【セミナーレポート】人と組織のパフォーマンスの最大化に繋げるための「個人のビジョンを見出す方法」と「個人と組織のビジョンを繋げる方法」

本稿では、2024年10月16日開催のオンラインセミナー、人と組織のパフォーマンスの最大化に繋げるための「個人のビジョンを見出す方法」と「個人と組織のビジョンを繋げる方法」のレポートをお届けします。

登壇するのは、株式会社プロジェクトデザイン代表取締役の福井です。それではどうぞ!

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

Contents(目次)

オンラインセミナー、人と組織のパフォーマンスの最大化に繋げるための「個人のビジョンを見出す方法」と「個人と組織のビジョンを繋げる方法」にご参加いただきありがとうございます。

本日のセミナーでメッセージを伝えさせていただく、株式会社プロジェクトデザイン代表取締役の福井と申します。よろしくお願いいたします。

本日は、2024年8月に私たちが実施した、全国の会社員1030名を対象とする「個人のビジョンに関するアンケート」調査結果をもとに、幾つかの考察と経営への活かし方をお伝えします。

プロジェクトデザインについて

会社紹介

会社紹介(プロジェクトデザインとは)

はじめに、会社のご紹介をさせていただきます。私たちプロジェクトデザインは「社会や企業が抱えるあらゆる課題を、ビジネスゲームで解決する会社」です。

例えば、社会課題。

世の中には実に様々な社会課題が存在します。SDGsや地方創生、高齢化社会や海洋ごみ、ジェンダー平等。最近ですと、若者の選挙への参加比率の少なさみたいなものも、社会課題と言えるのではないかと思います。これらの社会課題がなぜ生まれのか、どうしてなかなか解決できないのか、どうすれば解決できるのか、ということをゲームを体験して学び、解決のきっかけを掴んでいただくことをご支援しています。

例えば、組織の課題。

いつの間にか生まれ、そして、いざ生まれてしまったらなかなか解決できない、経営に悪影響を及ぼす組織の課題はたくさんあります。働き方改革や人事制度の浸透、エンゲージメントや理念浸透、パーパス経営。これらの組織の課題がなぜ生まれたのか、どうすれば解決できるのかを皆で体験できるゲームを開発しています。

例えば、採用や育成分野の課題。

インターンシップや1day仕事体験、内定者研修や新入社員研修など、人材の育成に関係する研修をゲームという形で提供しています。

具体的に、私たちがどのようなゲームをつくっているのかについてですが、社会課題という分野において、私たちのつくってきたゲームはよく知られているかもしれません。

ビジネスゲームについて

2030SDGsのイメージ

これは2016年3月にリリースした「2030SDGs」というゲームです。半年前の2015年9月にSDGsが国連総会で採択され、日本でSDGsの考えが広がり始めた時期ではありますが、当時の日本におけるSDGsの認知率は1%弱。

私たちは、このSDGsという考え方をよりスピーディーに様々な方々に届けることが一番大切なことであると考え、SDGsの本質を理解できるゲーム「2030SDGs」をつくらせていただきました。

ビジネスゲームは、20カ国30万人以上が体験しています。

「2030SDGs」はゲームを運営するファシリテーターの方々の協力を得ながら、本当に多くの場所で実施されています。

例えば、2019年4月には国連本部で実施させていただきました(※)。企業研修の場においてもSDGsの理解促進のための研修として多くの企業で活用されています。他にも、外務省や総務省などの官公庁や学校の授業の中で広く利用されています。

私たちが把握できている範囲で20カ国30万人以上が、私たちのゲームを体験されています。

もちろん、私たちがつくるゲームは社会課題をテーマにしたものだけではありません。企業の組織課題や採用・育成の課題に用いられるゲームも数多くつくっています。

※開発依頼元のイマココラボにて実施(詳細はこちら

ビジネスゲームの様子

こちらはビジネスゲームの様子です。

研修の場合は20~30人を対象にゲームを実施することが多いのですが、この写真のように、会社のキックオフの場で100人ぐらいの参加者を対象にゲームを実施することもあります。会社の方針や価値観を社内浸透させていくツールとしてもゲームを活用いただけます。

海外でのビジネスゲームの様子

こちらはサウジアラビアの大学でビジネスゲームを活用した研修を実施した際の写真です。

面白いことに、ゲーム体験を通じた研修では、人種や性別によって行動があまり変わりません。皆さん、同じような成功や失敗体験をして同じような学びや気付きを得る。そんな国境を越える効果がビジネスゲームにはあります。

