【事例インタビュー】清和学園高校の「The Action!~SDGsカードゲーム~」を使ったSDGs教育の取り組み
学校名:学校法人 一川学園 清和学園高等学校
業種 :教育機関
学科 :自動車科・調理科・普通科の通信制高校
生徒数:約325名
- SX人材を養成するためのプログラムの確立をめざしているが、そのプロセスをスムーズに推進するためのノウハウや技術が不足している。
※SX人材…持続可能性(Sustainability)と変革(Transformation)を重視した人材。持続可能な社会を実現するために必要な知識・スキル・価値観を備え、変革を推進する役割を果たす。
- 地域との連携を強化し、実際の社会問題解決に向けた実践的な学びを提供したい。
- 「The Action!~SDGsカードゲーム~」を授業に導入し、SDGsについて楽しく学べるプログラムを設計する。
- 清和学園高等学校がある埼玉県越生町(おごせまち)の特徴や課題を学ぶ。
- ゲーム実施後に出た生徒の意見やアイディアを次年度のプログラムに活かし、継続的な改善を行う。
- 「SDGs」の言葉の意味を理解し、すぐにできることを実行することや、対話と協働によりプロジェクトを実行することが社会貢献に繋がると実感できた。
SDGsを起点に地域課題に向き合う機会を得て、地域社会への貢献意欲が高まった。
- 学科の垣根を超えて、生徒間でのコミュニケーションが活発化した。
本稿では、「The Action!~SDGsカードゲーム~」を活用した研修・ワークショップ事例をご紹介します。
東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)とテルウェル東日本株式会社(以下、TW東日本)は、2023年3月より「The Action!~SDGsカードゲーム~」の公認ファシリテーターを養成しています(2024年8月現在、NTT東日本は4名、TW東日本は10名)。公認ファシリテーターは各地の企業や学校で「The Action!~SDGsカードゲーム~」を使った体験会を実施しています。
今回、清和学園高等学校(以下、清和学園高校)の授業で、「The Action!~SDGsカードゲーム~」をご活用いただきました。
「The Action!~SDGsカードゲーム~」を導入いただいた理由、そしてどんな効果が得られたのか、今後の展望などについてお話を伺いました。
<お話を伺った方>
学校法人一川学園 清和学園高校 マイスター・ハイスクールCEO 村上達則様
NTTグループ テルウェル東日本株式会社 今井守様
<プロフィール>
清和学園高校
埼玉県のほぼ中央に位置する越生町(おごせまち)にある通信制高校。「行うことによって学ぶ」を建学の精神とし、通信制高校として全国で唯一、自動車科と調理科を設置して週4日以上の登校で全日制に近い学びを提供。また基礎から学び直しができる普通科アドバンスコースも設置。
東日本電信電話株式会社
光ファイバーを利用したブロードバンドアクセスサービスを提供する等、情報通信事業者として、高品質で安定した通信インフラの提供に加え、地域のミライを支える価値創造事業を中心とした事業構造への転換を図り、地域社会のみなさまとともに、夢や希望を感じられる持続可能な循環型社会の共創をめざしている。
テルウェル東日本株式会社
NTTグループの一員として長年培ってきた現場力と総合力を生かし、お客様の快適な職場環境のサポートを行う清掃業務やオフィスクリーンソリューション事業、お客様のコア業務への注力に向け、ノンコア業務を請け負うビジネスプロセスアウトソーシング事業、ICTを活用した地域店舗等の活性化や省人化をサポートするスマートストア事業まで幅広い事業を展開。
「The Action!~SDGsカードゲーム~」とは
「The Action!~SDGsカードゲーム~」は、SDGsの概念を理解し、私たちの生活や仕事の近くに潜む社会課題を実感し、よりよい未来に向けて1人1人がアクションを起こすことの大切さを自覚するためのツールです。
損害保険ジャパン株式会社と共同開発しました。
