カーボンニュートラルは「事業機会」か「リスク対応」か。新参メンバーと古参メンバーの意識の差を解消へ

企業名 :A社(※)
業種  :電機メーカー
企業規模:1000名~

※組織名は先方のご希望により伏せさせていただきます

課題
  • カーボンニュートラルをリスク対応としてのみならず、事業成長と環境調和として捉えた時に見えてくる可能性に腹落ちし、環境部全員がカーボンニュートラルに向けて足並みを揃えて意識を高めていきたい。
解決策
  • 環境部内のメンバー全員(約30名)を対象に、カーボンニュートラルについて腹落ちを伴って理解する研修を実施する。
     
  • カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の体験を通じて、メンバー全員がカーボンニュートラルの本質を理解した状態で環境部門のパーパスを共有し、環境ビジョン及び中期環境行動計画を「自分ごと化」する。
効果
  • 研修受講者の研修満足度で高い評価(大変満足:72%、やや満足:28%)。
     
  • 研修受講者アンケートから、カーボンニュートラルの本質理解を通じ、環境部門のパーパスが参加者に理解され、環境ビジョン及び中期環境行動計画を「自分ごと化」する機会になったと評価できる。
     
  • 研修受講者アンケートからは「新入社員研修でも実施したらよい」「開発部門や経営陣にも体験してほしい」「ステークホルダー全体で学ぶ機会を作りたい」といった声があがり、環境部内の意識醸成は終了し、次のステップとして会社全体、そしてステークホルダー全体に向けた意識醸成の必要性に課題感が移行したことが分かった。
     
  • 副次的な効果として、これまで部内での交流頻度が少ないスタッフ同士での関係性が深まった。

本稿では、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を活用した研修事例をご紹介します。今回お届けするのは、プライム市場に上場する電機メーカーA社の環境部門(※)のメンバー向け研修です。

※A社の環境部門は、事業成長と環境調和の推進を担っている部門です(組織によってはCSR部門やサステナビリティ部門と呼ばれることもあります)

同社の研修講師を担当させていただいた竹田の視点で、事例の解説を進めていきます。

<研修講師プロフィール>

竹田 法信(2050カーボンニュートラルの共同開発・運営担当)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、地元・富山県にUターン。富山市役所の職員として、環境モデル都市、環境未来都市、SDGs未来都市を担当。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへ。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住、地元・富山県滑川市総合計画審議会委員。

【課題】カーボンニュートラルを「事業機会」と捉える新参メンバーと、「リスク対応」捉える古参メンバーの意識の差

数千人規模の従業員を擁する電機メーカーA社。

近年になって環境部門に志願(異動)してきた新参メンバーの多くはカーボンニュートラルという時代へのシフトを「事業機会(※)」と捉えていました。

※この「事業機会」とは、自社の収益を上げるという意味ではありません。「事業成長と環境との調和を実現する機会」という意味になります。

その一方で、これまでの環境部門の取り組みの多くが、社会的責任を果たすための守りの業務に軸足が置かれていたため、環境部内に在籍する古参メンバーの中にはカーボンニュートラルを「気候変動リスクへの対応」と捉える向きがありました。

カーボンニュートラルを推進する役割を担う環境部門内のメンバー間に意識に差がある今の状況を打破できないか。環境部のメンバー全員でカーボンニュートラルに向けて足並みを揃えていくことができないか。それがA社の課題でした。

実は、この課題はA社のみの課題ではありません。カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を活用した研修やワークショップに関する相談を数多く受けてきた私の経験上、企業がカーボンニュートラルに取り組むにあたって直面する課題には、幾つかの段階があるように思います。

①カーボンニュートラルの意識醸成や理念浸透を担当する部門が存在しない(決まっていない)
ある企業とのカードゲーム「2050カーボンニュートラル」の研修相談の打合せの場に、環境部門、サステナビリティ部門、広報部門、ブランド戦略部門及びマーケティング部門の方々が参加されたことがありました。こういったケースでは、まず責任を負う担当部門をつくる(決める)必要があります。

②カーボンニュートラルを推進する担当部門は存在している(決定している)が、予算や権限がない
対外的なPR目的で「カーボンニュートラル推進課」といった部門を創設しても、適切な予算や権限がなければ思うような活動はできません。

③カーボンニュートラルを推進する担当部門内で、意識統一が図られていない
組織においてカーボンニュートラルを推進していこうという御旗のもと、既存のCSR推進室が「カーボンニュートラル推進室」に名称変更された場合などに、部門のメンバーの一部は「全く新しい取り組みを開始する」と捉え、また一部は「これまでの事業の延長線上の取り組みを継続する」と捉える、ということが起こり得ます。

④カーボンニュートラル推進部門と他の部門とで歩調が合わない
組織内の各部門のKPIにカーボンニュートラルの理念を反映させられずに歩調が合わなくなる(組織横断的な活動が阻害される)ケースがあります。例えば、全社的にサプライチェーン全体の排出削減量などのサステナビリティ項目を重要指標として掲げている中で、調達部門においてはQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)を重要指標としていることがあります。