「個人のビジョンに関するアンケート」調査結果の考察

調査の背景

ここからが本題です。はじめに、個人のビジョンに関する調査をなぜやろうと思ったのか。調査の背景についてお伝えします。

今、働きがいのマネジメントが必要な時代になっていると言われています。

働き方改革法案が施工される前、2015年から2017年頃にかけては、若い新入社員の方がブラックな労働環境で自殺をしたり、あるいは鬱になってしまうことが社会問題化しており、働きやすさがとても大切だと言われていました。

多くの企業では、働き方改革関連法の施行に合わせて、自分たちの職場を現代に見合った働きやすい職場に変えるべく、リモートワークなども踏まえて働きやすい職場づくりに取り組んでまいりました。

ですが、それだけでは不十分ではないかということが、今、声高に言われようになっています。働きやすい職場をつくったはずが業績が上がっていない。あるいは、優秀な社員がより働きがいや成長を感じられる環境を求めて辞めていってしまうことが多くの企業で起きています。

働きやすさだけでは、真に優れた職場にはならないのではないか。

この問題意識の中で、職場を働きやすさという1軸だけではなくて、働きやすさと働きがいの2軸で捉える考え方が生まれてきています。例えば、日本経済新聞社では働きやすさと働きがいを両立する企業をプラチナ企業と呼んでいます。ちなみに、働きやすいけれども働きがいを感じない企業はホワイト企業ですね。

これからの時代、人的資本経営の潮流において、働きがいをどのようにマネジメントしていくのかということが非常に重要な経営課題になっていると言えます。

調査の背景:管理職の悩み

しかし、働きがいのマネジメントを行う当事者となる管理職はマネジメントにおける悩みを幾つも抱えています。

  • 最近の若手は何をやりたいのか分からない。何か投げかけても反応が薄い。どこにやる気スイッチがあるんだろう?

  • 組織の目標やビジョンに関して興味がないようだ。セルフィッシュな仕事のやり方ではなくて、もう少し協力してチームとして成果を挙げれるようにしたいんだが。

  • 若手を育てるために、彼・彼女のことを知りたいんだけど、色々聞くと、プライバシーへの過干渉でハラスメントって言われないか心配で、聞くのを遠慮しちゃう。

20世紀のマネジメントはある意味、楽だったかもしれないと、私は思っています。

戦後何もないところから始まった日本は、国民の多くが豊かになりたい、昨日よりもよい暮らしをしたい、家族を養いたい。そんな風に明るい未来を願っていた時代。「自分の欲しいものがあって、それを手に入れるために働く」という個人のビジョンはわかりやすく、管理職もマネジメントをしやすかったのではないかと思います。

しかし、先行きが不透明で個人の価値観が多様化している今の時代、そして、物質的な豊かさを享受している現在、何をスイッチにして個人のモチベーションを刺激していくのか、どうやってマネジメントしていくのかに悩まれる方は非常に多いのではないでしょうか。

また、今はプライバシーが大切にされる時代でもあります。ハラスメントに対して敏感な時代になってきたことで、若手の価値観や考え方を理解することが難しくなってきていると感じる方も多いかもしれません。

調査の背景はもう一つあります。

私たちは創業以来200種類を超えるビジネスゲームをつくり、実施してきたゲームの回数は数千回に達します。流石に、それだけの回数をやっていると、ビジネスゲームで良い成績を残すチームと悪い成績になってしまうチームの傾向が見えてきます。

ビジネスゲームで優れた結果を残すチームは、個人として達成したいビジョンやゴールをチーム内や他チームのメンバーと共有している傾向があることが分かりました。また、個人的なビジョンだけではなく、組織のビジョンをチームで共有していることも分かっています。

このビジョンを共有するという共通の特性が、ビジネスゲームというビジネスシミュレーションで見えたきたわけですが、現実世界でも、個人的なビジョンや組織のビジョンを周囲と共有すると業績やパフォーマンスは上がるのかを明らかにすべく、今回の調査を行いました。

優れたチームの特性①個人的なビジョンの共有

ここで、ビジョンの共有という優れたチームの特性についてご説明します。

カードゲーム形式のビジネスゲームでは「あのチームには負けたくない、情報を渡したくない」と考え、自分が実現したいビジョンやゴールを隠すチームがあれば、それらをオープンにして周囲からの協力やアイデアを募るチームもあります。

