【事例インタビュー】カードゲームでサーキュラーエコノミーの理解を広め、循環型社会を共創(ごみの学校)

企業名 :株式会社ごみの学校
業界業種:教育、学習支援
事業内容:教育・研修事業/イベント企画事業
従業員数:2名(2024年9月時点)

本稿では、オリジナルビジネスゲーム開発をご依頼いただいた事例をご紹介します。

「ごみを活かしてわくわくする社会をつくろう!」と運営代表が1人で立ち上げ、ごみに関する情報を発信し続けている、株式会社ごみの学校(以下、ごみの学校)。

2,700名を超えるコミュニティグループでの活動を礎に、企業・自治体・市民団体などでごみの講座やワークショップを行っています。

創業間もない時期に「今後会社の資産となり、必ず自社の武器となる」と、オリジナルゲーム開発をご依頼いただきました。2024年に共同制作したのが、循環型社会の共創の在り方について問う「サーキュラーコミュニティカードゲーム」です。

なぜツールとしてカードゲームが選ばれたのか。開発の背景やゲーム制作に込められた想いを、インタビューを交えてご紹介します。

<お話を伺った方>

株式会社ごみの学校 代表取締役 寺井 正幸様
株式会社ごみの学校 取締役  東野 陽介様

寺井 正幸様
東野 陽介様

<企業プロフィール>

ごみの学校は、ごみ問題を正しく学ぶために立ち上げられたFacebookコミュニティから誕生した組織。コミュニティへの参加者は、2,700名を超える(2024年9月現在)。ごみ問題を学び・考え・行動することで少しでも良い社会を作る事を目指し、コミュニティでの情報発信の他、講演やイベントの開催、企業と協業での活動も行っている。

「サーキュラーコミュニティカードゲーム」とは

「サーキュラーコミュニティカードゲーム」は、コミュニティの中で発生する資源循環やごみの廃棄に関する様々な解決したい課題を、自身が属したチームの技術や強みを考えてアクションすることで、資源循環と廃棄物の削減を目指すカードゲームです。

ゲーム参加者は、行政やプラスチック製造、アパレル産業、廃棄物処理業、教育・研究など12の役割に分かれ、それぞれ異なるゴールを目指して様々なプロジェクトを実践していきます。

ごみの問題は身近なものであるのにどこか遠い課題意識が持たれやすいですが、カードゲームを通して自分ごととしてまちの持続可能な資源循環や経済の両立を目指していきます。

ゲーム体験を通してサーキュラーエコノミーの概念を理解するだけでなく、社会課題に向き合う事業創造の考え方や協働歩調の大切さについて学ぶことができます。

資源循環と廃棄物の削減を目指す「サーキュラーコミュニティカードゲーム」

ごみの学校が立ち上がるまで

ーまず、ごみの学校について教えてもらえますか。

寺井様:ごみの学校は、2021年2月に立ち上げたFacebookコミュニティでの活動を礎に法人化した組織で、ごみ問題について正しく学んでもらうための情報発信や、講演・ワークショップなどの活動を行っています。

この組織を立ち上げたバックグラウンドには、前職の廃棄物処理会社での経験と知識があります。

元々僕と東野さんは、大阪にある産業廃棄物処理会社で共に働いていました。廃棄物処理業界に大きな興味があったわけではなく、2人とも「次世代の経営者募集」の言葉に引き寄せられて就職したんです。

当時は「3K(きつい・汚い・危険)」 が当てはまる厳しい業界でしたが、現場の方の仕事に対するプライドや知らなかった技術に触れ、徐々に面白味を感じていきました。分別する現場の方は職人気質で、匂いや味、触感で素材や配合率が分かるんですよ。例えばプラスチックをライターで焙った時の匂いや、金属を舐めた時の味で素材の種類を判別したり、触っただけで「これはポリエステルとレーヨンでできてるね」と素材の混合率まで言い当てる方もいます。驚きますよね。

その廃棄物処理会社に勤める傍ら、個人で活動を始めました。

ごみの学校での活動の一例、ごみの内訳を調査する「組成調査」の様子

ー具体的には、どのような活動をされたのでしょうか。

寺井様:まずは「世の中に知られていないことを知ってもらおう」と25歳の時に社団法人を立ち上げ、廃棄物処理業のTipsや法律、技術について語る30分のインターネット番組を始めました。