参加者は1つのまちの住民となり、1~3人のチームを組みます。他のチームと様々な交渉をしながら活動を行うことで、持続可能なまちの実現をめざしていきます。
「The Action!~SDGsカードゲーム~」の活用により
- SDGsの本質理解
- 不都合な未来の疑似体験
- “仕事に対する誇り” や “社会課題へ関心を持つマインド” の醸成
を学ぶことができます。
また、参加者の交流・親睦を深めるコミュニケーションツールとしてもご活用いただけます。
SDGsを楽しく学ぶツールを探していた
ーなぜ、「The Action!~SDGsカードゲーム~」を清和学園高校で導入いただいたのでしょうか。
村上様:清和学園高校は、令和5年度(2023年度)に文部科学省が行うマイスター・ハイスクールに採択されており、その取り組みの一環としてSX人材育成に取り組んでいますが、ベースとなるSDGsやサステナビリティについて学んでもらう必要があると考えています。
※マイスター・ハイスクール…専門学校と産業界が地域産業の持続可能な人材育成システムを構築する文部科学省の取り組みの一環。文部科学省では、令和3年度から指定基準を定めて、先進的・連携体制強化の取り組みを支援し、PDCAサイクルの構築や研究開発等も行っている。
以前からSDGsについて学ぶ授業はあったものの、軽く触れる程度だったと聞いています。
私はNTT東日本から清和学園高校に出向しているのですが、NTT東日本の教育営業チームから「『The Action!~SDGsカードゲーム~』という面白いゲームがある」と教えてもらいました。
その後、プロジェクトデザインさんが「The Action!~SDGsカードゲーム~」を企業研修で実施された際に見学させていただき、受講者が動き回って熱量がすごく上がっている様子を目にしたのです。
「このゲームなら、生徒たちがSDGsを楽しく学ぶことができる」と確信し、コミュニケーションが図れる点にも魅力を感じたので、授業に導入することにしました。
ー清和学園高校がマイスター・ハイスクールに採択されたのには、どのような背景があったのですか。
村上様:学校側は、時代に合った教育プログラムへのアップデートと地域課題の解決に対する強い意識をもっています。
清和学園高校には自動車科と調理科があり、生徒は国家資格取得をめざして勉学に励んでいます。自動車整備士や調理師免許の資格取得のためのカリキュラムは規定の内容となっており、変更することは出来ません。
しかし、近年ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)が発展・普及し、産業構造が目まぐるしく変化する中、学校にも時代の変化に合わせた人材の育成が求められています。
清和学園高校のある越生町は、埼玉県一の「梅・ゆず」の生産地ですが、「農家の高年齢化・後継者不足」や「販売単価の低減化」など、地域産業に関する持続性・ 継続性が大きな課題の一つです。この課題に対し、「高校生」という新鮮な目線でのアイデアを活かし、6次産業化をめざした取り組みを行うことで、越生町のブランド振興やPRになると考えています。また、自動車科でも地域の交通問題やゼロカーボン活動に対して高校生ならではの目線で取り組む予定です。そして、生徒が主体的に自らの視点で町の課題を見つけて解決する過程は、現代に求められているSX人材の育成や学校の魅力アップにも繋がるでしょう。
しかし、これらを行うためには、学校機関だけでは難しく、自治体や産業界(企業)との連携が必要不可欠です。そこで、学校側からの声かけにより、自治体と産業界(企業)との連携を深め、学生たちが現実の社会問題に取り組む姿勢を養うことを目的に、文部科学省の令和5年度マイスター・ハイスクールに申請したところ、全国で初めて私立高校として採択されました。
生徒たちの資質・能力向上を図る環境を提供する体制を築くため、産業界(企業)・官公庁(自治体や教育委員会)・学術団体(大学)・金融・報道の各種組織が連携し、「レジリエントな町と産業を支えるニューノーマル時代のSX人材養成モデルの構築」に向けて推進しています。
清和学園高校とNTT東日本との方向性の合致