スライドを見て分かるように、自分が実現したいビジョンやゴールを周囲に共有している左側のチームには他のチームからも人が集い、様々なアイデアや支援を得ることができています。その一方で、自分が実現したいビジョンやゴールを隠している右側のチームには他のチームから人が近づかなくなっています。

当然ながら、自分たちの目指すゴールをオープンにし、他からの知恵や行動での協力を得ている左側のチームの方が良い業績を上げる傾向にあります。

優れたチームの特性②組織ビジョンの共有

また、組織としての目指すべき方向性に向かってメンバー全員が邁進しているチームと、一人ひとりのメンバーが別々のことをやろうとして動いているチームとでは、最終的な結果に違いが出ていることも分かってきました。

このようなビジネスシミュレーションの中で発見した優れたチームの特性が、現実の仕事の場面においても起き得るのかについて調査しました。

調査結果の考察

ここからは、1,030名の会社員を対象に実施した「個人のビジョンに関するアンケート」調査結果の考察をお届けします。

回答者1,030名の属性は日本の平均分布に似ています。居住地は関東圏が多く、男女の比率は男性6割、女性4割。平均的な会社員の回答が集まってきているとお考えいただければと思います。

それでは、調査結果をお伝えしながら考察を加えていきたいと思います。

所属する会社にビジョンはあるか

所属する会社にビジョンはあるのか?

皆さんの会社はどうでしょうか? 「当然あるよ!ないはずがない!」とお答えされるのではないかと思います。それでは、そのビジョンが社員に浸透しているかどうか、どのぐらいの人に浸透していると言えるでしょうか?

私は9割ぐらいの会社ではビジョンを掲げていらっしゃると思っていたのですが、アンケート回答の結果では、自身が所属する会社に「会社のビジョン」があると回答したは人は全体の69.8%。また、会社にビジョンがあり、かつ、ビジョンの内容まで理解している人は全体の41.1%という結果になりました。

次に、個人のビジョンについて見ていきたいと思います。

個人的なビジョンをイメージし、言語化できているか

次に、あなた自身が未来の姿や成し遂げたいこと、ありたい姿などの個人的なビジョンを明確にイメージして言語化できているのか?

アンケート回答の結果では、全体の1/3の人が個人的なビジョンを明確にイメージし、言語化できていることが分かりました。

ここで皆さんにお聞きしてみたいと思います。個人的なビジョンを描いている人は若者に多いのか、それとも年配者に多いのか。どう思われますか?

その答えを見てみたいと思います。

個人的なビジョンをイメージし、言語化できているか(年代別)

ご覧の通り、個人的なビジョンを持っている人の割合(「できている」「ややできている」という回答の合算)は20代が最も多い結果となりました。

また、年代が30代、40代と上がるにつれて、個人的なビジョンを持っている人の割合が減少していることも分かります。逆に50代以降になると、個人的なビジョンを持っている人の割合が増えていっています。

社会に出たばかりの若手の頃には、多くの人が抽象的で曖昧かもしれないが何かしらのビジョンを持っている。しかし、時の経過とともにビジョンを描いても無駄だ、と感じる人も増えるのではないか。あるいは、育児や介護などの問題でビジョンを考える暇がないという人も多いかもしれません。

ここで、一つの問いが浮かび上がってきます。それは、上司である管理職層が若手のビジョンを理解し、応援し、活用するようなマネジメントをしているのだろうかという問いです。

時間の経過とともに、入社当初は持っていたはずのビジョンがだんだんと失われていく。もし、部下のビジョン意識を見つけ、広げ、活用するマネジメントができていれば、20代から30代、30代から40代になるにしたがって、明確なビジョンを持つ個人が増えるのではないか。けれども、現実はそうなっていないところが気になります。

参考)世代が上になるにつれ、ビジョンは明確化されていく

ちなみに、青色の部分。個人的なビジョンを明確にイメージし、言語化することが「できている」の割合に限定すると、20代から60代まで増え続けています。年齢を重ねるごとにビジョンは明確になっていくことが見てとれます。

30代40代では、ビジョンが明確になる人の割合が増える一方で、曖昧かもしれない抽象的なビジョンを持っている人(「ややできている」と回答した人)の割合が減っている状況がありますが、これは、ビジョンを持たずにただ働いている人と明確にビジョンを持って意識的に働いている人との間で2極化が進んでいると言えるのではないかと思われます。