この業界は、法律や体系的に整理されていないため参考文献もなく、全て現場の “勘” が頼りです。まずはそれを言語化しようと思いました。

東野様:寺井さんのように表立って動画配信する人はこれまで1人もいませんでしたから、業界ではかなり異色でしたね。番組が終了した今も、新たに廃棄物処理業界に入った方の勉強材料にされているんですよ。

ー寺井さんは、この活動にどのような想いを持って取り組まれたのですか。

寺井様:まずは「ごみを処分する側(静脈)の意識を変える」ことから始め、最終的には「廃棄物処理業界全体の目線を上げ、業界全体で作り手(動脈)にコミュニケーションが取れる意識や知識を身につけてもらいたい」という想いのもとに取り組んでいました。

結果として、2021年の番組終了までの2年半で130本を制作し、現場で得た知識以外にも守備範囲の広い情報が蓄積されましたね。「知識や情報を発信し、誰かにアクションを起こそう!」と試みたのはそこがスタートです。

ーそこから、コミュニティグループを立ち上げられたのですか。

寺井様:はい。Facebook上に「ごみの学校」の名でグループを作り、コミュニティで情報を発信し始めたのですが、ここで想像以上の反響がありました。

例えば、グループを作った2~3か月後に「海洋ごみについて学べるカードゲームの監修をしてほしい」と声をかけていただいたことや、主催したオープンセミナーに400名以上の集客があるなど、売り上げになる仕事が出てきたのです。

それまでは報酬の有無に関わらず、個人で副業的に仕事を受けてきましたが、この時世の中のニーズの喚起を肌で感じました。

そこで「長い目で見て、しっかり要望に答えられる人材を入れたい」と思い、東野さんに声をかけました。

コミュニティのイベントで、物の素材について解説する様子

ーそこで東野さんが活動に入られたのですね。では、なぜ会社を退職し、ご自身の会社を立ち上げるに至ったのでしょうか。

寺井様:実は独立する前に、前職の新規事業として、サーキュラーエコノミー推進を担う部署を立ち上げていました。しかし、自分が廃棄物処理会社という組織で仕事を請け負うには、根本の存在意義やベクトルが違っていたんです。

ごみの学校は「ごみを無くす」、つまりは「使用をやめる」「リユースを促す」ベクトルであり、ともすれば “リサイクルしないビジネスモデル” を構築することになります。

しかし廃棄物処理会社は、自分たちの工場に「ごみを入れて」収益を上げるモデルであり、それを礎に組織の考えや個人の価値観も成り立っているため、目指すべき方向性が異なっていました。

その中で、「自分たちの思想で立ち上げたごみの学校を、組織化して取り組んだ方がしっくりくる」と思い、独立を決意しました。

海洋ごみ問題について学べるワークショップ運営の様子

創業間もなく踏み切ったカードゲーム制作

ー独立後間もなく、オリジナルゲーム開発をご発注いただいたのですね。カードゲームを選ばれた背景を教えていただけますか。

寺井様:前職で新規事業を立ち上げた時からカードゲーム開発の話は挙がっており、以来実現をずっと思い描いてきました。

これから自分の会社が何を資産にするか、何を武器にするかを考えたときに、サーキュラーエコノミーの分野は確実に伸びると考えました。そして、このサーキュラーエコノミーの概念を楽しく分かりやすく伝えるために、カードゲームというツールを選んだのです。

オリジナルカードゲーム開発の見積り金額は、正直に言うと、めちゃくちゃ高かったです(笑)

しかし、「絶対に必要だ」と確信があったので、独立の準備をしつつ、カードゲーム事業をどのように進めようかと考えてきました。

ーゲーム活用の可能性は、どういった点に感じられたのでしょうか。

寺井様:僕自身、過去にSDGsのカードゲームを体験しており、カードゲーム「2030SDGs」と「SDGs de 地方創生」のファシリテーター資格も取得しています。

ゲーム運営の経験から言えることですが、カードゲームは概念理解の入り口となり、言語化しなくともその概念や社会課題解決の活動に興味を持ってもらえるのが魅力だと思っています。勉強会や分科会など、机上で学び、話をするだけでは実感できないことも、気軽に感覚的に理解することができます。

