日本全国の探究学習の事例紹介(地域課題編)

探究学習の事例紹介を通じて、探究学習の当事者となる方々の実践をサポートする本企画。

今回は【地域課題編】と題して、地域の課題に関する探究学習の取り組み事例をご紹介します。それではどうぞ!

Contents(目次)

地域課題に関する探究学習の取り組み事例

多摩大学附属聖ヶ丘高等学校

学校種別私立中高一貫校
所在東京都
学科普通科
生徒数高校310名
学習テーマ地域課題

地域とつながって行動を起こす「探究ゼミ」

多摩大学附属聖ヶ丘(ひじりがおか)中学・高等学校では、多摩市役所と連携し、地域とつながって行動を起こす「探究ゼミ」を実施しています。

多摩市の課題を大きく8つのテーマに分類し、それぞれ少人数のチームでゼミに取り組みます(テーマ例:1ゼミは「商店街活性化」、5ゼミは「環境美化」、8ゼミは「防災」)。

ゼミの目的は「必ず行動をする」こと。毎週水曜の探究の時間には市役所職員の方々が職員室に常駐し、生徒の探究アドバイザーとしてゼミ活動を支えています。活動に悩んだり、アドバイスが欲しい時、すぐそこに地域のプロがいる環境は「実行」を目指す生徒にとって大きな力になっています。

“多摩市×多摩大聖ヶ丘で展開している聖の地域探究。高校2年生が活動している「探究ゼミ」は、いよいよ実行のフェーズにうつりつつあります。

毎週水曜日に市役所の皆様や多くの大人を交えてゼミごとに議論をし、それぞれが教員の手助けほぼ無しの中、ようやく実行にこぎつけました。中には失敗を繰り返しているゼミも…。パワーポイントの発表だけでは学びきれない、自分だけの経験を伴った成果のいくつかを今日はご紹介します。

まずは「商店街活性化」を掲げた1ゼミ。10月の永山団地秋祭りに焦点をあて、新たな人流作りの施策と、多摩市にある団地商店街の振興を目指して、「各団地商店街で販売しているお菓子を集めたセレクトショップ運営」を実行しました。

最終的に4店舗と交渉がうまくいき、代理販売+チラシでの誘導告知という形で商品を販売しました。販売数の見込みがうまくいかず、お祭り開始30分ですべて売り切れるという嬉しい誤算があったものの、各店舗のご厚意で商品を補充。一日で約5万円の売り上げに貢献できました。

聖の探究はこの実行後がメインです。現在1ゼミでは来年度の後輩へ向け、市の職員の方々と熱心な振り返りが行われており、年内にもう一度実行・検証をしたいという機運も高まっているようです”

参考:多摩市×多摩大聖「探究ゼミ②」|多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校

兵庫県立加古川東高等学校

学校種別公立高校
所在兵庫県
学科
生徒数955名
学習テーマ地域課題

地域や企業を巻き込んだ「放課後プロフェッショナル」

加古川東高等学校では、STEAM教育の一環で希望者を対象とした特別講座を実施しています。その名称は「放課後プロフェッショナル」。地域(加古川市)や企業(NEC)と一緒に、アイデアの社会実装を目指す共創プロジェクトです。

生徒は、空き家解消・観光活性化・地場産業の3つのテーマについて、データに基づいた課題分析や解決策の検討を行います。そして、生徒のアイデアをより実現可能なものにするために、ビジネスやエンジニアリングのスキルを持つNECの社員がフィードバックや助言を行い、課題解決に一緒に取り組みます(プロジェクトは約2カ月間行われました)。

この取り組みは全国で高く評価され、国が主催する「地方創生政策アイデアコンテスト」や東京大学主催の「チャレンジ!オープンガバナンス」などで多数の賞を受賞しています。

“今回の共創プロジェクトは、教育面でも大きな成果をもたらしたという。

「プロジェクトを続ける中で、生徒たちの自走力が、制止できないほど高まっていきました。私たちが『もう、いいんじゃないか』と思っても、生徒が『まだやれる』と言って、どんどん走り続けていくわけです。彼らが動くことによって、さまざまな人たちとつながり、学校と地域と企業が結びついて、有機的な動きが生まれていった。自分たちの行動が周りの大人や社会を動かしたことは、彼ら自身も実感しています。その中で、地域デザイン講座の受講生が自ら講座を立ち上げたり、卒業後に在校生向けの講座を開いたり、といった動きも始まっている。以前では考えられなかったようなことが、今、生まれようとしています」”

参考:高校生が「火付け役」となった地域を巻き込んだ次世代のまちづくり|NEC

気仙沼市教育委員会

学校種別
所在宮城県
学科
生徒数
学習テーマ地域課題

グループではなく、個人で取り組む探究学習

宮城県気仙沼市教育委員会は、グループではなく、生徒一人ひとりが課題を設定して取り組む(生徒の興味関心に沿った『学習の個性化』を図る)ことで学びを深め、より質の高い探究学習に結び付けることを目指しています。

難易度の高い個別の探究活動には、生徒のサポートが必要不可欠です。「防災」などの大きなテーマに括ることで生徒の課題設定のハードルを下げるほか、地域に詳しく、教育への情熱を持っている人材を「探究学習コーディネーター」として全市立小・中学校に派遣しています。

“その(生徒が課題設定をする)際、コーディネーターは、生徒を「指導」するのではなく、生徒が自ら課題を見いだせるよう「ファシリテーション」をしていったという。

「『やりたい!』という内発的動機づけがあってこそ、探究は深まります。生徒の発想には、まず『いいね』『面白そうだね』と肯定してから、『なぜその課題にしたの?』『どうしてそう思ったの?』と問いかけ、内面にある課題意識を顕在化させ、課題設定につながるようにしました。問いかけ、待って、引き出すことを意識しながら支援しています」(加藤氏)