個人のビジョンと組織のビジョンのつながり

エンゲージメントについて

ここまでは、会社という組織のビジョンと個人のビジョンを分けて話をしてきましたが、この2つのビジョンの間につながりを感じている人はどれぐらいいるのかに関しても調査を行いました。

ここで、調査結果の説明の前に「つながり」、いわゆるエンゲージメントの概念について触れておきたいと思います。

2010年、アメリカの調査会社ギャラップ社がエンゲージメントに関する全世界的な調査を行ったことで従業員のエンゲージメント向上が組織にとって重要だという認識が広まりました。エンゲージメントが高い会社の方が、生産面・顧客のロイヤリティ面・労働面・事故率・収益性などの様々な面で優れていることを発見しています。

それ以来、エンゲージメントという言葉は一般的になり、どの企業も従業員のエンゲージメントを高めていくことが一つの人事領域のテーマになっていると言っても過言ではないかと思います。

エンゲージメントとは何か。簡単に言ってしまうと、組織が目指す方向性と自分が目指す方向性が一致しているかどうか。この一致度合いをエンゲージメントと表現しています。

エンゲージメントと言えば、エンゲージメントリングのように婚約という意味をイメージされる方が多いと思います。組織と個人が幸せな婚約をしているのかどうか。同じ方向を向いて動くことができているかどうか。それがエンゲージメントの高さで表されます。

エンゲージメントとは何か

エンゲージメントを高めていく上では、組織のビジョンと個人のビジョンの方向性を揃えていくことがとても大切になるのですが、先ほどの調査結果に出たように、2/3の人は自分のビジョンが見えておらず、この状態でエンゲージメントを高めるのは至難の業です。

それでは、残りの1/3の自分のビジョンが明確になっている人について、彼・彼女らの個人的なビジョンと所属組織のビジョンとは方向性が一致しているのでしょうか?

調査の結果、自分のビジョンが明確になっている人の中で、組織と個人のビジョンにつながりをとても感じている人は8%。つながりを感じている人は48%。どちらとも言えない人が23%。つながりをあまり感じていない・全く感じていない人は21%ということが分かりました。

つまり、個人的なビジョンを持っている人の56%、おおよそ半数以上は組織のビジョンとのつながりを感じていることが、今回の調査で明らかになりました。個人的なビジョンを持つことが、組織のビジョンとの方向性を揃えるという意味でエンゲージメントを高める第一歩になる。そう言えるのではないでしょうか。

個人のビジョンがあり会社のビジョンとの繋がりを感じている人の割合

ちなみに、アンケート回答者全体で見ると「個人的なビジョンを持っている人で、かつ、組織のビジョンとのつながりを感じている人」は16.1%、約6人に1人に留まります。

実際にはエンゲージメントを高める準備、つまり、個人のビジョンと組織のビジョンの方向性が揃っている人はごく僅かです。

個人ビジョンの効用

ここで、個人のビジョンを持つことの効用をご紹介します。

最も多く挙げられたものは「自己成長が促進される(45.8%)」。次に「仕事に対するモチベーションが向上する(43.8%)」「達成感や幸福感が得られる(37.4%)」、そして「時間を有効に使う意識が向上する(32.0%)」「効率的に働くことができ生産性が向上する(30.9%)」と続きます。

個人のビジョンを持っている人は、自身の仕事のパフォーマンスに良い影響を感じているものと捉えられます。

個人のビジョンとパフォーマンスの関係性

いよいよ、今回の調査の核心に迫っていきたいと思います。

個人が自分のビジョンを明確にすることが人生を有意義に過ごす上で重要なのではないか。そんな仮説を私たちは持っていたものの、果たしてそれが個人としての仕事パフォーマンスや会社の業績に関係するのかどうかについては半信半疑でした。

むしろ、個人のビジョンを持つことが、会社という組織の業績向上においては邪魔になっている結果も有り得ると思いながら調査をしました。

ビジョンの有無と個人のパフォーマンス

まずは、個人のパフォーマンスについて。

会社における個人のパフォーマンスに関する設問の回答を、「個人のビジョンがない人」「個人のビジョンがあるが会社のビジョンとのつながりを感じていない人」「個人のビジョンがあり会社のビジョンとのつながりを感じている人」の3つのグループに分類したところ、

