【事例記事】森の問題について学び、職人としての仕事や視野を広げるカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」(岐阜県立木工芸術スクール)

団体名 :岐阜県立木工芸術スクール
業種  :木工職人養成学校
団体規模:28名

課題
  • 木工職人として自分たちが扱う木材の背景や森の問題について学び、職人としての仕事や視野を広げてもらいたい。

  • 職人としてコミュニケーションの必要性や大切さを実感できる場を提供したい。

  • 地元の方に飛騨高山の森林資源へ興味を持ってもらえるよう、高校と連携して実施したい。
解決策
  • 岐阜県立木工芸術スクールの授業に地元の高校生や地域の木工関係企業、林業関係の職員を呼び、学校職員も含めてカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を実施。
効果
  • 森の問題は林業関係者だけで解決できるものではなく、多数の関係者が必要なことを知り、現実に活かしていく糸口を見い出せた。

  • 林業に関わる様々な業種の人の存在や想い・背景を知り、意識することで自分のものづくりにも活かしたいという想いを訓練生が持てた。

  • ゲームを通じ、ものづくりにもコミュニケーションが必要なことが実感できた。

本稿では、岐阜県高山市にある岐阜県立木工芸術スクールの授業にて、2023年10月30日にカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を実施した際の様子をお伝えします。

当スクールの訓練生28名と職員、岐阜県立飛騨高山高等学校環境科学科の生徒21名、地域の木工関係企業、林業関係の岐阜県職員、地元市村職員、総勢64名が参加しました。

カードゲーム実施後には岐阜県立木工芸術スクールの教員や訓練生にインタビューし、今後の展望などについてお話を伺いました。

<お話を伺った方>

岐阜県立木工芸術スクール 校長 宮前良一様
岐阜県立木工芸術スクール 技術主査 菊地宏様
岐阜県立木工芸術スクール 訓練生 中村美紅様

<団体プロフィール>

岐阜県立木工芸術スクールは、家具業界で活躍する人材育成を目指す職業能力開発施設。

「飛騨の家具」「飛騨の匠」と呼ばれる木工産業の集積地である飛騨高山で、職業能力開発促進法に基づき、岐阜県が1946年に設立した。

高等学校を卒業した人や転職・再就職を希望する人が、木工の技術習得のための訓練を受ける。

普段の授業の様子

高山市について

岐阜県高山市は岐阜県北部に位置する、人口8万人程度の小都市です。全国有数の観光地のひとつ「飛騨高山」としても知られ、近年では全国有数のインバウンド観光の先進地域として成功し、世界各地から年間308万人(2022年度実績)もの観光客が訪れ、小京都「飛騨高山」を楽しんでいます。

平成の大合併により、日本一の面積を持つ市となった高山市は、森林率も92.8%あり、全国で最も森林面積の大きい市でもあります。

歴史情緒あふれる飛騨高山の古い町並み

飛騨は、昔から「飛騨の匠」と呼ばれる優秀な木工職人を育てる地域でした。現在でも、木工職人を多数輩出し、海外で認められる高級家具メーカーが複数あり、世界遺産に認定される祭りの山車をはじめとした文化・伝統を守っています。

「飛騨の匠」の歴史は奈良時代まで遡ります。飛騨国は豊富な森林資源に恵まれる一方、米が十分にとれなかったため、律令制度により優れた木工集団を派遣する見返りとして、租・庸・調のうち、庸・調という税が免ぜられていました。真摯で並はずれた腕を誇る木工集団は、いつしか「飛騨の匠」と称賛されるようになり、薬師寺・法隆寺夢殿・東大寺など幾多の神社仏閣の建立に関わり、平城京・平安京の造営に貢献し、日本建築史における黄金時代の一翼を担いました。

1,000年以上、日本を代表する木工職人を輩出してきたこの地域で、現在も歴史を受け継ぎ職人を養成している学校の1つが岐阜県立木工芸術スクールです。

今回は、本スクールの授業の一環として、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をご活用いただきました。

木工に携わる者として、自分自身が扱う「木」や「木が育つ環境」の事実や社会問題について知ってほしいと感じた

――なぜ、学校の授業でカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を活用しようと思われたのでしょうか。

宮前様:私たち岐阜県立木工芸術スクールでは、家具業界で活躍できるようになるための木工技術を教えています。

訓練生は、高校や大学卒業後に本スクールに入学する人もいれば、社会人経験を経て木工に携わりたいと入学する人など様々な経歴の人が入学してきます。在学期間は1年なので、非常に限られた時間の中で訓練生たちは日々みっちり家具づくりや木工に関する技術・知識を習得します。

私は、訓練生たちが社会人になった時の仕事に少しでも良い影響を与えたいと思っています。詰め込まれている環境の中で、ただ職人として決められた規格の範囲で椅子やテーブルをつくる技術を学ぶだけでなく、新しいカリキュラムを取り入れ、長い目で見た彼らの木工職人人生に寄与できる授業も提供したい。自分たちが扱う木材や木板が、製材所に来る前はどのような環境にあるのか、どんな過程でやって来るのかなどを自分の目で見て感じてもらうため、製材工場を見学する授業も始めています。

