不動産業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例
- 最終更新日:2024-06-05
不動産業界がつくる建築物は、企業の事業活動や人々の生活の拠点となり、その営みの中で排出されるGHG(Greenhouse Gas|温室効果ガス)は膨大な量になります。
日本全体のカーボンニュートラルの実現に向けては、不動産業界の取り組みが必要不可欠であると言っても過言ではありません。そこで本稿では、不動産業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。
<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。
不動産業界のカーボンニュートラルの課題:省エネ・創エネ対策
断熱設備や省エネ機器等の導入によって必要なエネルギーを最小限にする省エネ対策。そして、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入によって必要なエネルギーを創る、創エネ対策。
この省エネ・創エネ対策が、GHG排出量の削減に寄与するインパクトの大きさの観点で、不動産業界におけるカーボンニュートラルの一丁目一番となる重要課題です。
<関連キーワード>
- ZEH(ゼッチ|Net Zero Energy House)
省エネ対策により省エネ基準から20%以上の一次エネルギー消費量を削減した上で、再生可能エネルギー等の導入により、100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅
- ZEB(Net Zero Energy Building)
省エネ対策により省エネ基準から50%以上の一次エネルギー消費量を削減した上で、再生可能エネルギー等の導入により、100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす建築物
省エネ・創エネ対策の取り組み事例
住友不動産
年間80万戸ほど供給される新築住宅ではZEH化など環境性能の向上策が進んでいる一方で、5,000万戸超の既存住宅の省エネ推進や脱炭素化に向けた有効な議論・施策がほとんど進んでいない状況に対して、住友不動産では住宅再生事業「新築そっくりさん」を通じて、既存の戸建住宅の省エネと創エネによる脱炭素化に取り組んでいます。
“「新築そっくりさん」は、1995年に発生した阪神・淡路大震災で低耐震性が理由で多くの住宅が倒壊し、数多くの尊い命が犠牲になったことを踏まえ、戸建て住宅を「建替えより安く、地震に強い住宅に再生できないか」という想いから始まった。戸建て住宅の構造躯体は残しつつ、壁面や天井、床、内外装までを一新し、耐震補強や断熱施工を施して住宅性能を向上することで、安心・安全で快適な住まいへと再生するリフォーム商品だ。
2021年12月から2022年3月にかけて、東京大学、武蔵野大学と共同で「新築そっくりさん」の環境負荷の低減効果について実証研究を行い、実際の施工事例において、建替えに比べて建設時のCO2排出が47%削減されていることが分かった”
不動産業界のカーボンニュートラルの課題:GHG排出の見える化
建物の建設時におけるGHG排出量は「工事金額」に対して環境省が定める排出量原単位を乗じることにより算出されています。
しかし、この手法は工事総額により排出量を簡便的に推測できるものの、工事総額金額の多寡により排出量が変動する、工種毎の排出量を把握できずにサプライチェーンにおける具体的なGHG削減策が反映されない、などの課題を抱えています。
GHG排出の見える化の取り組み事例
三井不動産
三井不動産では、街づくりの「プラットフォーマー」としての役割を果たすために、脱炭素化に向けた適切な指標づくりと、GHG排出の見える化ルールの形成・普及に取り組んでいます。
具体的には、2022年に「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定・公表し、従来の算定式「排出量=総工事金額×排出原単位(kgCO2/円)」とは異なり、工種や資材別に排出量の見える化を可能にしました。
さらに、不動産協会内にて検討会を組成し、協会のマニュアルとして2023年6月に公表。取り組みの第一歩として、三井不動産グループのサプライチェーンの企業に対し、2023年10月以降着工する全物件にマニュアルを活用した算出を義務化しました。
同社は、この業界初の取り組みを業界全体に広めるべく推進していく考えです。
不動産業界のカーボンニュートラルの課題:環境負荷が低い建材活用
2023年4月15~16日に開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、建物のライフサイクル全体の排出量を削減する目標の推進を推奨することが成果文書に盛り込まれました。
資材や建設・廃棄時のGHG排出量(エンボディードカーボン)を減らしていく課題の重要度は今後も高まり続けることが予想されます。
環境負荷が低い建材活用の取り組み事例
三菱地所
三菱地所グループの三菱地所レジデンスでは、環境負荷が低い建材の利用を推進しています。
“三菱地所レジデンスでは、2022年1月に「CO2排出量削減戦略」を打ち出し、CO2排出量を2030年までに2019年比で50%削減することを掲げ、マンション建設時の排出量を把握、マンション建設において排出量の大きいコンクリートに着目し、分譲・賃貸の原則全てのマンションの現場造成杭においては CO2排出量が少ない高炉セメントを配合したコンクリートに順次切り替え、すでに14件に導入しています。今般、さらに排出量削減を加速させるため、建物の地上部分について環境配慮型(普通コンクリートに比してCO2排出量の少ない)H-BAコンクリートを採用するに至りました”
野村不動産
野村不動産グループでは、「国産・FSC認証木材使用促進」の推進を通じて、木を植え育て活用する「森林サイクル」で地球温暖化抑制に貢献しています。
“日本は国土の約3分の2を森林が占めており、その約6割は人が木を植え育てた「人工林」です。この森林資源は毎年約1億立方メートル程度増加しているのですが、そのほとんどが人工林の成長によるもの。実は人工林の多くが木材として利用可能になっているにもかかわらず、ほとんど使われていないという現状があります。しかも木は成長する段階でより多くCO₂を吸収し酸素を放出しますが、成熟するにつれてCO₂の吸収は減少。一方で木が吸収したCO₂は炭素として木の中に蓄積されるため、建物に木材を使用することは長期に炭素を蓄積することとなりCO₂の固定化につながります。つまり成熟した木は切って使い若い木を植える「植える→育てる→使う→植える」という『森林サイクル』が森の新陳代謝を促すために必要なのです。この『森林サイクル』により森林整備が進むと、土砂崩れなどの自然災害を防ぐという森の動きを発揮することになります”
“社会背景に加え生物多様性保全と資源の持続可能な利用に配慮するという観点から、野村不動産グループでは「国産・FSC認証木材使用促進」を推進。中でも国産木材活用は森林サイクル保全による自然災害の防止やCO₂削減等持続可能な街づくりに欠かせないと認識しています。2020年より、独立した共用棟を設置する場合は、原則、木造に、独立した共用棟を設置できない中小規模の集合住宅においても、共用部の壁、床などの内装や、建具、家具等に国産木材を使用しております。木造共用棟を設置した「プラウド練馬中村橋マークス」(2022年竣工)では、構造材に信州カラマツのLVL(単板積層材)を使用しただけでなく、仕上げ材やテーブルや椅子に至るまで国産木材を使用しています”
カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内
私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。
私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。
カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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