日本全国の探究学習の事例紹介(学習テーマ別編)
- 最終更新日:2023-12-11
探究学習の事例紹介を通じて、探究学習の当事者となる方々の実践をサポートする本企画。
今回は【学習テーマ別編】と題して、キャリア教育やグローバル教育、SDGsや地域課題解決などの様々な学習テーマについての探究学習の事例をご紹介します。それではどうぞ!
キャリア教育に関する探究学習の取り組み事例
滑川市立寺家小学校
学校種別 | 公立小学校 |
所在 | 富山県 |
学科 | - |
生徒数 | 245名 |
学習テーマ | キャリア教育 |
商品販売を通して起業家精神を養う「寺家っこまつり」
滑川市立寺家(じけ)小学校の5年生は、総合的な学習の時間に「起業家教育」の一環として、児童が主体的に考えてお店(射的や駄菓子店など)を出店する「寺家っこまつり」を開催しました。
まずは、地域の方々がどのような仕事で生計を立てているか調べるところからスタート。地域の事業者がアドバイザーとして児童を支えながら、仕入れ・値段決め・宣伝まで全て子供たちが行い、思い思いの商売を形にします。
普段は消費者の立場でお店の商売を見ていた子供たちが、いざ売り手側に立って「もの」や「こと」を売る仕事に従事してみると、新たな気付きを得るとともに、相手に喜びを与えることで自分の心も温かく豊かになる貴重な経験をしたようです。
誰かが誰かを支えていることで成り立っている社会の一員として、将来自分らしく働く芽が育つ取り組みと言えます。
“この寺家っこまつり2023は、寺家小学校育友会役員の桶川さんが中心となり、「自ら企画し、高い志をもち、多様な他者と協働しながら、新しい価値を生み出す主体性や創造性、起業家精神等、これからの時代に求められる資質・能力を育成する」ことを目的に、今年度初めて行いました。
当日にいたるまで、子供たちは、本活動の目的や世の中の商いの仕組みについて学習し、自分がやってみたい商売について一人一人の思いをもち寄り、ハンドメイド作品、射的、駄菓子、フルーツポンチ、フランクフルト、くじ引きの8つの店を出すことになりました。それぞれのグループの特色を生かすために、地域で仕事をしておられる5人のアドバイザーの方々に参加していただき、値段決め、仕入れ、宣伝等について助言を受けて計画や準備を進めてきました。
お店を行うための資金は、育友会特別会計より初期費用を出資していただき、売り上げから返還することになっています。最終利益は、5年生が話し合って決めます。本物のお金を扱うということで、最初は漠然としたイメージをもっていた子供たちでしたが、実際にお店やスーパーに出かけて仕入れたり、インターネットで注文して届いた品物を手にしたりしていく中で、出店への意欲が次第に高まっていきました”
立命館宇治高校
学校種別 | 私立中高一貫校 |
所在 | 京都府 |
学科 | 普通科 |
生徒数 | 高校1,230名 |
学習テーマ | キャリア教育 |
大学進学の意義について考えるキャリア「授業+R 」
立命館宇治高校では、大学進学の意義や学部選択を主体的に考えるきっかけを作ることを目的として、「授業+R」というキャリア企画を毎年行なっています。
同校は内部進学率が高く、生徒の多くは大学受験を経験しないため、一般受験生に比べると、大学進学や学部選択を主体的に行うことへの課題を抱えています。
「何となく進学」する生徒を一人でも減らそうと、同校キャリア教育部の教員、有志の若手校友、校友会事務局が協力し、2009年度から「授業+R」がスタートしました。大学生スタッフが中心となって企画内容を考案し、現役大学生が講師となる「大学生授業」と、社会人が講師となる「社会人授業」の2回の授業を実施しています。
“「授業+R」は「大学生授業」と「社会人授業」の2回で構成されています。
