PBL(課題解決型学習)とは何か?学校の教育現場における事例紹介
- 最終更新日:2023-10-30
PBL(Project Based Learning)の意味と、学校の教育現場におけるPBLの事例をご紹介します。
PBLとは
PBL(Project Based Learning|課題解決型学習)とは、課題解決の過程を通じて、課題解決に必要な資質や能力を身に付ける学習方法です。
教員主体で授業を進めるSBL(Subject-based Learning|科目進行型学習)とは違い、生徒主体で課題を見つけて学習を進めるPBLは、アクティブラーニングの実践的手法に位置付けられます。
<アクティブラーニングの定義>
“教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である”
参考:新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)|文部科学省
PBLの位置づけとは?
PBLは一過性のトレンドなのか、あるいは、今後の学校教育のスタンダードになるものなのか?
この問いの答えは、新しい学習指導要領(平成29年3月31日公示)の改訂の基本方針として「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進が掲げられていることから察することができます。
“子供たちが,学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代に求められる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにするためには,これまでの学校教育の蓄積を生かし,学習の質を一層高める授業改善の取組を活性化していくことが必要であり,我が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点である「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)を推進することが求められる”
PBLの可能性について
PBLの可能性の一端を知る上では、幸袋校の古野守和校長のインタビュー記事が参考になります。それは、PBLの学びはキャリア教育に通じるという可能性です。
“私は1997年に長期研修を終えたその翌年から、33歳で自分が赴任した学校で職業体験を始めました。だから職業体験については、全国でもかなり早い時期からやりはじめたという自負があります。職業体験を始めた当時は、「勉強が何の役に立つのかわからない」といっている子ども達が、仕事と学びのつながりを実感できるように、職業体験を入れなくてはいけないと思っていたんですよね。
それを率先してやめたのは、職業体験自体が時代の流れにそぐわなくなっているところが多いと感じたからです。
具体的にいうと、今と同じ職業が将来もあるとは限らないということもありますし、その職業体験の中では子ども達がいきいきとした表情をみせていても、いざ学校に帰ってきたらすぐに元の木阿弥になってしまうということもありました。それは職業体験が悪いんじゃなくて、事前や事後の活動の充実ができていないところにも問題があるとは思います。
しかし、やはり今は、次にどんな課題が出てくるかわからないような時代です。新しい課題をどう解決していくかというのが、仕事になっていくということですよね。だから、そうした課題解決を協働でやる、そういう学びをすることが、職業体験以上の学びになると判断しました”
参考:職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長|QUEST EDUCATION
PBLでは、課題解決に必要な資質や能力を身に付けることができるだけでなく、社会に貢献していくための自分らしい生き方(キャリア)を発達させることに繋がる。それは現時点では可能性の話なのかもしれませんが、PBLの取り組みが広がっていく(進化していていく)過程で、現実のものにしていくことが期待されます。
PBLの進め方
PBLの進め方は、個別具体的には様々な違いがあれども、その骨格・基本構造は探究のプロセス(問題や課題の設定→情報収集→整理と分析→まとめ・表現)に符号します。
この一連のプロセスの中で最も難しいと言われる「問題や課題の設定(問い立て)」について、参考になる情報(立命館小学校の正頭英和先生のインタビュー記事)をご紹介します。
“「問い立て」は、子どもの興味や関心、モチベーションが重要になるプロセスです。大人の考えた答えありきで誘導しては、学びの意味を成しません。子どもをよく観察し、目の色が変わる瞬間を見逃さず、問いへと昇華させる働きかけが大事になってくるでしょう”
参考:子どもの好奇心を社会につなぐ。クリエイティビティを育てる学びの在り方|きざしを捉える – Linking Society
正頭先生は、上記のように「問い立て」の重要性を説いた上で、子供たちの関心や問いを広げるための3つのコツを分かりやすく説明されています(詳細は参考リンクの内容をご覧ください)。
<ご案内>
探究学習に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(探究学習の基礎知識と企業の取り組み事例・私たちにできることをご紹介します)。
PBLに関する教育現場の事例
GMOインターネットグループ
