「探究学習」が抱える2つの課題とは
- 最終更新日:2023-10-30
プロジェクトデザインの大槻です。
「カードゲーム×探究学習プログラム」は、私たちプロジェクトデザインのメンバーのみならず、カードゲームを学校の授業で活用されている現役の先生、外部講師としてご活躍されている公認ファシリテーター(当社のカードゲームライセンスを取得されたファシリテーター) の皆さんの協力によって開発されました。ご協力いただいた皆さん、この場を借りて改めて御礼申し上げます!
前回の記事では、このプログラムを作った背景をご紹介しました。
参考:「カードゲーム×探究学習プログラム」で実現したい2つのこと
私の願いを実現するにあたり、教育現場の現状を把握するため、現役の先生をはじめとする教育関係者30名にヒアリングをさせていただきました。
その結果、抱える課題は大きく2つあることが分かりました。
1.生徒が主体的に取り組むためのカリキュラム設計が難しい
2.調べ学習だけで終わってしまう
後で知りましたが、認定NPO法人カタリバが2022年12月から2023年2月にかけて実施した教員アンケートでこれと同様の結果が出ています。
「探究学習の推進において、とくに課題だと感じるのはどのようなことですか?」という設問に対し、上位2つの回答が「授業案やカリキュラムの設計(61.3%)」「調べ学習で終わってしまう(55.5%)」という結果でした。
参考:探究学習、95%の教員が「課題を感じている」 NPOカタリバ、探究学習をサポートする全国の教員向けに実態調査|NPOカタリバからのお知らせ|認定NPO法人カタリバ
原因は、生徒自身が “問い” を立てられていないこと
では、なぜ「生徒が主体的に取り組むためのカリキュラム設計が難しい」「調べ学習だけで終わってしまう」ということが起こるのでしょうか?
学校現場へヒアリングを進めていくうちに、それは「生徒が “問い” を立てられていない」からだと分かってきました。
探究学習は、生徒の思考力や判断力、表現力などの育成を目的に、以下のような4つの学習ステップを踏みます。
1.生徒自らが課題を設定
2.解決に向けて情報を集める
3.整理分析しまとめる
4.周囲と対話し協働して進める
探究学習のファーストステップは、生徒自身が課題を設定する、つまり自ら “問い” を立てることです。自ら “問い” が立てられていないまま、曖昧に設定した課題で探究学習を進めようとしても、生徒自身が「何から始めたら良いか分からない」状況に陥りやすくなります。
このまま学習を進めても、表面的な情報を集めるだけで肝心な課題を掘り下げることができず、整理分析が行き詰まってしまいます。まさに「調べ学習で終わってしまう」結果が生み出されます。
このように探究学習が進まなくなる、あるいは中途半端で終わってしまうのは、生徒自身が “問い” を立てられていないことが原因だと言えるでしょう。
しかし逆を言うと、 “問い” を立てることさえ出来れば、探究学習は機能するのです。
良質な “問い” は「ワクワク感」から生まれる
では、ここで言う “問い” は、具体的にどのように生まれるのでしょうか。
幼児期にある「なぜなぜ期」を1つ例に挙げてみましょう。
子どもはある時期(主に2~6歳)になると「これはなぜ?」「あれはなんで?」と、疑問に思ったことは片っ端から尋ねるようになります(最近だとTikTokで「なぁぜなぁぜ?」というフレーズが流行っているそうですね)。
好奇心旺盛で、ありとあらゆることに疑問を投げかけるので、うんざりしてしまった経験がおありの方も多いのではないでしょうか。
この時期の、あらゆることに興味や関心を示し「知りたい!」という欲求を満たそうとする子どもの心理は、常にワクワク感で満たされています。知れば知るほど、分かれば分かるほど、新たな「なぜ?」と「知りたい!」が泉のようにどんどん湧き起こる。まさにこの状態こそ、探究学習における “問い” を生み出す源泉であると考えます。
余談ですが、先日「フグの卵巣ってぬか漬けで毒が抜けるみたいだけど、なぜ毒が抜けるのか科学的な確証がない」という話題が出た際、自分を含め良い大人たちが2時間も語り合う程の盛り上がりを見せました。
この時は「なぜフグの卵巣をぬか漬けすることで、毒性が無くなるのか?」という “問い” が生まれましたが、人の心がワクワクすることから良質な “問い” は生まれるのだと身をもって感じました。
カードゲームの「ワクワク感」から探究学習ワークブックで “問い” づくり
しかし探究学習において、全生徒がワクワク感を起点に “問い” を生み出すのは容易ではありません。
では、カードゲーム体験を通してワクワク感の自覚を促し、そこから探究学習に活かせる “問い” づくりへ昇華できるとしたらどうでしょうか。
当社の「カードゲーム×探究学習プログラム」では、以下のようなプロセスで生徒一人ひとりが “問い” を生み出していきます。
- ゲーム体験
クラス全員が一丸となってゲームに夢中になることで、思わぬ協働や対話が生まれ、強いワクワク感が引き出される。 - 全体の振り返り
自分がどんなところでワクワクしたのか、どんなところに感情が揺さぶられたのかなど、ワクワク感の源泉に自覚を持つ。 - 関心事の掘り下げ
ゲームで使用した多種多様なカードから1枚だけ「最も関心のあるカード」を選択することで、自分の興味関心を「今」は言語化できなくても、カードを使って “問い” を生み出し、深く掘り下げていくことができる。
このプログラムには、学習教材として専用の探究学習ワークブックがあるため、多忙な教員の皆さんがカリキュラムを細かく設定する必要はなく、すぐに探究学習のスタートを切ることができます。
これにより「生徒が主体的に取り組むためのカリキュラム設計が難しい」という課題はクリアされ、「調べ学習で終わってしまう」という悩みに対しても、教員向けの “問い” の掘り下げ方のガイドを備えることでサポートしています。
“問い” 続けることで未来は拓かれる
探究学習においてより良い成果物を生み出すには、より良いプロセスを踏むことが大切です。むしろ、成果物よりもプロセスにこそ大きな意味があり、生徒自身が成長していくための大切な時間だと捉えます。
そして、探究学習は「成果物を作って終わり」ではありません。
真の目的は、自ら探究し続けることで様々な能力を伸ばし、未来を切り拓くこと。すなわち「生きる力」を身に付けることにあります。社会に出てからも探究学習から得た学びを活かしてこそ、真の目的が達成されたと言えるでしょう。
VUCA時代(予測不可能で正解のない時代)と言われる現代において、子ども達が明るく輝かしい未来を切り拓けるよう、私たち大人も一緒になって “問い” 続けたいと思っています。
ご案内
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
「カードゲーム×探究学習プログラム」を体験したいと思ってくださった方は、是非、ご体験ください。
また、カードゲームを活用した研修やワークショップによって、お客様(クライアント様)の解決策を提案するコンサルタントや、ゲーム研修を運営する研修講師、カードゲームコンテンツを世に広げるプロジェクトマネージャーなど、私たちと一緒に働いてくださる仲間を募集しております。
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この記事の著者について
大槻 拓美(おおつき たくみ)
長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。
- 富山県滑川市総合計画審議会委員(2023年度~)
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