【フィンランド教育体験記】フィンランド教育の「就学前教育学校(プレスクール)」について

【フィンランド教育体験記】はフィンランド共和国のエスポー市に移住されている上田雄哉さんの視点で綴る、教育体験レポートです。

フィンランドについて

フィンランドは北欧(ヨーロッパの北東部)に位置し、面積は日本と同程度、人口約550万人、公用語はフィンランド語、スウェーデン語です。森と湖、サウナ、サンタクロース、オーロラ、いわゆる北欧デザイン、充実した子育て支援、ジェンダー平等、音楽、編み物など、様々な分野で知られている国です。
フィンランドの地図(Goolge Map)

著者プロフィール

yuyaueda

上田雄哉(うえだ ゆうや)

富山県滑川市出身、フィンランド共和国エスポー市在住。職業能力開発総合大学校の造形工学科を卒業後、民間企業で4年間勤務。2012年4月に行政(商業デザイン)職として富山市役所へ入庁し、12年間の在職中にデザイン振興業務、観光施設管理業務などを担当した。プライベートでは結婚を機に2013年11月から兼業主夫となり、娘の誕生後に延べ2年と9週間の育児休業を取得。2023年8月、夢だったフィンランド暮らしを妻の現地大学院進学を機に実現。大学院生の妻とエスポー市のプレスクールへ通う娘と3人暮らし。

フィンランド教育の「就学前教育学校(プレスクール)」について

こんにちは、フィンランド在住の上田雄哉です。

2023年の8月にフィンランドのエスポー市へ妻と6歳の娘の家族3人で移住し、娘が就学前教育学校(プレスクール)に通っています。教育水準が高いと言われているフィンランドで実際に娘が通っているエスポー市のプレスクールを中心に、娘が体験したことをフィンランド教育の一例としてご紹介したいと考えています。

前回の記事はこちら。

今回お届けする内容は「フィンランド教育の『就学前教育学校(プレスクール)』について」。娘が通っているエスポー市のプレスクールの申し込みから登園初日の様子をお伝えします。

それではどうぞ!

プレスクール&保育園探し

フィンランドへの移住が決まってから数週間後の2023年6月中旬頃、エスポー市の幼児教育を担当する部署へメールにて問い合わせ、「エスポー市に日本から移住するため、9月からプレスクール及び保育園に入学したい」という旨を伝えました。

(後で詳しく述べますが、プレスクールは保育園の年長課程の中にプログラムとして組み込まれています。保育園は生後数ヶ月から6歳まで、プレスクールは6歳を対象としています。)

英語にてすぐにご対応くださり、申し込みフォームをいただきました。配慮が必要な事柄として「娘が英語もフィンランド語も話せず、日本語のみ話す」ことを記載し、申し込みました。

「受け入れ先が決まり次第ご連絡します」とお返事をいただいた後、8月中旬にフィンランドへ引っ越ししても連絡がなかったため、エスポー市へ再度問い合わせをしたところ、翌日に受け入れ先のプレスクール及び保育園の園長先生から娘の受け入れが決定した旨の電話がありました。

お電話をいただいた際、「娘はフィンランド語も英語も話せないため馴染めるかどうかとても心配しています」と伝えたところ、「大丈夫、心配ないですよ。ゆっくりやっていきましょう」と温かい言葉をかけていただきました。

同じ日のうちに担任の先生からもお電話があり、明るくポジティブな雰囲気が電話越しからも伝わる素敵な方で、とても嬉しくなったことを覚えています。

まずは娘にアレルギーなど、健康上配慮するべきことがないかなど、基本的な事柄の聞き取りをされてから、「毎日外遊びがあるため、カッパの上下と長靴を準備してください」と伝えられました。また、娘が好きなことや遊びについて聞かれ、お絵かきや工作が好きだと伝えると「毎週アートのクラスもあるのできっと楽しんでくれると思いますよ」と教えてくださいました。

また、「毎週金曜日はミニ遠足があり、他にも体操教室やパーティーなど、たくさん楽しいイベントがありますから楽しみにしていてくださいね」とのことでした。担任の先生にも娘が日本語しか話せないことを伝えると、「そのことは全く心配しなくて大丈夫です」と明るくキッパリ言われました。

苦手なこととして、好き嫌いが多く、野菜と果物全般が食べられないことを伝えると「そんな子はいっぱいいますから、大丈夫ですよー」と笑っておられました。とにかく「こちらは受け入れ準備万端ですから何も心配しないで来てくださいね!」という印象で、娘にも先生方の言葉を伝えました。

