アサーティブ・コミュニケーションとは?注目されている背景とトレーニング方法
- 最終更新日:2024-02-28
アサーティブ・コミュニケーションとは何か。
アサーティブ・コミュニケーションの意味と効果、注目されている背景。そして、アサーティブ・コミュニケーションのトレーニング方法を分かりやすく解説します。
アサーティブ・コミュニケーションとは
アサーティブ・コミュニケーションとは、相手を尊重しつつ、自分の主張を正確に伝えるためのコミュニケーション手法です。
コミュニケーションの目的を達成することだけではなく、コミュニケーションをする当事者間の関係性を大切にすること。ここに、アサーティブ・コミュニケーションの本質があります。
アサーティブ・コミュニケーションの効果
信頼関係の構築
仕事は、多くの場合において他者との連携を要するものであり、相互に意見を交わしながら落としどころ(互いに納得できる条件や目標、取り組み内容)を探るコミュニケーションプロセスが存在します。
この時、相手を尊重しつつ、自分の主張を正確に伝えるアサーティブ・コミュニケーションを実践することで信頼関係(真に協力し合える関係性)を構築することができます。
確かな信頼関係のもとに取り組む仕事は、その成果を最大化させる方向に進めるほか、仕事のやりがいの獲得や成長意欲の向上、組織への帰属意識の向上など、多くの面でプラスの効果を生み出します。
組織風土の改善
言いたいことを言えない(納得できない指示・命令に対して意見を言えない)ような風通しの悪い組織風土は、上司への不信感や所属組織への帰属意識の低下を招き、当事者のメンタルヘルス(心の健康)を蝕み、ストレスを起因とする離職の温床にもなり得ます。
この時、組織全体がアサーティブ・コミュニケーションを志向することで、言いたいことを言える “風通しの良い” 組織風土へ変えていくことが期待できます。
アサーティブ・コミュニケーションを支える4つのマインド
コミュニケーションでは、コミュニケーションスキル(能力)とは別に、マインド(心)の在り方が問われます。
伝え方が拙かったとしても、話し方が荒かったとしても、マインドがしっかりしている人の言葉には信頼感や安心感が宿るものです。コミュニケーションスキルが高いとは言えないけども、彼・彼女の話す言葉には信頼が置ける。そんな人があなたの身近にもいるのではないでしょうか。
そういった意味では、コミュニケーションの文脈において、マインドはスキル以上に大切なのかもしれません。
それでは、アサーティブ・コミュニケーションにおいて大切にすべきマインドとは何か。それは誠実・率直・対等・自己責任の4つのマインドです。これらのマインドがアサーティブコミュニケーションを支える土台となります。
アサーティブ・コミュニケーションを支える4つのマインド
- 誠実
真心(偽りや飾りのない心)を持って、他者を思いやること。これはアサーティブ・コミュニケーションに限らず、全てのコミュニケーションの基本になります。
- 率直
ありのままであること(自分の考えや気持ちを飾らない・隠さないこと)。自分がどう思うのか(私を主語にした意見)をストレートに伝えることが大切です。
- 対等
自分を卑下せずに、かつ、相手を見下さないこと。対等な関係性を意識することが、卑屈な態度や威圧的な態度を避けることに繋がります。
- 自己責任
自分の言動に責任を持つこと。自身の発言内容は当然として、発言しなかったことにも自分の責任だと意識することが、自分の主張を正確に伝えるコミュニケーションを実現します。
アサーティブ・コミュニケーションが注目される背景
部門連携や他社との協業の必要性
ビジネスの環境変化のスピードには目覚ましいものがあります。
日々発展する新しい技術への対応、中長期的な柱となる新規事業への挑戦、待ったなしのサステナビリティへの取り組みなど、組織として取り組むべきテーマは多岐に渡り、かつ、既存の組織の枠組みでは対応が難しい状況にあります。
DX関連の部門横断型プロジェクトや社外とのアライアンスの取り組みなどの “新規の枠組み” での活動が求められる中、部門連携や他社との協業を成功させるためのコミュニケーション手法として、アサーティブ・コミュニケーションが注目されています。
DE&Iの潮流
DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は、組織制度に留まらず、ありとあらゆるレベルで実践されるべきものです。社員間のコミュニケーションのレベルにおいても例外ではありません。
アサーティブ・コミュニケーションで重視される「相手を尊重すること」は、言い換えるならば「多様性を受け入れること」。
ジェンダーやアイデンティティー、性表現や性的指向、宗教や信条、民族に国籍、人種に年齢、職業観や勤労観など、様々なバックグラウンド・価値観を持つ個人が互いに尊重し合えるコミュニケーションとして、アサーティブ・コミュニケーションが注目を浴びています。
ハラスメント対策
2022年4月から義務化された、中小企業を含めた全ての企業に対するパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法の通称)。その背景にあるのは、今もなお続くパワーハラスメント問題。
