日本全国の探究学習の事例紹介(ICT活用編)
- 最終更新日:2023-12-11
探究学習の事例紹介を通じて、教育現場における探究学習の実践をサポートする本企画。
今回は【ICT活用編】と題して、学校現場で導入・利用が進んでいるICT機器を活用した探究学習の事例をご紹介します。それではどうぞ!
ICT機器を活用した探究学習の事例
つくば市立吾妻小学校
学校種別 | 公立小中一貫校 |
所在 | 茨城県 |
学科 | - |
生徒数 | 638名 ※小学校の生徒数 |
学習テーマ | ごみ問題 |
導入しているICT機器 | Windows端末(1人1台) |
つくば市立吾妻小学校の4年生は、Windows端末を日常的に活用して、ごみ問題の探究学習を行っています(茨城県つくば市では、全ての小学校において、4年生の「総合的な学習の時間」に「ごみ」をテーマにした学習に取り組んでいます)。
同校では、休み時間にタブレット端末の使用を認めているだけでなく、担任に申告すれば児童の判断で持ち帰りが可能になっており、「授業の続きを家でやりたいからタブレットを持って帰っていいですか」といった、児童からの能動的なアクションが生まれています。
そのような望ましい状況が起きている背景には、児童がICTという便利な道具を上手く使いこなせるように導く、教師の在り方(生徒への関わり方)があることが分かります。
“ICTを活用した総合学習を通じて、児童の環境問題に対する意識や行動自体にも変化が見られるようになったという。
「子どもたちはこれまで、正しいことは言えても、それを実行に移せない場面がありました。しかし、今は、ネットを使って幅広いテーマや情報にアクセスできるようになり、子どもたちの興味あるものを調べ、探究しやすくなりました。そのため自分ごとになりやすいのか、少しずつ行動に移せるようになってきたと感じます」(岩田教諭)。
一方で、ネットやタブレットを使うことが目的にならないよう、探究学習では実生活につなげることや、実体験を重視すること、また、自分から課題が生まれるような促し方を大切にしていると岩田教諭は語る。
「子どもたちの興味は広く、教師1人ではカバーできません。環境問題について、プラスチックやクジラを調べたいというピンポイントの児童もいます。そのため、教師が児童一人ひとりの内容に深く関わることはむずかしいですが、検索のやり方や情報が正しいかどうかなど声かけはできます。ICTを上手く活用しながら、教師は実体験や実生活との結びつきを大事にしていきたいですね」と語ってくれた”
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校
学校種別 | 私立中高一貫校(男子校) |
所在 | 福岡県 |
学科 | 特進英数コース、特進コース、進学コース、自彊館コース |
生徒数 | 2,138名(2023年9月現在) |
学習テーマ | 社会や地域の課題 |
導入しているICT機器 | iPad(1人1台) |
東福岡自彊館(じきょうかん)中学校・東福岡高等学校では、英語の授業を全てプロジェクト型学習(PBL)で行っています。
例えば、「町について英語で学ぶ」単元ではアメリカの学校と連係して、現地の学生に対して自分たちの住む町を紹介するプロジェクトを実施。時差の影響でリアルタイムでの交流は難しいため、掲示板アプリ『Padlet』を使い、生徒たちはSNSのように町の写真と紹介コメントをアップし、それに対してコメントをもらいます(国際交流にもなり、生徒たちの満足度がとても高い取り組みだったようです)。
また、「謎解き×英語」という授業では、生徒は暗号を解読するためのミッションに取り組んでいきます。ミッションの内容は「クイズスライドをKeynoteで作成せよ」「スキットをiMovieで作って提出せよ」など、創造的かつ協働作業が欠かせない仕組みになっています。
ICT整備や教員研修、プロジェクト型学習に力を入れている今井孝治教諭が「学び方の転換にICTは必須」と語っていらっしゃるように、こういった授業を実現できるのは、やはりICTという土台があってこそなのだと思います。
“PBLのような生徒主体の学び方を経験していない生徒たちが多いので、最初は戸惑う様子も見られました。学習内容とテストや受験の成果は結びつけられますが、学習内容と実生活や実社会を結びつけて考えられないのです。それでは学びが活かされず、社会で役立てていくことができません。PBLは、生徒の学習体験を変える学習方法です。正直、やみくもにICTを授業で使うことには意味がないと思っています。しかし、PBLのような生徒の学び方を転換する学習方法を実践する過程において、ICTの活用は欠かせないと考えています”