  • 個人のビジョンがない人のグループで、パフォーマンスが「高い」「やや高い」と回答した人の割合が約19%。

  • 個人のビジョンがあるが会社のビジョンとのつながりを感じていない人のグループで、パフォーマンスが「高い」「やや高い」と回答した人の割合は約44%。

  • 個人のビジョンがあり会社のビジョンとのつながりを感じている人のグループで、パフォーマンスが「高い」「やや高い」と回答した人の割合が約83%。

このような結果になりました。個人のビジョンを持つことが仕事のパフォーマンスに大きな影響を与えていることが分かります。

ビジョンの有無と組織のパフォーマンス

次に、会社の業績について。

あなたの会社の過去3年間の業績推移についてお聞かせくださいという問いの回答を「個人的なビジョンと会社のビジョンとのつながり」の程度によってグルーピングした結果、つながりを感じている程度が大きいほど、業績が上昇傾向にあることが分かりました。

この結果は、個人的なビジョンと会社のビジョンとのつながりを感じることでモチベーション高く働くことができ、それが会社の業績に良い影響を与える可能性を示唆しています。その一方で、逆に、会社の業績が高いからこそ個人のビジョンを育て、会社のビジョンとのつながりをつくる支援をできる余裕があるという可能性もあります。

どちらが鶏でどちらが卵かというのは、今回の調査では明らかになっていません。どちらの可能性もありつつも、私たちは、個人と会社のビジョンのつながりが会社の業績に良い可能性を与えているのではないという仮説を持っています。

調査結果の結論

個人と組織のビジョンにつながりを感じている人や組織のパフォーマンスは圧倒的に高い

これが、今回のアンケート調査の結論になります。ですので、まずは人事担当者や会社経営者の役割として、社員に個人のビジョンをしっかりと描いてもらう支援をすることが重要になると私たちは考えています。

その上で、個人のビジョンと組織のビジョンとの共通点を見つけてつながりを感じ、個人のビジョンの実現のために動くことが組織のビジョン実現にもつながり、組織のビジョン実現に向けて動くことが個人のビジョン実現にもつながっている感覚をより多くの社員に持っていただくことが、とても大切だと思います。

組織的な関与

企業として、個人のビジョンの言語化や、個人のビジョンと組織のビジョンのつながりは、どのようにつくっていけば良いのでしょうか?

私たちは企業側の組織的な関与を明らかにするために、個人的なビジョンの言語化が「できている」「ややできている」に該当する方に対して、個人的なビジョンを言語化するにあたり、お勤め先の会社から支援を受けたか。そして、そのビジョンの実現に向けて支援を受けているかについてお聞きしたところ、

ビジョンの言語化の支援を会社から受けている人は46.1%、ビジョンの実現の支援を受けている人は37.9%という結果になりました。

1on1ミーティングの効能の違い

個人のビジョンの言語化や実現に向けた支援の手法として、1on1ミーティングは有力な取り組みとして位置づけられると私たちは考えています。

そこで、1on1ミーティングがどのような場面で有効に機能しているかを調査し、「個人のビジョンがない人」「個人のビジョンがあるが会社のビジョンとのつながりを感じていない人」「個人のビジョンがあり会社のビジョンとのつながりを感じている人」の3つのグループに分類したところ、グループ間に顕著な差が見られることが分かりました。

特に、「個人のビジョンがあり会社のビジョンとのつながりを感じている人」のグループにおいて、人事考課を除く全ての項目(上司・部下の関係性強化/チーム内の関係性強化/仕事の目標達成/個人の成長/個人的なビジョンの実現/仕事に対するモチベーションアップ)で、非常に高い結果が出ています。

個人ビジョンの言語化のインパクト

また、「個人のビジョンがない人が所属する会社」「個人のビジョンの言語化にあたって会社からの支援を受けた人が所属する会社」「個人のビジョンの実現にあたって会社からの支援を受けた人が所属する会社」の3つのグループに分類して、会社の過去3年間の業績推移を見たところ、

「個人のビジョンがない人が所属する会社」のグループに比べて、「個人のビジョンの言語化や実現にあたって会社からの支援を受けた人が所属する会社」のグループの方が上昇傾向にある割合が大きいことも分かりました。会社として、1on1ミーティングなどの組織的関与を通じて、個人のビジョンの言語化の支援を行っていくことの必要性が示唆されるのではないかと思います。