そこで、ゲーム体験によって起こるコミュニケーションや生み出されるマインドセットに可能性を見出し、サーキュラーエコノミーをテーマにしたカードゲームの制作を決めました。サーキュラーエコノミーは、静脈企業と動脈企業がコミュニティを作ることで活動が促進されます。そのため、ゲーム名は「サーキュラーコミュニティカードゲーム」としました。

僕たちの目指す循環型社会の共創を実現するには、サーキュラーエコノミーの概念を理解するとともに「輪の一員である」と自覚し、「自分にも何かできる」と思えることが重要だと思っています。

「ごみを減らそう」「ごみを生かして社会を良くしよう」と思った時に必要なのは、専門的な知識の有無だけではありません。業界業種を超えたつながりがあってこそ、物の循環は変わっていくのです。

ー業界業種を超えた物の循環とは、例えばどのようなことでしょうか。

寺井様:例えば新素材が開発されたとします。全ての新素材が環境配慮を目的に開発された素材ばかりではないので、リサイクルする時になって初めて「誰が、どうやってリサイクルするのか」という新たな課題に直面することがあります。そのため、新素材の開発においても「廃棄する時にどうやって処理するのか」「廃棄物を最小限にするためにはどのような新素材を開発すると良いのか」を前提にすることが、結果的に服をはじめとしたものの廃棄量削減につながります。

また、最近流行りのアップサイクル(本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること)でも、環境に配慮したものが必ず売れるとは限りません。「誰が、どうやって売るのか」という課題があります。商品を作るだけでなく、販売ルートを確保することで事業が成立し、初めて循環が生まれます。

このように、点で存在する技術やアイデアが直面した課題は、異業種との協業に解決のヒントがあります。これを疑似的に体感できるのが、「サーキュラーコミュニティカードゲーム」なのです。

地方で経済圏を作り、業界業種を横断したネットワーク創出を目指す

ー今後「サーキュラーコミュニティカードゲーム」を用いて、どのような事業を展開されるのでしょうか。

寺井様:偶然の接点を生み出し、関係性を構築できるのがごみの学校の理想像であり、それを疑似体験できるのがこのカードゲームだと思っています。その中で、カードを用いてやりたいことが大きく2つあります。

1つは、「地方で動く力をつけること」です。

地方のローカルな中小企業を含めた、サーキュラーエコノミーの考えを知らない人・興味がない人も参加できるコミュニティを創出したいと思っています。そこで輪を作り、都市圏で「サーキュラーエコノミー戦略」などが発信された際、地方で物を作って動かせるようにしたいです。

そしてもう1つは、「業界業種を横断したネットワークの創出」です。

異業種同士でノウハウを共有し、お互いのアセットをかけ合わせて互いの長所・短所をカバーし合えるネットワークを作りたいと思っています。

例えば、サーキュラーエコノミーをベースに、アパレル業と建設業が合同で企業研修を行うようなことにもチャレンジしてみたいですね。そこで、アパレル業はデザインの知識やZ世代へのマーケティングのノウハウ、建設業は物性(物質の物理的性質)や技術について語るなど、普段生活をする中では全く接点がない人たちが同じテーブルを囲んで議論するところからネットワークが生まれ、事業創造にもつながると思っています。

東野様:僕は、いろいろな事業者を巻き込み、お客さんとその先のお客さんをつなぐビジネスツールにしたいと思っています。ぜひ、ビジネスパートナーを創るきっかけにしてほしいですね。顧客と一緒にテーブルを囲み、フラットに対話できるところがカードゲームの真価だと思っています。

参加者同士で対話が生まれる様子

ーありがとうございます。カードゲームの開発後、早速いくつかの研修で利用されていますが、参加者の反応はいかがでしょうか。

寺井様:体験会には幅広く異業種の方を網羅する形でご参加いただきました。

企業に所属するサーキュラーエコノミー推進の担当者からは、「自分たちの言いたいことをカードゲームで表現してくれた」と共感が得られました。例えば、「課題は連鎖していること」「現状維持をしていても、周囲の変化により相対的に収益が減りチャンスを逃してしまうこと」「自分たちの課題は、異なる業界の力を借りて解決できること」などです。

また芸術家・工芸家など職人の方は、「サステナビリティ」や「サーキュラーエコノミー」など横文字の言葉は聞き慣れない方も多くいらっしゃいますが、ゲームを楽しみながら異業種と協力し、事業を広く展開する感覚を掴んでくださいました。

