【フィンランド教育体験記】フィンランド教育を紹介する上でのキーワード「子育て支援」について
- 最終更新日:2024-01-29
【フィンランド教育体験記】はフィンランド共和国のエスポー市に移住されている上田雄哉さんの視点で綴る、教育体験レポートです。
フィンランドについて
著者プロフィール
上田雄哉(うえだ ゆうや)
富山県滑川市出身、フィンランド共和国エスポー市在住。職業能力開発総合大学校の造形工学科を卒業後、民間企業で4年間勤務。2012年4月に行政(商業デザイン)職として富山市役所へ入庁し、12年間の在職中にデザイン振興業務、観光施設管理業務などを担当した。プライベートでは結婚を機に2013年11月から兼業主夫となり、娘の誕生後に延べ2年と9週間の育児休業を取得。2023年8月、夢だったフィンランド暮らしを妻の現地大学院進学を機に実現。大学院生の妻とエスポー市のプレスクールへ通う娘と3人暮らし。
フィンランド教育を紹介する上でのキーワード「子育て支援」について
こんにちは、フィンランド在住の上田雄哉です。
2023年の8月にフィンランドのエスポー市へ妻と6歳の娘の家族3人で移住し、娘が就学前教育学校(プレスクール)に通っています。教育水準が高いと言われているフィンランドで実際に娘が通っているエスポー市のプレスクールを中心に、娘が体験したことをフィンランド教育の一例としてご紹介したいと考えています。
今回お届けする内容はフィンランド教育を紹介する上でのキーワード「子育て支援」について、です。それではどうぞ!
なぜフィンランドに?
まずは、私の自己紹介を兼ねてフィンランドへ移住するまでのことについて書いてみます。
私は大学でプロダクトデザインを学び、地方自治体の行政職員(商業デザイン採用)として勤務しておりました。北欧の質の高いデザインに関心を抱いたのは、大学在学中に北欧諸国の名作家具に出会ったことがきっかけです。私が初めてフィンランドを訪れたのは2013年の夏、妻とフィンランド及びデンマークへ旅行に行った時。ヘルシンキにはたった3日間の滞在でしたが、とても素敵で居心地の良い街だという印象が強く残りました。
妻は大学在学中にデザインを学ぶためフィンランドへ1年程の交換留学をしていたこともあり、結婚してからは夫婦で次々と北欧製品を買い集め、自分たちの身の回りを北欧製品で固めることに意欲を燃やしていました。
移住を本格的に決意する大きな転機となったのは、2年間の育児休業取得中の2019年に、2歳になる娘を連れ、家族3人でフィンランドへ旅行に行った時です。
2週間に渡るフィンランドでの子育て生活を擬似体験するうちに、街中に子供が遊べる公園の数がとても多いことに気がつきました。よく整備された緑溢れる心地良い公園ばかりで、目的地へ行く先々で公園に立ち寄り、娘を遊ばせながら毎日過ごすことができました(平日昼間は幼稚園の園庭として使用され、休日や閉園時間に一般解放されている公園もありました)。
当時、富山市に住んでいた私の周りではあまり見かけませんでしたが、平日の昼間の公園で「長髪のお父さんと小さい子ども」のペアによく遭遇し、育休取得中、髪を伸ばし続け、娘と毎日出かけていた私はとても居心地良く感じ、ここで子育てしてみたいという気持ちに拍車がかかりました。
また、私は大学生の頃に古着の魅力に取り憑かれたことや、木材加工の技術などにも触れたことから、ある時代にしかなかった機械や手仕事で作られた製品を、直しながらできるだけ長く使いたいという価値観をずっと持っていました。
そんな中、2019年にフィンランドを訪れた際に体験した様々な出来事から、フィンランドにはセカンドハンド文化が充実していることや、ゼロウェイストのレストランが人気店となっていることなど、サステイナビリティを大切にする文化が社会全体に自然に根付いていることを実感し、自分の生き方とフィンランドの生活文化がとてもマッチするようにも感じました。
これらのことから、フィンランドで子育てしながら自分の人生を生きてみたいと強く思うようになり、妻のフィンランド大学院進学を機に家族で移住しました。
フィンランドの子育て支援について
