることの重要性は明らかです。互いに尊重し合える組織は、チームワーク(チームにおける共同作業)の土台になると言っても過言ではありません。
参考:チームビルディングとは?なぜ注目されているのか?目指すべき組織の在り方と実践方法を徹底解説!|株式会社プロジェクトデザイン
コミュニケーション研修 × ダイバーシティ&インクルージョン
コミュニケーション(対人関係における情報や感情のやり取り)は、目標に向かって協働する組織において欠かすことのできないものです。そして、多様な人が集う企業で他者と円滑にコミュニケーションを行うには、互いの価値観や考え方を受容すること、つまり、ダイバーシティ&インクルージョンの理解が大切になります。
参考:コミュニケーション研修の検討マニュアル|株式会社プロジェクトデザイン
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監修者プロフィール
亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム”2030SDGs”に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。博多駅前”fabbit hakata ekimae”に福岡オフィスを構え、関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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