木の優しさやぬくもり、森の問題・背景を知ることによって、職人としての仕事や視野を広げてほしいと考えています。

また、一昔前の木工職人などは、寡黙な親方から「自分の背中を見て技を盗め」という時代もありました。しかし、現在は「職人」という仕事もコミュニケーション力が求められます。商品も自分がつくりたいものではなく、どんな物が世の中に求められているのかを知らなければなりません。

訓練生の中には「自分のつくりたいものをつくりたい」という人も多くいますが、仕事になるとそれだけでは成り立ちません。だからこそ、コミュニケーションの必要性に気づくそんな機会にもなったらいいなと思っていました。

菊地様:本スクールの訓練生は、お客様とコミュニケーションをとったりお金を稼いだりすることよりも、ものづくりが心から好きで、ものづくりに没頭したいという人が多くいます。一方で、ものづくりが好きだからこそ、人とコミュニケーションをとることはあまり得意ではない人も一定数います。

社会に出た先には自分のことだけ考えていればいいのではなく、周囲と協調することの大切さやコミュニケーションの重要性に気づいてほしいと思っています。コミュニケーションの必要性は、言葉で伝えてもなかなか伝わりません。

ゲームであれば、半ば強制的にコミュニケーションをとらざるを得ないので、気づくきっかけになるのではないかと考えていました。

――そのような中、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を導入いただいた決め手は何だったのでしょうか。

宮前様:カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」の存在を知ったのは、飛騨で有数の家具メーカーの社長の紹介でした。

その企業の2023年4月に行われた新入社員研修が国立乗鞍青少年交流の家で実施され、そこの職員がカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」のファシリテーターだったという経緯があります。その時に見学されていた会長と社長がゲームの様子を見て、「国産材の活用を進める当社にとっても自分たちの取り組みの価値を楽しく伝えられる非常に良いツールだ」と言われ、彼らが言うんだったら間違いないと思い、授業での実施を決めました。

そのため、当日は、岐阜県立木工芸術スクールの訓練生や職員のほか、飛騨高山高校の生徒、地域の木工関係企業、高山市・飛騨市・下呂市などの林業関係の職員も呼び、総勢64名で実施しました。

――今回、飛騨高山高校の2年生も呼び、交流も兼ねた授業を行われましたが、このような企画にされたのはなぜでしょうか。

宮前様:実は、本スクールは飛騨地域にあるのに、地元からの入学が非常に少ないことが課題です。

現在は、高校へ伺って説明などを行っていますが、そもそも木工や森林について興味・関心が薄い人が多い印象を持っています。必ずしも本スクールに入学しなくてもいいので、森や木工について関心を持つ人を増やしていかなければならないとも感じています。

そのような中で、2021年に岐阜県立木工芸術スクールと飛騨高山高校は連携協定を結びました。昨年は、本スクールに来てもらって見学・体験を行っていましたが、もっと両校の訓練生・生徒全員にとって学びになるものがあったらいいなと思っていました。

飛騨高山高校は、直接的に木工などのものづくりを学ぶ学科はなく、食品加工や林業について幅広く学ぶコースがあります。このゲームの話を聞いた時に、自分の勉強に直接関係なくとも、森林を多く持つ地元について興味関心を持ってもらうきっかけになるのではないかと高校の先生にもお話ししたところ、「両校にメリットがある」という話になり、共同での授業実施に至りました。

――実際に体験されてみて、いかがでしたか?

宮前様:生徒たちが目の色を変えて楽しんで取り組んでいる様子が印象的でした。

1チームあたりの人数が多いと自分のチーム・他のチームのたくさんの人と交渉・コミュニケーションを行わなくてはならず、しかも対面同士でのゲームになるので、コミュニケーションの重要性に気づいてもらえたようでした。また、両校の訓練生・生徒共に普段は先生から技術を学ぶという受け身の立場なので、自ら能動的に動かなければならない環境も良かったと思います。

菊地様:普段の授業では見られない訓練生の一面が見られたことも良かったです。

「この子はこんな一面もあるのか」と驚きがありました。訓練生はどうしても受け身になってしまうことが多いので、ゲームでは主体的にならないといけなかったり、初対面同士で互いのことを気遣ったりする経験ができたことも良かったです。

私自身は、自分の技術を地域のために使うにはどうしたらいいのかを考えさせられました。

これまで、海外からの輸入材を大量に仕入れて活用するほうが、最終的にお客様に少しでも安く良いものを届けられる実情がありました。そうした大量の木材を使うからこそ、木材を効率的に上手く扱う技術や知識も身に付いたと言えます。

しかし、今回の体験で、海外木材だけでなく地域にある木も適切に使い、地域に還元していく必要性に気が付きました。ゲームでは自分の所持資金を増やすことがゴールのプレイヤーがいますが、森の木が使われないままだと彼らは稼ぐことができません。適切に木を使い、植林など森の手入れをし、育った木を使う循環が必要です。

これからは、これまで培ってきた技術を地域や身近な人たちに対しても意識して使いたいと思いました。地域との交流を持っていけば、自分の技術が地域のために役立てるのではと感じています。