⑤ステークホルダーとの歩調が合わない
組織の部門間で歩調が合わない、顧客や取引先を含めたステークホルダーとの歩調が合わないケースがあります。例えば、排出削減コストを販価反映させると顧客(納入先)に購入してもらえなくなる。または、仕入れ先が環境コストを価格反映させた場合に、自社の調達部門は金額面から仕入れ先の変更をせざるを得ないと判断するケースです。

今回のA社の課題感は、上記の③のステージに該当します。

カーボンニュートラルを推進する役割を担う環境部門内で意識統一が図られていない(歩調が合わない)状態では、会社全体をカーボンニュートラル経営にシフトさせていくことはできません。

まずは、環境部門のメンバー各自が環境部門のパーパス(存在意義)を理解することで意識の統一を図る必要があります。

【提案1】 カーボンニュートラルの本質について腹落ちを伴った理解を促すためのカードゲーム「2050カーボンニュートラル」

私たちは、A社の課題解決に向けて2つの提案をさせていただきました。

1つ目の提案は、カーボンニュートラルの本質について腹落ちを伴った理解を促すために、環境部内のメンバー全員(約30名)を対象にカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を用いた研修を実施することです。

私たちプロジェクトデザインの制作するゲームには「参加者が熱狂を伴うリアルな体験が、腹落ちを伴った理解を促す」という特長があります。

それは、ゲームが現実世界の仕組みを模してつくられているからです(現実の出来事をシミュレーション(模擬実験)できるようにゲームをつくっています)。例えば、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、現実世界で企業が取り得る手段や、行動の結果起き得る複雑な状況変化などをゲームロジックに組み込んでいます。

つまり、楽しみながら取り組めるゲームでありながらも、そのゲーム体験は実にリアル(現実的)。参加者は現実世界における自身の価値観や考え方、過去の成功体験などを無意識に当てはめてゲームに取り組む中で、成功や失敗を繰り返し経験することができます。

上手く行った時は喜び、失敗した時は悔しくなる。次はこうすれば良いのではないかという作戦やアイデアを閃き、それを試す。そして新たな展開が拓けていく……現実世界の中では成功体験や失敗経験を積むことには時間も労力もかかるものですが、ゲームの世界の中では短時間で何度も成功と失敗を繰り返すことができます。

それに加えて、ゲームはチーム戦です。感情や考え、起きた出来事をチームで共有し合うことでゲームの場(研修会場)は大きく盛り上がり、参加者はゲームに熱狂していきます。

こうした熱狂を伴うリアルな体験があるからこそ、参加者は、講義形式による知識獲得型(頭で理解する形)の研修では得られない、腹落ちを伴った理解をすることができます。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験することで、カーボンニュートラルの本質について腹落ちを伴った理解をすることができます。

ちなみに、全員参加型の社内研修では「やる気やコミットメントレベルが高い参加者」と「強制的に連れて来られた参加者」とで研修効果(参加者が得られる学びや気づき)が大きく異なるものですが、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、どのような参加者であっても(事前の予備知識がない方でも)熱狂を伴うリアルな体験をできるため、安定した学びや気づきを届けることが可能です。

【提案2】 環境部門のパーパスを共有と環境ビジョン及び中期環境行動計画の「自分ごと化」

2つ目の提案は、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を通じてメンバー全員がカーボンニュートラルの本質を理解した状態で、環境部門のパーパスを共有し、気候変動や生物多様性保全、資源循環といった「環境との調和」を謳う環境ビジョン及び中期環境行動計画を「自分ごと化」することです。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の体験によって、

  • カーボンニュートラルとは「事業機会」であり「リスク対応」であること
  • カーボンニュートラルに向けた取り組みを自部門だけで実施していくことは困難であること
  • カーボンニュートラルに向けた取り組みは会社全体、そしてステークホルダーも含めた組織間で連携することが大切であること

について腹落ちを伴って理解できている状態だからこそ、

環境部門のパーパスが身に染み込み、自分を起点にして(当事者意識のもとに)環境部門が会社組織や社会全体において、どのような役割を果たしうるのかを考えることができるようになります。

【効果】「会社全体の意識醸成の必要性」、そして「ステークホルダー全体に向けた意識醸成の必要性」へと課題感がシフト

研修実施の効果に関して、定量的な指標(研修受講者の満足度)は以下の通りです。

<研修の満足度>

    • 大変満足:72%(18名)
    • やや満足:28%(7名)
    • 普通:0%
    • やや不満:0%
    • 大変不満:0%

※環境部の部長より「大変高い評価をいただきました!」とのコメントを頂戴しています。

定性面では、大きく3つの効果を確認できました。

1つ目は、研修受講者のアンケートから、カーボンニュートラルの本質理解を通じ、環境部門のパーパスが参加者に理解され、環境ビジョン及び中期環境行動計画を「自分ごと化」する機会になったと評価できる点です(アンケートの内容を一部ご紹介します)。