※PBLについての詳しい説明は、下記の記事をご覧ください。
取手聖徳女子中学校・高等学校
学校種別 | 私立中高一貫校(女子校) |
所在 | 茨城県 |
学科 | 普通科、音楽科 |
生徒数 | 約400名 |
学習テーマ | 地域の課題解決、女性のキャリア教育 |
導入しているICT機器 | 生徒個人が所有するパソコン・タブレット・スマートフォンを使用(学校指定の機器は無し) |
取手聖徳女子中学・高等学校では、全校生徒・教職員が日々の授業や学校生活の中で、各自のスマートフォンやタブレットを持ち歩き、Microsoft Teamsを中心としたアプリを自由自在に活用しています。
例えば、地域にある休耕地を活用するために、ひまわりを植えて生徒たちが商品開発をする「ひまわりプロジェクト」では、生徒同士が、学校での直接的なコミュニケーションだけでなく、Teamsのチャットでも情報や意見を交換しています。
同校によると、Teamsの活用(テキストコミュニケーション)によって、口頭でのコミュニケーションが苦手な生徒が自己開示をしやすくなるとのこと。「ICT活用には、このような素晴らしい価値を生み出すことができる力があるのか」と気付かされます。
“私が昨年まで担当していた生徒たちは、高1から高3までずっと同じメンバーでした。彼女たちの中には、中学校では講義型の授業で取り残されて自己肯定感が低かった子もいたのですが、取手聖徳のアットホームな雰囲気で過ごすうちに、段々と話せるようになり、自己開示ができるようになったようでした。その助けになったのはTeamsです。
口頭での会話が得意な生徒と同じようにテキストでのコミュニケーションが得意な生徒もいます。Teamsを活用することで、話せる場も広がり、話せる子がどんどん増えて自然とみんなが話せるようになりました。高3では「聖徳祭」で校外の見学者の前で卒業研究の発表ができるまでに成長してくれました”
参考:探究学習を支えるのは心理的安全性…データ活用に挑む取手聖徳女子中学校・高等学校 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」
隠岐島前高等学校
学校種別 | 公立高校 |
所在 | 島根県 |
学科 | 普通科、地域共創科 |
生徒数 | 166名(島内生53名、島外生113名) |
学習テーマ | 地域の課題 |
導入しているICT機器 | iPad(1.8人に1台) |
島根県の離島にある隠岐島前(おきどうぜん)高等学校では、異なる地域の高校生同士でグループを組み、地域の課題についてディスカッションを行っています。
離島の子供たちは限られた人間関係の中で成長するため、多様な価値観・意見に触れる機会が少なく、考え方が固定化しがちで、競争も生まれにくくなる傾向にあります。
それゆえ、インターネットを通じて島外にいるさまざまな人と交流・議論をすることが、固定化しがちな人間関係や価値観を打ち砕き、柔軟な思考力を養い、広い視野や見識を持つ機会として役立っています。
“例えば、(宮崎県)飯野高校の生徒たちとのディスカッションでは、島前の友達同士で通じることが相手には通じないことがあります。自分の中の当たり前のことがそうではない。そのことに疑問を感じ、その疑問を埋める。そのことによって地域や人によって考え方が違うことを感じる機会になっています”
ご案内
ICT教育に関して興味の有る方は、ぜひ下記の記事をご覧ください。ICT教育に関する基礎知識と学校の教育現場における事例を分かりやすくご紹介します。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
氷見 優衣
神戸大学国際人間科学部環境共生学科の4年生(2024年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。
監修者プロフィール
大槻 拓美(おおつき たくみ)
長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。
- 富山県滑川市総合計画審議会委員(2023年度~)
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