【事例インタビュー】授業で学んだ理論をビジネスゲーム「The商社」を通じて実践(文教大学)
大学名 :文教大学
業種 :教育機関
ゼミ名 :経営学部 田中克昌ゼミナール
ゼミ生数:36人
- 大学では学生が授業内で伝えた理論を実践できる環境が少なく、活用のイメージがわきにくい。
- 講義型のインプット方法では、学習態度が消極的になりやすい。
- 学んだ理論をシミュレーションの中で実践する機会を設けるために、ゼミでビジネスゲーム「The商社」を実施する。
- ゲーム体験後のアンケートで、全体で「満足度」・「学びやすさ」について「大いに満足した」の回答。
- 学生の学習態度が積極的になると同時に、習熟度が高まったと評価できる。
本稿では、ビジネスゲーム「The商社」を大学のゼミナール(以下、ゼミ)で活用した事例をご紹介します。
2024年1月10日に文教大学の田中克昌ゼミの皆様に実施した内容です。
文教大学は「人間愛」という建学の精神のもと、SDGsの目標実現に貢献する教育に注力している大学です。「生命(いのち)を大切にする心」を育み、人と人とが認め合い、尊敬し合い、許しあい、思いやる社会を目指した教育を行っています。経営学部では「人間尊重の経営」というコンセプトのもと、人間性豊かなスペシャリスト人材の輩出を目指しています。
田中先生は、既にカードゲーム「2030SDGs」やカードゲーム「2050カーボンニュートラル」の公認ファシリテーター資格を取得されており、ゼミ活動においても実践的な教育に活用いただいています。
今回、なぜビジネスゲーム「The商社」をお選びいただいたのか、そしてどんな効果が得られたのか、今後の展望などについてお話を伺いました。
<お話を伺った方>
文教大学 経営学部准教授 田中克昌様
<ゼミプロフィール>
田中克昌ゼミは、経営戦略論とイノベーション論を専門的に学修しているゼミです。ビジネスコンテストにも積極的に出場し、「トリドール持続可能ビジネスコンテスト」では、2年連続で最優秀賞(優勝)を獲得しました。田中先生は実務家出身で、経営学の理論と実践を融合した「実学一体」の教育を行っています。ゼミ生は、「何のために、企業が存在しているのか」を示す企業のミッション(使命)やパーパス(存在意義)に基づいて考える経営戦略論を生かし、自らのパーパスにもとづく戦略的キャリア形成について日々研究しています。
理論と実践を融合できる教材を探していた
―大学の講義では、普段学生の皆様にどのような授業をされていますか。
田中先生:経営学の理論を伝える際、理解を促進するために実際の企業の事例を紹介することがあります。ただし、いずれも過去の事例であり、経営環境や経営者の個性・行動によってもたらされた結果であるため、学生は必ずしも全てに共感できるわけではありません。
また、多くの学生はアルバイト経験はあるものの、企業で実際に働いた経験がないため企業の事例に実感が持ちにくいことがあります。
―今回、ゼミ活動においてビジネスゲーム「The商社」を活用された背景を教えてください。
田中先生:経験にもとづく実感が得られるほど、学術的な理論の定着も高いと考えており、理論と実践を融合できる教材を探していました。そこで、プロジェクトデザインの3つのコンテンツを組み合わせた実学一体の学修を考えました。
ビジネスゲーム「The 商社」は「今の視座」で企業の経営戦略について学ぶことができます。カードゲーム「2030SDGs」では「中期的な視座」で持続可能な社会課題の解決について、そしてカードゲーム「2050カーボンニュートラル」は「長期的な視座」で社会の将来像についてと、従来の経営学の理論や事例を中心とした学修に、現在から中期、長期にわたる視座での実践的な学修を加えることができます。
―ビジネスゲーム「The 商社」を活用することで、学生の皆様にどのような学びを得てほしいと思われたのでしょうか。
田中先生:ビジネスゲーム「The 商社」には、実践的な学修のエッセンスが詰まっています。
実際の企業の事例から学ぶようなインプットと、ビジネスコンテストに出場するようなアウトプットを、振り返りの時間を入れても約3時間と短い時間で実施することができ、ちょうど大学の授業2コマ分に収まります。教員としては、この凝縮された時間の中で、学生がこれまでの経営戦略論の学修成果を発揮し、ワークショップの前後で有効な気づきを得てくれることに期待していました。
「The 商社」では集中が途切れることなく学ぶことができた
―実際に、今回実施されていかがでしたか。
田中先生:ゼミ生は以前カードゲーム「2030SDGs」を体験しているため、実施前からとても楽しみにしていました。最初に経営戦略論の理論的なフレームワークをおさらいしてから始めました。学生はカードゲーム「2030SDGs」での経験を活かし、早期から動き出し、経営戦略論のフレームワークをどのように有効活用するかを模索しながら取り組んでいました。
特に交渉や取引については、開始時点から積極的に行っていました。3年生と4年生のゼミを合同で実施しましたが、先輩・後輩での遠慮や押しつけがましさはなく、1つひとつのチームがまとまって行動することができていたように感じます。
―実施される中で、普段の学生の皆様と違うと感じられた表情や動き、発言などはございましたか。
田中先生:振り返りの際には学生から「集中力」というキーワードが出てきました。
