従業員エンゲージメントとは?高める方法と企業の取り組み事例

従業員エンゲージメントとは何か。

その意味とビジネスシーンで注目されている背景、従業員エンゲージメントを高める方法と企業の取り組み事例について、分かりやすく解説します。

Contents(目次)

従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメントとは、従業員と企業とのつながりの強さを示す言葉です。

その上で、従業員エンゲージメントについて理解を深める上では、もう少し具体的な言葉の意味に迫る必要があります。ここで参考になるのは、人材版伊藤レポートの一節です。従業員満足度との対比で従業員エンゲージメントの意味を分かりやすく説明しています。

“現在の日本企業における組織と個人の関係性を見ると、日本は従業員エンゲージメントが世界各国と比較しても著しく低く、従業員が自律し、自発的な貢献意欲に溢れているとは言えない状況にある。

従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」を指す。

従業員エンゲージメントは、従業員満足と異なり、所属する組織、職場の状況、上司、自身の仕事などについて、「従業員が自身の物差し」で評価をするのが満足であるのに対して、「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについての自分自身の理解度、共感度、そして行動意欲を評価するのがエンゲージメントである”

参考:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~(METI/経済産業省)

本稿では、上記の内容を踏まえ、従業員エンゲージメントとは、企業への理解と共感にもとづく個人の主体的貢献意欲の強さであると定義します。

従業員エンゲージメントがビジネスシーンで注目される背景

人的資本経営の潮流

今、従業員エンゲージメントがビジネスシーンで注目されていますが、それは何故でしょうか。主な原因(理由)として、人的資本経営の潮流が考えられます。

ヒト・モノ・カネの経営資源と言われるように、人材は人的資源(Human Resource)として一般的に認識されています。資源とは消費するものであり、経営においては人材に係るコスト管理に主眼が置かれています。

これに対して、人的資本経営では人材は人的資本(Human Capital)であると考えます。そして、企業のマネジメントの方向性はコストの管理ではなく、投資です。つまり、人的資本経営とは、人材の価値を最大限に引き出すための投資を通じて、中長期的な企業価値の創造につなげる経営の考え方であると捉えられます。

日本においては、人的資本経営について国を挙げて取り組むべく、2023年1月に人的資本に関する戦略や指標などの開示を求める内閣府令が公布され、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本に関する情報開示が義務化されています。

このような潮流の中で、人的資本経営の様々な取り組みの結果指標に従業員エンゲージメントを用いるケースが増えてきています。これは、人的資本経営を通じた「従業員エンゲージメントの向上」への期待の表れであると捉えられます。

その一つの事実として、勤務先で人的資本経営の取り組みに関わっている、または関わる予定の計826名を対象とした人的資本経営・開示に関する現状調査(リクルートマネジメントソリューションズ社による実施)では、人的資本経営を通じて期待される成果として「従業員エンゲージメントの向上」を挙げる方の割合が最も多い結果が出ています。

“全体では「従業員エンゲージメントの向上(20.6%)」 「従業員のスキル・能力の向上(20.3%)」 「生産性の向上(18.8%)」の選択率が高く、これらは企業規模を問わず上位に位置している”

参考:企業の人的資本経営に対する問題意識や、今後の取り組み方針とは|人事データ活用|リクルートマネジメントソリューションズ

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人的資本経営に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(人的資本経営についての基本知識、人的資本経営が注目される背景をお伝えしつつ、人的資本経営に関する企業の取り組み事例を分かりやすくご紹介します)。

サステナビリティ経営の潮流

従業員エンゲージメントがビジネスシーンで注目されている背景には、環境・社会・経済の持続可能性に配慮するサステナビリティ経営の潮流もあります。

企業は、経済価値(自社の利益)のみを追求するのではなく、環境や社会への配慮と経済価値の両立が求められるようになっています。この社会という枠組みには従業員も含まれており、企業には、従業員の多様性を受け入れること(DE&I)や従業員の健康面・働きやすさ・ウェルビーイング(Well-being)の観点における支援をすることが求められています。

こういった支援を通じて、従業員に対する企業の在り方を示すことで、従業員エンゲージメントを高めることが可能です。

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サステナビリティについての詳細は下記の記事をご覧ください(サステナビリティの意味と意義、サステナビリティに関する企業の取り組み事例を分かりやすくご紹介します)。

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ウェルビーイングについての詳細は下記の記事をご覧ください(ビジネスにおけるウェルビーイングの意味と、企業の取り組み事例を分かりやすくご紹介します)。

従業員エンゲージメントを高める方法(企業の取り組み事例)

ここからは、先進的な企業の取り組み事例を交えながら、従業員エンゲージメントを高める方法をご紹介します。

MVVや経営の方針・戦略、組織文化や従業員の状況など、個別具体的なシチュエーション次第で従業員エンゲージメントを高める方法の最適解は変わるものですが、これからお届けする情報が貴社の従業員エンゲージメントを高める上でのヒントになれば幸いです。