実は、移住が決まってから「フィンランドに行くのは楽しみだけど、保育園は言葉がわからないから嫌だな。行きたくないな。どうしても行かなきゃだめ?」と言っていた娘。

ですが、登園の数日前に私と2人で子ども達が遊べる屋内遊技施設に行った際、同年代の子ども達が遊んでいるのをじっと見て、「私も早く保育園に行きたいな」と初めて言い出しました。

不安だった娘の気持ちは、行き先が決定し、先生からの話を聞いたことで楽しみな気持ちに変化したようでした。

登園初日に娘がフィンランドで初めて見た野生のうさぎ

ドキドキの登園初日

初日は、9時から11時まで親が付き添って過ごしてそのまま帰り、翌日からは様子を見ながら付き添いなしで預かっていただく予定でした。当然のことながら、私達両親も娘も初めての海外での登園に不安がいっぱいです。

ドキドキしながら入口に到着すると、玄関が複数あり、迷ってしまいました。

そんな時、1つの玄関がパッと開き、突然「こんにちは!」とニッコリ日本人の先生が出迎えてくださり、とても驚きました。日本人の方がいらっしゃるとは聞いていなかったのです。娘より小さい子たちのクラスの先生ですが、日本語で娘が話せる先生がいらっしゃることにとても安心しました。

担任の先生に案内され、9時から11時まで一緒に園に入らせていただき、園内の案内や説明を受けました。

  • 義務教育であるプレスクールの時間は9時から13時まで
  • 9時前の朝と13時以降も保育園として預かることができる
  • プレスクールの時間と、13時から14時までは保育料がかからない
  • 夕方は17時まで預かることができる
  • 授業料・教材・文房具・給食は無料
  • 朝は8時15分までに登園すると、朝食も無料でいただくことができる

これらの説明がありました。

登園するとまず、自分で遊びを決めます。壁には十種類程のおもちゃや遊びの写真が貼られています。その中からどれをしたいか決め、自分の名前を遊びの枠内につけることから始まるそうです(余談ですが、園内の掲示物はほとんどが「練りゴム」で貼られており、テープやマグネットは見かけませんでした)。

娘は朝のお集まりの際に、クラスメートの前で担任の先生に紹介され、「先々週に日本からフィンランドに来たよ。この子は日本語を話すよ、フィンランド語はまだ話さないよ」と説明されていました。

教室の後ろに座って見学させていただくと、クラスメートには、娘と同じように外国から来たと思われるフィンランド語が母国語ではない子も複数いるのが見受けられ、とてもインターナショナルな環境であることが分かりました。

先生の数は20人の園児に対して5人と、多いなと感じました。後で聞くと、特別なケアが必要な子がいるため、正規の先生の他に補助員のスタッフの方がいらっしゃり、担任の先生自身も「5人も大人がいるクラスは初めて」と言っておられました。

娘が登園した初日のプレスクールでは、日時や曜日、数字などの基本的な事柄の他に、その日のテーマとして、友達や他人への適切な接し方について学んでいました。体の仕組みや、自分のプライベートゾーンとして他人に触らせてはいけないところ、「もしも他人に触られて嫌な思いをしたら、すぐに嫌だと相手に伝え、逃げる、他の大人に知らせる」などを、本やイラストの貼り紙、動画、歌、踊りなど様々な教材を使って教わっていました。

午前のプレスクールの時間が終わると、シール貼り。先生お手製の可愛らしくデコレーションされたポップな水槽のイラストの張り紙に魚のシールを毎日一枚ずつ貼っていき、プレスクールが100日になるとディスコパーティーをするそうです。

「保育園でディスコ!?」と驚きましたが、フィンランドでは幼少期からディスコを楽しむ文化があるようです。

クラスで色分けされ、外遊びの時に必ず着る蛍光反射ベスト

言葉が通じなくとも遊びは共通

娘は突然の全編フィンランド語の授業に、やはりとても緊張した面持ちで、次々と手を挙げて活発に発言するクラスメートの中で戸惑いを隠せず、不安そうな顔。先生のお膝に座らせてもらうなど、こんな状態で本当に馴染めるのかと少し心配になりました。

しかし、プレスクールの時間が終わり、マイナス15度になる日以外はどんな天候でもするという噂の外遊びの時間になり、娘と外に出ると、すぐに何人かの同じクラスの女の子が駆け寄って来てくれました。すると、娘はそれまでピタリとくっついていた私たちのそばをパッと飛び立ち、友達と身振り手振りでお互いにコミュニケーションをとりながら、笑顔で広い森のような園庭を駆け回り始めたのです。

初めて見る数人乗りのブランコのやり方などをその子たちに教わりながら、言葉は通じなくともすっかり友達と打ち解けた娘の楽しそうな様子、逞しい姿に感動しました。

担任の先生は、ニッコリしながら私に対して「ほら見て、何も心配ないでしょ!」と声をかけてくださるとともに、「明日からは、お気に入りのぬいぐるみを持ってきてください」と伝えられました。

