突然ですが問題です。OJTのやり方として、正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?
<選択肢>
- 目の前で仕事をして見せて「技を盗め」と伝える
- 1つ1つの作業について手取り足取り教える
- 新人のスキルや習熟度に合わせて指導を進める
- 外部の研修に参加させる
<正解>
選択肢3の「新人のスキルや習熟度に合わせて指導を進める」が正解です。
OJTは、かつての「仕事は見て盗め」という古い価値観とは異なります。また、全てを手取り足取り教えることも違います。OJTでは、最初に必要なことを教え、実践を通じて仕事の理解や習熟を図り、フィードバック(改善点を伝えること)を繰り返して育成するものです。
業務に必要な知識・技術・ノウハウは、一朝一夕には身に付きません。ビジネスシーンでも “守破離(基本の型を身に付け、他のやり方も学んでから独自性を作る)” の重要性が叫ばれるように、最初に適切なやり方を身に付けることで早期戦力化が可能となり、その先の応用・発展へと繋がっていきます。
OJTとは
日本における教育訓練は、大きく分けて2種類あります。
その1つが「OJT(On-The-Job Training)」です。職場での訓練や日常の業務につきながら、実務を通して仕事のやり方を指導する方法を指します(上司や先輩がOJT指導者となり、育成すべき新人が育成対象者となります)。
もう1つは「Off-JT(Off the Job Training)」。一時的に通常業務を離れて、座学研修や集合研修に参加する方法です。
OJTのやり方とは
OJTを成功させるコツは、やり方の順を追って進めることです。
それはまさに山本五十六の格言である「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」の通りです。①やってみせ、②言って聞かせて、③させてみて、④褒めるの順に進めます(必要に応じて①~④を繰り返します)。
①やってみせる
見たこともやったこともない仕事を最初から上手くできる人はいません。指導者が育成対象者の前でやってみせる必要があります。
- 指導者が留意すべきポイント
仕事はいつもの自分のペースで行うのではなく、育成対象者が見て分かるようなスピードでやってみせます。可能であれば、1つ1つの作業を解説しながら進めると良いでしょう。
- 育成対象者が留意すべきポイント
指導者がやっていることをよく観察しながら、自分がその仕事を再現できるように整理する目的でメモを取りましょう。作業手順を確認したり、分からないことは質問する姿勢も大切です。
②言って聞かせる
言われた仕事をこなすのではなく、自ら主体的に仕事に取り組んでいく。そんな人材を育成するには「仕事に誇りとやりがいを持てるように導く」必要があります。
- 指導者が留意すべきポイント
仕事の意義(誰の何の役に立つのか)や仕事の進め方(1つ1つの作業の必要性や合理性)をきちんと説明しましょう。育成対象者の主体性を育む観点では、一から十まで説明するのではなく「問いを投げかけながら相手に考えを促すこと」も大切です(育成対象者としても、自分自身で答えに到達する方が、納得感・やる気が高まります)。また、この問いを通じたコミュニケ―ションは、指導者と育成対象者の絆を深める良い機会にもなり得ます。
- 育成対象者が留意すべきポイント
先入観を持たずに教わったことを素直に捉えましょう(特に、中途入社者は過去の経験や前職での常識に囚われる傾向があるので、アンラーニングする意識をしっかりと持つことが重要です)。また、「ただ説明を聞くだけ」の受け身な姿勢は好ましくありません。自身が教わる立場であることを十分に自覚して、積極的に質問や確認をすることを意識しましょう。
③させてみる
これまでに指導者として「①やって見せ」「②言って聞かせた」ことが、育成対象者にどれだけ伝わっていたかを確認するために、実際の仕事をさせてみましょう。
- 指導者が留意すべきポイント
慣れた人がやればすぐに終わること・簡単なことでも、不慣れな人が行う場合は思った以上に時間がかかるものです。「作業ペースが遅い」と感じても、イライラしたり、急かしたり、途中で作業を奪ったりせずに静かに見守りましょう。また、育成対象者の仕事の習熟度に応じて仕事の範囲や難易度を調整する工夫も必要です。なお、優しい指導者の中には、仕事に不慣れな育成対象者に対して手取り足取り教えるような関わり方をされるケースを見受けます。それは一概に悪いことではありませんが、育成対象者の主体性や自走力を育む観点では、一歩引いて見守ることも大切です。