ーNTT東日本がマイスター・ハイスクールの取り組みに関わっているのは、どのような目的があるのですか。
村上様:NTT東日本は地域の価値創造企業として「SOCIAL INNOVATIONパートナー」をめざしています。
地域のインフラを担っており、地域課題の解決に寄り添うことが皆さんの生活・仕事の中での困りごとの解決に繋がり、DXによる地域課題の解決がSXの実現に繋がっていくと考えています。その点で、地域課題の解決とSX人材の育成をしたいという清和学園高校との方向性が合致したので、NTT東日本がマイスター・ハイスクールの取り組みに関わることになりました。
そして、NTT東日本が産業界を代表してマイスター・ハイスクールCEOを務めることになり、大学のシステム営業をしていた経験があり教育に近しい私が、NTT東日本からCEOとして出向することになったのです。
ーマイスター・ハイスクールのCEOである村上様の役割はどういうものですか。
村上様:私は、マイスター・ハイスクールの計画を具体化して実行する過程の全体統括を任されています。
産業界とのパイプ役として、NTT東日本のコネクションや私の社会人経験を活かして様々な企業とのやり取りもします。
例えば、自動車科の授業では、珍しい車の見学・体験で終わらず、時代背景を考え、仕組みを学べる授業に設計しました。珍しい車を見られるだけでも生徒は喜びますが、学びに繋がることが大切です。そのため今年からは、事前にディーラーと打ち合わせをして、ディーラーから水素自動車を持ってきてもらいクリーンエネルギーについて学んだり、水素を使った実験をしたりする内容にしました。
こうした工夫により、国家資格が取得できるだけではなく、時代にあった学びになっているという手応えがあります。このような授業のプログラムを組み立てたり、地域との連携を促したりすることが私の役割です。
ゲームをしながらSDGsについてしっかりと学んでいることが分かり、2年目の実施を決定
ー「The Action!~SDGsカードゲーム~」を授業に導入するにあたり、どのようなプロセスを経て実施されたのですか。
村上様:NTT東日本やTW東日本のファシリテーターと連携をとり、教員の声も聞きながらプログラムを設計しました。
初回実施した2023年11月22日は、NTT東日本とTW東日本の社員によるファシリテーションで、清和学園高校の自動車科・調理科・普通科の1年生約80人に実施しました。
ー「The Action!~SDGsカードゲーム~」を実施されて、いかがでしたか。
村上様:授業に取り入れる計画を立てたものの、実施前は、生徒の反応が薄く静かに終わるのではないかと不安がありました。
ところが、ゲームが始まった瞬間から生徒が立ち上がり、みんなで交渉し始めたのです。ゲームを見ていた先生方も、生徒たちが能動的に動き、他のチームと交渉してプロジェクトを進める姿を見て驚いていましたが、「本当にSDGsについて学べたのか」「ただゲームが楽しかっただけで終わっていないか」が気になりました。
けれども、ゲーム終了後のグループの発表や事後アンケートには、「経済と環境と社会のバランスをとるのが大変だった」などの意見が出ていたのです。ゲームをしながらも、SDGsについてしっかりと学んでいることが分かり、 実施して良かったと思えました。
ー2024年6月26日にも「The Action!~SDGsカードゲーム~」を使った授業をされたそうですが、2年目も実施することにした決め手は何ですか。
村上様:アンケートに、「次の1年生にも実施した方が良い」という回答が多数あったからです。
村上様:また、アンケートの回答に「ゲームを楽しみながらSDGsを学べた」というコメントや「生徒間のコミュニケーションができた」というコメントも多くありましたので、次年度も実施しようと決めました。
ー2年目の導入に向けて、1年目から変更されたことは何でしょうか。またその結果を教えてください。
今井様:変更したことは、大きく3つあります。
1つ目は、ゲームを実施する前の講義の時間に、越生町の特長や地域課題に関するスライドを追加して説明したことです。これにより、越生町に焦点を当ててSDGsを起点とした課題や解決策を考えやすくなったようです。