エンゲージメントサーベイの活用

従業員エンゲージメントを高める上では、この言葉の具体的定義(何をもって従業員エンゲージメントとするのか?)と、その見える化(定量化)が大切です。

そうすることで、より良いスコアを目指した組織開発のPDCAサイクルを回すことができるようになります。この時、エンゲージメントサーベイはPDCAサイクルを回す起点として重要な役割を担います。

なお、これはエンゲージメントサーベイに限った話ではありませんが、調査はやりっぱなし(やっておしまい)になりがちだからこそ、調査の実施目的を明確にし、調査結果をどのように活かすのかを見定めておくことが肝要です。

また、エンゲージメントサーベイは従業員視点では「下手な回答をすると評価に響くのでは?」「やるだけ無駄」などの懸念が生まれやすいものです。サーベイを実施する側として、匿名性を担保する、調査目的・用途を事前に明示しておく、調査結果とその後の改善過程を全社に見えるようにするなどの様々な配慮や工夫が求められます。

ソニーの事例

ソニーでは、エンゲージメントサーベイを起点とした改善の取り組みを推進しています。改善に向けた動きを全社に共有している点や社員との対話を重視している点など、全社一体となった組織開発を進めている様子が印象的です。

“社員一人ひとりのエンゲージメントを高め組織の活性化を図る起点として、グローバル共通で社員エンゲージメント調査を実施しています。社員のエンゲージメントを持続的に高めるための重要な要素である、会社への信頼、価値創造、仕事の効率・効果、働きやすさ・働きがい、キャリア・成長、ウェルビーイングや多様な視点について社員の声を収集・分析し、さらなる向上を目指した重点領域の特定とアクションにつなげています。

ソニーグループで働く中で自身の成長機会があると感じる人が増加し、エンゲージメント指標としても昨年に引き続き良好な状態を維持していることを示す結果となりました。この調査結果に基づき、組織ごとに詳細を分析し、シニアマネジメントを中心に改善のための行動についての議論につなげています。また、その内容を、各社イントラネットや全体会同などで社員とも共有し、定期的に振り返ることで進捗を確認しています。

調査結果は即日各組織のマネジメントにも開示されることから、マネジメント自身も、自社や自組織の調査結果とメンバーから寄せられたコメントを踏まえて、各組織の課題に応じて組織内での社員との対話と改善活動を推進しました。このように、社員エンゲージメント調査を通じて現状を把握し、その結果を各組織における対話とアクションの実行にいち早くつなげることを重視しています”

参考:サステナビリティレポート 2023 人材

トヨタ自動車の事例

トヨタ自動車では、一人ひとりの幸福感と会社施策への納得感を調査する「Life Well-being」調査と仕事へのやりがいや職場への誇りを調査する「Work Well-being(従業員エンゲージメント)」調査を実施しています。

“Life Well-being結果は個人と経営層にフィードバックし、労使で対話と改善活動を推進し健全な職場風土醸成につなげる”

“Work Well-being(従業員エンゲージメント)結果は職場にフィードバックし、各組織で対話と改善活動を推進。職場起点で対話を主体にした組織づくり(ボトムアップ)と、会社の経営課題として取り組む風土づくり(トップダウン)の両面からの組織風土変革を推進”

参考:Sustainability Data Book(P98)

味の素の事例

味の素では、毎年エンゲージメントサーベイの結果を更新して、業績との相関分析を実施しています。そして、過去4回の結果から「志への共感」「顧客志向」「生産性向上」が一人当たりの売上高・事業利益に相関することが確認されました。

同社では、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value:企業が自社の売上や利益を追求するだけでなく、自社の事業を通じて社会が抱える課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されること)の創出に向けて積極的な人財投資を行っています。

今後、人財投資に関する取り組みと従業員エンゲージメントトスコアを結び付け、従業員エンゲージメントの向上にもつなげていく予定です。

参考:ASVレポート(統合報告書)2023(A4版)

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透

従業員エンゲージメントとは、企業への理解と共感にもとづく個人の主体的貢献意欲の強さであるという定義において「個人は、企業のどんなことに理解・共感を持ち得るのか?」という問いが生まれます。

ここで、真っ先に思い浮かぶものは、企業のMVVに他なりません。

Why(何のために存在しているのか)を表すミッション。What(どんな未来を実現したいのか)を指し示すビジョン。How(どうやって使命や役割を果たすのか)を宣言するバリュー。

自分のMVVを周囲に発信している人物(政治家や起業家、スポーツマンやアーティスト)を私たちが応援するように、企業は自社のMVVを発信し続けることが、従業員個人からの理解と共感を得ることにつながっていきます。

三井物産の事例

三井物産では、多様な「個」の発想力や価値観を活かして新たなイノベーションを生み出す機会とすべく、経営理念の浸透や先人や仲間たちの事例を共有するグループ内イベントを定期的に開催しています。

MVVの浸透を単発のイベントではなく、定例の取り組みとして、また、テーマを変えながら実施し続けている点がとても興味深いです(MVVは抽象度が高いものなので、テーマの切り口を変えてイベントを実施することでMVVへの理解を深めやすくする効果が期待できます)。

