【フィンランド教育体験記】小学1年生から始まる議論の訓練

最終更新日：2025-01-17

【フィンランド教育体験記】はフィンランド共和国のエスポー市に移住されている上田雄哉さんの視点で綴る、教育体験レポートです。

フィンランドについて

フィンランドは北欧（ヨーロッパの北東部）に位置し、面積は日本と同程度、人口約550万人、公用語はフィンランド語、スウェーデン語です。森と湖、サウナ、サンタクロース、オーロラ、いわゆる北欧デザイン、充実した子育て支援、ジェンダー平等、音楽、編み物など、様々な分野で知られている国です。

著者プロフィール

上田雄哉（うえだ　ゆうや）

富山県滑川市出身、フィンランド共和国エスポー市在住。職業能力開発総合大学校の造形工学科を卒業後、民間企業で4年間勤務。2012年4月に行政（商業デザイン）職として富山市役所へ入庁し、12年間の在職中にデザイン振興業務、観光施設管理業務などを担当した。プライベートでは結婚を機に2013年11月から兼業主夫となり、娘の誕生後に延べ2年と9週間の育児休業を取得。2023年8月、夢だったフィンランド暮らしを妻の現地大学院進学を機に実現。大学院生の妻とエスポー市の小学校へ通う娘と3人暮らし。

小学1年生から始まる議論の訓練

こんにちは、フィンランド在住の上田雄哉です。

2023年の8月にフィンランドのエスポー市へ妻と6歳の娘の家族3人で移住しました。現在、娘は小学校（基礎教育）に通っています。教育水準が高いと言われているフィンランドで、娘が体験したことをフィンランド教育の一例としてご紹介したいと考えています。

これまでの【フィンランド教育体験記】の連載記事はこちら。

今回お届けする内容は「小学1年生から始まる議論の訓練」です。それではどうぞ！

議論の訓練始まる

2024年8月に娘が小学校に入学し、半年が経ちます。

振り返ると、保育園との大きな違いの一つとして、小学生になると、1年生から既に議論の訓練をしているなと感じる出来事がたくさんありました。

娘が1年生になってからすぐに、学校から路面電車で15分ほどの距離にある街の映画館に遠足で映画を観に行きました。「Prinsessa Pikkiriikki（プリンセッサピッキリーッキ）」というタイトルの映画を観てきたようです。後日「この映画のストーリーを通して、様々な感情や性格の特徴について話し合いをしました」とのメッセージが先生からありました。小学1年生が遠足で映画館に行くということにも驚きましたが、映画を観て終わりではなく、それを元にクラスで話し合う機会があることが素敵だなと思いました。

しばらく経ったある日、学校から「来週の金曜日に学校で映画を観るのでお菓子と飲み物を持ってきてください」と連絡がありました。

今度は学校で映画？　学校にお菓子を持っていく？？　一体何のイベントかと思い娘に聞くと、クラスで良い行いをするたびに星が貯まるそうです。それが10回あった時に、ご褒美として特別なアクティビティーをする日があり、それがこの金曜日だそうです。

クラスで何をするか子どもたちがアイデアを出し合い、投票した結果、学校で映画を観ることとお菓子を食べることに決まったそうです。その日は各家庭で準備した適量のお菓子と飲み物入りの水筒を持参（甘い飲み物はこぼした際にカーペットの掃除が大変なのでNG）。さらにおもちゃも持参可能でした。

娘は映画の内容が怖かったそうで、何人かのお友達とおもちゃで遊んでいたと言っていました。「えっ、結局映画は観てないの！？」と驚きました。自由過ぎですね…。

また、この頃、お気に入りのぬいぐるみの学校への持参についてクラスで話し合いがありました。学校にぬいぐるみを持ってきてもいいし、授業中に机の上に置いていても良いけれど、授業に集中できないようであれば、リュックに入れるということで先生と児童が合意したそうです。「みんなで話し合って決めたので、このルールでやってみて、どうなるか見てみましょう！」と先生からメッセージがありました。

保育園のように、ぬいぐるみを持参することは学校に公認されているわけではありませんが、担任の先生の見解によると、「勉強の妨げにならなければ、リュックに入れてきても良い」とのことでした。放課後クラブ（学童保育）ではぬいぐるみ（おもちゃ）を持ってきても良い日が何度かあり、その日は学校の時間中はリュックにしまったままで、放課後クラブの時間になったら出すようです。

