ビジネスにおけるレジリエンスとは何か?その意味と背景、お勧めの施策
- 最終更新日:2024-05-02
ビジネスにおけるレジリエンスとは何か。
その意味とビジネスシーンで注目されている背景。そして、レジリエンスを高めるためのお勧めの施策について、分かりやすく解説します。
ビジネスにおけるレジリエンスとは
弾力・回復力・復元力を意味するレジリエンス(resilience)という言葉は、ビジネスにおいては「困難を乗り越えるしなやかさ」を表しています。
しなやかさとは、靭性(力を加えても折れない性質)と弾性(力を除くと元の状態に戻る性質)の2つの性質を併せ持っている状態です。
激しい風雨に晒されても、折れ曲がることなく真っ直ぐに伸びる “しなやかな竹” のように、困難を乗り越えるしなやかさ(レジリエンス)が、一人ひとりのビジネスパーソンや組織に求められています。
レジリエンスの構成要素
ビジネスにおけるレジリエンス(困難を乗り越えるしなやかさ)は、特定のスキルで表現されるものではありません。幾つものコンピテンシー(行動特性)が発揮される中で、結果としてレジリエンスが高まります。
本稿では、6つのレジリエンス・コンピテンシーをご紹介します(これらのコンピテンシーを発揮している人材が、レジリエンスの高い人材であると捉えられます)。
1. 自己認識
困難に直面してネガティブな反応を起こす前に、自分のこと(感情や思考、行動や価値観)を適切に認識することは、困難が起きている原因の特定に役立ちます。
2. 自制心
困難に立ち向かう上では、自らの感情・思考・行動を上手くコントロールするための自制心を持つことが重要です。
3. 現実的楽観性
困難に立ち向かう中で自らの感情・思考・行動をコントールするには、ネガティブな側面だけでなくポジティブな側面も視野に入れ、現実的に自分がコントロールできることに集中する意識(現実的楽観性)が大切です。
4. 精神的柔軟性
困難な状況を前に、自分の内面から湧き上がってくる感情や思考に囚われないためには、状況を俯瞰的に把握し、場当たり的な行動を避ける意識(精神的柔軟性)が求められます。
5. 自己効力感
自分ならきっと上手くやれる。この「自分の能力・可能性に対する認知」のもとに自分の強みを活かして自身の能力を最大限に発揮することは困難を乗り越える大きな動力源になります。
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自己効力感についてご興味のある方は下記の記事をご覧ください。用語の意味と、自己効力感を高めるための具体的な方法について、分かりやすく解説します。
6. 他者との関係性
他者との信頼関係を築き、深め、維持すること。それは、乗り越えるべき困難が大きければ大きい程に重要になります(困難を自分一人で抱え込む必要はありません)。
レジリエンスの類語
レジリエンスの類語とレジリエンスとの違い(互いの位置関係)を理解することは、レジリエンスの意味の輪郭を捉え、レジリエンスという言葉・概念を深く理解する助けになります。
ストレス耐性
ストレス耐性は、文字通り、ストレスに耐えられる程度を意味する言葉であり、レジリエンスにおける靭性(力を加えても折れない性質)に近しいものです。
ストレスコーピング
ストレスコーピングとは、ストレスのもと(ストレッサー)に上手く対処しようとすることを意味する言葉です。これはレジリエンスにおける弾性(力を除くと元の状態に戻る性質、回復力)に当たります。
メンタルヘルス
メンタルヘルス(心の健康)は、主に精神的疲労を軽減・緩和する文脈で使われる言葉です。近年では企業内でのメンタルヘルスに関連する制度や取り組みも増えています。
一方で、レジリエンスは困難な状況(言い換えるならば、ストレス環境下)への対応力をどう高めるかの文脈で使われる言葉です。
この2つの言葉は基本的に異なる概念ではありますが、レジリエンスを高めることがメンタルヘルス対策に寄与し、メンタルヘルス対策がレジリエンスを高める関係にあります。
レジリエンスが注目される背景
VUCAの時代
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字から構成されるVUCA。
想定を超えるスピードの技術革新、未知のウイルスの蔓延、気候変動が引き起こす未曾有の災害など、私たちの生きる今の時代は、将来の予測が困難な時代に突入したと言われています。
ビジネスシーンでも、これまでに経験したことのない困難をどう乗り越えていくのかという経営課題に頭を悩ませている企業は少なくありません。そういった時代背景の中で、レジリエンスが注目されています。
人的資本経営の流れ
人的資本経営とは、人材の価値を最大限に引き出すための投資を通じて、中長期的な企業価値の創造につなげる経営の考え方です。
近年では、AIやSaaSなどの安価に利用できるサービスの普及によって、社員の仕事の効率性が高まる一方で「技術」や「ビジネスプロセス」の面で競争優位を築くことが難しくなっています。
言い換えるならば、自社のビジネスの競争優位性を確立し、企業価値を創造していくために必要な要素として「人材」への依存度が相対的に高まっているということです。だからこそ、人を大切にする経営と称される人的資本経営が注目されています。
そして、この流れの中で、人材のレジリエンスを高める取り組みが注目されています。
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人的資本経営に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(人的資本経営の基礎知識と企業の取り組み事例をご紹介します)。
レジリエンスを高めるためのお勧めの施策
レジリエンスを高める取り組みは、一人ひとりの自助努力に委ねるだけではなく、組織として、レジリエンスを高めるための施策を展開をすることが重要です。
そこで本稿では、レジリエンスを高めるためのお勧めの施策をご紹介します。
OJT・1on1ミーティング
新人や経験の浅いメンバーが上手く達成経験を積めるようにOJTや1on1ミーティングでサポートをすることには、自己効力感(レジリエンスコンピテンシー)を育む効果があります。
その上で、OJTや1on1ミーティングは現場部門の負担が大きく、属人的になりがち・形骸化しがちな側面があります。組織としては、現場に丸投げするのではなく、適切な人材育成が行われるような体制や仕組みを整える必要があります。
