金融業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

私たちの経済社会における血液の役割を担うお金をビジネスとする金融業界はカーボンニュートラルの実現に向けて取り組む業界・企業へのファイナンス(資金供給)やサービス提供を通じて、脱炭素社会への移行を支援する役割を担っています。

そこで本稿では、金融業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

金融業界のカーボンニュートラルの課題:ファイナンス支援

カーボンニュートラル実現の要となる再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンス。

債券の発行代わり金の資金使途を持続可能な環境・社会の実現に貢献するプロジェクトに限定する債権(グリーンボンド/ソーシャルボンド/サステナビリティボンド)。

脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実なGHG削減の取り組みを行う企業を支援するトランジション・ファイナンス。

個人や企業が預けたお金をもとに、銀行が気候変動をはじめとした環境問題の解決に貢献するプロジェクトだけに融資を行うグリーン預金。

金融業界だからこそできる様々なファイナンス支援を拡充させていくことが、金融業界の最も重要なカーボンニュートラルの課題に挙げられます。

ファイナンス支援の取り組み事例

MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)

MUFGではサステナブルファイナンスや再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンスなどのファイナンスを通じたカーボンニュートラル社会へのトランジションに力を入れています。

“MUFGはルールメイキングだけでなく、ファイナンスを通じたトランジションの推進にも力を入れており、2019年度から2022年度までの累計で24.6兆円(環境分野で9.1兆円)のサステナブルファイナンスを組成しました。特に、再生可能エネルギー市場については、創成期から積極的に参画してまいりました。2010年度から2022年度までの再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンスの組成額は累計約616億米ドルであり、CO2削減効果に換算すると、約257百万トンと日本の1年間の排出量の約25%相当となります”

参考:MUFGトランジション白書2023の発行について

岩手県

岩手県では、2024年グリーンボンドとブルーボンドをセットにした50億円分の県債を発行することを公表しました。

“岩手県は去年7月、気候変動対策など、環境分野に使いみちを限って資金を調達する債券「グリーンボンド」と、海洋資源や生態系の保全に役立てるための「ブルーボンド」をセットにして50億円分の県債を発行しました。

県によりますと、投資家から104件の投資表明があり、調達した資金は、防波堤や護岸などの整備に8億1100万円、河川の改修事業に5億6100万円、砂防事業と急傾斜地の崩壊対策事業に3億5800万円が充てられるなどしたということです。

県によりますと、ことしもグリーンボンドとブルーボンドをセットにして、「グリーン/ブルーボンド」として50億円分の県債を発行するということです”

参考:岩手県 グリーンボンドとブルーボンドをセットに県債発行へ|NHK

三井住友フィナンシャルグループ

三井住友フィナンシャルグループでは、トランジションファイナンスに関する自社の定義・判断基準等を示す「Transition Finance Playbook」を2023年5月に発行しています。

“世界全体で早期にカーボンニュートラルを実現するためには、アジアを中心とする新興国や脱炭素化に向けて技術的・経済的に代替手段が限られ、一足飛びに移行することが困難な高排出セクターの移行を支援することが重要です。

我々金融機関は、脱炭素化やトランジションに資するか否かを見極めつつ、お客さまの取組みを深く理解し、持続可能な脱炭素化やエネルギー転換を促進するトランジションファイナンスを提供する役割を担っています。トランジションファイナンスを通じて実体経済の脱炭素化に貢献していきます。

SMBCグループは、トランジションファイナンスを「顧客が自社の事業や運営を、パリ協定の目標に沿った道筋に合わせることを支援するために提供される金融サービス」と定義し、SMBCグループの期待事項、判断方法の詳細を示したTransition Finance Playbook(以下Playbook)を策定しました”

参考:Transition Finance Playbook 2.0

野村グループ

野村グループでは、トランジション・ファイナンスの取り組みに力を入れる他、サステナブル・ファイナンス案件への関与を積極的に進めています。

“社会の脱炭素化に向けた取り組みのためには2050年までの30年間で累計150兆米ドルもの資金が必要と言われています。中でも、企業が低炭素社会への設備投資や研究開発に必要となる資金を調達する「トランジション・ファイナンス」の役割が注目されており、日本では政府による脱炭素成長型経済構造移行債(GX経済移行債)の発行も予定されています。

当社はこのトランジション・ファイナンス分野での取り組みが評価され、2023年4月、英国Environmental Finance誌が発表したBond Award 2023において、Lead Manager of the Year, transition bondsを受賞しました。また当社では、2021年度から2026年3月までの5年間に合計1,250億米ドルのサステナブル・ファイナンス案件に関与するという目標を設定し、2022年度までに累計約466億米ドルの実績を上げています”

参考:Nomura Report 2023 (P40)

IHI×みずほ銀行

IHIでは、みずほ銀行と2023年9月に策定した「サステナブルファイナンス・フレームワーク」に基づき,「トランジション・ローン」の融資契約を締結しました。

“本融資は,IHIが5月に発表した「グループ経営方針2023」における,ESG経営の一層の推進に向けた取り組みのうち,航空機の軽量化や航空機エンジンの電動化を中心とした航空エンジン・ロケット分野や,アンモニアを中心としたクリーンエネルギー分野への投資をはじめとした,IHIが策定した本フレームワークで定める適格プロジェクトに係る新規投資又は既存投資のリファイナンスを資金使途としています

参考:みずほ銀行と「トランジション・ローン」の契約を締結 |株式会社IHI

三井住友信託銀行

三井住友信託銀行では、個人のお客様に預入期間5年の米ドル建て外貨定期預金を「グリーン預金」として取り扱っています。

“「環境改善に貢献したいけど、何からはじめればよいのかわからない」「寄付は難しいけれど、もっと気軽に環境改善に貢献できる方法はないかしら」。三井住友信託銀行は2021年6月1日に邦銀初の個人向け「グリーン預金」の取り扱いを開始しました。