未解決の議題としては、クラスでの筆記用具の取り扱いがあるようです。ある日先生から「何人かの1年生はペンを交換したり、自分のペンを譲り合ったりしています。自分のペンや学用品は自分で管理するよう、まだみんなと話しているところです」とのメッセージがありました。日々使用する筆記用具は学校に用意されており、家から持っていく必要はありません。本来であれば身軽に登校できるはずが、娘はお気に入りの筆記用具をリュックにパンパンに詰めて登校しています。

「自分で管理しなさい！」と先生が児童に一方的に言い聞かせるのではなく、子どもたちが自分たちで納得できるように話し合いをしようとしている点が興味深いなと思いました。

反射材（リフレクター）着用について

サマータイムが終わる10月下旬、秋も深まると暗い時間が長くなります。

そのため、暗闇で車のドライバーに認識してもらえるよう、反射材を付けることがいかに大切かということを学びます。黒い紙に自分の姿を描き、そこに布タイプの光を反射する素材を切り貼りし、どのように見えるかをみんなで話し合ったようです。

ちなみに、フィンランドでは歩行者が適切な反射材を付けることが道路交通法で義務付けられています。

私も普段、キーホルダーやハーネス、トートバッグ、手袋、アームバンドを使用しています。他にも色々な種類があり、販売されている子ども用のアウターや冬用の靴などには、反射する素材が必ず付いていると思われます。

適切な反射材や運転手からの見え方について詳しく記載されている、LIIKENNETURVAという交通安全公共団体のページも参考までにご紹介します。

・LIIKENNETURVA（フィンランド交通安全協会）

宿題について

小学校の宿題はどんなものなのかなと気になっておりましたが、8月から12月の間、1年生に与えられた宿題はほぼ、音読の宿題でした。

算数など別の宿題もありましたが、基本的には放課後クラブでやってきてしまい、家でするのは音読のみでした。児童ごとに目標設定がされており、教科書の指定ページのある箇所を音読することや自分のお気に入りの本を10分読む、またはiPadで先生推薦のワードゲームをする、といったものです。

ちなみに、学校では時々最寄りの図書館に本を借りに行き、学校で使う本を借ります。全員が自分の読書レベルに合った本を借りられるように先生がサポートしてくださっているようです。

8月から12月にあった保護者参加型イベント

ユニセフウォーク

9月中旬の土曜日の午前中に校庭に集合し、親子一緒に近くの森の小道へ行きました。

子どもたちは決められた区間を何往復も歩いたり、走ったり（本来はウオーク）しながら配布されたパスポートにシールを貼ります。保護者はそれを見ていて、後日募金するというイベントでした。

その後校庭に戻り、中学年・高学年の保護者が手作りしたスイーツ販売があり、みんなでわいわい食べたり遊んだりしました。スイーツの販売利益は6年生の最後の遠足（遊園地や、小旅行に行くようです）の費用の貯金に充てられるとのことです。

ハロウィンパーティー

当日は当然のように仮装して登校が可能だったので、娘は大張り切りでウサギの仮装をしていきました。先生も朝からちゃんと仮装しておられました。仮装コンテストもあったようです。

その日の18時からは保護者参加可のハロウィンパーティー&ディスコがありました。娘は一度帰宅し、全身うさぎに着替えて再び学校へ。体育館を暗くしてディスコ、食堂は飲食コーナー、一部の教室で怖さレベルの違ういくつかのお化け屋敷といったものがあり、子どもたちは大盛り上がりでした。

6年生の保護者がパーティーのお世話をする係をされており、ここでもスイーツの販売があり、売上は6年生の遠足の費用の一部になるようです。一般の保護者はあまり仮装していませんでしたが、係の保護者は被り物だけの方から気合の入ったゾンビの方までおられました。

終業式（のようなもの）

クリスマスのある週はクリスマス休みになります。

お休み直前の金曜日が最終登校日で、その日の朝、校庭で全校児童によるクリスマスソングの披露がありました。一部の曲では6年生の先生のギター伴奏付きでした。

娘の話によると担任の先生が風邪でお休みの日に代員として校長先生が教えに来てくれた日があったそうで、その日は校長先生のギター伴奏でクリスマスソングの練習をしたそうです。本当は当日も校長先生がギターを弾きたかったらしいのですが、「自分は校長先生だから前に立って大きい声で歌う役目があり、6年生の担任の先生にしぶしぶ譲った」と校長先生が1年生に嘆いていたそうです。楽しそうな学校の雰囲気が伝わってきますね。

保護者が歌を聞いて解散した後、子どもたちは通常通り12時30分まで学校がありました。

この日は学童を利用しない子や学童に行っても早めのお迎えの子が多く、15時半頃には大半の子たちが帰っていました（前回の記事で放課後クラブについて記載していますが、通常は17時まで預かりが可能です）。