保育園にぬいぐるみを持って行くなんて!と驚いていると、「自分のお気に入りを連れてくることで、離れていても家や家族の匂いも感じられ、本人の精神が安定し、園生活に良い作用があると考えていますよ」と言われました。

ちなみに、ぬいぐるみについてはフィンランドでも自治体や園の方針によって違うようで、他の園に通うフィンランド人のお子さんはぬいぐるみを持って行ってはいけないそうです。

私が(娘が駆け回っているのを眺めながら)先生と園庭で話をしていると、クラスメートの子が先生に「この子は私たちのクラスに来るの?」と確認しに来ました。

先生が「そうだよ」と言うと、その子は嬉しそうに笑って娘のところに戻って行きました。何人か同じ質問をしに来ては帰り、「みんな、娘さんに興味津々で、同じクラスかどうかとても気になるみたいね」と先生も笑顔でした。

異国から突然やってきた言葉も通じない娘を友達や先生が温かく迎え入れてくださり、本当にありがたく、嬉しかったです。

11時になり、初日の体験が終わると、娘は「もうちょっと遊びたかった」とすっかり馴染んだ様子。「明日からはお昼ご飯も食べるよ」と伝えると、最初に娘に声をかけてくれた友達の名前を何度も唱えながら覚え、明日を楽しみにしていました。

2日目以降の登園スタイル

さて、ここまでは娘のプレスクールの入園体験についてお読みいただきました。

お伝えしたいことがありすぎて、今回は初日の様子のみになりましたが、次の記事では最初の1週間の様子、施設や行事のことなどもお伝えしていきたいと思います。

就学前教育学校(プレスクール)について

ここからは、プレスクールについて制度の面からご紹介したいと思います。

入園するまで私もよく分かっていなかったのですが、フィンランドのプレスクールは保育園と別の学校に行くわけではなく、保育園の年長課程の中にプログラムとして組み込まれています。

小学校へ進学する前の基礎を作ることを目的として、遊びを通じ、各自の発達に応じた形で自己肯定意識と学び方を強化するそうです。プレスクールは義務教育で、全ての子どもたちに無料で早期教育の機会が提供されています。

就学前教育とは

  • 義務教育開始の前年に計画的に行われる教育・保育を指し、初等教育と同様に幼児教育・保育に直接関係します。
  • 通常1年間続き、年間最低700時間で構成されます。
  • 2015年から義務教育となり、子どもは、小学校の課程が開始される前年に、就学前教育または就学前教育の目的を満たすその他の活動に参加しなければなりません。
  • 子どもの親または保護者は、子どもが就学前教育、または就学前教育の目的を満たすその他の活動に確実に参加できるようにする責任があります。
  • 就学前教育グループには、教師が1人の場合は最大13人の子どもを含めることができ、グループ内に教師以外に適切な訓練を受けた大人がもう1人いる場合は最大20人の子どもを含めることができます。
  • 就学前教育を提供できるのはクラス担任と資格のある幼稚園教諭だけです。
  • 地方自治体には、義務教育が始まる各年に7歳に達するすべての住民を対象に就学前教育を組織する法的義務があります。

授業料等について

就学前教育 、教育に使用される学習教材、設備、必要な生徒のケアは無料です。さらに、子どもには無料の食事を提供する必要があります。必要に応じ、子どもは通訳やアシスタントのサービス、その他の教育サービス、教育への参加に必要な特別な援助を無料で受ける権利を有します。

また、通園が5キロメートルを超える場合、または通園が子どもにとって難しすぎる、疲れる、または危険な場合、子どもには無料の交通機関を利用する権利もあります。

成長と学習のサポート

就学前教育を受けている子どもは、支援の必要性が生じたときすぐに、発達と学習に必要な支援を受ける権利を有し、サポートには3つのレベルがあります。

  • 一般的なサポート
  • 強化されたサポート
  • 特別なサポート

さまざまな形式のサポートには、例えばパートタイムの特殊教育、アシスタントサービス、特別支援などが含まれます。これらのサポート形式は個別に使用することも組み合わせて使用することができ、サポートのあらゆるレベルで相互に補完します。

必要に応じて基礎教育における子どもへの支援も継続するため、基礎教育の開始時に支援の必要性と支援の形態を確認します。

上記の情報はフィンランド教育文化省及び教育委員会のホームページに詳しく記載されており、就学前教育は近年義務化された特色のある教育システムの一つだと思います。

今回の【フィンランド教育体験記】は以上です。
お読みいただきありがとうございました

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