人事制度の切り替えが「成果主義」や「ジョブ型」のキーワードに引っ張られることの危うさ(ビジネスゲーム開発日誌 Vol.5)

約1年前になりますが、人事制度ゲームなるものを、古くからの友人である株式会社ピースの中川代表からの依頼で制作しました。

彼の会社は人事制度設計をメイン業務としていますが、COVID-19の影響下、仕事の依頼が激増したそうです。

最初は「コロナ禍の影響で時間ができたので、この機会にかねてからの懸案だった人事制度を見直したい」という依頼が中心だったそうですが、リモートワークが当たり前になった現在では「早急にジョブ型の人事制度に切り替えたい」という切羽詰まった依頼が多くなっているようです。

ジョブ型雇用は、仕事の内容を厳密に決める、専門性の高い人材を採用・育成する、成果に対して報酬が支払われる、という特徴の他に、転職・退職による人材流動性も高くなる特徴もあります。

不景気になったときに(成果を挙げにくくなるので)人件費が抑えれるというメリットがある一方、その不景気が外部環境によるものではなく、自社の状況や業界の動向に由来するものである場合、能力の高い人材から会社を去っていく可能性も増えると言えます。

“「何時間働くか」を命じることはできても「仕事にどのくらいのエネルギーを注ぐか」は働く人次第。どうすれば、社員の心に「炎を灯す」ことができるのか ”

スティーブ・バッコルツとトム・ロスは、共著『成長企業が失速するとき、社員に “何” が起きているのか?』の中でこう問いかけています。

制度を切り替える場合は、同時に「社員の心に炎を灯す」ための組織風土、人間関係、コミュニケーションの変革の取り組みも同時に行う必要がありそうです。

もちろん、それらは自然とより良い方向に変化されていくように、通常は新人事制度の中に仕組みが内包されているのですが、運営側が十分に制度設計の意図を理解していないと “仏作って魂入れず” ということになりかねません。

皆さんの会社の人事制度は今の時代に十分あったものでしょうか。この機会に改めて一度考えて頂いても良いかもしれません。

人事制度の切り替えが「成果主義」や「ジョブ型」といったキーワードに引っ張られることの危うさ

私たちプロジェクトデザインがゲームを作るときは「伝えたい学び」を決めて、そこから落とし込むようにゲームを作るのではなく、

「現実はどうなっているのだろう?」と現実を観察し、現実をなるべく忠実にモデルに落とし、その後、削ぎ落とせる部分を削ぎ落とすことによって、作るようにしています。

そうすることによって、製作者自身が当初想定していた以上に深い学びや気付きが得られるツールが仕上がるわけですが、『人事制度ゲーム』でも自分が想定していた以上の学びが得られました。

それは “初期段階(制度設計段階)の数手を間違えると、その後取り返すのは非常に困難” というものです。

当たり前と言えば当たり前なのですが、現実世界では「制度そのものが間違っているのに、運用だけでなんとかしようとして要らぬ苦労をしている」ケースが多いように思います。

制度設計に携わるタイミングは数年、ともすれば10年に1回程度しかないにも関わらず、運用にタッチする機会は無数にあるというところもその傾向に拍車をかけているかもしれません。

現状分析を十分にせずに「成果主義」「ジョブ型」といったキーワードに引っ張られる形で人事制度を変更する行為も、初期段階の数手を間違う一因と感じます。

私自身が『人事制度ゲーム』に取り組んだ時は、現状分析をあまりせず、「こうありたいよね」というビジョンをベースに施策を考えていったところ、ボロボロの結果になってしまいました。

小規模なチーム運営と様々な人が関わる人事制度では、理想だけでなく、現実を見つめる確かな目も、また必要なんだろうと学びました。

皆さんにもぜひ、『人事制度ゲーム』を体験する中で、自社の人事制度の意味を考えたり、見直したりする参考にしていただければ幸いです。

執筆者プロフィール

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

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