個人・リーダー・組織の各視点における心理的安全性を高める方法

心理的安全性とは何か。その意味と心理的安全性を高める方法について、個人・リーダー・組織の視点から分かりやすく解説します。

Contents(目次)

心理的安全性とは

心理的安全性とは、チーム内において、対人関係上のリスクのある行動(無知・無能・ネガティブ・邪魔だと思われるかもしれない行動)を取っても大丈夫だと思える心理状態です。

<心理的安全性の高い状態とは>

  • メンバーを信頼し、分からないことを質問する・新しいアイデアを出すなど、ポジティブなこともネガティブなことも安心してさらけ出せる状態
     
  • 自分の考えや意見、感じたこと・思ったことをメンバーの誰とでも率直に言い合える状態
     
  • 話し合いにおける不安や不快感がなく、組織の成長の実現のために安心してリスクを取り行動できる状態

心理的安全性の効果

心理的安全性が高い状態は、メンバーの自律的な行動・挑戦を促し、チームの情報伝達の質と量を高め、チーム全体のパフォーマンス向上に良い影響を及ぼします。

事実、Googleが行った調査データからも、生産性の高いチームがもつ要素の中で圧倒的に心理的安全性が重要であることを示す結果が出ています。

“リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が2倍多い、という特徴がありました”

参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る

もちろん、心理的安全性の高さがチームの成功を約束するものではありません。しかし、成功は失敗の延長戦上にあるものと捉えると、失敗を許容するチームは推進力のある強いチームであると言えます。

チームの心理的安全性を測る7つの質問

あなたやあなたのチームは、心理的安全性が高い状態だと言えるでしょうか?

「チームの心理的安全性」を提唱した、組織行動学研究者のエイミー・エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性を測る際に、次の7つの質問を投げかけています。

1チームの中でミスをすると、たいてい非難される。
2チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
3チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
4チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
5チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
6チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
7チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。

この7つの質問に関して、自身のチームメンバー全員が5段階(5:強く当てはまる~1:全く当てはまらない)で回答することでチームの心理的安全性の状態を定量的に把握し、改善アクションにつなげやすくなります。

※1・3・5番の質問は否定形になるため、スコアが低い方が良いと判断します(その他の2・4・6・7番の質問はスコアが高い方が良いと判断します)。

心理的安全性を高める取り組みを行う前に知っておきたいこと

心理的安全性を高めるだけでは、成果に結びつかない

心理的安全性は “魔法の杖” ではありません。心理的安全性を高めて実現できることは、誰もが言いたいことを言えるチームの状態です。

ゆえに、いかに心理的安全性を高めようとも、パーパスやMVVなどの組織としての価値観や文化が曖昧な状態では、それぞれのメンバーが自身の価値観に基づく発言を自由に言い合うことになり、チームの統制が失われる原因にもなり得ます。当然、成果にも結びつくことはありません。

前提として、組織としての進路(パーパスやMVV、組織文化)やチームの在り方(チームの方針やリーダーシップ)を示しつつ、その方向に進んでいくのだという共通認識を持った状態でチームの心理的安全性を高めていくことが求められます。

リーダー(管理職層)の疲弊

チームの心理的安全性を高める取り組みのキーパーソンは、チームの責任者となるリーダー(管理職)です。

メンバーの心理的安全性を高めるための取り組み施策は様々に考えられますが、どんな施策においても、それを主導するマネジャーの業務負担(や心理的負担)の増加は避けられません。

これは当たり前の話ではありますが、頑張れば何とかなるだろうと軽く見られがちな話でもあります。メンバーの心理的安全性が高まった代償にリーダーが疲弊してしまう(燃え尽きてしまう)ことのないような組織的なサポートが必要です。

心理的安全性を高める方法

心理的安全性を高める方法は幾つもありますが、本稿では、個人・リーダー・組織の3つの視点に分けて解説します。

上述の通り、心理的安全性を高める取り組みではリーダーの負担が重くなるる傾向にあるため、個人と組織がリーダーをサポートし、無理のない形で心理的安全性を高めることを推奨します。