12月14日(水)の「大学生授業」では、立命館宇治高校出身の現役大学生を中心に、「部活動」「課外活動」「留学」「学業」などのテーマで10名の学生が授業を行いました。また、今年は宇治高校から立命館アジア太平洋大学(APU)に進学した学生も参加し、より多様な選択肢を提示することができました。各クラスでは、大学生が高校時代に行っていた取り組みや大学生活で力を入れていること、挫折経験などについてプレゼンテーションを実施。その後、自分の興味関心があることや今後挑戦したいことについて考えるワークを行いました。授業後には生徒たちが講師に個別に話ができるよう個別相談会の時間も設けられ、多くの生徒が積極的に相談しました。
また、1月21日(土)の「社会人授業」は対面・オンラインのハイブリットで開催しました。日本全国から集まった11名の講師と、東アフリカのブルンジ共和国からオンラインで出席した講師1名の計12名が授業を行いました。高校生たちは社会人講師のプロフィールを元に、受けたい授業の3クラスを選択。授業では、社会人講師が、現在の仕事の内容、高校時代や大学時代の経験、その経験から得られたことを高校生に向けて語りかけ、自分の興味関心がどう今に繋がっているかを紹介しました。授業後に行ったアンケートでは、「授業+Rが大学生活の具体的なビジョンを持つきっかけになった」と答えた生徒が95%以上でした。高校生のときに受けた「授業+R」が学部選択のきっかけとなった大学生が運営スタッフとして携わったり、昨年大学生フタッフをした学生が社会人として携わったりするなど、「授業+R」を軸に循環型の支援が広がっています”
福岡女学院中学・高等学校
学校種別 | 私立中高一貫校(女子校) |
所在 | 福岡県 |
学科 | 普通科、音楽科 |
生徒数 | 中学校247名、高校402名 |
学習テーマ | SDGs・キャリア教育 |
女性キャリア教育×SDGs「凛として花一輪プロジェクト」
福岡女学院中学校・高等学校では、社会課題とキャリアを結びつけた6年間にわたる探究学習カリキュラム「凛として花一輪プロジェクト」を設計しています。
生徒自らが、情熱を持って解決したい社会課題(SDGs)を認識し、チームのメンバーと共に、その解決に役立つプロジェクトの実行やソーシャルビジネスの創出体験に取り組みます。
この活動を通して、仕事と社会・SDGsの繋がりを理解し、一人ひとりが自ら考えて動くことを学び、高校3年生で最終的に自分の進みたいキャリア・進路を選択することを目指します。
“「人生100年時代」となった今、社会とのつながりをしっかり構築できるひとが必要とされます。 どんな環境にあっても、つねにビジョンを持って自ら動くことができるよう6年間のキャリアデザインに取り組んでいます”
<カリキュラム例>
カタリバ女学院
“様々な職業人との対話を通して、自らの興味・関心を見つめ、働くことと社会とのつながりについて考え、将来の自分の働き方をイメージする土台をつくります。企業や会社、NPO法人や個人事業主が社会貢献活動(CSR活動やCSV活動)をSDGsの視点でどのように展開しているのかを知り、次年度の活動へつなげていきます”
SDGs起業体験プロジェクト
“2年生までの学びをふまえて、目指す(暫定的に決めた)生き方を実現したり、社会課題を解決したりするために、将来こんな会社をつくりたい、こんなところで働きたいというビジョンを語ります。中間発表会や最終発表会では、実際に起業されている社会人にフィードバック・評価をいただきます”
相模田名高校
学校種別 | 公立高校 |
所在 | 神奈川県 |
学科 | 普通科 |
生徒数 | 約850名 |
学習テーマ | キャリア教育 |
地域との交流から学ぶキャリア教育
相模田名(さがみたな)高校は、教育活動で地域連携に注力している高校です。
障害者スポーツ「ボッチャ」を地域住民と一緒に体験したり、地域のこども食堂に同校の料理同好会の生徒がボランティアとして参加するなど、スポーツや食を通した地域との交流を深めています。
