現実のビジネスをゲームとして表現し、課題発見や行動変容につなげる手法は古くから存在します。
その中でも有名なものは「ビールゲーム」ではないでしょうか。
「ビールゲーム」は1960年代にデニス・メドウズ氏の手によりマサチューセッツ工科大学に導入されて以降、オープンソースとして提供され、世界中で広く使われています。
<ビールゲームの概要>
「ビールゲーム」は参加者がビールのサプライチェーンの4つの役割・工程(工場、一次卸、二次卸、小売店)に分かれて4~8人でチームを組み、サプライチェーン全体のコスト最適化を競うビジネスゲームです。
消費者から小売店、小売店から二次卸、二次卸から一次卸、一次卸から工場へと週単位でビールを発注する中で、サプライチェーン全体の在庫コストと受注残(欠品)コストの最適化を実現したチームの勝利となります。
制作のきっかけは、冷蔵庫を扱うメーカーに務めるマネジャーの嘆きからだったといいます。
「景気が良くなると設備投資を行い、人を採用して多くの製品を出荷できるようにする。しかし、ようやく生産が落ち着いた頃に景気が悪くなり、人員を削減し、設備を売却する。いったいいつまでこんなことを続けるのか」。
抗いようのない外部環境に翻弄され、苦しむマネジャー。その課題解決に、あるコンサルタントが立ち上がりました。
現実のビジネスをつぶさに観察し、モデル化した結果見えてきたこと。
それは、“在庫・生産・雇用のバラツキの大きさは、外部要因である経済全体の動向や政策よりも、内部要因である会社の戦略や方針の影響のほうが遙かに大きい” ということです。
しかし、それを現場に伝えてもなかなか納得してもらえない。
メンバーひとりひとりの思い込みと行動を変えるために、ゲームを用意して全員に体験してもらうようにした。そんな話が残されています。
オープンソースであるが故に、適切でない使い方をされているビールゲーム
この「ビールゲーム」、日本ではチェンジ・エージェント社によって広められてきました。
チェンジ・エージェント社の代表である小田理一郎氏はデニス・メドウズ氏に直接師事し、ビールゲームの正しい使い方や効果的な振り返りを学ばれています(小田氏は名著『学習する組織』の翻訳者としてご存じの方も多いかもしれません)。
幸運なことに、私たちプロジェクトデザインは、小田さんとともにビールゲームのオンライン版「ビールゲーム Online」を開発する機会をいただきました。
昨年リリースしてから、1年弱。
小田さんと開発していく中で新たな発見がいくつもありましたが、突き詰めると以下の2点に集約されます。
- ゲーム画面・ゲームシートで何を見せて、何を見せないか
- ビールゲームの振り返りで伝えられることと、伝えられないこと
ビールゲームはオープンソースで、誰もが自由に使えるが故に、使う側(ファシリテーター側)が “適切ではない使い方” をされるケースが少なくありません。その結果、ビールゲームを体験した方が「ビールゲームは、こんなものか…」で学びや気付きが終わってしまうケースが多いこともまた事実です(とても残念なことです)。
ビジネスゲームの作り手としては、「本来と異なる使われ方をされること」に心を痛めます。
「守破離」という言葉があるように、当初想定していた使い方(守)を理解した上で、自分なりのアレンジを加えながら、 破や離に進むことは良いことだと思います。しかし、最初から異なる使い方をしてしまうと、ビジネスゲームの本来の学びを提供できなくなってしまいます。
また、私自身はビールゲームが「学習する組織」などでも紹介されているため、システム思考を学ぶために最適なツールと感じていましたが、それは違っていたようです。
開発の過程に関わる中で、システム思考を学ぶこと以上に「個人のメンタルモデルを見つめ、メンタルモデルが意思決定や結果に及ぼす影響を知ること」に効果的なツールであると学び、感動しました。
ぜひ、この感動を皆さんと一緒に味わいたいと思っています。
ご案内
「ビールゲーム Online」は、コミュニケーション・報連相の不足によるチーム力の低下(テレワーク時代ならではの組織課題)を解決するビジネスゲームです。
自分自身のメンタルモデル・システム思考・対話の必要性について理解を深めることで、組織のコミュニケーションを改善し、チーム力の強化に繋げます。
コロナ禍によるテレワーク環境下では、生産性を高める観点で対話(言語的・非言語的コミュニケーション)が重要であると言われます。「ビールゲーム Online」は、なぜ対話が必要なのか、どんな対話が効果的なのかを考えるきっかけをご提供します。
詳細は、こちらのページをご覧ください。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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