よって、私からは、個人のビジョンを明確にして、それを上司が把握した上でビジョンに基づいて1o1を行うことを提案したいと思います。

参考

ちなみに、個人的に興味深いと感じた調査結果について、参考までに共有したいと思います。

参考)個人と組織のビジョンに繋がりがなくとも業績は伸びるのか

今回の調査では、個人的なビジョンと会社のビジョンにつながりをまったく感じていない人のグループについて、業績が「上昇傾向」「やや上昇傾向」の割合が顕著に高い結果が出ています。

この結果を踏まえると、個人と組織のビジョンにつながりをまったく感じなくても業績は伸びるのではないかということが言えるのではないかと思います。

確かに戦略的に非常に優れている組織では、個人のビジョンなんて関係ないということも起こり得ると思います。あるいは、個人のビジョンをないがしろにして、とにかく会社としての業績を追っていくスタイルで短期的に業績が伸びるということはあり得るのかもしれません。

参考)伸びる、しかし働く人の自己肯定感は極めて低い

ただし、個人的なビジョンと会社のビジョンにつながりをまったく感じていない人にあなた自身のパフォーマンスはどうですかと聞いた際には、「高い」「やや高い」の割合が非常に低い結果になっています。

これはどういうことかと言うと、会社の業績は上がっているが自分はパフォーマンスをまったく発揮していないと感じている。自身を代替可能な部品のように捉えている可能性が高いのではないか。そのように私は感じています。

参考)2つの成長の方向性

少し話が逸れますが、企業戦略というものを捉えた時に、2つの方向性があると言われています。SPとOCです。SP(Strategic Positioning) は戦略的なポジション取りが上手かどうかということですね。OC(Orgnization Capability)は文字通り、組織能力を意味します。

SPで勝つタイプの会社は、他社とどう差別化し、勝てる土俵で勝負するかを選ぶのが上手です。環境変化や競合の動きも踏まえた市場の選び方が業績向上の第一要因になります。5ForceやPEST、3Cなどのフレームワークを活用して差別化のポイントを探ることが大切になります。料理に例えると、どうやって秘蔵の料理のレシピを創るかで勝負する形になります。

SPで急成長を遂げた会社の例としてよく挙げられるのはAmazonですね。今はちょっと違うかもしれませんが、Amazonが創業から短期間で急成長を遂げたのは、Amazonしかできない、Amazonだからできるポジショニングを確立したことが大きかったと言えます。

OCは自社独自の武器をいかに磨き上げるかで勝負する会社です。選んだ市場で勝ちきるための組織能力の磨き方、採用・育成・配置の工夫、ナレッジの蓄積・統合が大切になってきます。料理に例えると、包丁の切れ味・料理人の腕で勝負する形になります。

OCの会社の例としてはトヨタがよく挙げられますね。

会社が成長を遂げる上では、まずは戦略的なポジショニングがとても大切になるのですが、この戦略的なポジションというものは会社が成長するにつれて他社に模倣されていきます。模倣されるに従って成長が鈍化し、息切れする。その中でも、成長し続けることを望むと組織能力の向上が必須となってきますので、個人的なビジョンを明らかにして、それを活かしたマネジメントにシフトしていくことが非常に重要なのではないかと、改めて思う次第です。

個人と組織のビジョンをつなげるためのわたしたちの実験

ここで、個人と組織のビジョンをつなげることが重要なのは分かったが、具体的にどうつなげれば良いのかということに関してお答えしていきたいと思います。

私たちも、明確な答えを出せるには至っていないのですが、ここ数年かけて様々な実験を行ってきて、ある程度の解を示せるようになっています。

組織と個人のビジョンの繋がりを探す

どんな実験を行ってきたのかということなんですが、それは組織と個人のビジョンのつながりを探すことです。

個人のビジョンとは、未来の自分のイメージや成し遂げたいこと、在りたい姿であり、一人ひとりが自身の内側に持っているものになります。組織のビジョンとは、未来の組織のイメージやありたい姿、経営としての10年後の目標などが挙げられます。

この個人のビジョンと組織のビジョンの合わさる部分、ここがつながりになります。両方のビジョンを同時に満たすような考え方や動き方が必ずある。

個人のビジョンの実践に向けて精一杯頑張ることが組織のビジョンの実現につながり、組織のビジョンの実現に向けて頑張ることが個人のビジョンの実現にもつながっていたという状態をどうつくれば良いのでしょうか?