課題設定に困っている生徒については、その状況をコーディネーターにも共有し、意図的に何度も声をかけて相談に乗るなど、手厚く支援。一方、課題が具体化してきた生徒には、その内容に応じて、コーディネーターから移住・定住支援センターや外国人技能実習生がいる企業など、地域の課題を見いだすきっかけとなりそうな人物を紹介してもらった。

「教室で考えたことが地域の現実につながっているという感覚を持つことが、探究が深まるポイントです。コーディネーターには、生徒が地域の人と直接対話をする機会を、積極的に設けてもらうようにお願いしました」(小松副参事)”

参考:探究学習コーディネーターとも連携し、一人ひとりが課題を設定する探究的な学習に|宮城県 気仙沼市教育委員会|VIEWnect教育委員会版

与論高等学校

学校種別公立高校
所在鹿児島県
学科普通科
生徒数323名
学習テーマ地域課題

「与論島を表現する書籍」の制作

与論島は、鹿児島県の最南端に位置する人口5,000人ほどの離島です。その島にある与論高校では、2年生の探究学習で「与論島を表現する書籍」の制作に取り組みました。

まずは「与論島はどんな場所か」を考え、生徒自身の思考を整理します。そして、生徒は島民のマンツーマンインタビューと「写ルンです(インスタントカメラ)」を使ったポートレート撮影を行いました。道端で挨拶を交わすけどよく知らない人、お世話になっている人、自分が将来就きたい仕事をしている人、身近すぎて改まって話を聞くことがない家族。

48名の生徒それぞれが様々な思いとともに、島民の「日々」と向き合いました。

生徒は一人2ページを担当し、写真や原稿を揃えます。こうして、書籍『与論の日々』が刊行されました。この書籍は与論島の人々の語りの記録であるとともに、語りを聞いた生徒たち自身の記録でもあります。

この取り組みは、全国海洋教育サミットの発表で優秀賞を受賞。「単なる科学的な考察というだけではなく、与論島で生活するひとりひとりの営みへのまなざしが感じられる」という点が評価のポイントでした。

“2017年に改訂された学習指導要領において、高校では単なる学習ではなく、「探究的な学習」が求められることになりました。私は、果たしてこの人数でその実践ができるだろうか?と悩み、生徒それぞれにとって意味ある探究を生み出すために、新たな企画を考えることにしました。それが、与論島を表現する書籍の制作でした。

絶景のビーチやダイビングスポットなど、海洋環境に由来する豊富な観光資源に恵まれた与論島では、当然観光ガイドを中心とする刊行物もさまざまに存在し、高校生の目に触れる機会も多くあります。しかし地域をより深く探究するためには、観光地としての側面以外から与論を見てみることが必要なのではないか? と考えました。

私は書籍制作のプロセスに、「対話」の機会を多く取り入れることにしました。人と人とのコミュニケーションは、地域形成の礎です。その対話を通して浮かび上がる島民の暮らしや日常が、島の違った魅力を浮き彫りにするのではないかと思ったのです”

参考:海とヒトを学びでつなぐ。考える力が生きる島と海の教育|離島経済新聞社

麗澤瑞浪中学校

学校種別私立中高一貫校
所在岐阜県
学科普通科
生徒数171名
学習テーマ地域課題

市役所と連携した「瑞浪市まちづくりプロジェクト」

麗澤瑞浪(れいたくみずなみ)中学校では、「総合的な学習の時間」を「RISE」と名付け、SDGsを活用して地域を活性化する探究プロジェクトを実施しています。

※RISE:Research(調査研究)、Identity(主体性)、Study(学び)、Experience(体験)の頭文字。自ら課題を発見して学び、主体的に物事を判断する能力や、課題解決力、創造的・協働的に取り組む力をつけることを目的としている。

生徒たちはグループに分かれてテーマを決め、「瑞浪市まちづくりプロジェクト発表会」に向けて調査を進めます。それぞれが設定したテーマに沿って、地元のフィールドワークに出かけて調査を行い、他市の事例も交えながら、瑞浪市をより魅力的なまちにするためのアイデアをまとめます。瑞浪市の「出前講座制度」を活用し、市職員から直接、瑞浪市の現状や抱えている課題を学ぶ機会もあります。

発表会では各グループで調査結果を瑞浪市に提言をし、審査員からのフィードバックから、さらに学びを深めます。

“本学習会の責任者の原田歩教諭は、「1学期にSDGsについてグループで調べ発表しました。今回は瑞浪市の現状を知り、身近なSDGsに関連する課題を学ぶことで、SDGsを自分ごととして捉える機会になると思います。

初回の説明会では、市役所の方から『SDGs de 地方創生』という、持続可能な地域の作り方を学ぶゲーム型のプロジェクトも行い、楽しみながら社会の仕組みについて学びます。約10カ月の長期にわたるプロジェクトですが、生徒自身が主体的に探究活動を続けていき、生徒たちの深い学びに繋がればと期待しています」とコメントしている”

参考:瑞浪市役所×麗澤瑞浪中学校「瑞浪市まちづくりプロジェクト探究学習会」を実施 SDGsを活用して地域を活性化|教育家庭新聞

※この探究学習では、SDGsの考え方を地域の活性に繋げるため、「SDGs de 地方創生」というカードゲームを活用されています(SDGsの考え方をヒントに、地域創生の概観や対話と協働の重要性を体感的に学ぶことができます)。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

氷見 優衣

神戸大学国際人間科学部環境共生学科の4年生(2024年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。

監修者プロフィール

大槻 拓美(おおつき たくみ)

長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。

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