- 育成対象者が留意すべきポイント
上手くできなくてもいいので、まずは仕事を覚えるつもりで取り組むこと、一生懸命やってみることが大切です。その上で、分からないことを自分一人で抱え込まずに素直に質問することを意識しましょう。「分からないこと」は悪いことではなく、むしろ、良いことです(なぜなら、分からないことは改善点であり、より良い仕事をできるようになるためのシグナルになります)。
④褒める(評価・追加指導)
何事もやりっぱなしはよくありません。「③させてみた」ことに対してフィードバックをすることが重要です。OJTの観点では、育成対象者の意欲(モチベーション)を高める目的で「褒めること」に重点をおくことを推奨します。
- 指導者が留意すべきポイント
フィードバックをする上では、育成対象者が「どのような考えのもとに、どういう風に仕事を進めたのか?」というプロセスに焦点を当てましょう。そうすることで、「よく頑張りましたね」といった大雑把な褒め方ではなく、「その考え方は素晴らしいですね」「仕事の結果はまだまだですが、仕事の取り組み方は正しいですよ」という具合に、実のある褒め方をしやすくなります。その上で「次はもっとこうすると良いですね」という指導を展開しましょう。できなかった点を詰めるような減点的な指導ではなく、加点的な指導(できている点を認めて、さらに前進するための指導)を推奨します。
- 育成対象者が留意すべきポイント
自分の何が褒められているのか良く分からない場合は、自分から「具体的に私のどういった点が良かったのでしょうか?」と質問するようにしましょう。また、褒められたことに満足するのではなく、自分ができていない点=改善点に向き合う謙虚さを見失わないことを意識しましょう。
OJTとティーチング・コーチング・カウンセリングとの違い
OJTと比較されることの多い「ティーチング」「コーチング」「カウンセリング」について簡単にご紹介します。それぞれ長短があるため、状況に応じて使い分けることを推奨します。
ティーチング(Teaching)
ティーチングは、学校教育や企業研修の中で使われることの多い手法です。
ティーチャー(指導者)がクライアント(育成対象者)に対して教える・アドバイスする、指示型のコミュニケーションです。ティーチングは「育成対象者が知らないことを教える場面」で効果を発揮します。育成対象者が初めて行う作業や不慣れな作業に取り組む際に有効な手法です。
<注意点>
ティーチングでは育成対象者が教えられた以上のことをできない(やってはならないと思う)、受け身・指示待ちになることが懸念されます。ティーチングで一方的に伝えるばかりでなく、時にはコーチングを取り入れるなどして、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。
コーチング(Coaching)
コーチングは、ビジネスやプロスポーツにおける個別指導に使われることの多い手法です。
コーチ(指導者)がクライアント(育成対象者)の中にある答えを導き出すために、承認・傾聴・質問・提案などのスキルを用いて行う、目標指向型のコミュニケーションです。コーチングは「育成対象者が自分で考える必要がある場面」で効果を発揮します。育成対象者に自発的な気付き・発見を促したい時に有効な手法です。
<注意点>
コーチングは育成対象者の知識・スキルが足りない場合には効果を発揮しにくい特徴があります。経験の少ない新入社員に対するOJTでは使いづらい手法ですが、中途入社社員に対するOJTには取り入れる余地があります。
カウンセリング(counseling)
カウンセリングは、キャリア相談やメンタルケアの場面で使われることの多い手法です。
カウンセラー(指導者)がクライアント(育成対象者)の心や体の不調・悩みに向き合い、傾聴・援助・助言・指導などを使い分ける、受容型のコミュニケーションです。カウンセリングは「マイナスの状態をゼロ(フラットな状態)にする場面」で効果を発揮します。育成対象者のパフォーマンスが落ちている際のコミュニケーションに有効な手法です。