通常の1時間半の授業においては集中力が切れることがありますが、ビジネスゲーム「The 商社」では集中力が切れなかったという声が多く挙がりました。学生は実施中、常に頭をフル回転しながら、チームで相談して行動し、他チームと交渉することで途切れることなく集中して学ぶことができるという効果が実感できたようです。
学生たちのコミュニケーション力も十分に発揮されたと思います。他者を巻き込もうとする行動やチームで戦略の方向性を相談し確認しあう行動は、経営学の実践において欠かせないものですが、その行動がビジネスゲーム「The 商社」によってうまく引き出されていました。
全てのチームが、学修としての有効性を実感できた
―学生の皆様から、細かくアンケートを回答いただいたと伺っておりますが、どのような発見がありましたか。
田中先生:はい、今回参加者30名(5名×6チーム)に対して独自のアンケートを実施しました。
アンケートでは、チームの結果とともに、これまで学修した経営戦略論の理論をどのように実践的に活用することができたかを5段階評価のリッカート尺度(※)で問いました。その結果の一部を紹介します。
※リッカート尺度のアンケートとは「1」が「まったく実践しなかった」から、「5」が「大いに実践した」まで1ずつの尺度を用意し、回答者が1~5までの数値を選んで答える方式です。
田中先生:アンケートからはチームの成績と連動した結果が得られました。
「経営戦略論の理論を活用できたか」という問いに1位のチームは「4」、2位のチームは「5」と回答しました。一方、5位と6位のチームは「2」と回答しています。この結果から、経営戦略の理論を実践したチームがThe 商社で良い結果を得られたことが分かります。
では、どのプロセスで特に経営戦略の理論を実践していたのでしょうか。大きく差が出た領域は「ミッション・ビジョン策定」と「外部環境分析」「ビジネスモデル構築」でした。「ミッション・ビジョンの策定」では自社・自身のミッションやチームとしてのビジョンともに、1位2位のチームともに「5」と大いに実践できたのに対し、6位のチームは「2」という評価でした。チームとして何を優先するかというミッションと、結果としてどうなりたいかを示すビジョンが明確なチームが良い結果につながったということです。
―最後に、今後どのようなことに取り組んでいかれたいと考えていらっしゃいますか。
田中先生:アンケートでは、「満足度」「学びやすさ」についても問いましたが、全体で「5」という高い回答でした。先ほどの回答と比べると、学修の成果が発揮できたかに関わらず、学修としての有効性は全てのチームで実感できた結果になります。
今後のゼミ活動でもビジネスゲーム「The 商社」、カードゲーム「2030SDGs」、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の3つのコンテンツを組み合わせ、経営戦略論の理論と融合させることで、現在・中期・長期の視点から経営戦略論の学修成果を高めていきたいと考えています。また「The 商社」に関しては、ゼミ活動において定期的に実施し、アンケート調査を継続することで経営戦略論の理論の定着への有効性向上に活用したいです。
―ありがとうございました!
研修内容
- 組織の属性
教育機関(在籍者数1,000~2,000名)
- 研修の目的
経営戦略論の理論の実践を体験する
- 研修受講者
30名
- 研修実施日
2024年1月10日
研修プログラム
- チェックイン
- 研修目的の共有
- 講義(経営戦略論のおさらい)
- The商社
- 対話(ゲーム体験をふり返る)
- アンケート
- チェックアウト
研修の様子
研修受講者の声
“お金の流れや環境変化があり、ビジネスの仕組みや流れを体感することができた。他のメンバーと会話することで幅広い考え方や状況変化を楽しむことができた”
“講義型の研修では静かに学ぶ一方で、ビジネスゲーム型では周囲と話し、協力することで楽しく学ぶことができた。それぞれの意見を尊重しながらも、積極的にゲームに取り組んだため、1位になることができたと思う”
“戦略の立て方や考え方を肌で感じられるため、頭を使いつつ将来像を明確にできた。相手も全て本当のことを言っている訳ではなく、揺さぶってくるため交渉に時間がかかったが、実践的で理解が深まった”
“考えるだけでなく、実際に行動することで、学んだことが頭に残りやすいと感じた。インプットとアウトプットの両方ができたことで、自分の学びになった”
“ビジネスゲーム型では実際に動きながら学ぶため、集中力が切れなかった。計画タイムでチームの中でしっかりと話し合いができたので、役割分担をしっかり行い、共通の意識を持ちながらゲームを進めることができた”
ご案内
「The商社」は、ビジネスに必要な力をゲームに落とし込み、体験を通じて学ぶことができます。
参加者の皆様には、他のチームと様々な交渉を行いながら、資金とお金を集めビジネスを設立し、競い合っていただきます。シンプルなゲーム構造ですが、チーム内外のコミュニケーションや、目的設定ができているか、戦略を考えるPDCAサイクルが回せているかなど、ビジネスパーソンがそれぞれの立場で活躍していくための能力を学ぶことができます。最後の1秒まで熱中して取り組めることで、実践的な学びに繋がります。
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