畜産の視点で考える、人・動物・環境の関係性(ワンヘルスカードゲーム制作の裏側 vol.5)

はじめまして、株式会社プロジェクトデザイン代表の福井です。

2024年秋に公開予定のワンヘルスカードゲームについて、ゲーム制作の裏側(制作過程の様子)を全10回の連載記事としてお届けしてまいります。この連載記事を通じてワンヘルスカードゲームに興味を持っていただけることがあれば何より嬉しく思います。

なお、ワンヘルスカードゲームの制作依頼元 兼 共同制作パートナーである福岡県庁様には、ゲーム制作の裏側を開示することに快諾いただきましたこと、改めて感謝申し上げます。

ワンヘルスとは

動物から人へ、人から動物へ感染する「人獣共通感染症」は人の感染症のうち約6割を占めていると言われています。また、抗菌薬の不適切な使用を背景とした、人・食品・環境等における薬剤耐性(AMR)を持つ細菌の出現が国際社会で大きな問題になっています。

こうした問題を解決するために、人の健康と動物の健康、そして環境の健全性を一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方がワンヘルス(One Health)です。

人・動物・環境の健康(健全性)に関する分野横断的な課題に対して、関係者が協力し、その解決に取り組むことが重要です。

美しい地球を次世代につなぐために、私たちにはできることは何があるのでしょうか。福岡県では、私たちにできる「ワンヘルス」を進めるための6つの基本方針をまとめています。

6つの基本方針

01 人獣共通感染症対策
医療、獣医療をはじめ各分野と連携し、発生予防、まん延防止を図る

02 薬剤耐性菌対策
薬剤の適正使用を推進する

03 環境保護
自然環境の保全を図る

04 人と動物の共生社会づくり
動物愛護の推進と野生動物の理解と共存を図る

05 健康づくり
自然や動物とのふれあいを通じた健康づくり

06 環境と人と動物のより良い関係づくり
健全な環境下における安全な農林水産物の生産・消費・食育を推進する

参考:福岡県ワンヘルス推進ポータルサイト

今回、制作するワンヘルスカードゲームに期待されることは、県の推進するワンヘルスの普及啓発をおこない、人と動物(家畜、愛玩動物、野生動物の別を問わず全ての動物)の健康と環境の健全性は、生態系の中で相互に密接につながり、強く影響しあうという概念の理解につなげ、日常における行動を生み出すきっかけとすることです。

今回お届けする内容について

本連載では、カードゲーム制作の流れに沿った内容を順番にお届けしてまいります。第5回目の今回お届けする内容は「専門家へのインタビュー」です。

プロジェクトデザインのカードゲームでは、リアル(現実性)を再現することによって現実世界に持ち帰ることのできる学びや気づきを提供することに重きを置いています。

このリアルを再現するためのアプローチとして、私たちはお客様や共同制作パートナーに対するインタビューを行います。様々な領域で活躍する専門家の現状認識や問題意識、課題感をお聞きする中で、ゲームの中で表現すべき、現実世界のエッセンス(本質的要素)を抽出します。

さて、今回のインタビューにご協力いただいた専門家は、県内の畜産の振興や家畜伝染病の発生予防などを行う畜産課の増本様と、家畜衛生係の永野様です。

それではどうぞ!

畜産の視点で考える、人・動物・環境の関係性

畜産農家が抱える課題とは?

――人・動物・環境を一体としてとらえるワンヘルスの観点において、畜産農家の方が抱えている問題についてお聞きしたいと思います。現在、どのような問題がありますか?

増本:環境に対する畜産農家が抱える課題としては、一般的には家畜のふん尿処理があります。これが上手くいかないと臭いが発生し、近隣住民の方に迷惑がかかったり、ハエがたかったりして衛生上・環境管理上大きな問題となりえます。ただ、現状最も大きな問題はエサの価格高騰により動物たちの健康維持が難しくなっていることです。

――価格高騰には、どのように対応しているのでしょうか?

増本:国産飼料を増やすことに努めています。国が飼料となるトウモロコシの生産を促進しているのが、その最たる例ですね。トウモロコシはエネルギーが大きく、身と葉の部分を合わせて動物に供給することができる、とても優秀な作物です。九州では牛に食べさせることが多く、草も一緒に食べる牛には最適な栄養分と言えます。

――しかし、福岡の気候的にトウモロコシの生産は難しいとお聞きしました。

増本:そうですね。そのため、トウモロコシとは別に、畜産農家の特徴の1つであるエコフィードも取り入れることで安くエサを確保する努力を続けています。エコフィードとは、オカラや製麺のくず、パンくずや酒粕などの食品製造粕をエサに取り入れる方法です。

――なるほどですね。現在の飼料自給率はどのくらいなのでしょうか?

増本:自給率は25%程だと思います。高騰する購入飼料費のコストを削減しつつ、価格転嫁をしていきたいところです。

――価格転嫁とは、飼料費のコスト上昇分を畜産物の価格に上乗せするということですね。今は価格転嫁が難しい状況なのでしょうか?

増本:そうですね、現在ではエシカル消費を重要視したり、国産の飼料を多く使っているということを広報したりしていますが、そういったものを選んで購入される方はあまり多くはない状況です。持続可能な形で飼育されたものを食べる方向に消費者の意識が変わっていき、我々もエシカル消費に配慮した畜産業を展開することができるようになれば、価格転嫁にもつながっていくのではないかと思います。

気候変動が畜産に与える影響

――気候変動のような地球環境の変化が、畜産業に与える影響をお聞かせください。

増本:畜産で一番問題になっているのは夏の酷い暑さです。暑さによって家畜たちが夏バテのような症状になってしまい、エサを食べなくなり、太らなくなるということもあります。場合によっては死んでしまうこともあります。

また、日本の飼養規模はそんなに大きくないのでそこまで大きな問題にはなっていませんが、牛のゲップでメタンガスが発生したり、豚のたい肥処理の際に亜硝酸性窒素が発生したりして、温暖化を促進させてしまいます。

もちろん、日本でもそれらを減らしていこうという動きは少しずつ出てきています。

――牛のゲップは確かによく耳にしますが、実際に防げるものなのでしょうか?