地域とは本来、子どもたちが同年齢・異年齢の人たちと自由に遊び、活動できる場であると同時に、多様な人間関係を体験することができる場であり、キャリア教育に通じます(キャリア教育は一人一人の生き方にかかわる教育であり、児童生徒が様々な体験をし、多くの人と触れ合うことを通じて、生き方について考えるようにすることが大切です)。
“評価を受けたのは「地域連携」。同校では、部活動部員が果実を収穫したり吹奏楽やダンスなどを披露したりして地域と交流するPTA主催のキウイ収穫祭や、福祉委員会と近隣の福祉施設利用者、支援学校の生徒らとプレーを楽しむボッチャ交流試合、小中学・高校や地域住民らから美術作品を募り校内に展示するラウンジ展、料理同好会による田名公民館子ども食堂の調理補助といったさまざまな取り組みを実践。これらの活動を通じて生徒は学校外の人々とふれあい、他者理解や多様な視点、コミュニケーション能力、思いやりの心などを育んでいる。
地域連携を担当する後藤南津恵教諭は「校内だけでなく地域とふれあうことで、主体性が身に付いている」と生徒の成長を実感する。また、「これほど地域に望まれている学校は他に無いのでは。生徒も地域活動をしたいという気持ちを強く持っている」と学校と地域との結びつきを強調する。同校の地域連携の取り組みは十年以上前から続いているという”
「グローバル教育」に関する探究学習の取り組み事例
佐野日本大学中等教育学校
学校種別 | 私立中高一貫校 |
所在 | 栃木県 |
学科 | - |
生徒数 | 178名 |
学習テーマ | グローバル教育 |
未来を切り開くための「グローバル教育」と「探究学習」
佐野日本大学中等教育学校は日本大学の付属校であり、途切れのない6年間教育だからこそできるアプローチで、グローバル教育と探究学習に積極的に取り組んでいます。
「グローバル教育」という言葉から、「世界の国々のことを知る」というイメージが先行しやすいですが、同校では「この佐野にいながら、地域や自国のことを知り、そして世界を考える」ということをコンセプトとしています。
世界の中の日本、日本からの世界、という視点を軸に据え、「世界を考えるきっかけを与えるためのプログラム」を生徒たちに用意できるように学校全体で取り組んでいます。グローバル教育の一環として、海外で体験的に学ぶ「イギリス研修旅行」を実施するだけでなく、日本の出来事である東日本大震災をテーマにした「3.11を語り継ぐ旅」などの探究プログラムを実施しています。
“「3.11を語り継ぐ旅」は「教えてもらう」研修旅行ではなく、生徒自身が「感じ取る」探究活動です。年に一度実際に東北を訪れて震災を経験された方々と様々な形で触れあうのはもちろん、日常に戻ってからも常に現地に思いを馳せる。なかでも「アイリンブループロジェクト」への参画は、学校の花壇で東北から株分けされた花を育てる活動を通して震災の風化を防止すると共に、災害公営住宅にお伺いして被災地の「いま」に寄り添う活動となっています。 このチーム顧問の菅沼先生はおっしゃいました。
「東北の方から『出逢う喜び』を頂き『生きるエネルギー』をその背中に感じながら、生徒たちは楽しんで活動しています。共に活動する仲間との絆、東北の方々との交流を通して感じる喜び、現地の同世代の方々とつながる楽しみなどを得ながら、日々いきいきと活動しています。すべての企画は生徒主体で作っており、命の大切さを感じながら、自分たちでできることを考えて行動していく。彼らが大人になったとき、自分が身につけた力を『誰かのために』使える人間になってもらえたら…それが顧問としての願いです」
日本を知り、世界を知る。体験し、考える。佐野日本大学付属高校の「グローバル教育」の一部をお聞かせいただきましたが、それらは他では経験することのできない、同校ならではのプログラムでした。
「グローバル教育の狙いをシンプルに言えば、『ショックを与える』ということです。12歳から18歳の自分の小さな世界では知るよしもないことを、当校がさまざまな経験の機会を与えることで、たくさん知って、学ぶきっかけにしてほしい。そう思っています」(丹野先生)”
長岡市立才津小学校