“環境部のパーパスの妥当性を確信するとともに、このパーパスに向かって同じ方向を歩いていることを頼もしく感じた”

“「自分ごと」として捉えていかなければならないテーマだと改めて感じた。カーボンニュートラルはすぐにでも対応しなければならない。一歩踏み出して行動することが大切だと感じた”

2つ目は、環境部内の意識統一が図られたことから、「会社全体の意識醸成の必要性」、そして「ステークホルダー全体に向けた意識醸成の必要性」へと課題感がシフトしたことです(アンケートの一部をご紹介します)。

“経営陣向け、開発部門向け、新入社員向け、また他の部門のスタッフに向けた研修として実施したい”

“企業単独でやれることには限界がある。全チームが目標を達成するには、チーム間の連携、意識の共有を、産官学、そして個人で行っていくことが不可欠と感じた。実際の社会もそうだと思う”

“環境問題、社会問題について、ほかの企業はライバルではなく、パートナーであり、一方的に助けるのではなく、ともに協力して解決していく、一緒に取り組む姿勢が大事”

3つ目は、副次的な効果として、これまで部内での交流頻度が少ないスタッフ同士での関係性が深まったことです。カードゲーム「2050カーボンニュートラル」では、参加者同士が情報共有や交渉をする機会が多くあり、ゲームに熱狂する過程で交流頻度が高まるため、初対面同士の関係性でも自然と打ち解けやすくなります。

研修講師より一言

カーボンニュートラルを「事業機会」として捉える人には、その信念を支える理由(過去の成功体験等)があると思います。一方でカーボンニュートラルを「脅威」や「リスク対応」として捉える人にも、個々に理由があると思います。

この捉え方を否定したり避難するのではなく、双方の捉え方を、理由があるものとして受容することが大切だと思っています(とりわけ環境にまつわるテーマに向き合う難しさの一つに、主義主張が異なる者同士が、正義を振りかざし合う状況がある、ということがあると思います)。

ゲーム体験をすれば、どの捉え方や主義も否定されることなく(もしくはありうるものとして受容されたうえで)、参加者が主体性にビジョンを理解し共有する、という状態が作られます。今後、A社によるカーボンニュートラルの取り組みが更に推進されることをお祈りしています。

株式会社プロジェクトデザイン
竹田 法信

研修内容

  • 組織の属性
    電機メーカー(従業員数1,000名以上)
     
  • 研修の目的
    環境部門の存在意義(パーパス)を共有し、環境ビジョン及び中期環境行動計画を「自分ごと化する」
     
  • 研修受講者
    30名(環境部門スタッフ)
     
  • 研修実施日
    2022年11月29日

研修プログラム

  1. 導入(30分)
    ・チェックイン
    ・自己紹介
    ・研修の目的共有
    ・講義(カーボンニュートラルとは)
     
  2. ゲーム体験(70分)
    ・ルール説明
    ・ゲーム実施
     
  3. ワーク(70分)
    ・対話(ゲーム体験を振り返る)
    ・講義(カーボンニュートラルの実現に向けての考え方)
    ・対話(講義内容を踏まえて、改めてゲーム体験と結果を掘り下げる)
    ・講義(事業戦略策定プロセスと理念浸透)
    ・講義(環境部門のパーパス、ビジョン、計画の説明)
    ・対話(学びの共有、今後のアクションの言語化)

研修の様子

ゲーム開始直後は、うまく行動できるか不安な様子が見られましたが、いざ行動を開始してみるとゲームはどんどん盛り上がって熱狂が生まれていきます。

この熱狂があるからこそ、ゲーム体験を現実社会に紐づけやすくなり、「腹落ち」を伴った学びや気づきが定着するのです。

研修受講者の声

“メンバーと共に作り上げた「事業成長と環境調和の好循環を共創・推進する」という部門パーパスの妥当性・重要性を改めて確認できました。部門メンバーがパーパスやビジョンを共有し、同じ方向に向かって歩んでいることを頼もしく思いました。他部門や経営層にもお勧めしたい研修です”

“企業の成長とCO2排出削減を両立する重要性を体感できました。カーボンニュートラルだけを目指すと資金がなくなり、削減施策を実施する余裕がなくなるし、利益だけを求めるとCO2排出削減が進まない。企業単独でできることには限界があり、ステークホルダー全体で取り組むことの重要性も学ぶことができました”

“2050年にニュートラルを実現すれば良いわけではなく、いま直ぐにでも排出削減をしなければならないことに気付いた”

“企業単独でカーボンニュートラル実現に向けて取り組めることには限界がある。他の企業やステークホルダーはライバルではなくパートナーであり、ステークスホルダー全体で協力しながら取り組む姿勢が大事だと分かった”

“企業の持続的な成長とCO2排出削減を両立させることの重要性と大変さがよくわかった”

“カーボンニュートラルに取り組んでいく人たち同士で、こうしてビジョンや理念を共有して、同じ方向を向いて歩いていけることに、頼もしさを感じた”

研修講師プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住、地元・富山県滑川市総合計画審議会委員。

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