自分の所属する組織(事業部やチーム)の戦略を決めてください。
このように問われた際に「コスト優位性を取る」や「製品の差別化を際立たせる」と回答する方がいますが、このような方は申し訳ありませんが戦略を決めているとは言えません。なぜ、戦略を決めていないと言えるのでしょうか?
製品の差別化戦略を行う例を用いて理由を話したいと思います。
戦略とは優先順位を決めることである
製品の差別化という目標を達成するための手段は複数存在します。
- 品質向上を目指して研究開発を行う
- 自社製品の品質を周知させるためにプロモーション活動を活発に行う
- バリューチェーンを見直す
など、(差別化の内容などにもよりますが)ぱっと思いつくだけでも色々な手段が考えられると思います。しかし、ここで考えて欲しいのは、「誰もが皆、ある制約に縛られている」ということです。
例えば、時間や経営資源(ヒト・モノ・カネ)などが代表的な制約条件と言えるかもしれません。ここで言いたいのは戦略を実現させる手段が無数にある中で制約条件を考えないまま行動に移すと、戦略を実現させられないままに終わってしまうということです。
様々な制約条件がある中で、どの手段が自社の戦略実現にとって重要なのかを順位づけしないと、あれもこれもとやっている間に貴重な資源が枯渇したり、競合他社に先手を打たれて負けてしまうということが起こりかねません。
「差別化を進める」ことは、単に向かう目的地を決定しただけにすぎません。目的地に向かってどの道筋を利用するのかの方針がないと組織全体のまとまりがなくなってしまいます。どのルートを通るのか、つまり、戦略を実現するための手段の中での優先順位(どの手段がより重要なのか?)を考えることが重要です。
戦略とは具体的な評価基準を決めることである
次に、もし、自分が人に指示を出す立場にいたと仮定して場合に、部下にどのような指示を出すのかを考えてみましょう(再度、製品差別化の例を使って説明したいと思います)。
例えば、「製品差別化を実現させるために最重要なプロモーション活動を積極的に行う!皆もこのことに注力して働いてくれ!」といった指示はどうでしょうか?
残念ながら、この指示は戦略的ではありません。理由は簡単です。具体的に何をすればいいのか分からないからであり、目標を達成できたか失敗したかの評価ができないからです。これらの理由は「具体的な評価基準」を設定していないから、と言い換えることもできます。
具体的な評価基準の例でイメージしやすいのは「売上高営業利益率」でしょうか。
この売上高営業利益率は「営業利益」を「売上高」で割った数値で求められます。さらに営業利益は売上高から「売上原価」と「販管費」を引くことで算出可能です。つまり、売上高営業利益率 =(売上高ー売上原価ー販管費)÷売上高です。従って、営業利益率を上げた場合は「売上原価と販管費の値を下げる」ことが有効であることが分かると思います。
ちなみに、販管費は「販売手数料」「役員報酬」「減価償却費」などに分けられ……さて、私が何を言いたいか、皆様はもうお気づきなのではないのでしょうか? 一言で数値と言っても、様々な要素に分解することができ、さらにそれぞれの要素の変動によって、目標の数値に影響を与えられることも分かると思います。
つまり、手段の達成状況を客観的に測れる評価基準を設定することで、達成状況を観察できるようになるだけでなく、要素に分解することを通じて「なぜ成功(失敗)しているのか、どの部分の活動が上手くいっているのか(いっていないのか)」を評価し、修正のための的確な指示を出すことが可能になります。
戦略を機能させるには具体的な評価基準が必要なのです。
まとめ
戦略を決めるということは「組織の目的達成のための道筋を設定し、その実行のために一貫した評価基準を組織の細部まで設定すること」と言えると思います。
「優先順位」も「具体的な評価基準」も決められていない戦略は、ダメな戦略の可能性が高いと考えられます。
これまで話してきたことは、ある種、当たり前のことです。しかし、戦略の実行において当たり前のことをどこまでできるかが大事なのです。もちろん、細部に至るまで目標設計をしようとすれば非常に労力がかかります。加えて、それを実行するためのスピードや確実性も問題になってきます。ただ、その当たり前のことを素早く確実に形にできる組織が強い企業なのです。
ライター:桑原健人
富山県立富山中部高等学校卒業/法政大学経営学部市場経営学科修了/一橋大学商学研究科経営学修士過程所属/現在は学期中のため学生中。今学期から、とても楽しみにしていた「契約理論」の講義に出席できて非常に有意義な学生生活を送っています。キャンパス近くのスパゲティー屋の「うめいかスパゲティー」に惚れ込む。そろそろ、T先輩の紅茶が恋しくなってきた頃合。