現在、私たちは3つのステップに分けて個人と組織のビジョンをつなげるご支援をしています。

個人と組織のビジョンをつなげるご支援の内容

STEP.1 ビジネスゲーム

1つ目のステップがビジネスゲームです。私たちが一番得意としている領域ですね。

ビジネスゲームを通じて伝えたいことは、ゲームを通じて自分自身のビジョンやゴール、自分が持っているカードをオープンにし、周囲と共有することによって、様々な助言や行動面での手助けを得られること、自分にメリットがあるということを体感してもらうことです。

これは、管理職経験のある方であれば実感をお持ちだと思います。部下が「こうしたい」「ああしたい」「こんなことを実現したい」と自分が成し遂げたいことややりたいことをオープンにしてくれると、「こうすると良いよ」「あの人に聞いてみたら?」という具合に様々なアドバイスができますが、それが全く伝わってこないとアドバイスのしようもありません。

コンプライアンスが厳しい現代ではありますが、上司の方から根掘り葉掘り聞くのは難しくても、部下の側から積極的にオープンにしてもらうことができれば、それは叶う。積極的にオープンにすることが、自分のビジョン実現に近づくことを知ってもらうということをビジネスゲームで行っています。

ビジネスゲームを通じて伝えたいことは、もう一つあります。組織のビジョンを理解して動くことによって初めて組織に血が通い、組織全体としてのパフォーマンスが上がることを体験してもらうことです。

この2つのことにゲーム体験を通じて気付いてもらうことは、ビジョンを活用したマネジメントへ変革していくための第一歩になります。

STEP.2 Find Out! ワークショップ

2つ目のステップは、Find Outというビジョンメイキングのワークショップになります。

2人1組、または6人でグループをつくって、私たちが用意しているビジョンメイキング、ビジョンを発見するための冊子を手に取ってもらい、グループインタビューやペアインタビューを通じて、自分自身が考えていることや感じていたことをどんどん表に出していって、最終的には自分のビジョンを言葉にしていただきます。

このFind Outは、新入社員研修の場で多く実施しています。新入社員の時期は自分のビジョンが曖昧模糊とした状態ですが、このタイミングで一度ビジョンを言語化しておくと、配属先の上司としては、「この方は、こういったことに興味があるのだな」「10年後にはこんな人材になりたいんだな」「そのためには今こういった仕事に取り組んでもらうといいはず」という具合に、マネジメントをしやすくなります。

後は、30代ぐらいの自分の道に迷う時期、ビジョンが薄れてしまっている時期に、このビジョンづくりのワークショップを実施することも多くあります。

そして、大事なことは、個人ビジョンを明確にするだけではなくて、それをチームでシェアすることで、助け合える関係性をつくっていくということになります。

STEP.3 Growth Sherpa トレーニング

3つ目のステップは、管理職向けのGrowth Sherpaトレーニングです。

チームで助け合える関係性をつくり、上司であるチームリーダーが牽引していくやり方を、私たちはGrowth Sherpa(グロース・シェルパ)という言葉で表現しています。シェルパとは、ヒマラヤ登山の際にクライマーの荷物を運んだり、ルートをつくったり、クライマーが登山をしやすくする支援をする役割です。つまり、自分自身の成長という山に登る若手を支援するシェルパとしての役割の上司になりましょうというメッセージが込められています。

このGrowth Sherpaでは幾つかのツールを利用します。

ひとつは、ベースキャンプシートと呼ばれるものです。これは月1回程度のミーティングの場で皆がビジョンを共有して、ビジョンの実現に向かってこの1ヶ月の間にどのようなことに取り組んだのかを共有し合うツールです。必ずしも全員が前進していなくても構いません。歩みが停滞しても良くて、まずはビジョンを皆で定期的に確認し合っていく。そして、そのビジョンの実現に向けて着実に歩みを進めている人が同僚の中にいることを理解し、刺激をもらう。それがベースキャンプシートの役割になります。