さて、自己紹介が長くなりましたが、今回はフィンランド教育を紹介する上でのキーワードになる「子育て支援」について、ご紹介したいと思います。
世界経済フォーラムが発表する、ジェンダーギャップ指数2022で2位のフィンランドでは、ジェンダー平等が進み、女性のほとんどがフルタイムで働き、ひとり親、再婚、事実婚、同性婚など、家族の形が多様化しています。
また、高齢化のスピードが比較的速い国でもあり、核家族化も進んでいることから、子育て家族を支える制度に特色があります。
ネウボラ
ネウボラ(neuvola)は「アドバイス(neuvo)の場」という意味で、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長・発達の支援はもちろん、母親、父親、きょうだい、家族全体の心身の健康サポートも目的としています。
妊娠の予兆がある時点からまず健診に行くネウボラはどの自治体にもあり、無料のため利用率はほぼ100%とのこと。妊娠期間中は少なくとも8~9回、出産後は子どもが小学校に入学するまで15回ほど定期的に通い、保健師や助産師を中心に専門家からアドバイスをもらうようです。
健診では母子の医療的なチェックだけでなく、個別に出産や育児、家庭に関する様々なことを相談でき、1回の面談は30分から1時間かけて丁寧に行うほか、医療機関の窓口の役割もあり、出産入院のための病院指定、医療機関や専門家の紹介もしてくれるそうです。
育児パッケージ
育児パッケージは出産に際し、KELA(フィンランド社会保険庁)から支給される母親手当のひとつです。母親手当そのものには、1子につき170ユーロの現金支給または育児パッケージの2つの選択肢があり、ほとんどの家庭で育児パッケージを選択するようです。
育児パッケージには所得制限はありませんが、ネウボラもしくは医療機関での妊婦健診の受診が必要なことから、妊婦健診への動機付けとして効果的だと言えます。現在ではほぼ全員が妊婦健診を受け、リスクの早期発見・早期予防に貢献しているそうです。
育児パッケージの中身はベビーケアアイテムやベビー服、親が使用するアイテムなど。さらに、箱は赤ちゃんの最初のベッドとしても使え、箱のサイズにあわせたマットレスや羽毛布団、ベットリネンが用意されています。中身は男女共通で、価格や用途、さらに両親からの要望を考慮しながら少しずつ改良され、昨今は、よりサステナブルなものになっているそうです(余談ですが、私も娘が生まれた際にフィンランドのものを購入し、使用しました)。
育休制度
フィンランドには既にかなり充実した育休制度がありますが、2022年8月1日、新たな家族休業に関する法律が施行されました。
さらに制度に柔軟性をもたせ、育休日を増やし、より利用しやすくすることで、親の責任も喜びも平等に分かち合うこと、職場や賃金の上でのジェンダー平等促進を目的としています。以前の制度下でも父親休業の取得率は約8割でしたが、新制度は更なる取得率向上を目指しているそうです。
保育制度
全ての子どもたちに保育施設を用意することが自治体の義務で、親の就労有無に関わらず誰もが保育園に入れるという主体的権利が子どもに与えられています(自治体には保育場所を24時間確保する責任があり、夜間保育や特別支援が必要な子どもにも、安くて良質なサービスを提供することが義務付けられているそうです)。
全日保育の利用は最長10時間までで、利用料には昼食代も含まれる上に、希望する場合は朝食を提供する保育所も多くあるようです。
また、2015年からは、小学校入学前の就学前教育(プレスクール)が義務となり、6歳前後の子どもたちは1年間、午前中を就学前学校で過ごします。小学校に上がる基礎を作ることを目的として、遊びを通じ、各自の発達に応じた形で自己肯定意識と、学び方を強化するそうです。
上記の情報は在日フィンランド大使館のホームページに詳しく記載されており、支援内容が世界でも注目されていることに納得できます。
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今回の【フィンランド教育体験記】は以上です。
お読みいただきありがとうございました。