個人ができる「心理的安全性の高める方法」

心理的安全性を作るのは、組織やリーダーの立場にいる人だけの責任ではありません。

個人(一人のチームメンバー)の小さな意識・行動の変化がチーム全体に波及し、やがてチームの雰囲気をより良いものに変えていくこともできます。

<推奨される意識や行動の例>

1良い結果が得られなかった際に、自分以外の誰かや何かのせいにしない。
2心理的安全性が低いと感じる理由を分析し、改善行動をとる。
3自分から「話しやすい雰囲気」をつくる努力をする(意識的に雑談をする)。
4チームメンバーに対して、可能な範囲で自己開示をしていく。
5トークストレート(相手を信じて臆さず率直に話す・言い訳や駆け引きをせず端的に話すこと)を心がける。
6アサーティブ・コミュニケーション(自他ともに尊重し、相手と対等に向き合う姿勢で成長や改善を願い率直に伝えること)を意識する。
7自分の心身のケアや感情のコントロールを行う努力をする。

これらの意識・行動はリーダーに求められる資質とも言えるため、リーダーを目指す人は積極的に挑戦することが推奨されます。

<ご案内>
アサーティブ・コミュニケーションに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(アサーティブ・コミュニケーションに関する知識やノウハウをご紹介します)。

リーダーができる「心理的安全性の高める方法」​

リーダーが、普段の業務の中で実践できる心理的安全性を高める方法として、Google re:Work(リワーク)が公表するノウハウをご紹介します。

積極的な姿勢を示す

  • 「今」を大切にし、目の前の会話に集中する(例: 会議中はノートパソコンを閉じる)
  • チームメンバーから学ぼうという意欲を持って質問をする
  • 自分の意見を述べる、対話的なコミュニケーションを心がける、傾聴の姿勢を示す

理解していることを示す

  • 互いの理解が一致していることを確認するため、相手の発言内容を要約する。その後、同意できる点・できない点を示し、グループ内で率直に意見を交わす
  • 話の内容を理解したことをきちんと言葉で示す(例:なるほどです)
  • 責めを負わせるような言い方はせずに、解決策に焦点を当てる

対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す

  • 自分の仕事の進め方や好みをチームメンバーに伝え、チームメンバーにも同じように自身のやり方を皆に伝えるよう促す
  • チームメンバーのために時間を割く、友好的な態度を示す
  • 定期的な1対1の打ち合わせやチーム会議とは別に定例外の会議を開く場合は、会議の目的を明確に伝える

意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す

  • チームメンバーに意見やフィードバックを求める
  • 人の話を妨げない。妨げようとする人をたしなめる
  • 意思決定の背後にある根拠を説明する

強情にならない範囲で自信や信念を持つ

  • チーム ディスカッションをコントロールする
  • チームメンバー全員が聴き取れるよう明瞭に発声する
  • チームをサポートする、チームを代表して行動する

組織ができる「心理的安全性の高める方法」​

1on1ミーティング

定期的に1on1ミーティングを行い、リーダーがメンバーの本音に耳を傾ける場を設けることは、チームの心理的安全性を高める方向に作用します。

その上で、この1on1という施策はどうしてもリーダーに大きな負担を強いることになるため、1on1のマニュアルを整備する、効果的で効率的な1on1の取り組み方を身に付けるための研修を実施するなど、可能な限りのサポートをすることが大切です。

<ご案内>
1on1ミーティングに興味の有る方は下記の記事をご覧ください(1on1ミーティングのポイントを分かりやすく解説します)。

ピアボーナス

ピアボーナスとは仲間(peer)と報酬(bonus)が合わさった言葉の通り、社員同士で報酬を贈り合う制度です。相手への感謝の気持ち・報酬を贈り合う行為は、互いの仕事(や行動)を承認することに他なりません。

普段は恥ずかしくて言葉にすることはなくても、相手に感謝をしている社員は少なくないものです。その隠れた感謝や承認の気持ちを伝える手段として、ピアボーナスはお勧めです。

チームビルディング・コミュニケーション研修​

他者との関係性に作用するチームビルディングやコミュニケーション研修は、心理的安全性の向上にも直結します。

メンバー同士のコミュニケーション機会(社員旅行・懇親会・社内イベントなど)は減少傾向にあると言われています。また、テレワークの普及に伴い、顔を合わせて挨拶や雑談する機会も減少しています。だからこそ、組織としてメンバー同士の関係性強化の支援することが推奨されます。

<ご案内>
チームビルディングやコミュニケーション研修に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(役立つ考え方・ノウハウをご紹介します)。