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1on1ミーティングに興味の有る方は下記の記事をご覧ください(1on1ミーティングのポイントを分かりやすく解説します)。
パーパスやMVVの浸透
組織の目指す方向性・価値観を指し示すパーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を共通言語として共有することは、メンバーが仕事の中で遭遇する様々な困難(判断の迷いや将来への不安)に立ち向かう武器になります。
特に、レジリエンスを高める観点では、組織の中で価値を発揮するための考え方や行動指針が記されているバリューを実践することで他者との関係性が深まり、かつ、成果が出やすくなり、その成果が自己効力感を高めます。
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MVVに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(ミッションとビジョンとバリューの言葉の意味について簡潔かつ明確な解説をしつつ、具体的な企業のMVVの事例をご紹介します)。
チームビルディング研修・コミュニケーション研修
チームビルディングやコミュニケーション研修は、他者との関係性(レジリエンス・コンピテンシー)に作用します。
メンバー同士のコミュニケーション機会(社員旅行・懇親会・社内イベントなど)は減少傾向にあると言われています。また、テレワークの普及に伴い、顔を合わせて挨拶や雑談する機会も減少しています。他者との関係性を築くことが難しくなっているからこそ、組織としてメンバー同士の関係性強化の支援することが推奨されます。
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チームビルディングやコミュニケーション研修に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(役立つ考え方・ノウハウをご紹介します)。
リーダーシップ研修
リーダーの振る舞い(リーダーシップ)とは、集団をまとめ、目的に導いていく行動です。リーダーとして取るべき行動(果たすべき責任)がリーダーシップとして言語化・定義されます。
組織のリーダーは、マネジメントによって効率的なチーム運営をします。役職者の権限と組織のルールをもとに戦略・計画・予算・配置・育成などの手段を講じ、目的の達成を目指します。
その上で、チームを効果的に機能させるためにはチームの一致団結が必要不可欠です。この時、リーダーに求められることがリーダーシップの発揮です。ビジョンやチームビルディングなどの手段を通じて、チームの一致団結(レジリエンスの向上)を目指します。
リーダーとなる人材は、これまでの経験の中で自身のリーダーシップを磨いてきている側面がありつつも、それが今のチームにとって最適であるとは限りません。だからこそ、リーダーシップ研修を通じて、あるべきリーダーシップについて体系的に学ぶこと(場合によっては自らのリーダーシップの発揮の仕方を見直すこと)が大切になります。
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リーダーシップに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(リーダーシップを育む方法をご紹介します)。
レジリエンスを高めるために個人ができること
本稿の締めくくりとして、個人レベルで取り組むことのできるお勧めのレジリエンスの高め方をご紹介します。レジリエンスは一朝一夕に高まるものではありません。ゆえに、着実に少しずつ高める意識を持って取り組むことを推奨します。
日報を書く
その日、どのような仕事をしたのかを日報にまとめることは、レジリエンス・コンピテンシーの一つ「自己認識」を高める上で有効な手段となり得ます。
日報を書く際のポイントは、事実(自身の行動や出来事)と、事実に対する感情や思考をセットで書くことです。この書き方を続けていくことで、自分がどのような時にネガティブな反応を起こしやすいのか、どんな価値観・思考の癖があるのが見えてきます。
その上で、可能であれば、日報を上司や他の社員に見てもらうことをお勧めします。他人のフィルターを通すことで、より客観的な自己認識ができるようになるだけでなく、自制心(レジリエンス・コンピテンシー)を育む機会にもなり得ます。
意識を「成果」に向ける
「今の仕事は自分にはつまらない」
「この仕事のトラブルは自分には関係ない」
「上司や同僚が自分の仕事に協力してくれない」
このように、人の意識というものは基本的に「自分」を向いているものです。
自分自身が世界の中心であり、主人公である。それは一つの事実です。しかし、仕事で活躍する上では重荷になるのも、また事実です。自分が一番だからこそ、自分が困難に直面している状況というものを受け入れ難くなります。
一方で、ハイパフォーマー(高い成果を創出する優れた人材)の意識は、自分ではなく「成果」を向いています。
成果を創出するために何をすべきなのか。このように、成果を最優先に考えている状態下では、自分のことなど二の次です。だからこそ、望む成果に到達するために自分を容易く変えることができます。当然、困難を乗り越えるしなやかさ(レジリエンス)も自然と高まります。
よって、これまでのご自身の経験を振り返っていただいた際に、意識が「自分」に向いていると感じられた場合は、一度、覚悟を決めて意識を「成果」に向けることをお勧めします。
そうすることで、つまらない仕事はやりがいのある仕事に変わり、トラブルという危機を機会として捉えられるようになり、自身の仕事を前に進める協力者を得やすくなるなど、結果的に自分にとっての利を得ることができます。もちろん、その過程では現実的楽観性や精神的柔軟性、自己効力感などの複数のレジリエンス・コンピテンシーを獲得することも可能です。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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