<注意点>
カウンセリングは専門的知識のない指導者が行うと逆効果になる場合があります(カウンセリングを行う場合は、専門的知識を身に付けた人に依頼しましょう)。
企業のOJTの事例
GCストーリー
OJT制度
“新卒3年目までOJT担当がつき、ポータブルスキルマップをもとに月1回以上の頻度で1on1を実施しています。仕事に対するフィードバックの機会をこまめに設けることで、成長を最大化します。適切なストレッチゾーンに身を置き、自分の頭で考えながらスキルを伸ばしていきます”
スリーエム ジャパン
Entry Training(新入社員4ヵ年育成プログラム)
“入社後4年で自律した3Mジャパングループ社員となることを目指し、OJTによる成長を加速させる育成プログラムを設けています。入社時の導入研修を含め、それぞれの節目に応じた階層別研修を用意し、企業人としての成長過程で生じる疑問や不安を解消しつつ、ビジネス遂行に必要な知識・論理的思考・コミュニケーション手法などを習得します”
参考:教育制度|3Mについて
ヤフー
新社会人向け研修
“社会人としての心構えや基本的なビジネスマナー、ヤフーで働くうえで必要な考え方の習得を行います。エンジニア職・デザイナー職には別途、専門スキル向上のためのプログラムも用意しています。また、各配属部署では、OJT(On the Job Training)の形式で先輩社員が指導にあたり、配属先の現場でそれぞれの担当業務を実際に経験しながら学んでいきます”
参考:人財育成 – 制度・環境 – 採用情報 – ヤフー株式会社
NTTデータ
共創型OJT
“そのねらいをITサービス・ペイメント事業本部部長、矢野忠則氏が話す。「私たちはこれを『共創型OJT』と呼んでいます。新人が受ける従来のOJTの場合、やり方も含め、上から与えられるという面が強かった。結果、新人の個を生かすどころか、先輩のコピー人材ができあがってしまう。それは望むところではありません。NTTデータ全体で約500名の新人が毎年入りますが、そのうち60名くらいには先輩が辿っていない経験を積ませ、尖った人材として育ててもいいだろうと」”
参考:NTTデータ様の「新人の可能性を信じて任せる」OJTの新しい試みをご紹介
OJTに使える助成金
OJTに使える厚生労働省の助成金があります(人材開発に取り組む事業主や事業主団体を支援するためのものです)。2022年(令和4年)度からの新設・拡充項目もあるため、一度チェックされることをお勧めします。
参考:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース)|厚生労働省
OJTにお勧めの研修
OJTと言えば、新入社員に対して実施するケースが一般的です。新入社員研修をこれからご検討される方に向けて、参考となる記事をご紹介します。
・新入社員研修の内容・カリキュラム設計マニュアル|株式会社プロジェクトデザイン
また、OJTの成否はOJTの指導者育成の役割を担う管理職の知識・スキル・マインド・スタンスに依存します。そこで、管理職を育成する研修の検討に役立つ記事も併せてご紹介します。
・管理職研修の内容・カリキュラム設計マニュアル | 株式会社プロジェクトデザイン
3分でわかる!研修・人材育成用語クイズとは
研修担当者や研修受講者の方々が「そういえば、この用語の意味って何だっけ?」と思った際に、短時間で分かりやすく用語の意味を知ることのできるコンテンツ。
それが「3分でわかる!研修・人材育成用語クイズ」です。
用語の意味を理解するに留まらず、その用語を “活きた知識” へと昇華するためのクイズコンテンツをご提供します。
監修者プロフィール
亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム”2030SDGs”に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。博多駅前”fabbit hakata ekimae”に福岡オフィスを構え、関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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