マテリアリティとは?注目される背景と、企業の先進的な取り組み事例
- 最終更新日:2024-01-09
マテリアリティとは何か。
その意味と注目される背景を分かりやすく解説します。そして、マテリアリティの特定や策定、社内へのマテリアリティの浸透や推進に関して、先進的な取り組みを進めている企業の事例をご紹介します。
マテリアリティとは
マテリアリティとは、サステナビリティの観点において、自組織が何を重要課題とし捉えているのかを具体的に示すものです。
現代の企業経営では、事業の継続性の観点から経済的価値(売上や利益)が重視されることは当然のこと、自分たちの利を超えて「社会の利になることも課題として捉えること」が求められるようになっています。
その背景にあるものは、地球環境や社会全体の持続可能性(サステナビリティ)です。
個々の企業にできることは小さなことだとしても、各々の企業が地球環境のためにできることをマテリアリティとして掲げ、それを積み上げる・掛け合わせることによって大きなインパクトを生み出すことが可能です。
2030年を期限としたSDGs、2050年迄のカーボンニュートラル、そして、その先にも続いていくサステナビリティの目標を達成する上で、マテリアリティには大きな役割が期待されています。
<ご案内>
サステナビリティにご興味のある方は下記の記事をご覧ください。カーボンニュートラルを軸に、サーキュラーエコノミーやSDGsなどの用語について分かりやすく解説します。
マテリアリティが注目される背景
ESG投資の潮流
Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字から構成されるESG投資は、環境や社会への配慮ある事業と、適切な企業統治が行われている会社への投資を推し進めるものです。
2006年に国連よって提唱されたPRI(Principles for Responsible Investment|責任投資原則)の中ではESGの視点を取り入れることが推奨されたことが、ESG投資が注目されるきっかけとなったと言われています。その後、2015年に国連で採択されたSDGsや、近年のサステナビリティへの意識の高まりを追い風に、ESGの普及が進んでいます。
事実、ESGに関する非財務情報がまとめられた統合報告書の開示企業数は増加の一途を辿っています(また、2023年3月期決算より義務化された有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示もESGの普及の追い風になることが想定されます)。
このようなESGの潮流において、企業の掲げるマテリアリティは、投資家がESG投資の判断を行う上での重要な情報として位置づけられるものであり、ESG投資が注目されるほどにマテリアリティにも注目が集まる状況が生まれています。
働くことに対する価値観の変化
今、個人の働くことに対する価値観は大きく変わりつつあります。
“企業戦士” や “モーレツ社員” のような画一的な価値観を前提とするのではなく、働くことに対する価値観は多様であることを前提に置き、様々な価値観を持つ社員がそれぞれにやりがいを感じて意欲的に働くことができるような組織運営が求められています。
この観点において、企業がマテリアリティを掲げることは「仕事を通じて社会へ貢献したい」と考える求職者に対するPR効果が期待されます。
※今の10代20代の世代は、学校教育の中でSDGsについて学んでいる背景もあり、就職の際の企業選びにおいて「社会い貢献性」を重視する傾向が高まっています。
マテリアリティに関する企業の取り組み事例
マテリアリティの特定や策定、社内へのマテリアリティの浸透や推進に関して、先進的な取り組みを進めている企業の事例をご紹介します。
メルカリ
Impact Report(インパクトレポート)
メルカリでは、ESG推進に向けて2023年度に取り組んだ活動とその結果をまとめた「FY2023.6 Impact Report(インパクトレポート)」を公開しています。
このレポートの内容はもちろんのこと、プロジェクトリードメンバーの方によるインパクトレポートの解説には、マテリアリティに関する多くのヒントが詰まっています。
“インパクトレポートとは「事業活動が社会にどのような影響を与えたのか」を中心に、メルカリの中長期的な企業価値を伝えるために構成した約70ページの文書です。投資家をはじめ、パブリックセクターやメディア、パートナー企業、採用候補者の方、そして社内のメンバー、つまりあらゆるステークホルダーに読んでいただくことを想定しています。
今回、新グループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる (Circulate all forms of value to unleash the potential in all people)」の策定を機に、マテリアリティを見直し、「サステナビリティレポート」から「インパクトレポート」に名称変更するなど、大きなアップデートを行いました。
この記事では、数あるアップデートポイントの中でも、レポート内ではスペースの都合上説明しきれなかった箇所についてプロジェクトのリードメンバーである私の目線から、解説していきたいと思います”
参考:メルカリの事業が社会にもたらす「ポジティブインパクト」を伝えるために──2023年度版インパクトレポートをプロジェクト観点から解説します!
味の素
マテリアリティ特定プロセス
伊藤忠商事
マテリアリティの策定プロセス
伊藤忠商事では、マテリアリティの策定プロセスを公開しています。
“現マテリアリティは、SDGsの採択、パリ協定の発効等の社会情勢及び事業環境の変化、及び企業理念「三方よし」を踏まえ、伊藤忠の持続的成長や事業を通じた社会に対するインパクトを考慮し、2018年4月に策定しました。当初のマテリアリティが環境や社会への配慮(CSR)を中心としたものであったのに対し、「本業を通じた取組み」「経営戦略との整合」「中長期の社会的な変化」「ガバナンスの要素の追加」を踏まえ、改訂を実施したものです”
また、同社が開示している「サステナビリティ推進の流れ」の図は、サステナビリティ全体の中におけるマテリアリティの位置づけを把握する上で、とても参考になります。
参考:戦略|伊藤忠商事株式会社
日立製作所
役員報酬評価へのサステナビリティ目標の反映
日立製作所は、2023年度に、グローバル企業としてのさらなる成長加速に向けて、企業価値との連動を強化した役員報酬制度へ改定。改定後の役員報酬制度は、2024中期経営計画との連動およびサステナビリティ目標の反映を強化しています。
“短期インセンティブ報酬 (STI) へのサステナビリティ目標の反映について、これまでは個人評価の指標の一つとしていましたが、サステナビリティ評価として独立させてSTI報酬に占める割合を20%に設定しました。また、中長期インセンティブ報酬(LTI)においても、サステナビリティ目標を達成した場合、基準額の10%相当の株式を追加で付与することとしました”
YKK AP
マテリアリティの特定の考え方と特定プロセス
YKK APでは、マテリアリティの特定において、2021年に策定したパーパスを軸と定めて検討を進めています。パーパス経営を実践する企業ならではの考え方として参考になります。
“パーパスは、
・「好奇心と探究心」が示す持続的成長を支える「人材」
・「ArtとTechnology」「価値ある建築パーツ」が示す、商品による社会課題解決と、その源泉となる「モノづくり」
・「人と自然、未来をつなぐ」が示す、社会的責任を果たすための「信用・信頼」
の3つの重要な要素で構成されています。この要素を軸とし、そこに、事業の持続的成長に関わる「経営視点」と、社会の持続的発展に関わる「社会視点」をかけ合わせて検討しました。「経営視点」には事業方針より、当社事業への影響度が高いテーマを抽出しました。「社会視点」では、各ステークホルダーにとっての重要度を分析し、マテリアリティ候補を抽出しました。これらの視点で抽出した候補から、最重要と考えられる10の項目を選出し、マテリアリティとして設定しました”
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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