以前に、自分自身のスタンスやマインドを明らかにするという意味で「being(あり方)」を伝える研修をしたことがあります。
こういった内面の変革を大事とする立場で研修を行う講師の方は多いと思うのですが、これらの研修を内定者や新入社員に対して行っても効果が薄く、むしろ「doing(やり方)」を伝えたほうが学びの効果や満足感は大きい傾向があります。
「being」も「doing」も両方大事だけれども、「doing」を徹底的にやったあとだからこそ 「being」の大切さが身に染みるというわけです。
学びの内容には適切な時期と対象があるというわけですね。
研修設計の注意点
「30代の男性を主要ターゲット」としたゲームを作成したことがあります。
お客様はマーケティングに強い外資系消費財メーカー。ターゲットのプロファイリングが非常にしっかりしており、「30代男性の〇〇層に✕✕な変化を起こしたい」という明確なオーダーをいただきました。
正直、そこまで明確にターゲットを指定してゲームを作ることはありませんでしたし、先方から提示されたプロファイルが私自身が30代の頃に感じていた問題意識とは結構違うものだったところもあり、「こんなゲームでターゲットの意識変容や行動変容を起こせるだろうか?」と半信半疑ながら作成していました。
ともかく打ち合わせを続けながら、なんとかプロトタイプ版と言えるものが完成し、テストをすることになりました。
ゲーム制作にはテストが非常に重要なのですが1回目のテストはゲームが研修教材として成り立つかどうかを確認する目的ということもあり、年齢・性別がばらばらな方々に参加いただきました。
ゲームを終えた後に振り返りも行い、感想を聞いたのですが、参加者からいただいた言葉の大半は 「ゲームとしては面白かったけれど期待しているような意識や行動の変化は起こせないのではないか」というものでした。
製作者としては少なからず自信を喪失し(オーダーをいただいたクライアントの心にも疑念が生じたと思います) 、このままではダメだからゲームを変えようと考え始めました。しかし、迷走しながらゲームのロジックを変更しても 良いものになるはずもなく、結局ほとんど変えないまま2回目のテストに臨むことになりました。
2回目のテストはターゲットである 「30代男性の〇〇層 」だけに来てもらいました。私としては「大丈夫だろうか。ゼロから作り直すことにならないだろうか」と不安いっぱいで運営したのですが、 驚くべきことに、ゲーム終了後、参加者全員から「非常に深い気づきを得ました。自分自身の意識も行動も変えていく必要がある」と意見をいただきました。
また、参加者の一人からは、後日談として、ゲームを通じた気づきをもとに人生の方向性を大きく変える意思決定をした(そして、その決断は以前の自分にはできなかったが非常に良かった)という言葉をいただきました。
一連の仕事に関して、マーケティングやターゲットの絞り込みに僕は関与しておらず、お客様に任せっぱなしにしていたのですが「これが一流メーカーのマーケティングの力か!!」と驚いた記憶があります。
マーケティングがしっかり出来ていればセールスに力を割く必要がない。学びにおいても、「その時期、その対象だからこそ響く内容がある」。そんなふうに思いました。
それ以来、私も研修の提案をする際はターゲットについて詳しく知ることで劇的な変化を実現することを意識するようになりました。当たり前ですが、同じ内容を学んでいても、時期と対象によっては全然違う効果になることが大いにあります。
だからこそ、研修を設計する際には「なんとなく」ではなく注意して設計しなければならないのだと思います。
執筆者プロフィール
福井 信英
富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。
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