GMOインターネットグループでは、次世代に必要な資質・能力を持った人材を渋谷から輩出する土台作りとして、東急、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、MIXIの5社と共に、渋谷区教育委員会と連携し「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」を2019年より推進しています。
3年目に入った2022年度は、新たに笹塚小学校へ教育版マインクラフトを活用した「問題解決型学習(PBL:Project Based Learning)」の支援を行っています。
“近年、PBLにマイクラのようなプログラミングを取り入れることで、解決への自走力や、チームでの開発能力向上につながるといった「PBL×プログラミング学習」の相性の良さが注目を集めています。マイクラを活用した「PBL×プログラミング学習」は笹塚小学校では前例のない初の試みとなります”
参考:GMOインターネットグループによるプログラムを組み込んだ、新たなPBL学習の取り組み ~未来の笹塚小学校をつくろう~ / 開発者向けブログ・イベント|GMO Developers
内田洋行 × 鴻巣市立鴻巣中央小学校
内田洋行は、埼玉県鴻巣市とPBL型学習と21世紀スキル育成のための教育推進についての事業連携を2022年11月28日に締結。研究推進の場として、鴻巣市立鴻巣中央小学校に最先端のICT機器を実装した学習空間「のすっ子未来教室」の開設しています。
<鴻巣市立鴻巣中央小学校のPBL型授業実践例>
「総合的な学習の時間」を核としてPBL型授業を展開し、2年後には教科横断的な学習での活用を目標としています。
~各学年で考える授業プラン~
- 3年生:すてき発見!わたしたちの町 こうのす ~私たちの町をPRしよう~写真やインタビューをまとめる
- 4年生:みんなが幸せに生きるために ~多様な社会で生きること~点字を気軽に打てる用具の開発
- 5年生:災害が起きた時、どうする?3Dプリンタで食器を作りにチャレンジ
- 6年生:「未来を変えるのはわたしたち」企業連携やアイテム開発
角川ドワンゴ学園 N中等部
角川ドワンゴ学園 N中等部では、探究学習を繰り返し学ぶことで、 自分自身の感性と社会課題をつなげる練習を行い、 新しい価値を生み出せる人材の育成に取り組んでいます。
<PBLの授業>
- 21世紀型スキル学習(基礎)
ワークショップ型の授業を通し、情動スキル、思考スキル、コミュニケーションスキルを実践しながら身に付けます。自分なりのイノベーションを起こしながら、社会で活躍する人材へのスタートを切ります。
- 21世紀型スキル学習(基礎)
- 21世紀型スキル学習(応用)
21世紀型スキル学習(基礎)で身に付けた力を社会で活用するために、自分自身の感性と社会課題をつなげる練習を行います。チームで課題解決に取り組み、解決策を考え、実行する、 本格的なアクティブ・ラーニングです。
- 21世紀型スキル学習(応用)
- プロジェクトN
プロジェクトNは、N高等学校・S高等学校で実践されてきたPBLのひとつで、社会に出て活躍するための知識やスキルを身に付ける課題解決型学習プログラムです。課題に対して具体的な解決策を企画し、制作物をアウトプットして、 デジタル時代の社会で活躍できる人材を目指します。
- プロジェクトN
矢田中学校
矢田中学校は、2022年度からプロジェクト型学習(PBL)の実践に取り組み始めています。これまでに取り組んできた「総合的な学習」の中で見られる生徒の良さをさらに引き出せるように、プロジェクト型学習の要素を大きく取り入れる事に挑戦しています。
“生徒自身が学びの楽しさや嬉しさを実感し、心躍らせて学びと向き合う姿が生まれてくることを目指しています。生徒が主体的な学びの中から「自分達で実際に地域を歩いて今まで気付けなかった課題を見つけることができたことが楽しかった」「一人一人の行動が大きな課題の解決につながることが実感できて嬉しかった」というような新たな学びや新たな発見から達成感や成就感を味わい、次の学びへの意欲につながっていくことを願っています”
参考:矢田中学校におけるプロジェクト型学習の取組について|NAGOYA School Innovation(ナゴヤスクールイノベーション)|名古屋市教育委員会
帝塚山学院泉ヶ丘中学校・高等学校
帝塚山学院泉ヶ丘中学校・高等学校では、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」を中学生の間に育む明確な目標のもとにPBLのトレーニングを段階的に進めています。
具体的には、中学1年では「群読」で言語活用能力を育み、中学2年では「調べ学習」で情報活用能力を磨き、中学3年では「卒業研究」で情報伝達能力を培っています。
“総合的な学習の時間を活用して「群読」からスタートする一連の「PBL」を充実させたことで、確実に生徒たちの自主性や主体性が伸びています。他のことに取り組む時も、例えばボランティア活動に、積極的に協力してくれる生徒が増えました。また、教員と生徒の距離感もぐっと近くなり、授業以外の場でも気軽に話をしながら人間関係を上手く築ける生徒が増えてきたと感じます”
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
大槻 拓美(おおつき たくみ)
長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。
- 富山県滑川市総合計画審議会委員(2023年度~)
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