もうひとつがGrowth Sherpaカードです。1on1がどうしてもレビューや評価になってしまう上司の方は多いと思います。または、部下が話さないものだから、上司が8割ぐらい話をしていて部下が主役になっていない場合も多いと思います。あるいは、上司が話したいことを話して1on1が終わってしまうケースも起こり得ます。それぐらい、部下の主体性を引き出しながら部下に話をさせて、部下のビジョンを軸に導いてあげるのは難しいことなのですが、その一連の問いかけをカードにしたものがGrowth Sherpaカードです。カードの問いかけの順番に従って問いかけ、承認する。一部、部下自身に話したい内容を選んでもらうような場面もあるのですが、主体性を相手に渡すことによってより良い1on1ができるようにしています。

ビジネスゲームでビジョンをつなげることの大切さを知り、そして、Find Outを通じて自分自身のビジョンを知り、管理職がGrowth Sherpaのトレーニングを受けることでビジョンを活用したマネジメントをできるようになるというのが、私たちの一連のソリューションになります。

個人と組織のビジョンの繋がり方

個人のビジョンが生まれ、組織のビジョンとの繋がりを見つけ、深まっていく過程には一定の時間と周囲との良好な関係性が必要になります。

例えば、新入社員の頃は個人のビジョンは「こうなりたい」「こんな成長を遂げたい」「これぐらいの成果を残したい」、そういったビジョンはあるけれども、まだ抽象的で、おそらくは能力もできることも少ない状態だと思います。また、組織のビジョンを聞かされはするが理解が浅く、ピンときていないのではないかと思います。そういう時期があっても良いと思います。特に、若手のうちは自分自身がなりたい姿、個人のビジョンをエンジンにして、自分自身の成長を実現していくことがとても大切な時期になります。

次に、自分が成長していくと自身のビジョンが広がっていきます。できることが増えていきます。できることが増えていくと、自然と組織のビジョンと絡む部分が多くなり、お互いのビジョンの重なりが見えてきます。つまり、個人の成長に伴い、ビジョンが具体化されていきます。そして、組織の理解と組織への感謝が深まるにつれて、組織のビジョンをより強く意識し始めるタイミングが来ます。

そして最後には、組織のビジョンを意識するだけではなくて、周囲と関わり、助け・助けられるような関係が続く中で、組織ビジョンの重要性に気付き、その存在がどんどん大きくなっていきます。「個人のビジョンを実現するために動いていることが組織の役にも立っている」「組織の成果を達成するために努力していることが個人のビジョン実現にもつながっている」と、個人と組織のビジョンのつながりを見つけて、両方のビジョン実現につながるアクションを増やしていく時期が来ます。

これを少し意図的にスピーディーに仕掛けて行っていくものが、先ほどご紹介させていただいた、3つのステップで構成される一連のソリューションになります。

まずは、ビジネスゲームでビジョンをつなげることの大切さを伝えていく。次に、Find Outを通じて個人のビジョンを言語化する。ビジョンを1回つくってそれで終わってしまう会社が多いのですが、そうはさせません。一度つくったビジョンを皆で共有して、そのビジョンの実現度合いを共有し合うマネジメントをしていく。そして最後は、Growth Sherpaを活用した1on1を通じて個人と組織のビジョンのつながりを具体的に見つけていくマネジメントを行います。

謝辞

最後に、私からの謝辞をお伝えします。

本日はご参加いただきまして、誠にありがとうございました。調査を通じて明らかにしたかったこと、伝えたかったことを改めてお伝えしたいと思います。

それは、個々人が持つビジョン(志、内発的動機)がマネジメントにもたらす価値を明らかにして、個人ビジョンを軸にしたマネジメントへの変革をしていきたいということです。

押しつけのマネジメントではなくて、内発的な動機、個人のビジョンを軸にしたマネジメントに変えていくことが、働きがいを刺激していくことが大切な現代においては、とても重要なのではないかということが、今回お伝えしたかったメッセージになります。

そして、それを実現するための一連のソリューションを用意しておりますので、ぜひお試しください。また、私たちはこの取り組み・実験を様々な場所で続けておりますので、ご興味をお持ちいただいた方は、個別にご相談いただければ幸いです。

ご案内

今回ご紹介させていただいた、個人と組織のビジョンがつながるようなご支援内容に関するイベントのご案内です。

個人と組織のビジョンをつなげるご支援 STEP1:ビジネスゲーム

個人と組織のビジョンをつなげるご支援 STEP2:Find Out

個人と組織のビジョンをつなげるご支援 STEP3:グロース・シェルパ

今回ご紹介させていただいた「個人のビジョンに関するアンケート」調査報告に関するレポートは、下記URLよりPDF版をダウンロードいただけます。

 

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