本スクールの訓練生にもこの学校で自分の強みとなる技術を学んでもらい、自分のつくりたいものだけをつくるのではなく、卒業後はいろいろな人と繋がりを持って様々な情報に触れ、社会と関わりながら木工職人として活躍してほしいと思いました。

中村様:ゲームというと敵を倒すものが思い浮かびますが、このゲームはみんなと協力しなければならないことが分かる、新しい感覚のゲームで楽しかったです。

小学校の調べ学習で自然環境について学んだ際は、森林イコール林業の人というイメージしかありませんでしたが、このゲームを通じて森林にはこんなにも様々な業種が携わっていることを実感し、いろいろな業界と繋がっていくべきだと感じました。

私は、大学で建築やインテリアを学んできましたが、元々ものづくりが好きだったため、職人になりたいと本スクールに入学しました。以前は、自分がつくりたいデザイン・つくりたいコンセプトでものづくりをしたら良いと思っていたのですが、このゲームを通じて、林業と一口に言っても様々な業種の人が携わっていることを実感しました。様々な業種の人が携わっているからこそ、自分の意思だけでなく、前後にいる人の想いや背景を意識することで、自分の商品づくりへの可能性も広がると感じました。

例えば、飛騨の家具メーカーのひとつである飛騨産業は、元々、柔らかさから家具の製作には向かないとされてきたスギ材を “圧縮技術” によって活用することで、新たな価値を見出し、世界的に有名な高級家具に仕立てました。このように林業に取り組む人からきちんと情報を得て、情報を消費者に届けることができれば、モノの付加価値も上がりますし、自分自身が職人としてつくるモノの幅も可能性も広がると思います。ゲームでも自分の発信が大切だという話がありましたが、まずはいろいろなことに興味を持って知ることを意識したいと思いました。

――今後は、どのように活用していく予定ですか?

宮前様:できるだけ画一的な授業にしないことを意識しているため、良いものは積極的に取り入れたいと考えています。

今回の授業に参加してくれた教員にも相談したところ、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」の導入は非常に良いと言ってくれたので、来年度、本スクールの教員にこのカードゲームの公認ファシリテーターライセンスを取得させたいと思っています。来年も飛騨高山高校と連携して、このゲームを体験する授業を継続して行いたいです。

また、本スクールの職員の時間にも限りがあるため必ずできるかは分かりませんが、飛騨地域の子どもたちがもっと地元の森や自然に関心を持ってもらえるよう働きかけていく必要はあると思っています。将来的には地元のNPO等多組織と連携して地域の学校などに対してもこのゲームを実施できればいいなと感じています。

研修内容

  • 組織の属性
    職業能力開発施設(~30名)
     
  • 研修の目的
    ①木工職人として自分たちが扱う木材の背景や森の問題について学び、職人としての仕事や視野を広げる
    ②職人としてコミュニケーションの必要性や大切さを実感する
    ③高校と連携して実施し、地元の方に飛騨高山の森林資源へ興味を持ってもらう

  • 研修受講者
    64名(岐阜県立木工芸術スクールの訓練生28名と職員、岐阜県立飛騨高山高等学校環境科学科の生徒21名、地域の木工関係企業、林業関係の岐阜県職員、地元市村職員が参加)
     
  • 研修実施日
    2023年10月30日

研修プログラム

  1. 導入(20分)
    ・研修の目的共有
    ・チェックイン
    ・講義(森について) 
     
  2. ゲーム体験(75分)
    ・ルール説明
    ・ゲーム実施

  3. ワーク(75分)
    ・対話(ゲーム体験を振り返る)
    ・対話(ゲーム内での森への関心度合いによる影響を振り返る)
    ・講義(日本の森の現状の説明)
    ・講義(森や自然から学べること。岐阜県内にある企業の取り組みを紹介)
    ・対話(学びの共有、今後のアクションの言語化)

研修の様子

最初は緊張の面持ちで自席で考え込んでいましたが、少しずつ交渉が始まりました
高校生も訓練生も地元企業の方も最後は打ち解けて楽しそうにゲームを体験

研修受講者の声

“同じ机の方々が心強くて助かったし楽しかった。知り合いだったり仲のいい人だとより楽しめると思う”

“環境保全のためにお金をさくのではなく環境保全と金もうけをつなげることができるのがすごいと思った”

“森と人だけでなく、森と関わる人同士も寄り添っていかないと森と私達の生活は存続していかないのだということを学ぶことができました”

“ゲームのシステムも面白かったが、自分のチームのことだけを考えていてはうまくいかず、足を動かして様々な組織と繋がりを持つことが重要だという現実にも繋がる部分を感じ面白かった”

“自分1人でも必死に行動を起こせば望む未来に近づける、というのは実感できました。しかし、そこに絡んでくるお金や思想の問題でうまくいかないことも実感しました。総じて良い経験になりました”

ご案内

山の所有者、森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカー、学校の先生など様々な仕事やゴールを持った10種類のプレイヤーたちが、仕事や生活のアクションを繰り返し、森と私たちの未来が刻々と変化する中で「森の未来」について考えるゲーム。

それがカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」です。

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