心理的安全性に関する企業の取り組み事例

サッポロホールディングス

サッポロホールディングスではコアメンバーが心理的安全性の学習を深め、研修を受けた人が「心理的安全性をメンバーに伝えるファシリテーター」となって組織浸透を図りました。

その結果、全従業員2,000人に心理的安全性を浸透・拡大し、会議の前には心理的安全性を確認してから開始する習慣付けや、現場主導でのポスター作成などに取り組んでいます。

“コミュニケーションを活性化するために1on1ミーティング(上司と部下)を実施しており、人財育成と組織活性化に資する1on1ミーティングの実施・活用に向け、管理職に向けたセミナーを実施しています。2021年、2022年は心理的安全性に関するセミナーを実施しました。また、オンライン環境下ではミーティング以外に、日常的な会話から組織横断的コミュニケーションまで、チャット機能、通話機能をはじめとしたITツールを積極的に活用・推奨し、感謝を伝え合うサンクスポイント、および日常の体調を報告するパルスサーベイを導入しました。優れた取り組みはイントラネット上で公開し水平展開しています”

参考:安心して働ける職場環境づくり|サッポロホールディングス

吉積情報

吉積情報には、仕事をする上でチーム・個人で大事にしていきたい考え方として、コアマインド「HTTPS(正直でいよう、感謝の気持ちを持とう、チームで信頼を得よう、前向きに取り組もう、賢くあろう)」があります。

このコアマインドの醸成のため、全社的なプロジェクトとして心理的安全性の実現に取り組んでいます。

“心理的安全性を吉積ホールディングス全体に浸透させるために、「ピアボーナス制度の導入」「1on1ミーティングの定期的な実施」「評価制度のアップデート」等、様々な施策を実行しています。私たちが目指しているのは、一時的なスコア達成ではなく、文化としての心理的安全性の定着です。それを考えると、これまでの成果はまだまだ道半ばかもしれません。しかし、少しずつではありますが、社内の変化も実感することができています。いつか、私たちが目指す世界が世の中のモデルケースになり、企業だけでなく、世の中の働き手の労働環境の改善に繋がれば、それ以上に嬉しいことはありません”

参考:吉積ホールディングスは、なぜ心理的安全性を重要視するのか|吉積情報株式会社

ナラティブベース

業務委託・BPO事業などを行うナラティブベースは「自律・多面性・相互成長・フラット・持続可能」の要素をもったフェアな関係性を大切にしています。

そのため、組織が成長する循環に欠かせない「心理的安全性=心的にフラットであること」を重視し、「対話型会議」「パターンランゲージ」などを取り入れています。

“ナラティブベースはもともとプロジェクトベースで人がアサインされ、チームが上下関係や評価制度を持たない組織のため心的にフラットな状態が作りやすい環境にありました。その分、マネジメントのし辛さやアウトプットクオリティの担保が大変な時期もありましたが、この「フラットであること」を武器に、成果に直結するコミュニケーションのクオリティをどう上げていくかにこだわり続けてきました”

参考:「ゆるい組織」に陥らず、心理的安全性を確保するには|江頭 春可 / ナラティブベース代表

タムラ製作所

タムラ製作所は、不確実で変化の激しい事業環境において一部の管理者だけが意思決定し上意下達で指示を出す従来のやり方ではなく、各現場が柔軟に意思決定・チャレンジして自律的に迅速に対応する必要があるとして「地位や経験に関わらず、組織・チームの誰もが率直に意見を言える」心理的安全性が確保された職場づくりに取り組んでいます。

“2019年より取り組みを開始し、日本国内にて研修、定期サーベイの実施などを行っています。2021年度は、人事評価制度への心理的安全性の概念の導入や360度評価の実施など、管理職層の高いマネジメント力の発揮と従業員が安心して活躍できる環境づくりを期待し、チーム力の発揮に重点を置いた施策を推進しています。さらに2022年4月より、「働きがい改革プロジェクト」の重点施策の一つとして、各事業所からの選抜メンバーによる「心理的安全性浸透チーム」を結成、心理的安全性を各職場で実践し、全社に浸透させる取り組みを行っています”

参考:人権・労働|タムラ製作所

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

亀井 直人

鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。

  • 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
  • PMP(Project Management Professional)
  • NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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