増本:なかなか難しいのですが、エサを工夫したりたい肥の処理の仕方を工夫したりして抑える方法もあります。ただ、コスト面に課題が多く、実際にそれを積極的にやれている事例はまだ少ないですね。

畜産業の未来像とワンヘルスの役割

――日本の畜産業の明るい未来を思い描いたとき、どういった状態であることが理想と言えるのでしょうか?

増本:そうですね、やはり家畜たちのストレスが少ない状態が一番理想ですね。飼養密度を適切に保たないと病気をしたり死んでしまうこともあります。ゆとりのあるスペースであれば病気も少なくなり、そこにかかる診療費なども低コストで押さえられます。

一方で、ゆとりある生産は生産効率が落ちる場合があるので、高く売らないといけないなと思いますし、先ほどの価格転嫁を上手くやっていく必要もありますね。

――なるほどです。未来を思い描くという意味では、漁業や林業では後継者問題が課題に挙げられていたりしますが、畜産業はいかがでしょうか?

増本:跡継ぎが居なくてそのまま廃業になるケースは多いです。畜産は環境設備が整わなければ業務を行えませんし、今のご時世、収益が割に合わずに跡を継ぐ人が減っているのが現状です。

――農業では機械化が進んでいて、工場のように作物を管理する農家さんもいらっしゃるくらいにはシステムが構築されつつあるかと思うのですが、畜産業はいかがでしょうか。それによって人手不足を解消できたりはしないのでしょうか?

増本:養鶏や養豚の一部では少しずつ進んでいます。乳牛だと搾乳ロボットというものがあって、搾乳を機械に任せている畜産農家さんもいらっしゃいますが、1台何千万円もするのでコストが見合わないケースが多く、まだまだ人手が必要な状況です。

――畜産業の明るい未来に向かっていく上で、ワンヘルスに期待していることは何でしょうか?

増本:安心安全な畜産物を食べて健康につなげる意識が広まれば、ワンヘルス認証の商品が積極的に買っていただけるようになるかもしれません。そうすると価格転嫁ができるようになり、持続可能な畜産業に一歩近づけるのではないかと思います。

――生態系の保全や、安全・安心な職の提供、環境負荷の低減などの取り組みを認められたものに与えられるワンヘルス認証ですが、どのような商品が認証を受けているのですか?

増本:博多和牛やはかた地どり、はかた一番どり、などの県産ブランドの畜産物は認証を得ています。それらは地元産の飼料を使っていたり、HACCPと言って農業の生産管理に気を付けたりしているので、そういった取り組みは重要になってくると思います。ワンヘルス認証が広まれば消費者にとっても良い指標になると思いますし、畜産業者にも多くのメリットが生まれます。

畜産の視点から見た、感染症対策と衛生管理。

――畜産農家が抱えている感染症や伝染病などの衛生面での問題についてお聞きします。現在、どういったことが問題視されているのでしょう?

永野:国内には無かった病気が海外から入ってくるのは大きな問題です。たとえば、鶏などが鳥インフルエンザに感染した場合には処分をすることになってしまいますので、そうならないような対策を取っていくことが重要です。

――グローバル化が進み、国内外への行き来が簡単になっている今、畜産の知識がない人が本来入ってはいけない場所に踏み込んでしまい、不要な感染症を引き起こす。そういったリスクもあるんですね。

永野:そのリスクもありますが、最も危惧されるのは、適切な加工が施されていないお肉などの畜産物を海外から持ち込んでしまうことです。これも知識不足が招いてしまう問題ですね。

家畜の健康管理について

――福岡県が掲げるワンヘルスの6つの基本方針の中に「薬剤耐性菌対策」がありますが、畜産業においても感染症を防ぐために、家畜に与える薬は増えているのでしょうか?

永野:新たな薬が出てくるとか、もともと使用量が多かったものが規制されて減らされるなどの変化がありますが、増えることは無いと思います。また、今は、対象の細菌に効果のある薬剤を選択して適切に投与するようにしています。

そういった機運はヨーロッパの方が進んでいて、日本は若干遅れている部分もあるかもしれませんが、今では減少方向に向かっています。

――家畜の健康管理の観点でお聞きしたいのですが、最近では獣医の成り手不足も懸念されていることを耳にしたことがありますが、実際のところはいかがでしょうか?

永野:そうですね。獣医については犬・猫などの愛玩動物が人気で、産業動物の獣医師の成り手や公務員の畜産関係獣医師は割合的には横ばい又は減少しています。何か困った時に手遅れにならないように努めていますが、それだけ現状の獣医さんの負担が増えてしまっている部分はあると思います。獣医さんに頼らずとも対処できるように、日頃から動物たちの健康状態を管理することが重要です。

畜産や家畜の健康のために私たちにできること

ワンヘルスの視点から、私たち一般生活者は畜産や家畜の健康に対してどのような意識を持つことが望ましいでしょうか?

永野:家畜の分野は、我々が毎日のように口にする肉や卵に関わるとても身近なものでありながらも、実態や課題の見えづらい部分でもあります。

しかし、皆さんの行動が環境の健康、食物の健康、そして持続可能な畜産に関わっていると言っても過言ではありません。そういった点を意識しながら過ごしてほしいなと思います。

――本日は貴重なお話をありがとうございました!

インタビュアープロフィール

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

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