“2021年より社員参加型の全社イベントとしてMVV月間を年1回実施しています。各ユニット内でチーム・ディスカッションを実施し、多様な仲間と一緒に自らの価値観とMVVとを紐付けながら、いかにMVVを自分の仕事に落とし込み、日々の行動に反映していくかを皆で考える機会としています。

2023年6月に開催されたMVV月間ではValuesの一つである「多様性を力に」の浸透に焦点を当て、インクルージョンの体現に向けたワークショップなどを開催しました。当社の「挑戦と創造」の精神を支える価値観のもと、仲間と信頼の土台を強固にし、日々一歩ずつ皆で協力して課題を解決し、MVVを実践することで変革と成長を加速させることが狙いです”

参考:「未来をつくる」人をつくる人的資本レポート2023(P18)

LINEヤフーの事例

LINEヤフーでは、LINEヤフーグループのバリューを共有することで、独自のカルチャー創出につなげ、ミッションの実現に寄与することを目指しています。具体的には、経営と社員の定期的な対話機会の創出、社員間の交流促進など、様々な取り組みを進めています。

“経営層が考えていることや、決定されたことの背景などを社員に迅速かつダイレクトに伝え共有することは、新会社のスタート期にあたる現在においてはなおさら重要な取り組みと捉えています。

LINEヤフーでは、およそ月1回の頻度でオンラインでの全社員ミーティング「LINEヤフー All-Hands Meeting」を開催し、社長をはじめ経営幹部が社員に直接、施策や取り組み、その背景や判断の理由などを率直かつわかりやすく伝え共有する場として機能しています。

「LINEヤフー All-Hands Meeting」では日本語・英語・韓国語の同時通訳が提供されており、社員は自身が理解しやすい方法を選んで参加することができます。「LINEヤフー All-Hands Meeting」後には参加者アンケートも実施され、参加した社員の声はダイレクトに経営層にフィードバックされています”

参考:カルチャー醸成・モニタリング|LINEヤフー株式会社

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MVVに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(ミッションとビジョンとバリューの言葉の意味について、簡潔かつ明確な解説をしつつ、企業のMVVの事例をご紹介します)。

成長機会・活躍機会の創出

従業員エンゲージメント(企業への理解と共感にもとづく個人の主体的貢献意欲)が高まったとしても、実際に個人が貢献することができなければ(あるいは、貢献する機会を得づらい状況があるならば)従業員エンゲージメントの低下は避けられません。

ゆえに、従業員に対する成長機会や活躍機会を創出する、組織的な支援が重要になります。

日立製作所の事例

日立製作所では、職務(ジョブ)と必要なスキル・経験を明確化し、その職務を担える人財(タレント)を本人の意欲・能力に応じて登用する「ジョブ型人財マネジメント」への転換を加速させています。

国籍・性別・年齢などの属性によらず、従業員一人一人の能力や意欲に応じた適所適財の人財配置を実践することで、組織と個人のパフォーマンスの最大化とエンゲージメント向上につなげ、組織・個人双方の成長を実現する狙い(戦略的意図)があります。

“日本におけるジョブ型人財マネジメント推進にあたっては、「職務と人財の見える化」として、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」の導入(2022年度末時点でグループ会社を含む約6万ポジションに導入済み)や、各従業員の適性やキャリア志向を踏まえた配置・育成を検討する「タレントレビュー」の実施などに取り組んできました。

また、2022年10月には自律的なアップスキリング・リスキリングを支援する仕組みとして、AIが各自のキャリア志向等に合わせて社内外の学習コンテンツをリコメンドする「学習体験プラットフォーム(LXP)」を導入するなど、従業員の自律的キャリア形成支援を進めています。LXPは日立製作所をはじめとして、国内グループ会社にも順次導入しています。

加えて、2023~2024年度をターゲットに人財マネジメントの制度・仕組み全体の見直しを進めており、一例として、2023年4月には、自らの意志による異動の機会拡充のために「グループ公募制度」をリニューアルしました。

今後は、社内外副業制度の導入や、非管理職層の処遇制度改訂などにも取り組んでいきます。日立は、ジョブ型人財マネジメントへの転換を通じ、従業員一人一人の働きがいや、会社と個人との一体感を高め、双方の成長を実現していきます

参考:サステナビリティレポート2023(P79)

MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)の事例

MUFGでは、自社が提供するサービスの付加価値を⾼め、グループ⼀体で変⾰に挑戦していくために、社員が「働きがい」を感じる職場づくりを進め、エンゲージメントの向上に取り組んでいます。

例えば、同社では社員⼀⼈ひとりの「⾃律的キャリア形成」を後押しする制度として、多様な経験を重ねるための枠組みをキャリアチャレンジ制度と位置付け、グループ内外でのさまざまなプログラムを揃えています。

“2022年度には、社内公募制度である「Job Challenge」の応募者は2,600⼈を超え、1,162⼈が実際に希望する部署への異動や、本部を中⼼とする他部署での「社内副業」を実現しました。社員が持つアイデア・プロジェクトを⾃由に提案し、⾃らが“プロジェクトリーダー”となる公募制度「Position Maker」も、累計54名まで拡⼤しました”

参考:MUFG人的資本レポート2023(P11)

この記事の著者について​

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

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