このような体験者の感想から、このカードゲームは僕たちの伝えたいことが伝えられる設計になっていると実感しました。また、サーキュラーエコノミーは「生活に身近な概念であり、意識の高い人や専門家が使う言葉ではないこと」「知識の有無ではなく考え方に素養がある人が入れば成立するもの」だと思えました。

東野様:このゲームは、異業種間の対話が必須で、持っているスキルや課題をシェア・整理しながら進める仕組みになっていると改めて実感しました。社会的にもコミュニケーションが不足している中、「サーキュラーエコノミーは、闊達な対話を通じて推進される」ことを、ゲームを通して体感してもらえたと思っています。

サーキュラーエコノミーをみんなでやれる世界観に

ーこのカードゲームは、ごみの学校の組織ビジョンと、寺井さん・東野さんそれぞれの個人ビジョンの達成にどう貢献するとお考えでしょうか。

寺井様:組織ビジョンにおいては、このゲームがコミュニティに集う人の見識をより深め、個々のパワーを引き出してくれると思っています。また、組織の活動を後押ししてくれるツールとなり、ビジョン達成に貢献してくれることを期待しています。

今、ごみの学校のコミュニティに集う人は、発信する情報に共感してくれるファンに留まっています。そこにカードゲームが加わることで、参加者それぞれが個人の強みを理解し、協働することで活動が強化されると思っています。

個人ビジョンとしては、このゲームを通じて「同じ目線で対話が生まれる」ことが理想です。個人的な好奇心もありますが、これまで顔を突き合わせることの無かった異業種の方同士が出会って起こる科学反応を見てみたいです。

東野様:僕の個人ビジョンとして思い描く「地方が経済圏を創っていく」ために、このカードゲームを活用していきたいです。

地方では、一人ひとりが熱い想いを持っていたとしても、関係性の構築が難しく、本来のパワーが出せていないのではないかと思っています。そこでカードゲームが、人と人とをつなぐツールになることを期待しています。

カードゲームを体験した人同士は、視座が合います。小さなエリアでも盛り上がり、自然発生的なきっかけづくりにしてもらいたいです。

ー最後に、このカードゲームにかける想いをお聞かせください。

寺井様:「サーキュラーエコノミー」という言葉は、本来は分別を促す言葉であるにも関わらず、格式高い言葉として印象付けられています。また、何か異業種横断的な事業を起こしたくとも、「異業種の人がどのような考えを持っているか分からない」「異業界の人と接点がない」と言われがちです。

まずはサーキュラーエコノミーという言葉を柔らかく、広がりやすい表現に変え、環境意識の高低ではなく、みんなでやれる世界観を創っていきたいと思っています。そのために、分断を作らない場づくりをしていきたいと考えています。

ー「サーキュラーコミュニティカードゲーム」を通して循環型社会が広まるよう、プロジェクトデザインも一緒に取り組んでいきます。ありがとうございました!

参加者の声

“自社のゴールと他社のゴールを理解すること、自社にしかない強みに気付くこと、各企業の課題を理解し共に解決していくことなど、日頃の企業のあり方・仕事の仕方に反映できることがとても多く、ハッとさせられました”

“他の事業者の課題解決が、自社の課題解決にもつながるということが、本質になっていると感じました”

“サーキュラーエコノミーの難しさや勘違いしやすさが体感出来て面白かったです”

“個々の課題解決だけでなく、多様な主体の連携の大切さを実感できました”

“色々な企業の立場、課題が浮き彫りになり、共創が大切であると体感的に分かりました”

ご案内

プロジェクトデザインでは、今回の「サーキュラーコミュニティカードゲーム」のように、オリジナルゲームの開発を行っています。人と組織・社会の課題をビジネスゲームで解決する会社として、お客様の課題解決に貢献するオリジナルビジネスゲームを提案します。

言葉や文字で説明するだけでは伝え方が難しいこと(仕事の魅力や事業・サービスの特徴、新しいトレンドや概念、複雑な社会問題など)を、ゲーム内でのリアリティのある体験を通じて短時間で分かりやすく伝えることができます。また、価値観や考え方への気づきを生み、個人の行動変容に働きかけます。

皆様の想いを大切にしながら、私たちプロジェクトデザインの知見と強みを活かし、貴社のビジョンを見える形にしていきましょう。

オリジナルビジネスゲーム開発にご興味のある方は、どうぞ、お気軽にご相談ください。

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