2つ目は、ふり返りを、まず付箋に各自の意見を書いてもらい、それからグループ内に発表する形式に変更した点です。これは1年目の実施時に、人前で発表することを躊躇する生徒がいたためです。付箋に書き出すことで自分の意見を言葉にできる生徒が増え、ディスカッションも活発になったと感じています。
3つ目は、科の垣根を取り払ってチームを作ったことです。1年目は同じ科の生徒同士でチームを作っていましたが、アンケートに「他の科との交流もあれば良かった」という意見があったため、参考にしました。これにより普段は交流の少ない、異なる科の生徒間でのコミュニケーションが生まれました。
普段の授業への導入と仕組化
ー次年度も、「The Action!~SDGsカードゲーム~」を導入したプログラムを計画されていますか。
村上様:はい、計画しています。なお、2年目のアンケートには「次の1年生にも実施した方が良いか」という設問は入れていなかったのですが、自由記載の欄に「来年の1年生にも同じ形式で授業をしてほしい」という記載があり、嬉しかったです。
次年度は、「The Action!~SDGsカードゲーム~」を導入して2年間の経験を踏まえ、ゲームのふり返りでの設問「日常生活や学校生活で実践出来そうな取り組み」と「越生町の地域課題や学校の課題に対する解決策」に出てきた生徒の意見をアクションに移すようにしたいと考えています。
そのため、
・ゲーム前にSDGsについての授業を行う
・ゲーム後にディスカッションの時間を長くとって、具体的なアイディアを考える
ということをしたいです。
また、越生町の職員や住民の方にも「The Action!~SDGsカードゲーム~」を生徒と一緒に実施することを提案し、地域課題の解決に繋げていきたいと考えています。
ー村上さんの出向は残り1年半とのことですが、今後の展望はどのようなものか教えてください。
村上様:マイスター・ハイスクールの指定は3年間のため、終了する翌年度は、持続可能な探究学習カリキュラムのアップデートが最終的な成果になると思います。
今はSDGsの授業が特別なイベントになっているので、普段の授業にどのように組み込んでいくかが次年度に向けた課題です。
そして、SDGsは2030年までの目標達成をめざしていますが、毎年この時期にこのようなプログラムを実施するように仕組化します。中身は見直しつつ、先生が運用しやすいカリキュラムに仕立てたいと考えています。
ー「The Action!~SDGsカードゲーム~」を活用し、学校の特徴や地域に合わせてプログラムを設計していただいていることがよく分かりました。NTT東日本様とTW東日本様の取り組みを、今後も応援しております。本日はありがとうございました。
研修内容
授業のプログラム
1時間目:SDGsについての講義、ゲームのルール説明
2時間目:ゲームの実施
3時間目:ふり返り、グループディスカッション
<ふり返りの内容>
問い1:「日常生活」や「学校生活」で実践できそうな取り組みを考えてみましょう。
問い2:越生町の地域課題と解決のアイディアを考えてみましょう。
参加者の声
“ペアでこの後どうなるのかを予想しながらゲームを進めるのが楽しかった”
“カードゲームで社会の動きが分かったと同時に、SDGsとの関わりも分かったので、すごくいいゲームだと思った!”
“ゲームを通して社会がリアルに理解できた。経済を優先すれば環境が悪化することが分かり、身近なことからSDGsを考える良い機会になった”
“他学科との交流が深められ、色々な考え方があることも分かり、今自分ができることから始めてみることの大切さが理解できた”
“皆と仲良くSDGsを学べたり今問題になっていることを詳しく知ることができたりして、すごく良かった!”
ご案内
SDGsの概念を理解し、私たちの生活や仕事の近くに潜む社会課題を実感し、よりよい未来に向けて一人ひとりがアクションを起こすことの大切さを自覚するカードゲーム。
それが「The Action!~SDGsカードゲーム~」です。
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