当初は期間限定での取り扱いでしたが、そのようなお客さまからの声にお応えし、もっと気軽に、資産形成を行いながら環境改善に貢献できるよう、預入期間5年の米ドル建て外貨定期預金を「グリーン預金」として新たに商品ラインアップに追加しました。

お客さまが安心してご資金をお預け入れできるよう、グリーン預金の資金使途は、第三者認証機関であるサステイナリティクスと共同で作成しております「グリーンプロダクトフレームワーク」に則り、原則、太陽光・風力発電をはじめとする再生可能エネルギー、環境不動産など、環境改善に資する事業に限定させていただきます。また、定期的に資金使途についてのレポートもご提供いたします”

参考:グリーン預金(預入期間5年米ドル建て外貨定期預金)|三井住友信託銀行

SBI新生銀行

SBI新生銀行では、炭素社会の実現に向けたZEHの普及を目的に、2024年4月1日より環境配慮型住宅(ZEH等)への住宅ローン優遇金利プログラムの提供を開始しています。

“本プログラムは、政府が掲げる第6次エネルギー基本計画における「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」、「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」とする目標を踏まえ、お客さまが当行の住宅ローンを利用してZEH基準を満たした住宅をご購入される際に、優遇金利を提供するものです。

SBI新生銀行グループは、環境・社会の課題解決に取り組まれる法人や個人のお客さまに対して、資金提供を通じ、支援を行っております。「SBI新生銀行グループの中期ビジョン」においては「環境・社会課題解決へ向けた金融機能提供」を掲げており、本プログラムはその具体的な取り組みのひとつです。今後も、お客さまのサステナビリティ課題に対する積極的な取り組みを通じて、お客さまとともにより良い未来の創造を目指してまいります

参考:環境配慮型住宅(ZEH等)への住宅ローン優遇金利プログラム提供開始のお知らせ[SBI新生銀行]

金融業界のカーボンニュートラルの課題:中小企業の脱炭素支援

中小企業のカーボンニュートラル・脱炭素を支援することには大きく2つの意義があります。

1つはインパクトの大きさ。日本の全企業数のうち99.7%を占める中小企業の脱炭素化が進むことの影響力は図り知れません。

もう1つは支援の必要性。中小企業では資金や人材・ノウハウの不足がカーボンニュートラルに取り組む上での足枷になっている状況に対して、第三者による支援が求められています。

中小企業の脱炭素支援の取り組み事例

七十七銀行

七十七銀行では、サステナビリティの取組みの中で取引先とのエンゲージメント強化を掲げ、取引先の脱炭素に向けた支援体制を拡充させています。

<ソリューションメニュー>
・CO2排出量可視化サービス(2022年9月取扱開始)
・カーボン・クレジット活用支援業務(2023年12月取扱開始)
・77脱炭素ナビゲーター(2024年1月取扱開始)

<ファイナンスメニュー>
・77 Seven Goals(2023年3月取扱開始)
・77サステナビリティ・リンク・ローン(2023年4月取扱開始)
・77ポジティブ・インパクト・ファイナンス(2024年3月取扱開始)
・77私募債(寄付型/カーボンオフセットコース)(2024年4月取扱開始)

<人材育成>
・サステナビリティ推進の専担者配置(2023年10月より配置)
・脱炭素に関する対話ツールの制定(2024年6月予定)
・脱炭素アドバイザー認定試験の活用(取得者177名)

参考:04事業戦略|七十七銀行|2023年度

愛知銀行×バイウィル

愛知銀行では、カーボンクレジットを軸としたカーボンニュートラルの推進支援サービスを手掛けるバイウェル社と顧客紹介契約を締結し、愛知県の脱炭素・カーボンニュートラルおよびサーキュラーエコノミーの推進に向けた連携を強化しています。

“日本全国47都道府県のカーボンニュートラルの実現を目指すバイウィルは、各地域におけるカーボンクレジットの創出および流通を促進し、環境価値と経済価値の両立を図る取り組みを進めています。バイウィルのカーボンニュートラル実現に向けた各種サービスと愛知銀行の地域ネットワークの結集により、愛知県における脱炭素社会の実現に向けた一層の進展を目指してまいります

参考:愛知銀行との顧客紹介契約を基にした、愛知県の脱炭素・カーボンニュートラルへの取り組みの推進について|株式会社バイウィルのプレスリリース

徳島大正銀行

徳島大正銀行では、2024年6月4日、脱炭素関連事業などを営む子会社の設立を発表しました。

“地域を取り巻く環境は、人口減少や少子高齢化の進展等による人材・労働力不足、後継者不在による事業承継問題など、企業経営における課題が山積しております。また、気候変動問題や脱炭素社会への取組みなど、地域社会全体としての課題も存在しております。こうした環境下、地域金融機関には、持続的な地域社会を形成するため、お客さまや地域の課題を解決し、地域経済の活性化や持続可能なまちづくりに貢献することが強く求められております。

こうした中、当社では、まずは徳島県において、地域の脱炭素化の推進や、豊富な自然資本を活用した一次産業の活性化などを地域のみなさまとともに進めていくことが地域の持続的な発展につながると考え、当社子会社の徳島大正銀行において脱炭素関連事業などを営む子会社を設立することといたしました”

参考:当社子会社である株式会社徳島大正銀行による子会社の設立に向けた準備開始について|News&Information|徳島大正銀行

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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