“職場のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント等の様々なハラスメントは、働く人が能力を十分に発揮することの妨げになることはもちろん、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける等の人権に関わる許されない行為です。また、企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障が生じたり、貴重な人材の損失につながり、社会的評価にも悪影響を与えかねない大きな問題です。職場のパワーハラスメントについては、2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者は31.4%でした。また、2021年度の都道府県労働局における「パワーハラスメント」の相談件数は2万3千件であるなど、対策は喫緊の課題となっています”
参考:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省
この問題を解決する一つの手法として、パワハラに繋がる言動を抑制し、社員のメンタルヘルス(心の健康)を健全に保つ、アサーティブ・コミュニケーションが注目されています。
リモートワークにおけるコミュニケーション問題
コロナ禍をきっかけに急速に普及したリモートワーク(テレワーク)。
チャットやメールなどのテキストコミュニケーションが主体となり、事務的なコミュニケーションが増える一方で、オフィスワークでは自然と生まれていた挨拶や雑談が減り、社員間の関係構築が難しくなっています。
社員間の繋がりが弱くなり、組織に対する帰属意識も希薄化しやすい状況の中、関係性を育む効果の期待できるアサーティブ・コミュニケーションに関心が集まっています。
アサーティブ・コミュニケーションのトレーニング方法
アイメッセージ
アイ(I)メッセージとは、私を主語にして意見を伝えることで、相手を非難することなく自分の伝えたいことを伝える手法です。
相手を主語にした意見はユー(You)メッセージと呼ばれ、命令的・支配的な印象を相手に与えてしまう(相手側からすると、自分が非難されているような気持になる)傾向があります。
一般的に、上司の立場にある方々は無意識的にユーメッセージを使っていることが多いので、意識的にアイメッセージを使ってみることを推奨します。
例:報連相不足を指摘するシチュエーション
- ユーメッセージ
(あなたは)報連相のタイミングをもっと考えてほしい。
- アイメッセージ
(わたしは)もう少し適切なタイミングで報連相をしてもらえると助かるよ。
例:仕事の進め方に意見を伝えるシチュエーション
- ユーメッセージ
(あなたは)そのやり方では上手くいかないよ。
- アイメッセージ
(わたしは)このやり方が上手くいくと思う。よければ試してみてもらえるかな?
DESC法(デスク法)
DESC法とは、Describe(描写)、Explain(説明)、Specify(提案)、Choose(選択)の頭文字を取った主張法です。4段階に分けて自己主張することによって、相手を傷つけない・柔らかい主張ができます。
このDESC法を日常業務の場で実践することが、良質なトレーニングとなります。
DESC法
- Describe(描写)
はじめに、客観的な事実のみを具体的に描写します。
- Explain(説明)
次に、客観的事実に対する主観的な意見を相手に伝えます。
- Specify(提案)
相手にしてほしいことを伝えます。
- Choose(相手の選択に対する回答)
提案内容に対する相手の選択が「Yes」なのか「No」なのかを聞き、その選択内容に合わせて適切な回答をします。
例:部下に残業を依頼したいシチュエーション
- Describe(描写)
Aさん、ちょっといいかな? 先月に納品した製品に故障が発生して、先方の依頼により、今日中に修理をする必要が生じたんだ。
- Explain(説明)
故障が生じたのは残念なことだと私は思う。だけど、今回修理対応をスムーズに行うことは先方の信頼獲得に繋がると思うんだ。
- Specify(提案)
この修理対応をAさんにお願いしたいと思うのだけど、どうかな? 残業してもらうことになると思う。
- Choose(相手の選択に対する回答)
急な話なので、残業対応可能かどうかを聞かせてもらえるかな?
→(Yesの場合)ありがとう!とても助かるよ。
→(Noの場合)そうだよねぇ、急な話だから気にしないでくださいね。
アサーティブ・コミュニケーション研修
アサーティブ・コミュニケーションを社内に大規模展開する上では、研修がお勧めです。
アサーティブ・コミュニケーションは、コミュニケーションの当事者同士がアサーティブ・コミュニケーションを実践することで真に機能します。だからこそ、研修を通じて、組織全体にアサーティブ・コミュニケーションを広めていくことが望まれます。
研修リソースが限られる場合は、管理職層を対象に研修を実施し、各管理職が自部門のメンバーにOJTでアサーティブ・コミュニケーションを浸透させるハイブリッドな進め方が推奨されます。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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