ビジネスゲームでは「立場が違えば見え方が異なる」「組織で起きる問題のほとんどすべてがこの “見え方” の違いに起因している」という、当たり前の事実を効果的に伝えることができます。
最近は、経営幹部の方々に対しての研修も多くなってきましたので「視座の違い」に関しての話をして欲しいという要望を受けます。「視座」というのは視点の高さということ。地を歩く人間の目ではなく、空を飛ぶ鳥の目で地上を見たらどうなるか、ということです。現場のプレイヤーから、管理職、経営者へと立場が上になるにつれ、自然と高い視座でものごとを見ることが求められます。
しかし、これを言葉で説明しようとするとなかなか難しい。
視座が高くなると、遠くまで見通せます。現場のプレイヤーは「現在や今期」を中心にものごとを考えるのに対し、経営者は「未来や3-5年後」を見据えて、『今』の意思決定をします。
また、視座が高くなると、見える視界が広がります。現場のプレイヤーは「自分の仕事や自分の部門」を中心に考えるのに対して、経営者は「会社全体」を考えて意思決定します。
それは部分最適ではなく、全体最適を考える、ということでもあります。視座が高くなると、ひとつひとつのものごとに関して詳しく観察することができなくなります。
ゆえに、プレイヤーは「現場の声や起きている事実」といった一次情報をもとに判断するのに対して、経営者は「報告書やデータなど、加工された二次情報」をもとに判断せざるを得なくなります。現場をみることは経営者にとって大事な仕事ですが、それでも全ての現場をみることができるわけではありません。
こういった「視座」の違いは、時として組織運営や会社経営に決定的な悲劇をもたらします。社長と現場のリーダーの意見が合わない。各部門は全力で頑張っているが全体としては一方的に悪くなっている。現場を見れないがゆえに判断が狂う。そしてコミュニケーション不足から都合の悪い情報が報告されなくなり、さらに組織は悪化する。
そんな「視座」の違いをビジネスゲームでは擬似的に体験させることができますし、私達がゲームを作る際に意識して盛り込んでいるポイントでもあります。
最近はオンラインでツールを開発することも増えてきましたので、より自然に「視座の違いによる気づき」を伝えることができるようになってきました。例えば、「経営者」「マネジャー」「プレイヤー」という役割を作った瞬間に、意思決定のために入ってくる情報や判断の優先順位が違ってくることに気づきます。立場が作り出す見えない壁も表現できます。
オフラインであればゲームをしている人全員がひとつの会場にいるので、自然と様々な情報が目や耳に飛び込んできて、それがある意味、立場や視座の違いを補正する動きになります。
一方、オンラインで行うと、オフであれば自然と入る情報がシャットダウンされるので、意識的に情報を取りに行く必要が出てきます。これは現実に近い環境ですし、五感から自然と入ってきた情報が取れなくなるというのはオンライン時代に起きつつある組織上の弊害のひとつでもあります。
そういった、「なんとなく」感じている違いや不都合を言語化し、相手の立場に立った上で「じゃあ、ウチの組織はどうしていこうか」と建設的な議論ができる。それがビジネスゲームの面白さなんだろうなぁ、と改めて感じています。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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