ビジネスゲームとボードゲームの3つの違い(ビジネスゲーム開発日誌 Vol.16)

テレビゲーム制作会社を舞台にした『東京トイボックス』というマンガがあります。

主人公の会社が大手企業のコンペに参加する際、競合が多数あり、一次審査は「簡単なゲーム」で行われることになりました。

そこで、コンペの主催者が「 “ち” から始まる丸いもの、なーんだ?」 というクイズを出しました。

皆さんだったら、何を思い浮かべますか?(答えは後ほど解説します)

ビジネスゲームとボードゲームの3つの違い

当社ではビジネスゲームを制作する際、多くの場合はカードゲーム形式で作成します。ボードゲームとの違いは3点あります。

①一度に多くの人数でプレイできる

ボードゲームはボードを眺めながら進めるという構造上、1セットにつき2~8名程度の実施が限界になるため、20~30名が参加する企業研修で実施する場合にはユーザビリティーに難があると感じます。

一方で、当社が制作するビジネスゲームはカード1セットで50名ぐらいまでが同時に体験することが可能です。カードもテーブルに置いたり、自分で手に持ったりしながら様々な場所で交渉できるというメリットがあります。

②チームプレーである

ボードゲームでボードを囲んで5~6人の世界で完結して競うのは、得られる学びが小さいと感じます。

なぜなら、ビジネスはチームで活動をする場合がほとんどだからです。3~6人のチームで他チームと競い合う構造を作り出した方が現実のビジネスに近く、コミュニケーションやリーダーシップが結果に与える影響を伝えやすいと感じます。

チームで活動することで、1+1が3以上になることもあれば、0や1になってしまうという状況も効果的に作り出すことができます。

当社の制作するビジネスゲームでは、持ち運び可能なカードを使用することで、計画タイムはチーム全員で席を囲み話し合い、行動タイムではチームメンバーが自由に席を移動しながら他チームとのコミュニケーションを取る。そういったチーム活動が前提になります。

③自分が周囲に与える効果を感じることができる

これが一番大事なところですが、現実のビジネスでは自分が挙げた声が周囲に伝わり、周囲の協力も得て全体に大きな影響を及ぼす感覚を掴むことがとても大切です。

この感覚を掴んでいる人は、大きすぎる組織や社会課題の中で、自分がたとえ一個の部品に過ぎなくとも、動き方や働きかけ次第で大きな変化を生み出しうると信じることができます。

当初の制作するビジネスゲームでは、数十人規模で行うカードゲームの中で生まれるプレイヤー間の相互作用によって結果が多様に変化します。つまり、1人のプレイヤーである自分の起こした小さな行動が、周囲の協力を引き出し、やがて大きな影響へと発展していく感覚を掴んでいただくことができます。

もちろん、ボードゲームにはボードゲームならではの良さがあります。

その一番大きなものは、比較的少人数に最適化してプレイできるところです。しかし、ゲームを活用して得られる学びの効果の中でも最も大きな「②チームプレーの効果」や「③自分の声や行動を通じ周囲を動かす感覚の把握」の観点では、多人数で行えるカードゲーム形式に一日の長があると言えます。

では、これほどカードゲームのほうにメリットがあるにも関わらず、なぜ、ボードゲーム形式で作られるビジネスゲームが多いのか。

この理由を僕は「ボードゲーム好きな人が作っているからではないか」という仮説を持っています。ボードゲームが好きだからこそ、その表現形式に囚われてしまっている。

こだわりが優れたものを生むこともありますが、ビジネスゲームの範囲の捉え方や表現形式を “ボードゲーム” という枠から開放しなければ、このジャンルは将来的に廃れてしまうのでないかなぁ、と危惧するのです。

同時に作り手である僕たちも、自らに問いただしていく必要があります。

自分たちが得意とする表現形式から少しずつ離れて新しいチャレンジをしていく必要がある、と。現在メリットを感じている “カード形式” というスタイルも、研修の場がオンラインになると必ずしもメリットのあるスタイルではありません。

しかし、ついついカードで作ってしまう場合も多くなっているのが現状です。自分で知らずしらずの間につくってしまう自分の殻を積極的に壊していかねばと感じます。

既存の常識に囚われた人や企画は淘汰される

さて、冒頭にご紹介した『東京トイボックス』(テレビゲーム制作会社のマンガ)のクイズ「 “ち” から始まる丸いもの、なーんだ?」の答えです。

コンペの主催者は、回答を聞く前に「 “ちきゅう” と考えた人は席に座ってください」と述べます。

そうすると、多くの人が座ります。その後、残った人に回答を問いかけていき、同じことを考えた人がいた場合は、どんどん座っていきます。

つまり、“既存の常識に囚われた人や企画は淘汰されていく” のです。

最終的にコンペに残ることになる、主人公が思いついたものは “ちまめ” でした。

…僕が思いついたものですか?

僕が思いついたものは、残念ながら “ちきゅう” です。真っ先に座るパターンですね(僕自身が一番に、既存の常識を壊していかねばいけませんね)。

執筆者プロフィール

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

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