学校種別 | 公立小学校 |
所在 | 新潟県 |
学科 | - |
生徒数 | 116名 |
学習テーマ | グローバル教育 |
国際問題を「自分ごと」として捉える国際理解教育×キャリア教育
長岡市立才津小学校では、小学6年生の社会科「国際貢献」の単元学習として、世界の問題解決と将来の自分の夢・職業を考える国際教育を行っています。
この学習は、国際的な社会問題の解決に、自分の「未来のスキル」を結び付けて考えることで、グローバル化する国際社会に生きる資質を養うことを目指した実践プログラムです。
国際問題を自分ごととして捉えるワークショップや、児童労働の負の連鎖をわかりやすく示したステップチャートの講義を通して、負の連鎖のどこかを切ることが児童労働解消につながるのだと理解します。
プログラムの最後には、生徒は自分が将来なりたい職業を選び、その仕事で社会問題をどのように解決するかを考え、自分なりのステップチャートを描きます。児童は、自分が国際社会で果たすべき役割について、自分の将来の夢と掛け合わせて考えます。
同校の国際理解教育に取り組む渡辺教諭は、このプログラムを通し、子供たちから次のような反応があったと述べています。
“漫画家になる夢を持つ児童Bは、最初は児童労働問題を他人事のように捉えていた。しかし社会問題を広報することも支援になること、広報活動で漫画のスキルが活かせることに気づき、「人の役に立ちたい」と、自分にできることを見出した。
児童Cは、普段は授業に特別な配慮を必要としており、勉強に取り組むことが苦手だったが、この授業中に図書館司書になりたいと言い出し、「良い本を子どもたちに紹介し、 学校を好きになってもらう。そして、児童労働を解消させたい」という強い願いを持つに至った。Cが自分の意思を表すことは滅多にないことで、Cには良い学習の機会であった。 教員としても、大きな手ごたえを感じた。
児童Dは、「有名なカメラマンになり、世界の状況を伝える」と発言。卒業後に学校を訪ねて、念願のカメラを手に入れて夢に向かって進んでいることを報告してくれた。
それまで自分だけのものだった将来の夢や計画に、「人の役に立つ」という視点が入ってくる。それによって児童は自分と社会との関係を強く意識することになるし、同時にそれは子どもの持つ夢を肯定することにもなる。特に、ステップチャートの使用は、未来のスキルと児童労働問題という社会問題を結びつけるにはとても有効だった”
「SDGs」に関する探究学習の取り組み事例
この記事の掲載事例(抜粋)
- ジェンダー問題に取り組む生徒主体のプロジェクト「制服改革」
- 生徒発案!オリジナルマイボトルの製作
- 開発途上国を舞台にした探究学習
- 「気候マーチ」の実施
- 「SDGsすごろく」の製作
- 6次産業化を通し、未来の里山を考える「檜原村プロジェクト」
- SDGs×地域貢献活動で持続可能な地域づくり「あらかわチャレンジ」
- 教育と月経の関係に注目し「竹×SDGs」でジェンダー平等へ
「地域課題」に関する探究学習の取り組み事例
この記事の掲載事例(抜粋)
- 地域とつながって行動を起こす「探究ゼミ」
- 地域や企業を巻き込んだ「放課後プロフェッショナル」
- グループではなく、個人で取り組む探究学習
- 「与論島を表現する書籍」の制作
- 市役所と連携した「瑞浪市まちづくりプロジェクト」
この記事の著者について
執筆者プロフィール
氷見 優衣
神戸大学国際人間科学部環境共生学科の4年生(2024年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。
監修者プロフィール
大槻 拓美(おおつき たくみ)
長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。
- 富山県滑川市総合計画審議会委員(2023年度~)
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